◇真夜中の雨◇

レオンハルトさん視点のお話をいただきました。 詳しい時間軸に関しましては、後書きにて。
※Desireメンバーは出ておりません。
以上をお踏まえのうえ、菜月さまの世界をお楽しみください


 

◇真夜中の雨◇

唐突に降り出した雨は大きな雨粒で、一瞬の内に辺りは水に覆われた。
店も軒並み閉店しているような真夜中のそれを、私は窓越しに眺めていた。
身体の倦怠感が抜けなくなってきている。
最近、出歩かない深夜は時折術を解いていた。
解かないと倦怠感から割れるような頭痛へと移るのは経験済みだから。
術を解けば幾分かは収まる。それが何故なのも解っている。
…不自然なことをすればそれなりのリスクを負う。ただ、それだけの事。
私はベッドの中で体勢を変え、楽な姿勢をとった。伸びた髪が動きに添って身体を流れる。
あっという間に辺りを水ある景色に変えた雨。
こんな唐突な雨も最近のこと。
此処のところ、以前と空気が違う。
良いことなのか悪いことなのかは分からない。
ただ。何かが起こっているのだと肌で感じる。
それが何なのか迄は分からないけれどー…。
豪雨と呼べる程の雨の音が消えているのに気付いて、目線を窓の外へ戻す。
すると。
降り出して間もなかった筈の雨は止み、雲の隙間から淡い月光が差していた。
まるでさっきの雨が嘘のようだけれど辺りは一面濡れている。
ふと。遠方から水を弾くような足音が次第に近付いて来た。
目線を下へ移すと、其処には同居人の姿。
自分の口元が自然と緩んでいくのが解る。
窓から見た斜め下、玄関前で衣服の水を絞っていたのは、シリウスだ。
少し伸びた緩い癖のある髪は昔と同じで、首の後ろで簡単に結われている。そこからも水が滴っていた。
今夜は仕事の後、ケイへ届け物をすると言っていた。どうやら帰路で雨に降られたらしい。
このままでは風邪を引いてしまう。
拭く物を持って行こうかとベッドから上半身を起こした所で、視線を感じたように思えて何気なく目線を向ける。
窓越しにシリウスと目線が交わった。
濡れたせいで身体の線がくっきり浮かび、普段は着痩せしていたのが分かるしなやかな体躯。
月の光の下、水に濡れたその姿が浮かび上がるように見え、思わず息を呑んだ。
目線が交わった瞬間、眇められた眼が私を捉える。その眼が甘さを含んだように感じられ、気付くとベッドの中で布団にくるまっていた。
…鼓動が早い。
濡れた髪の下、見慣れた筈の顔が向けてきた知らない表情。
階下では忙しなく動いているシリウスの足音がしている。恐らく風呂へ入るのだろう。
日常の中に潜むこうした非日常は、簡単に私の感情を揺すってくる。
……窓の外は何事も無かったかのように月が姿を見せていた。

END

頂きもの

 


 

今回のお話は、本編にて、真夜中に真司が竜体となった岳里と会い、そして泣いたあの時の時間帯を想定し書いてくださったそうです。
真司が泣くと、大抵雨が降ります。今回の雨も真司の涙によって降ったものだということですね。

 

菜月さん、ありがとうございました!