◇sweet・after◇

◇sweet・after◇

 


厨房で夕食の下拵えをしていると強い気配を感じた。
そっと周囲を見渡すが仲間は何ら変わりなく仕込みに精を出している。

「材料を足しに参りますね」

近くの仲間に声を掛け一度厨房から出る。
するとそこには強い気配を隠すことなく放つ人物が立っていた。

「どなたかお捜しでしょうか?」

声を掛けると無表情ながらも彼は此方へ目線を向けた。
逸らすことを許さないような強い眼差し。

「あんたに聞きたいことがある」

言葉は淡々としているし、表情が変わらず感情が掴めない。

「何用…というのは無粋ですね。真司のことですか?」

名前を出した途端、強くなる眼差し。それと共に伝わる彼を想う強い気持ち。
それは潔い位に真っ直ぐで心地良く感じる程。
昼を過ぎた厨房付近は意外と人影が無い。
閑散としているこの状況も承知して此処に出向いたのだろう。頭の回転の早さは舌を巻くほどだ。

「私は一生懸命な姿が好きです」
「……」

好きと告げた途端に加わる牽制のような威圧。意識しているのか無意識かまでは、定かではないけれど。

「言葉を変えましょう。…誰かの為に一生懸命に、事を為そうとする姿というのは、とても好ましい。…例え、真司でなくてもね」

そこまでをきちんと伝える。

「…だから真司に協力した、と?」

私は頷いた。
沢山の量の菓子とその材料集め。それの扱い方。道具の扱い方や火加減の仕方など。日数をかけ懇切丁寧に、手解きしていった。
正直言えばそれをする為に自分のプライベートな時間を大分使った。でも協力した甲斐はあったと思っている。
仕上がった時の真司の笑顔。渡したときの報告。それからも時折、厨房を訪れては、岳里の為と言い菓子を作ったり情報を集めたり。それらはとても微笑ましい。

「確かに真司は人懐こい。ですが協力したのは…」

其処で言葉を切り彼を、岳里を見る。
相変わらず岳里は真っ直ぐに私を見ている。まるで私の台詞一つ、仕草一つを見落とさないようにするように。

「貴方の為に何かをしたいという真司の、純粋な気持ちに打たれたからですよ」
「…そうか」

納得したかどうかは解らない。岳里はそう一言告げた後、振り返りもせず去っていったから。

「羨ましい。つーかホントに参る」

人影が完全に消えてからつい出てしまった本音。
真司が貴方を守ったことを岳里自身は気付いているのだろうか?
私の想う人は岳里に惹かれていて。私は最初岳里を良く思えなかった。
真司は私の、そんな浅ましい気持ちを根本的に変えてしまった。
真っ直ぐで純粋な気持ち1つ。それだけで。
今の私は岳里を憎くは思えない。ただただ、羨ましいだけ。
ため息1つついて。
私は『私』を装い、食品倉庫へ向かった。

END

 

頂きもの

 



以後、菜月さまよりいただいたケイさんのキャラ設定です。

九番隊の彼へ片想い中。(詳しくは贈り物282828番をごらんください。ちらりと出ています)
色白、琥珀の眼とストレートの背中までの髪を背中で結う感じの容姿。若く見えて意外と年上。
元々隊員希望だったけれど入隊前の事故により断念。背中に傷有り。
気配に敏感。
実はかなり口が悪い(ポイントですよここ!)

 

菜月さん、本当にありがとうございました!