◇君の隣~シリウスside~◇

今回は、前回頂いた『夜の泉』(レオンハルトさん視点)と同じ場面で、シリウスさん視点になります。
※Desireメンバーは出ていません
以上を踏まえたうえで、菜月さまの世界をお楽しみください^^



◇君の隣~シリウスside~◇

それは人里離れた深い森の中に存在した。
懇々と湧き出る澄んだ水は円状に溜まり、溜まり切れなくなった水は細い川になって流れている。
数日に一度の割合で白銀の髪の人間が現れたのだと聞き、直ぐにその地へ向かった。
知らせてくれたのはレオンに似た髪の色と赤に近い眼を持つ小柄な兎の獣人だった。
兎の姿で居たときに俺の捜す人物と似た容姿の者を見たのだという。
ただ、それは今から約八年も前のこと。
もう一つ、彼が見た容姿の彼はまだ幼かったという。
最初は別人かと思ったが何かが引っ掛かった。
レオンは優秀な魔術師だ。容姿を変えていてもおかしくない。
八年も経っているし、その場に居ないかも知れない。
それでも、可能性は0じゃない。
俺は、姿を隠すことや気配を消すことを得意とした魔術師や道具を捜し独りでその森へ入った。
一週間が経った頃。
暗い中、慣れた足取りの人物が泉に現れた。
泉に入った彼はその身を…俺の良く知る姿へ、変化させた。
見た瞬間に、その名を呼びたかった。
姿を現してすっかり細くなってしまった身体を、抱き締めたかった。
彼の瞳に映りたかった。
けれど彼は魔術師だ。何の対策も取らずに会いに行けば、高確率で逃げられてしまう。
一瞬の隙でも、彼ならば消えてしまう。
臆病な彼には多分、言葉だけでは駄目。
漸く見つけたのだ。
逃げられる訳にはいかない。
けれどー…逃げられないようにするにはどうすれば良い?
…簡単に逃げられないような状況にすれば良い。
視線を移すと、此方に背を向けレオンは肩まで泉に浸かり俯いている。
澄んだ水に何らかの効果があるのか、服を脱いでいる事に漸く気付いた。
細く白い肩が目に焼き付く。
…服は泉の畔にきちんと畳まれていた。
…そうか。
泉に浸かっているその時に気配を現せばいい。
少なからず動揺はするだろう。
動揺している間に、ケイの事を告げれば逃げられる可能性は、低くなる筈だ。
その日、俺は静かにその場を去り、数日後を待った。
そして再会。
握った手首は見ていた時より細く、折れそうで怖かった。
レオンの抱くケイへの、予想以上の罪悪感は、これから隣で少しずつ消していこうと決め、俺はレオンの手を引く。
細い手を掴みながら、頭の中は常にレオンのことを考えていた。
どうしたらレオンが離れていかないか、と。
それは2人で居られるようになった今でも常に頭の片隅にある。
彼の本来の姿は今俺だけのもの。
レオンの隣は誰にも渡すつもりはない。
月の光が差し込む深夜。
偽らない姿で眠るレオン。
その隣へ滑り込みその身を引き寄せ眼を閉じた。
訪れる心地良い睡魔は、レオンの隣でしか味わえないもの。
レオンを失わない為なら何でもする。
彼以上のものなど、俺には存在しないから。

END

頂きもの

 


菜月さん、ありがとうございました!