「ヴェル……! そうか、おまえはおれと一緒にいたから!」

 リアリムの掌にちょこんと乗るのは、友である鼠のヴェルだ。尾先の毛が膨らんだ根元に二重の金輪が嵌められているのが特徴だった。それは出会った頃からヴェルが身に着けていたものである。
 先程一度は顔を見せていたのだが、まったく存在に気づいていなかったリアリムは、自分以外に生き残ったもうひとつの命をそっと抱きしめた。
 これまで冷風が吹き荒れていた心にようやく一筋の陽が差し込む。

「その子は?」
「――ああ、こいつはおれの友人のヴェルです。いつもおれといるから助かったんでしょう」
「そうですか。よかった、他にも生き残りがいて」
「鼠だけどな」

 ぽそりと呟いたラディアを、リューデルトは喜びに満たされるリアリムに気づかれぬよう睨んだ。
 小さき友との抱擁を解き、リアリムは改めて彼と目を合わせた。鼠であるヴェルと言葉を交わすことはできないが、長年連れ添ってきた相手である。たとえ視線だけでも、お互いの無事に歓喜しあった。
 ようやく見せたリアリムの笑みにリューデルトたちは安堵の息をつく。しばらくそれを見守り、ごほんと咳払いをした。
 リアリムの視線を集めてから、リューデルトは表情を引き締める。

「これからわたしたちがあなたを近くの町までお送りいたします。町長の方にはこちらから話を通し、わたしたちの名のもとにあなたを引き取ってもらいます。今後の生活もしばらくはみてもらえるようにしますから、ご安心ください」
「そんな、そこまでお世話になるなんて」
「乗りかかった船だ、どんとおれたちに任せろよ。それにおまえ今、身ひとつだろ? そこから自力でどうにかするなんて無謀もいいところだ。大人しく頷いておけ」

 ラディアの言葉はもっともだった。リアリムの全財産は今や焼失しており、硬貨の一枚も持っていない。まだ食べ物は森で見つけ出せるだろうが、町に着いてからの住居や衣類、日用品などの生活必需品を揃える当然金がいる。日雇いの仕事をしたとしてもすぐに見つかるとも限らない。いざというときに頼れる知り合いも、リアリムにはもういなかった。
 一度は首を振ったが、これからの日々がすでに逼迫しているリアリムは、ラディアたちの申し出に深く頭を下げた。

「助けていただいただけでなく、今後のこともお世話してくださりありがとうございます。できるだけご迷惑をおかけしないよう注意しますので、どうぞよろしくお願いいたします」

 顔を上げれば、リューデルトが柔らかく微笑んでいた。

「これだけのことがあったのです。あなたも、お辛いでしょう。ですが、限りはあれどもそれまでわたしどもにできることはさせていただきますので」

 リアリムは不幸の中にある己の幸運に感謝した。
 本来であれば、すでに魔獣の腹の中にいたとておかしくはなかった。もう一度集落の方に向かったときにも危機はあったのだ。そのどちらをも回避できただけでなく、すべてを失った今、今後の生活を新たに初める手伝いもしてもらえる。
 もしも、運よく魔獣から逃れられたとして。恐らくリアリム一人だけであれば、あまりの絶望に二度と這い上がれぬ底まで落ちてしまっていたかもしれない。だが見ず知らずとはいえ他人の人間に傍にいてもらえて、優しくされた。それだけでリアリムの心がどれほど救われているのかわからない。もう一度胸の中で感謝を口にするが、到底それだけでは足りなかった。
 気持ちを切り替え、次に進もう。そういう考えにはまだなれそうにもなかったが、自分とともに助かっていた友ともう一度始めようと、小さな小さな光を今は溢れる感謝の想いとともに胸の中にそっと仕舞い込む。

「短い間とはいえ、これからともに旅する仲間です。そうするにあたってあなたにはご説明と、いくつかの注意点をお話いたしましょう」

 リューデルトはラディアに目を向ける。言葉がなくとも目線だけで会話をしたラディアは浅く頷くと、立ち上がり青年がいる木の裏に向かった。
 それからほどなくして青年が戻ってきた。猪の処理をラディアと交換したのだろう。
 血の匂いを纏う青年は空けていた場所でなく、少し距離を置いた木の根元に胡坐を掻いて背を預けた。彼が腕を組んで目を瞑ったところまで見届けて、リューデルトは青年を手で示す。

「あのお方は勇者さまです。そしてわたしとライアはその供として今、この世界中を旅しております。目的はご存じでしょうが、魔王討伐のためです」
「――……ゆうしゃ、さま」

 青い瞳を瞼の裏に隠している青年を見つめ、リアリムは呆然と呟く。その反応をリューデルトは想定していたのだろう。僅かに目を細めただけで淡々と続けた。

「ええ、そうです。ですから名乗ることができません。特別隠していることでもないので、そのまま勇者さまとお呼びください」

 つらつら流れるリューデルトの説明など耳に入ってこなかった。
 勇者とは、この世にただ一人だけが呼ばれる称号である。そして、唯一魔の王に対抗する力を持つ者。浄化の力と高い魔力を持つ、人類の頂点に立つ存在だとされていた。
 黄金のように輝く金髪にすっと通る鼻梁の顔立ちは、確かに高貴な方のような美しさがある。しかし着古したような裾の解れた外套に包まれるその姿は、彼を一介の旅人にしていた。携えた二本の剣もそれほど凝った装飾は見当たらず、特別なものには見えない。唯一身に着けている装飾品といえば瞳と同色の小粒の石の耳飾りだが、それとてそう派手ではなく、耳を隠しそうなほど伸びている勇者の髪に時折姿をのまれまったく目立ってはいない。
 魔力の質など一般人であるリアリムにわかるわけもなく、彼が勇者であると言われてもなおすぐに理解することはできなかった。だが次第に、これまでの彼の態度を思い起こし、リューデルトの言葉をのみこんでいく。
 国を、それどころか大陸を統べる覇王さえも勇者を前にすれば深く頭を垂れるという格高き相手が、今まさに目の前にいる。
 長らく呆けて、ようやく我を取り戻したリアリムは慌てて平伏した。突然の動作に、それまで大人しく手の上に鎮座していたヴェルが慌てて地面に逃げる。

「ゆ、勇者さまとは存じ上げず、これまで大変なご無礼を……! どうかお許しください!」

 荒げた声に勇者からの反応はなかった。その代わりに、冷や汗を流すリアリムの肩にそっとリューデルトの手が置かれる。

「堅苦しいのはなしにしましょう。一時とはいえ、これからあなたはわたしたちの仲間です。こんな調子では気疲れしてしまいますよ」
「そういうわけには――」

 青年が勇者とするならば、その供をしているリューデルトは魔術師の中でも高位の者であり、ラディアとてただの剣士ではないだろう。勇者と等しくないまでもその仲間で、すくなくとも一般人であるリアリムとは比べるのもおこがましいほどの相手である。そんな彼らに自分を背負わせてしまった事実を思い出し、リアリムの顔色は増々青くなる。
 そこへ、ラディアが戻ってきた。

「まったく、何をそんな怯えるんだ。別にとって食おうとしてるわけじゃないし、おれたちは見ての通りそんなお堅い集団じゃないぜ。いや、まあ一人は小うるせえが」
「それはわたしのことですか」

 どうやら作業の中でもリアリムたちの会話を聞いていたらしい。
 じろりと向けられたリューデルトの視線に肩をすくめながら、退く前と同じ場所に腰を下す。

「確かに勇者ご一行だと言われりゃ身構えちまうかもしれねえが、そんな大層なもんじゃねえんだよ。見ての通り勇者は愛想なし。同行する魔術師はまあ説教じみてはいるが世慣れしてねえただの甘ちゃんだ。かくいうおれはただ腕っぷしの強さで選ばれた庶民。おまえと大して差はねえし、そんな不安げな顔すんなよ。悪いことしてるみてえだ」
「す、すみません……」

 咄嗟に謝ったリアリムに、それだ、とラディアは指摘した。

「何も謝る必要なんざねえよ。さっきもリュドウが言ってた通り、おれたちはこれから仲間だ。それが短い間だったとしてもな。そんで、仲間になったからには身分なんて関係ねえんだよ。少なくともおれたちの間には。確かにあいつは勇者だが、それでも仲間は仲間なんだからな」
「そうですよ。そもそも王国内にいるならまだしも、今は旅の最中。仲間との間に階級などありません。無理にとは言いませんが、わたしどもを信頼してください。次の町まで気楽にまいりましょう。名前もそれぞれリュドウ、ライアとお呼びください。わたしどもはあなたをリアムと呼ばせていただきますので」
「ああ、それがいいな。ちなみにリュドウのこの馬鹿丁寧の言葉遣いはもとからだ。リアムは気にせず、おれみたいに話せばいいんだよ」

 リューデルトに賛同するラディアは頷くが、なおもリアリムは首を振ろうとした。だが二人に穏やかな視線を注がれ、その動きを止める。
 一度顔を伏せ、それからおずおずと顔を上げ、戸惑いを残しながらも二人に目を向けた。

「――その、改めてよろしく、リュドウ、ライア。それにその、勇者さまも……お願い、いたします」

 リアリムはリューデルトとラディアの二人には言葉を崩し、迷った上で勇者にはこれまで通り接することに決めた。
 なぜ勇者を相手にするときだけ態度を変えられないか、リューデルトたちも理解しているのだろう。一人だけ違うことには触れず、それでいいと言わんばかりに笑みを浮かべている。

「さあ、これでいいでしょう。では次に、わたしどもと旅をするうえでの注意点――条件をいくつかお話させていただきます。大切なことですから、すべてに同意していただく必要があります」

 いまさらになりましたが、と付け足し、リューデルトは諭すように条件を口にしていった。
 ひとつ、戦いには決して参加しないこと。
 道中魔族と遭遇した場合、すべて勇者たちで相手をする。その間リアリムには結界の中で過ごしてほしいとのことだった。戦えぬただの庶民であるリアリムが不用意に手を出せば、彼らを助けるどころか反対に足を引っ張る結果となるだろう。それは容易に想像がつき、ラディアからもそうなっては困るときっぱり告げられた。
 ふたつ、決してリューデルト、ラディアの本名を呼ばないこと。
 教えられたリュドウ、ライアとそれぞれ呼ぶことをかたく約束させられた。そしてリアリムはリアムだと再確認をする。
 きっちりと決めるということは、“名”に何らかの意味があるのだろう。さして長くないラディアに愛称をつけていることを知った辺りから、なんとなく察してはいた。

「最後に。決して、勇者さまには近づかないようお願いいたします」
「近づかないように?」
「ええそうです。先程申し上げたふたつはいざというときはどうにでもなりますが、これはリアムを守るためでもあるものです。もしこの言いつけを破れば、命の危険すら伴います。勇者さまが手を伸ばし届く範囲にはいかないでください」

 それ以上の説明はなされなかった。だからこそリアリムも追及はせず、深く頷く。そのときちらりと勇者の方に目を向けた。
 彼は未だ深く瞳を閉ざしたまま黙している。自分に関わる事柄が話されているというのにまったく反応はなかった。
 勇者が、気難しい人であるから、傍にいくなというのだろうか。やはりこの世にただ一人の貴き方である。とある集落のとある民間人であるリアリムが近づくなど、不愉快にさせてしまうだけなのだろう。そう思ったが、なぜかその考えはしっくりこなかった。だがそれほど勇者を知っているわけでない。理由が話されない以上、自分はただ提示された条件をのむのみだ。
 以上です、と口を閉ざしたリューデルトと、そしてその正面に腰を下ろすライア、眠るように、けれど油断なく視界を閉ざしている勇者それぞれに向かい、リアリムは改めて深く頭を垂れた。

「改めて、どうぞよろしくお願いいたします」

 ぱちりと木が爆ぜる音が小さく鳴る。
 小さくなりつつある炎に新たなる枝を追加させているところで、それまで横になっていたラディアが起きだし、勇者の傍らに腰を下ろした。
 ちらりと勇者が目を流せば、小さく笑う。

「交代の前に、少しばかりおまえと話しておこうと思ってな」

 古い付き合いになるラディアは、勇者が抱えている疑問にいち早く勘付いたらしい。
 適当なようで人をよく見ている男だと思いながら、勇者は他の二人が寝入っていることを確認し、それから内なる考えを口にした。

「ヘルバウルどもはあいつを見つけても警戒していなかった。それどころか、殺気すらない」
「それは――」

 これまで仮眠からの目覚めに欠伸をしていたラディアの顔つきが変わる。
 警戒をしていなかった、だけならばまだリアリムの力量を計り、その程度の低さに身構えるほどでなかったのだと説明がつく。実際、勇者が力なく地に崩れたリアリムを見たとき、その油断しきった様子は誰であっても容易に害することができただろうと思った。だが殺気まで持ち得ていなかったともなれば話も変わってくる。
 ヘルバウルが集落を襲った理由は食料を得るため。その一番の障害となるのは、何より抵抗が強い若い男だろう。いくら敵でないと思っている相手だとしても、仕留めそこなった時に見せる死の淵の力というものは恐ろしい。だからこそ一撃で仕留める必要がある。
 命を奪おうとしている相手に、どうあっても殺気というものは向けてしまうものだ。いくらそれを忍ばせたとしても、長年剣士としての勘を培ってきた勇者には誤魔化せるものではない。だからこそわかった。あのときリアリムの傍らにいたヘルバウルが、一切の殺気を放っていなかったことが。
 言葉は少なかったが、勇者が抱いた懸念をラディアも理解したのだろう。

「いったい、どういうことだ」
「わからない。だが、あいつが生き残っていたのには何か理由があるのかもしれない。はじめに見つけたときも同様だったからな」

 リアリムを発見したとき、彼は六頭ものヘルバウルに囲まれていた。だがそのときですら、魔獣たちに殺意はなかったのだ。
 押し黙ったラディアは、しばらくして深く息を吐き出した。

「とにかく、次の町まで送ってやろう。気がかりがあるからってここに置いておくわけにはいかねえよ。それに、リュドウのやつが見捨てるわけがねえ」
「そうだな……」

 生真面目な魔術師は二人の会話など知らぬまま、滅多にしない肉体労働で動かした身体を休めるため、深く寝入っている。リアリムを二度も運んだことでよほど疲れてしまったのだろう。
 そしてその隣で、今日故郷を失った青年が眠っている。寝付けないだろうからとリューデルトが処方した薬を飲んだが、そんなことをしなくとも、彼は現実から逃れるように目を閉じていたことだろう。
 眠っているはずのリアリムの表情は決して安らかではない。苦悶に歪んでいるわけではないが、彼の心中が表れているかのようにまるで生気がないように見えた。
 勇者は立ち上がり、仲間たちに背を向け歩き出す。

「おい、どこに行くんだ?」
「すぐに戻ってくる」

 並ぶリアリムたちの頭上を通り、勇者は結界をも抜け、暗闇に染まる森の中を一人で進んでいった。

 

 

 

 眠りの底からふと目覚め、闇の中へ進む勇者の姿を見た気がした。だがすぐに眠りに引き戻され、それが現実であったかはっきりとは覚えていない。
 朝を開けたときには、すでに勇者は昨日眠るときに見たままの姿で、相変わらず目を閉じたままだった。だが寝息とは違う呼吸に起きていることを悟る。
 本当に寝たのだろうか、と疑問さえ浮かんだが、そう気軽に問える相手ではない。気にはなりながらも、遅れて起きだしたラディアと挨拶を交わす。
 朝食だという干し肉を手渡され、それが昨日捌いた猪だということを教えてもらった。なんでもリューデルトが魔術を用いて一瞬にして乾燥させてしまったそうだ。
 魔術とは便利なものだと感心しながら、リアリムは野草で作られたスープと一緒にしっかりとかたい干し肉に齧りつく。
 干し肉を食べやすい大きさに見えない風の刃で刻み、一口大になったそれを上品に口にしながら、リューデルトは今後の行動を伝えた。

「これを食べ終えたら、早速出発しましょう。二日間歩くことになりますが、明日の日没頃にはつきますので」
「――あの」
「どうした?」

 スープの最後の一滴まで椀を傾け飲み干したラディアが、口元をちろりと濡らしながら口を挟んだリアリムに顔を向ける。
 発言をしたから見ただけ。他意はない真っ直ぐな視線に狼狽えながら、リアリムは躊躇いを拭いきれぬまま告げた。

「あの、もう一度、みんなのもとに――」
「駄目だ」

 言いかけた言葉を遮ったのは、これまで自ら口を開いたことのない勇者だった。リアリムが何を言おうとしていたのか分かったのだろう。
 先程向けられたラディアのものとは比べ物にならないほど強い視線が向けられる。侮蔑や嫌悪が含まれているわけではない。その瞳から読み取れる感情はなかった。だが何か気圧されるような迫力が彼にはあり、リアリムは息をのむ。
 勇者たる者の持つ眼差しゆえか、リアリムは自らの存在を悔いらずにはおられず一気に身体を縮める。それを哀れに思ったのか、リューデルトが気遣わしげに二人の合間に入った。

「リアム、集落に戻りたいのですね」
「――その、一度で、いいんだ。一目だけで」

 おずおずと遮られた台詞の続きを、勇者にではなくリューデルトに伝える。

「気持ちはよくわかります。ですが、それはできません」

 優しく、しかしはっきりとリューデルトは首を振った。

「ヘルバウルの群れがいるかもしれない。そうじゃなくても血の匂いを嗅ぎつけた獣や、他の魔族がいるかもしれねえ。もし遭遇すれば争いは免れなくなる」
「我らが負ける、と言いたいのではありません。無益な殺生は避けたいのです。襲われれば我らも迎え撃ちます。進む道を阻むというのならば斬り捨てます。ですが、わざわざわたしどもから触れることはありません」

 ラディアも加わり真っ当な理由で説得されたリアリムは、それ以上我儘を口にすることはできなかった。
 三人からの否定をそれぞれ口にされ、仕方のないことだとしても気持ちは鉛を括りつけられたかのように重たく沈む。
 一晩が経ち、少しは落ち着くことができた。だが決して気分が晴れることはない。それどころか息苦しいまでの暗雲が厚みを増していくばかりだ。
 今でも故郷を襲った悲劇を信じられず、夢であってほしいと思ってしまう。だがこの森の中で、勇者たちに囲まれ目覚めれば一時の微睡みさえ許されない。
 昨日まであったリアリムの帰るべき居場所は、平穏は、もうない。そこに行くことすらしばらくは許されることではなく、今すぐにでもかつての仲間たちに花をたむけることすらも叶わないのだ。
 いつになれば、戻ることができるのだろう。次なる町に辿り着けばきっと日々の生活に追われることになる。そうなれば、ますます待ち人のいない帰郷は遠ざかるばかりだろう。
 鼻の奥がつんと痛む。けれども込み上がるのは想いばかりで、それを具現化させることはない。
 まるで内に秘めたリアリムの抱える孤独を慰めるかのように、肩にかけ登ったヴェルが首筋に小さな身体をすり寄らせた。

 

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