535353番 雪やこんこ

tokoさまよりキリ番、535353番のリクエスト。
お題『真司、岳里、りゅうのほのぼの生活』


 

 目覚めて、僅かに顔を上げてみると、冷え切った外気が肌を刺し堪らずおれは布団の中にもぐりこんだ。隣に眠る奴の体温が高いからか、なおさら外が寒く感じる。
 今日はおれも岳人も、そしてりゅうもそれぞれが休みだ。だから起きるのはゆっくりでいいか、としばらくじっとしていると、不意にとたとたと廊下から足音が聞こえた。
 りゅうが起き出したのか、と渋々顔だけを外に出せば、その瞬間部屋の扉が開いた。そして飛び込んできた愛息子は寒さからか鼻まで真っ赤にして、けれど満開の笑顔を咲かし。

「雪がいっぱいだよ!」

 そう、嬉しそうにおれに訴えてきた。

 

 

 

 びゅう、と一風が吹き、おれは堪らず岳人の影に隠れた。前を行くりゅうは元気いっぱいで、寒さに震えるおれとは対照的に、楽しげに雪に埋もれた道を踏みしめていた。
 その度にむぎゅ、むぎゅ、と音がする。

「大丈夫か?」
「ん、平気……ではないけど、大丈夫だよ。動いてればそれなりにあったまってくるだろ」

 振り返った岳人に笑顔を返し、おれも再び隣を歩いた。
 しばらく進むと、家の近所にある公園にたどり着いた。
 朝早く、ということもあるが、雪の効果なのか。そこにはすでに何組かの親子や子供たちが大はしゃぎで雪と戯れていた。
 きゃっきゃっと上がる楽しげな声に、りゅうは目を輝かせ辺りを見回していた。
 その姿を見たおれは、岳人の隣から駆け出し息子のもとへ走り寄る。

「よしりゅう、雪だるま作るか!」
「うんっ!」

 すぐに返ってきた返事に、おれも笑顔が溢れる。
 少し遅れてついてきた岳人に振り返った。

「岳人は下の、身体のほう頼むな。りゅうはおれと一緒に、雪だるまの頭作ろう」
「はーい!」

 両手を挙げておれに抱きついてきたりゅうと少しじゃれたあと、早速雪だるまの頭作りを開始した。
 まず両手で持てるだけの雪を手にし、ぎゅうっと固める。りゅうの力だけでは足りないから、おれが最後に握り直す。それを雪で覆われた地面におとして、あとはころころ転がすだけ。
 転がした跡と足跡を残しながらそれを大きくさせ、時々ぺたぺたと手で押して固める。しばらく作業を繰り返せば、大の大人が一抱えもするほどのものができた。
 岳人の方も完成したようで、一人黙々と作ってくれた身体の大きさは頭のものとちょうど見合ういい大きさに仕上がっていた。
 頭を乗せるため、岳人にそれを持ち上げてもらう。
 もし岳人が転んでも巻き添えを食わない場所まで離れ、そこから声をかけた。

「足元気をつけろよー」
「がっくんがんばって!」
「ああ、任せておけ」

 相変わらずの素っ気ない声だったけど、岳人は岳人なりに気分が上がっていることが窺える。
 作られた身体の隣に置かれた頭を両手でつかむと、それを苦もなくひょいと持ち上げて上に乗せた。
 少し安定が悪いのが、岳人は雪だるまのてっぺんに掌を乗せると、少し力を込めるように押す。
 岳人が手を離したところで、りゅうと一緒に傍に寄った。

「よしりゅう、次は顔だ。岳人と一緒に顔に使えそうな材料探して来い」
「うん! いこう、がっくん!」
「ああ」

 りゅうは岳人の手をとると、少し早足気味に行ってしまった。はしゃぎすぎている気がして心配だけど、まあ岳人が見てるし問題はないだろう。

「さてと」

 ふたりが雪が積もった木の方へ目を向けているうちにと、おれはしゃがみ込み雪を手に取る。それを楕円の形になるように固め、ある程度の大きさになったら雪を足して形を整える。
 本当はこれに塩を混ぜると溶けにくくなるらしいけど、持ってくるのを忘れたためにそのまま雪だけで。
 同じぐらいの大きさ、形のものをもう一つ作って、さらにその二つより小ぶりなものをひとつ作る。
 合計で三つ並んだそれに満足したおれは、立ち上がり目的の場所に向かった。
 公園の角にひっそりと立つ木の前で止まり、雪を被るそれをみあげた。

「悪いけど、少しわけてくれな」

 最初にそう一声かけてから、おれは葉を六枚と、小さく真っ赤な実を同じく六つとる。
 もとの雪だるまがあった場所まで戻り、とってきたそれらをさっき作った形につけた。
 おれが作ろうとしたものが完成した頃に、ちょうど二人が戻ってくる。
 振り返ると、すぐにおれが作ったものを見つけたりゅうが目を輝かした。

「うわあうさぎさん!」
「雪だるま一人じゃさみしいと思ってな。雪うさぎの親子だよ」

 雪だるまの隣にちょこんと並べたは、雪うさぎの親子だ。この公園にはナンテンの木があったのを思い出して、ナンテンの葉と真っ赤で小さな実は雪うさぎの材料にはもってこいなんだ。
 りゅうも喜んでくれそうだと思い、いそいそと一人で作った甲斐があったと、じっときらきらする瞳で雪うさぎを見つめるりゅうを見ておれも笑みがこぼれる。

「かわいいねっ」
「だろ? それで、雪だるまの方はいいもの見つかったか?」
「うん、これ!」

 ぱっと開いて出された両手には、細長い緑の葉が二枚に、枯葉が二枚。岳人の方を見てみれば同じくらいの長さの木の棒を二本と、それよりも短いもう一本を持っていた。

「よし、じゃあしあげだな」
「うん!」

 まず長細い葉を上の方に。横にして左右対称に張り、その下に枯葉を二枚同じように並べる。下の方に岳人が手にしていた短い枝を押し込み、これで眉毛、目、口が完成した。
 次におれの指先から肘ぐらいまでの長さがある二本の枝を雪だるまの腕に付けてやれば、完成だ。

「できたー!」
「うん、上出来だな!」

 横にいた雪うさぎ親子も手前の、もっと雪だるまの傍に移動させてやる。
 多少形はいびつだし、目も位置も若干ずれてはいるけど、それも醍醐味だろう。それに頑張ってりゅうが背伸びしてつけたんだ、それだけでこの雪だるまが一層輝いて見えるってもんだ。
 その後、雪だるま隣にりゅうを並ばせての写真会だ。実はこうなることを見越して愛用の一眼レフカメラを持ってきていた岳人がぱしゃぱしゃと無言で撮りまくる。ときにはおれも混ぜさせるもんだから、途中で近くにいた家族のお父さんに頼んで岳人も無理矢理巻き込み写真を撮った。
 撮影会を終え、冷え切った身体で帰路につく。でも心は満たされ、寒さなんて気にならない。
 余程楽しかったのか、りゅうは明日も雪で遊ぼうね、と無邪気に笑った。その真っ赤になった鼻をつまむと、さらに笑う。
 手袋をしていたけど、雪でもうびしょびしょだ。寒さなんて、と思っていたけど、やっぱりさむい。りゅうも冷えるのか、一生懸命話ながらも手を揉んでいた。
 少し思案したのち、おれはいいことを思いつく。
 りゅうを抱き上げ、体勢を直してからまだまだ小さなその手をぎゅっと握った。そのままそれを、様子を見守る岳人に差し出す。
 するとすぐに思い当ったのか、微笑むと、おれたちの手に岳人の大きく、あったかい手が重なった。

「がっくんのて、あったかい!」
「おまえたちの手は冷たい」
「これが普通だって」

 何が楽しいのか、おれたちは三人で笑い合う。ただお互いの手が温かかったり、冷たかったりするだけなのに。
 少し歩いて、今度は岳人がりゅうを抱っこした。その手は小さくても、もうすぐ小学校にあがるまでに身体は大きくなった。ずっと、それも片腕で抱き続けるには少し辛い。それに気づいてくれたみたいだ。
 りゅうは岳人の腕に抱かれても変わらず嬉しそうで、がっくん、しんちゃん、とおれたちをきらきらした声で呼んだ。
 またひとつ、おれたち家族の思い出が増える。雪が降り、そして地に積もるように。おれたちの思い出も積もっていく。
 すべては過去になっていくが、おれのかけがえのない、生涯の宝物。
 不意に、隣に立つ岳里と目が合った。ただ視線を交えただけで、そこに言葉はない。けれどおれたちの間にだけで通じるものはあり、二人して口元を綻ばせた。

 おしまい

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ほのぼの岳里一家を目指したつもりですが、無事ほのぼのとしているでしょうか?
今回この一家を書かせていただいた事をきっかけに、少し変更させていただいた点があるのでお知らせさせていただきますね。
りゅうの、両親に対する呼び名を変更しました。
以前は真司→ぱぱ、岳里→おとうさん。でしたが、真司→しんちゃん、岳里→がっくんにしました!
そして今回のお話では、真司がようやく岳里から岳人(下の名前)呼びになりました(笑)
といのも、今回のりゅうは幼稚園の年長で書かせていただいたからです。そろそろ真司にも成長してもらはないと、と思いまして^^
それとちょっとした補足なのですが、雪うさぎの件にて登場したナンテンについてです。
雪うさぎを作るときに比較的名の挙がることの多いナンテンを今回選ばせていただきましたが、実はもう一つ選んだ理由があります。
それはナンテンの花言葉なんです。
ナンテンの花言葉は、「私の愛は増すばかり」、「良い家庭」だそうなんですよ。
今回のお話にぴったりだなーと思い、雪うさぎに使用、ついでに岳里一家を模した親子にさせていただきました。

拙いものではありますが、楽しんでいただければ幸いです。


2012/12/25