ぐっすりすやすや

 

 いつものように泊まり来ていたノアは、ヨルドとともに寝支度を整える。
 普段は恋人同士の二人を気遣い誰かのところに泊まりに行くチィが、珍しくノアに付いてきた。先日、「さすがに他に迷惑をかけすぎだ。おまえが出て行く必要はないんだから一緒にいればいいだろう」とノアが注意したからだろう。ヨルドが「ノアが、チィがいなくて寂しいって」などと言ったからかもしれない。無論、寂しがっているのはヨルドのほうだと訂正してある。
 しかしチィは、いつもであればベッドの傍に置く寝床の籠を、やけに離れた場所まで引きずる。
 その様子を見守っていたノアたちのもとまでトコトコ歩いて戻ってくると、やけに真剣な面持ちで向かい合った。

「ノアさま」
「なんだ」
「チィは考えたんです。チィがいたら、ノアさまたち、らぶらぶできにゃいでしょう?」

 真面目な顔をして何を言い出すのかと思えば。
鼻白んだノアが口をへの字に曲げる。

「だから、別に何もしてないと――」
「そこで、団長さんから耳栓もらってきました!」
「話を聞けっ」

 チィが腹巻の中から取り出したのは、使用者の耳に合うように形状を変えてぴったりとはまり、かつ音をほとんど遮る優れものの魔導具だ。
 どうやら昨夜に泊りに行った先の騎士団長から分けてもらってきたらしい。

「これにゃらチィがいても、いっぱいらぶらぶして大丈夫ですからね!」
「そ、それでいいわけあるか!」

 ノアの言葉をすべて聞くより早く魔導具を装着したチィの耳に声は届かず、わなわなと震えるノアの肩にヨルドが手を置いた。

「チィはこう言ってくれていることだし、早速らぶらぶとやらをさせてもらう?」
「正気かっ? チィがそこにいるんだぞ! というかおまえとそんなことしたことはない!」
「でもほら、実際にノアの大声も聞こえていないようだし」

 耳に突き刺さるような声量を気にすることもなく、すでにチィは寝床の籠の中で丸くなって眠っていた。
 安らかな寝顔はノアの声などものともしていないのだから、耳栓の効果は抜群のようだ。
 しかしいくらチィがいいと言っても、何も聞こえていないとしても、夜に寝れば朝までぐっすり眠り続けるとしても。ヨルドと部屋で二人きりのときのように過ごせるはずがない。
 こうなればヨルドとの間にチィを持ってきて寝てやる、と肩を怒らせたままノアが籠に行こうとするが、ヨルドに腕を取られた。
 振りほどく間もなくころりと寝台に転がされる。

「何をする気だっ」

 きっと音が鳴るように睨むも、上にのしかかってノアの動きを封じつつ、にこりと人良さげに笑むヨルドは止められない。

「いつも通り、仲良くしようと思って」
「だから、仲良くなんて――」
「でも、声はちょっと押さえておこうか?」
「な、んっ……!」

 唇が重なり、ノアの声が吸われていく。抗議のために開いた口に舌がねじ込まれ、言葉まで奪われた。
 顔を離したヨルドが唇を艶めかせながら、すっかり息を荒げるノアにそっとささやく。

「――今日はずっと、口を塞いであげるからね」
「ばっ、んん……っ」

 背後のベッドの上でドタバタしている主たちのことなど知る由もなく、チィは健やかな寝息をたてながら、三人で遊ぶ楽しい夢を見てまるで笑っているかのようにむにゃむにゃ口元を動かした。
 

 おしまい

この後めちゃくちゃキスしまくりますが、ほどほどのところでちゃんとヨルドが切り上げるので最後まではしません。

 2021.10.14

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