◇休業日~イフ~◇


今回はシリウスさん視点のお話で、時間はDesire本編完結後を想定してくださったようです。
※Desireメンバーは出ておりません
以上を踏まえた上で、菜月さまの世界をお楽しみください^^


 

◇休業日~イフ~◇


数日前から調子が悪そうだった。だから無理しないように気を配っていたつもりだったけれど。
…流石にコレは想定して居なかった。

 

 

何時もの朝。
朝食の支度を終え、名を呼んでも返事がない。
何時もなら朝起きてくると、キッチンが見える日のあたる窓辺へ凭れ本を読んでいる筈なのだが姿が見えない。
何時もと違うこと、というのは訳もなく不安になる。それはレオンが居なくなってからずっと、再会した今も変わらない。
取り敢えず、レオンの部屋へ行くとそこに部屋の主は居た。
…居たのだが。

「…タチの悪ぃ風邪、みたいで。魔力が変…な風に暴走…しちまっ…た」

聞き覚えの無い高い声音、でも気を許しているが故の口の悪い台詞が俺の耳に届く。
出会った時よりは数年は若い姿のレオンが其処にいた。
13~14歳くらいの、普段より線の細い少年が俺へ視線を向けている。
熱があるのか潤んだ蒼い瞳と、呼吸が苦しいのか肩で息をしながらが心細そうに此方を見上げてきて。
その姿に思わず喉が鳴った。保護欲とは違った別の欲が頭を擡げてくる。

「…アロゥ様に、偽装は良くないと忠告して貰ったけど、これは…不…可抗…りょ…くだ」

困ったように紡ぐ言葉を聞きながら、いつもより華奢な身体を寝台へ横たえる。
ぼやくレオンの口から出たのは、今滞在しているルカ国に居る有能な魔術師の名だ。
何気ない話だというのに、つい眉が寄りそうになる。
相手が誰であれ、レオンの口から第三者の名が出るのは面白くない。今も正直、欲情しかけた身体の熱がレオンから紡がれた他者の名前、それだけで一気に引いていた
レオンに対する執着心と独占欲の強さは自覚している。
ルカ国で暮らし始めてから数年が経ち、色々あって-…レオンは今偽装をしていない。

『今のままだといずれ貴殿より先に儚くなるは確実。…魔力を己に向け、常に使い続ける代償は決して少なくはない』

ある日、店にふらりと現れたその魔術師は声を落とし隅でひっそりと呑んでいたレオンを見据えて俺に告げた。
レオンの偽装をあっさり見破った彼は恐らく有能な魔術師なのだろうと当時はそう感じた。
案の定、ルカ国に昔から居る何名かの仲間によると、最高峰の魔術師で有名なのだと聞いた。
そうでなければ、レオンの偽装を見破れる筈はない。増してや忠告する事など出来る筈がない。
偽装に関しては、出来ればそのままで居て欲しかった。本当の姿は俺だけが見れるという状況は、俺の独占欲を酷く満たしてくれていた。…崩したくは無かった。
…けれど。
少しずつとはいえ…レオンが自身の命を削って偽装をしていた事実を知った以上、そんな己の欲より、大切にして護らなければならないものがあった。
魔術においては特に、レオンに黙られたり偽りを告げられたら、本当の事を知る術はない。
若しくは真実に辿り着くまで時間がかかり過ぎてしまう。
有能な魔術師との、最初の接触を思い返していることに気付いて、慌てて我に返った。
何時もより大分幼くなったレオンの額へ、己のそれを当てると何時もより熱い。

「調子が悪いなら寝てないと。喉は渇いていないか?」
「…少し…だけ」

掠れた声がふっと途切れた。
髪を撫でてから顔を離すと、レオンは既に目を閉じている。幼い容姿の下で、今以上に魔力を暴走させないよう意識を落とし、策を講じているのだろうと推測出来る。
……以前にも似たような事があり、その時もレオンは意識を落としていた。
その間、身体は無防備になるのだがレオンは魔力の暴走を酷く恐れているのか、意識を落とすことに躊躇いがない。
額に一度口づけてから、俺は店を休業することに決め、店側を施錠して回った。
看病に必要な品を運ぶ為キッチンへ向かい食事の変わりに冷たい箱から果実を取り出す。
瑞々しいそれは摺り下ろして別の甘味と合わせると、口当たりのよいジュースになる。
比較的栄養のバランスも良いそれを手早く作りレオンの私室へ入っていった。

END

頂きもの

 


 

今回のお話は、レオンハルトさんが正式な魔術師として復帰なされたあたりで、現在のDesireから数年後のお話になります。

偽装についての説明(なぜ忠告人がアロゥなのか、など)を、菜月さまの言葉をほぼそのままお借りしさせていただきますと
偽装(おじいさん化)は、生命力が削られるという事を誰かに知らされて偽装を辞めさせる→レオンの偽装を見破れる人じゃないと忠告出来ないよ→アロゥ様なら見破れるかも→鼠のおじ様が偽装するのに生命力云々があるならパートナーに知らせてはどうか?とか言ってくれそうと期待→シリウスのお店へいらっしゃいませ~。

と、そんな流れより生まれたお話が今回のものだそうです!

菜月さん、ありがとうございました!