「わっ」
足の間のものに視線が注がれ、一気に顔が赤くなる。
話をしているうちに少しは落ち着いたものの、興奮が収まったわけではないそこは布地を押し上げ、先走りで生地が色を変えていた。
鼻を寄せられ、すんと匂いを嗅がれて思わず身を捩る。
「や、嗅ぐなよばか……っ」
ご馳走を前に今にも飛び掛かりそうなぎらつく視線を意識せずにはいられない。
触られてもいないのにまたかたさを増した自分のものを隠すために足を閉じたいのに、そんな抵抗など片手で容易に抑えつけながら、ルトはやらしく舌なめずりする。
「いいか。発情期のほうが雌の身体は柔らかくなんだよ」
「め、雌って……オレ、雄……」
「俺の雌だろ。雄の部分に触られてねえのに、こんなとろけた目ぇして、抱いて欲しいって匂いで強請って」
ルトの言う目も匂いも自分ではわからないものだが、けれども身も心も彼を欲している自覚はある。
想いを知られているとしてもだだ漏れなのはやはり気恥ずかしく、思わず顔を逸らそうとしたら顎を掴まれ前を向かされた。
薄暗がりで光る金の瞳がヒューだけを見つめる。その眼差しは肌が焦げ付きそうなほど熱くなる。
感じられないだけで、ルトも発しているのだろうか。ヒューを抱きたいと求める、雄の匂い。
「初めてだから、蜜夜の力を借りようと思ったんだよ。ただでさえおまえは小さいからな」
「……ルトが大きいだけじゃん」
確かに平均よりはやや低くはあるが決して小柄なわけではなく、獣人を基準にされても困る。
ルトの隣に立っても見劣りしない自分であれればと常に願っているヒューからすれば、あともう少しは身長が欲しかった。そこを指摘されるのは苦々しい気持ちになるが、ルトは「俺から見ればだ」とあっさりしている。
だが体格差があるのは事実で、ヒューは今も圧し掛かるルトの身体にすっぽりと覆い隠される。発情期はルト曰く身体が柔らかくなるというので、彼を受け入れるにはちょうどいい夜なのだろう。
「――ねえ、ルト。もしオレに発情期がなくて、ただの人間だったらどうしたの?」
「その時は、我慢できずに襲っていただろうな」
「えっ」
獣人の成人の証となる発情期まで決して手を出そうとはしなかったルトだ。その理由も身体が受け入れやすくなるというヒューの負担を慮ってのことだったので、ただの人間であったなら性交しないという答えもあり得ると思ったのに。
「少なくとも十八になるまでは死ぬ気で我慢しただろうが、その日の夜にはひん剥いて食っただろうよ」
「ひんむ……っ!?」
「おまえにはわからなくても、俺にとってはおまえがつがいなんだ。触らずにはいられないんだから仕方ないだろ」
ルトにとってヒューが人間でも獣人でも関係ない。
発情期があったからただそれを利用して少しでも気持ち良く初めての性交を迎えるために、ヒューの負担を軽くするために鋼の意思で今日まで我慢してくれただけのことだった。
ルトなりの考えがあったとしても両想いを黙っていたのは未だに許しきれていないが、それでもこれほどまでに優しさと愛情を感じてしまえば、ルトを求める気持ちに歯止めなど効かない。
「ルー……! オレをいっぱい食べて!」
堪らず目の前の首に抱きついた。
顔に被毛が触れるくすぐったさを感じるだけでひどく心が満たされていく。
「残さず骨までしゃぶってやるよ」
ヒューの背を片手で支えながら、ルトは二人の間に手を差し入れて腹を撫でてきた。
「だからおまえも、ここでちゃんと俺を味わえよ」
「ん……」
「自分で多少は解してたんだろ?」
「う、うん……」
肉欲込みでルトが好きだったのだ。盛んな年頃であるし、ヒューだって一自分で慰め、抱かれるための身体になれるよう影ながら努力をしていた。
ヒューの思考は殆ど見透かすルトのことだからそれくらい想定できるとしても、やはり指摘されるのは恥ずかしくて、おずおずとベッドに背中を預けながら赤くなった顔を横に向ける。
露わになった首筋を張り出した鼻先がするりと撫でた。くすぐったくて笑うと、すりすりと肌に擦りついてくる。
「ルー」
顔を向けると、応えてくれるように優しい口づけが降ってくる。
夢にまで見たルトとの口づけ。でも想像していたよりもうんと優しくて、甘くて、気持ち良くて。すぐにとろとろに蕩けさせられてしまう。
「ん、む……んぅ……」
狼の口が相手なのでうまく絡ませ合うことができず、口の中を一方的に舐め回す長い舌に蹂躙される。
「はっ……はぁっ……ルーのきす、すご……」
「発情期さまさまだな」
身体を起こしたルトが上着を脱いでいく。被毛に覆われる獣人の裸体が晒されて、その神々しいまでの姿にぽうっと目を奪われそうになった時、脱いだ服を顔面に放り投げた。
「わっ」
慌てて除こうともがいているうちに、いつのまにか下衣を下着ごとすべて抜き取られてしまった。
ようやく顔にかかる服を退かしたところで自分の姿に気が付き足を閉じようとしたが、その前に身体を差し込んだルトが圧し掛かる。
「あっ」
ルトの毛に覆われた腹に反応しているヒューのものが擦られ、堪らず声を上げてしまった。
「ヒュー。おまえが経験したがっていた蜜夜は始まったばかりだぜ。せいぜい、俺の下で乱れてくれよ」
「ん……」
見下ろす狼の顔は捕食者であり、そして発情する雄の顔をしていた。そんなルトから見ればヒューなど、確かに涎を垂らし足を広げて待つ雌だ。
閉じたくて力を入れていた足を自ら広げると、その動きだけで密着する自分のものがルトの肌に刺激を受けて震える。
こんなことしちゃいけない。わかっているのに、でももう止められなかった。
「ルー、ルー……っ」
腰を浮かせて、かくかくとルトの被毛に擦りつける。腹毛は他の場所より柔らかいが綿毛のようではなく少しちくちくする。でもそのかたさがより気持ち良さを生んだ。
すでに限界だった身体はあっという間に登りつめ、勢いよくルトの腹に吐き出してしまった。
「ぁ、ん……っ」
ふるりと身体を震わしながらぎゅうっとルトに抱きつく。しばし放埓の余韻に頭をぼうっとさせていたヒューだが、すぐに我に返って身体を離した。
「ご、ごめん、ルーっ! オレ、気持ちよくって……っ」
勝手にルトの身体を使って自慰をしてしまった。
放り出されていた自分の服を引き寄せ慌てて毛に纏わりつく白濁を拭おうとするが、その前にルトの手が自らの腹にそれを擦りつけていく。
「なっ、なにしてんのっ!?」
「匂いをつけてんだろ。まさかおまえのほうから匂い付けしてくれるとは、やってくれんじゃねえか」
そんなつもりはまったくなかったが、ルトがひどく上機嫌になっていることだけはわかった。
「もっと匂いを寄越せ」
首筋に鼻先が寄り、汗ばんだ肌をべろりと舐め上げていく。それだけで身を竦めたくなるようなぞくりとした感覚が背筋を辿る。
「おまえの涎も、汗も、涙も、精液だって全部俺のもんだ。全部寄越せ」
「……なら、ルーの全部はオレの?」
「あたりまえだろ。俺の匂いはおまえに、身体の内側から染みつかせてやるよ」
かぷりと首筋に甘噛みされる。
鋭い牙は肌を押すが、その弾力を確かめるだけで決して食い破りはしない。傷はひとつもないままに肩を食まれ、喉を、顎を、そして口の中を舐め回し、耳を食む。
しばらく耳の感触を牙と舌と鼻とで存分に堪能した後は、また口に戻りキスをする。
ルトの身体が動き、口元が肌に寄せられるたびにその周りの毛やひげにくすぐられた。普段なら健全に笑い転げそうなそれが、今は過敏になった身体を優しく撫でいくだけでびくびくと反応してしまった。
「や、るー……しつこ、いっ」
「味わってんだよ、おまえの身体を。こんなにも美味く成長してくれたんだから我慢できるか」
また臍を抉るよう舌を差し入れられて、ヒューは息も絶え絶えに首を振る。
「そ、なとこ……っ」
随分と気に入ってしまったらしいが、皮膚が薄い部分を熱い舌でねぶられてはヒューとしてはたまったものではない。
腹筋に力が入る様も楽しんでいるのか、指先が腹を撫で、時々掻くように肌に軽く爪が立てられる。
「んんっ」
「やだやだ言うには、嬉しそうにしてるが?」
下を覗き込まれ、またも涎を垂らしながら勃ち上がっているものを指摘される。
まだ直接触られていないし、一度は出してすっきりしたはずなのに腹の奥に燻る熱は一向に衰える気配がない。
発情期の影響なのか、それともルトに触れられる歓喜がそうさせるのか、わからないが、どちらにせよ羞恥が消えることは未だない。
それなのにいつもよりもがちがちになって、解放される瞬間を今かと待ちわびている。気を抜かせばまたルトの身体に擦りつけてしまいそうだ。
ルトとの初体験なんてむしろ緊張で勃たないかもなんて心配さえしたことがあるのに。
こんなに興奮して恥ずかしい。とても恥ずかしくて、今すぐにでも布団を被って隠れてしまいたい。でも――
未だ下は着こんだままのルトのものが、服の下でひどく窮屈そうにしているのが見えた。
興奮しているのはルトも一緒。ゆっくり触れて身体を慣らしているのはヒューのため。それを知ってしまえば、暴れ回りたいくらいの羞恥をぐっと堪えてルトを見上げた。
「る、ルー……さわって……オレの、かわいがって。そのために、爪を切ってくれたんだろ……?」
控えめながらに自らルトの身体に勃ったものをこすりつけ、精一杯の気持ちでねだる。
「――はっ、ヒューは甘え上手だな」
「ふ、ぁ……ッあ、あ!」
大きな手に包まれて扱かれる。
待ちわびてきた刺激に、数回擦られただけで呆気なく達してしまった。
「う、そ……」
びくびくと身体を震わせながら、あまりのことに自分が信じられず呆然としてしまう。
散々焦らされていたとはいえ、一回目のみならず二回目も早すぎた限界は男としてあまりに情けない。
「い、いつもはこんな早くないから!」
「別に、早漏だって気にしないが?」
「だ、だからって、普段はこんなんじゃ……っ」
「わかってるよ。発情期だからだろ。ほら」
「あうっ」
きゅっと再び握り込まれて、油断していたヒューは無防備に声を上げてしまう。
口を押えながら二人の間を覗き込めば、出したばかりというのに萎え切っていない自分のものが見えた。
驚いているうちに難なく身体をひっくり返されて、四つん這いにされたところで再び出した白濁ごとルトの手に握られる。
上下に擦られると先走りやら出したもので濡れるヒューのものからくちゅくちゅと音がたち、再びかたさを取り戻していった。
「あっ、あっ……」
すぐに身体から力が抜けて、へたりと両肩をシーツに押し付けてしまう。
「気持ちいいだろ」
「あ、ん……っんん」
大きなルトの手は、肉球の名残で人間のものよりもややふっくらしている。程よい弾力と力加減で締めつけられ、無意識に腰が揺らめき始める。
「そのままそっちに集中していろよ」
かけられた言葉も聞こえずルトの手に腰を振っていると、晒していた下半身を蜜袋ごと後孔までべろりと舐め上げられた。
「ひあっ」
ようやく自分の体勢に気づいたヒューが振り返るが、ルトは気にすることもなく同じ場所を舐め回す。
「な、なに? あ、っあ……っ?」
「いいから、感じてろ」
握り込まれたものの先端に軽く爪が立てられ、意識がそちらに引き戻された。くりくりと小さな穴が圧迫されて、とろりと溢れる先走りが滑りをよくしていく。
後ろは厚い舌が押し込まれ、無意識の抵抗で力が入るのに柔らかく中に侵入してくる。
自分の指しか入れたことがないそこは、未知の感覚を恐れ思わず身体が前に逃げた。けれども前を握り込まれてしまえば力が抜けていき、引き戻されてさらに深く舌が押し込まれていく。
「ん……思ったより柔らかい。頑張ったんだな」
「あ、あ……だ、だって、ルーと、したかったからぁ……ッんん」
自分の指であっても違和感は凄まじかったし、気持ちよくもなかった。でもいつかルトと繋がれる日に、身体が受け付けなくてできませんなんて断ることなんて絶対にしたくなくて、だから本当は気持ち悪ささえ感じても頑張って自分で解していたのだ。
その努力が褒められて、そして無駄ではなかったのだという喜びに瞳が潤む。
「ああ、わかってる。でも、もうやるな。あとは俺がやってやるから」
「あっ、ぁあ……ッ」
腰を支えていたルトの手が離れ、舌で蕩けさせられた後孔に指がゆっくりと差し込まれていく。
「本当なら初めからじっくり俺が教えてやりたかったが、下手に触るともできなかったからな。初めておまえとの年の差を恨んだもんだ」
「そ、なの……っ?」
「まあ、それも今日までだ。言っとくけど、おまえの慣らしと一緒だとは思うなよ?」
にゅるりともう一本指が追加され、しっかりと整えられた爪先は繊細な内壁を傷つけることなく潜り込んでいく。
ヒューの出したものやルトの唾液に助けられながら根元までいれられた二本の太い指は、狭い隘路の中を押し広げていった。
「あ、あっ……ぅ、ん、んんーっ」
出し入れされてちゅくちゅくと水音が立つ。
痛みはないし自分でやっていた時より太いものが入っているのにそれほど違和感がないのは、ルトが十分すぎるほどに身体に熱を灯してくれたからなのかもしれない。まだ快感を拾えるほどではないが、それでもどこかもどかしいような感覚に、より鮮明にルトの指を感じたくてきゅうっと締めつけてしまう。
次第に速さを増して抽送される指先がとある場所を擦った時、ヒューの身体は跳ね上がった。
「あッ……あ、ああっ、や、るー、そこはだめなとこ……っ」
変化に気づいたルトの指がそこを探るように擦り上げる。そのたびにびくびくと身体が震えてヒューは身悶えた。
「……ここか」
だめだと訴えているのに、ルトはそこに狙いを定めて指をうごめかす。
自分で触った時にも見つけていたところだが、なんだか不穏な気配を感じて避けていた。そこを遠慮なく押し上げられると腹に疼くような熱が堪っていく。
いつの間にか前への愛撫は止まり、今にも崩れそうな腰を支えられながら後ろだけが責めたてられる。
「るー、るー……っ、あ、あ、ぁあ、ぅ」
「……っ、わりい、体勢変えるぞ」
指が引き抜かれ、再び身体を反転させられた。