七日前の日常で

 

「ナギくん」

 そっと声をかけられる。それでも目を開けずにいると、優しく身体を揺すられた。

「ナギくん、起きて」
「ん……」
「今日は朝から仕事なんだろう。遅れるよ」

 薄ら目を開ければ、微笑む龍之介の顔がぼやけて見えた。

「りゅ……ぅ」

 またとろとろ瞼を落とすと、だめだよ、と鼻を摘ままれる。ふいっと顔を背けて逃げるが、龍之介の手は追いかけてきてまたナギの鼻を挟む。
 起きるまで延々と攻防を繰り返すことは学習済みだ。ゆっくりしてもいい日なら、仕方ないなあ、と言って大目にみてくれるが、仕事があれば、当然ではあるが容赦はない。
 それでも、三月の起こし方よりは余程穏やかである。
 目は閉じたまましかたなく伸ばしたナギの両手を、龍之介は受け取った。


「はいはい」

 腕を引かれ上半身を起こす。それでもまだまどろみから抜け出せずにいると、蒸しタオルて顔を拭かれた。
 少し熱いくらいのタオルから思わず逃げるが、顎を掴まれ目元までしっかり拭われる。解放された頃には肌がさっぱりとして、ようやく意識が浮上してくる。
 ぱちぱちと瞬きをして、はっきりとした視界に映った龍之介にお礼代わりの笑みを向けた。

「グッドモーニング、リュウノスケ」
「おはよう、ナギくん。朝ご飯食べてくだろう?」
「イエス。ぜひ、いただきます」
「じゃあ着替えたらリビングにおいで。準備しておくから」

 最後に龍之介はナギの空いた額をつつき、寝癖付いてるよ、と一言残してリビングに向かった。
 朝になれば髪が爆発している男に指摘されるのはいささか癪だが、洗面所の鏡で確認してみれば、なるほど確かに、ほぼ真上を向く前髪の寝癖は言いたくなるのも頷ける。
 毛布に包まって眠る癖があるらしいナギだが、これまであまり派手な寝癖がついたことは奇跡的になかった。初めて見る芸術のような髪型に興奮して、鏡に映る自分の姿を何枚か写真に撮る。

「流石、ワタシです。ワイルドな寝癖でさえこんなにも似合ってしまうとは……」

 喜んでSNSに公開しようとしたところで、ふと止めた。鏡に反射するのはナギ自身だけでなく、龍之介の家の様子もちらちらと映っている。生活感があるのでホテルという誤魔化しはききそうにない。
 アイナナ寮でないことがファンにバレて騒がれても別にナギは気にはしないが、メンバーや、とくにマネージャーが胃を痛めることになりかねないのは心苦しいので投稿は諦めた。そのかわりにメンバーのグループチャットに送りつけ、どうにか髪を整えて、一度寝室に戻る。昨夜のうちに龍之介がクローゼットから出しておいた服に着替えてからリビングへ向かう。
 目的地に近付くたびに、温かく美味しそうな匂いがした。思わずナギが表情を緩めながら辿りつけば、気がついた龍之介がキッチンの奥から顔を出す。

「しゃっきりしたね。格好いいよ、ナギくん」
「ノー。ワタシはいつだって格好良く、寝起きでさえ崩れぬ美形なのですよ」
「あはは! 確かに、すごい寝癖だったけど、ナギくんならセットだって言われたら納得しちゃったかも」

 ナギの定位置とその向かいの龍之介の場所には、すでに瑞々しいサラダと目玉焼き、こんがり焼けたベーコンに、他にも副菜が数品ほど用意されていた。
 席に座れば、炊きたての白米がよそわれた御椀と味噌汁が置かれる。ほわっと立つ白い湯気が鼻先が鼻先を撫でてくるものだから、起きたばかりなのに食欲がわき上がった。
 龍之介がナギのために作る料理はだいたい凝っている。しかし、今回は珍しく手軽に作られていた。それでも朝食には十分であるし、不満など一切ないが、龍之介にしては珍しいことが気にかかる。彼も寝坊でもしたのだろうか。

「飲みものはなにか用意する?」
「ミネラルウォーターをお願いします」

 寝起きの一杯にカフェオレを飲むことが多いが、白米とはあまり相性がよくない。ナギは和食の時には大抵水を飲むことを龍之介は知っているが、念のため確認をとってから、ナギが愛用しているグラスを棚から取り出した。ここなの笑顔がプリントされているもので、自ら持ち込んだわけではなく、龍之介がナギのためにと用意してくれたものである。

「はい、どうぞ」
「サンクス」

 サービスでウィンクをひとつつけると、龍之介は嬉しそうにしながらはにかんだ。
 自分の分の水も用意して、龍之介も席につく。

「いただきます」

 手を合わせて、二人で声を揃える。
 これはナギが大好きな日本文化のひとつだ。以前に、日本人がなぜ「いただきます」と声をかけてから食事をするのか不思議に思ったナギは大和と三月に尋ねたことがある。すると彼らは、作ってくれた人や、こうして料理になった食材への感謝であるのだと教えてくれた。
 それからはどんなに忙しいときでもナギは、「いただきます」と「ごちそうさま」を欠かしたことはない。そして、きちんとそれを言える人間を好ましいとも思えるようになったのだ。
 龍之介も必ず言う。誰かが作ってくれたものはもちろんのこと、自分が調理したものでも、作った人が目の前にいない外食のときでも、まず初めに手を合わせる。日本人には慣れ親しんだ風習であるので、ただルーチンのように日常の一部として組み込まれてしまっているのかもしれない。実際どれだけの人が感謝を忘れずにいるのかはわからないが、心の片隅でもひっそりその想いがあるのであれば素晴らしいものだと思う。
 そういえば、前に龍之介に沖縄料理を振る舞ってもらった際、くわっちーさびら、と方言で言ったらとても喜んでいたことを思い出す。

「ふふ」
「あれ? なにかいいことあった?」
「いいえ、なんでもありません」

 つい思い出し笑いをしてしまったナギは、不思議そうにする龍之介につんと返して箸を手に取る。
 さっそく目玉焼きのふっくら丸い黄身に箸をいれると、とろりと鮮やかな卵黄の色が溢れ出る。

「ん~! 黄身がとろとろです、流石ですね! ちょうど良いくらいです!」

 IDOLiSH7のみんなと寮生活するまでは半熟や生の卵など食べたことがなかったが、勧められて食べた卵料理のその舌触りや、濃厚な卵の味わいに受けた衝撃は忘れない。今では半熟の目玉焼きも卵かけごはんも大好きになった。
 そんなナギの好みを研究した龍之介の料理は、味付けだけでなく、火の通し具合までナギに合わせてくれる。だから一部を除く他のメンバーの料理、とくに三月のものが好きだが、龍之介の作るご飯も同じくらい大好きなのだ。
 ぱくぱくと食事を楽しんでいると、ふと視線を感じて顔を上げる。
 じっとナギを見ていたらしい龍之介と目が合って、首を傾げた。

「なんです? もう寝癖は直しましたよ」
「え……あ、いや。ナギくん、きれいだなって思って」
「当然です。今頃気づいたわけでないでしょうに」
「そうなんだけどね。箸の扱いも上手だし、持つ手もきれいだろ。背筋も伸びているし、所作まで美しいっていうのかな……改めてそう思ったんだ」
「美味な食事に敬意を払っているのですよ」

 ナギが美しいのは今にはじまったことではないし、箸の扱いもずっと前に、それこそ龍之介と会う前からマスターしていたではないか。それに折角こんなにも美味しいご飯を適当な気持ちで食するのはあまりにもったいないのだから、丁寧に扱うのは当然のことである。
 いまさらなことをいう龍之介にナギは呆れたというのに、なぜか彼は照れたように笑う。

「ありがとう、ナギくん」
「Hm……なぜ感謝するのです? 当たり前のことしか言っていませんよ」
「そうかもしれないけど、でも俺が嬉しかったから言いたいんだ」
「なににアナタが喜んでいるかはわかりませんが、とりあえずその気持ちは受け取っておきましょう。どういたしまして」

 すべてが納得できたわけではないが、変な龍之介よりも今はご飯だと、ナギは今度は茄子の味噌汁を手にとった。

 

 


 ごちそうさまでした、と声に出すと、龍之介はお粗末さまでしたと返してナギの分の食器も合わせて流しに運んでいく。
 時計を見たナギは、時間を示す針の位置に気がつき、龍之介の寝室に向かった。
 鞄を持ってリビングに戻り、流しにいる龍之介に声をかける。

「朝ごはん、ありがとうございました。時間ですので出ます」
「あ、もう時間か」

 洗いものを途中にして、龍之介は玄関までナギを見送りについてきた。

「送らなくて平気?」
「ええ。まずはこれから環と合流してから向かうので必要ありません」

 今日の午前中は、モード誌の撮影がある。今回はビジュアルを重視したセクシーな路線とのことで、メンバーの中から環とナギの二人が選ばれたのだ。
 撮影場所がちょうど、寮の近くの駅から龍之介の家の最寄り駅を経由して行きつくところにあるので、電車の中で待ち合わせの約束をあらかじめ環としていたのだ。
 靴を履き終えたナギが立ち上がり、ドアノブに手をかけようとしたところで背後から声がかかった。

「あの、ナギくん」
「なんです?」
「よかったら、これ食べて」

 差し出されたのは小さなトートバッグだった。
 受けとって中を覗いてみれば、黄色い布に包まれたものが入っている。それだけでは包みを開けなければ中身がきっとわからなかっただろうが、その上にある箸とスプーンのコンパクトなカトラリーセットにナギは瞳を輝かせた。

「もしや……お弁当!?」
「今朝作ったんだ。お昼にどうかなって」
「ファンタスティック! ありがとうございます、ワタシ手作り弁当大好きですっ!」

 飛び跳ねたいほど喜ぶナギは予想外だったのだろう。龍之介は驚きに目を瞬かせたが、すぐに相好を崩した。

「そんなに喜んでもらえるなんて、作って良かったよ。ナギくんの分だけしか用意してなかったから、環くんには申し訳ないけど……」
「いいのです! タマキはヤマトたちにたくさんお弁当作ってもらっていました。だから、これはワタシだけのお弁当なのです!」

 学生時代に弁当を作ってもらっていた環と一織が羨ましかった。しかも大和なんて顔に似合わず随分可愛らしいお弁当を作っていたのに、まじかる★ここなの弁当をお願いしたら即時却下された悲しい過去がある。なぜ王様プリンはよくてまじ★こなはだめなのか、食い下がったか最後まで大和は作ってくれなかったし、普通のお弁当でさえナギが騒いでようやく用意してもらったくらいであまり食べる機会がなかった。
 だが今、龍之介の弁当がある。彼の料理の腕前は知っているので中身は安心だし、なによりも誰かのついでなどではなく、自分のために作られたものであることが嬉しかった。

「環くんとご飯いく予定とか大丈夫だった?」
「心配ありません。タマキは午後からMEZZO”の仕事になるので、お別れするのです。ワタシはインタビューが入っていて、一人で待機予定でしたのでちょうど良かったです」

 杞憂が晴れた龍之介は安堵しながら、弁当の入る鞄を抱きしめるナギを面映ゆそうに見つめた。

「……あ、引き留めてごめんね。ナギくん、いってらっしゃい」
「いってきます、リュウノスケ」

 最高に機嫌のいいナギは、一度は扉に戻した体を捩じり振り返って、龍之介の頬にキスする。なにか騒がしい反応をしていたが、相手をすることなく家を後にした。

 

 


 撮影も終わり、環とも別れ、控え室に一人になったナギは、机の上にいそいそと弁当をとり出す。
 黄色い包みを解くと、紺色の弁当の上に一枚のメモがあった。

『ちょっと早いけど、当日一緒にはいられないので今日渡しました。初めてのことだから、ちょっと不格好になっちゃったけれど、喜んでくれると嬉しいです。龍之介』

 見慣れた龍之介の文字は、そう綴られていた。
 ナギは小首を傾げる。渡された時に十分話せた内容であるし、わざわざメッセージを残す必要があったのだろうか。
 龍之介の行動を疑問に思いつつ、とりあえずそんなものは端に押しやって、逸る気持ちをそのままに弁当の蓋を開ける。
 どんなおかずが入っているだろうとわくわく胸を膨らませていたナギは、弁当の中身を見て、ぱたりと蓋を落として叫んだ。

「ワオ! まじ★こな!?」

 箱の中には、ナギの愛するここながこちらに笑いかけていたのだ。
 ピンクの髪や結び目の髪飾りも細やかに食材で作られており、マジカルステッキも先端だけだがちらりと見えている。なにより、愛らしい表情がここなそのものである。

「That’s amazing! すごいです、リュウノスケ!」

 感動に打ち震えながら、ナギは様々な角度から何度も写真を撮った。
 卵焼きで出来たハートや、人参で作った星やハムの花など、ここな以外のどこを見ても可愛らしくて、見つめるほどにナギの気持ちは高揚していく。
 最高の気分のまま、写真をSNSにアップした。まじ★こな弁当を真ん中に、ピースしたナギ自身は半分ほど見切れている。少し手ブレもしているが、それでもナギの想いは十分に伝わるくらい、半分の顔は喜びに溢れていた。
 写真とともに滾る興奮を連続投稿する。しばらくしてようやく少し落ち着いた頃、最後に『ここなの顔を崩すのがもったいないです。ですが、折角作ってもらったお弁当なので、これから大切に食べます……:’-(』と呟き、端末を仕舞った。
 改めてここなのお弁当を見つめるが、このクオリティはキャラ弁づくりのプロも感嘆する技術レベルではないだろうか。だがなによりも、まじかる★ここなへのリスペクトが伝わってくることに感動してしまう。
 龍之介はナギに合わせてまじ★こなを観るようになったが、ただ付き合いで視聴中に隣にいるだけではない。はじめこそ、ナギの気を惹きたかっただけかどうかはわからないが、徐々に彼のほうから本当に興味を持ってくれたのだ。それが社交辞令などではないと知っていたはずだが、本当に好きになってくれていたのだと再確認ができたのが嬉しかった。
 龍之介がいかにキャラ弁を研究し、そして丁寧に時間をかけて作ってくれたかがよくわかる。すべてはナギを喜ばせるためだ。
 確か、随分前に一度だけ、IDOLiSH7もTRIGGERもいる打ち上げで、改めて大和にキャラ弁を依頼して断られたことがあった。あの時は散々に騒いでも頷いてもらえず泣いたのだが、もしかしたらそれを聞いていて、ずっと覚えていたのではないだろうか。
 龍之介に向かってキャラ弁の話をしたことがないし、もしかしたら単なる偶然かと思うが、しかしそれにしては気合が入っているように思う。
 それに、このタイミングということは――
 ナギは姿勢を正して、手を合わせる。

「いただきます」

 箸を手に取り、目を瞑った。

「ソーリー……ここな……」

 ここなに心より詫びてから、そっと箸で彼女の髪辺りを掬って口に運んだ。とてもではないが、ここなを見つめながら彼女のことを崩すことは出来なかったので、記憶に焼き付けた位置を思い出しながら箸を進めていく。
 見ため重視であっても、味付けは完璧だ。冷めていても美味しくて、それでいてナギの好みをしっかりと把握している。
 いくら器用なほうだといっても、慣れぬ作業に龍之介はどれだけ苦労したのだろう。どれだけナギを想って作ってくれたのだろうか。
 ――きっとこれは、龍之介なりのサプライズだ。
 メモには、『ちょっと早いけど、当日一緒にはいられないので今日渡しました。』と書かれていた。それがなんの日を示しているか書かれていなかったが、恐らく、七日後にあるナギの誕生日のことだろう。
 その日はお互いみっちり仕事が入っていて会うことができないし、そもそも当日はメンバーが祝ってくれるので、龍之介のもとに行く予定ははじめからない。
 ナギがどれだけメンバーを愛し、大事にしているか知っているから龍之介も理解して無理は言ってこなかったのだが、だからこそ、前倒してこうしてプレゼントをくれたのだ。

「ふふ……なかなか粋なことをしますね」

 ナギがずっと作ってほしいと願っていたまじ★こなのキャラ弁を不意打ちで寄越すものだから、弁当の中身を知ったあの瞬間、驚きとそして歓喜のあまりに、一瞬本当に呼吸を忘れた。龍之介の企みにまんまとのせられてしまったが、それを悔しく思えぬほどに幸福が凌駕している。
 ――だが、龍之介からのプレゼントがこれだけで終わりでないことを、実はナギは知っている。
 あえてメモにはなかったおめでとうの言葉。きっとそれを直接言う時に、本当のサプライズをするつもりだ。
 キャラ弁はあくまで本番への布石を打ったに過ぎず、これが今年のプレゼントはこれだとミスリードを誘っているつもりなのだろう。
 なぜ確信を持ってそう考えることができるかと言えば、ナギは知っているからだ。
 寝室のクローゼットの隅にひっそり隠された、本番用のプレゼントが入る小さな紙袋の存在を。さらに重ねるサプライズとして紙袋の中身をナギに贈るつもりだということを。
 ナギに贈るものだとわかった理由は実に単純で、昨夜ナギがクローゼットに近付くたびにやたらと龍之介が気にしていたからだ。
 恐らく今日のキャラ弁を渡すため、本来泊まる予定がなかったナギを龍之介は引き留めた。懇願を承諾したナギが、泊まる準備をしようとクローゼットにしまってある自分の替えの服をを取ろうとしたら、龍之介に「俺が取るから!」と慌てた様子で邪魔されたのだった。
 アイドルのみならず、俳優としても活躍している彼だが、演技どころかあからさますぎる態度をしておきながら、なにか隠していることがあるとバレないわけがない。
 龍之介がシャワーを浴びている間にクローゼットを確認して、そして紙袋を見つけたというわけだ。
 紙袋は店名などは記載されていない無地のものであって、中身は判断できなかったが、上質な紙を使用しており、しっかりした造りであったのでそれなりのものではあるのだろう。片手に乗るほどだったので、腕時計くらいの大きさではないかと推理している。
 次に龍之介と会えるのはナギの誕生日の翌日。その日の午後から次の日の午前中いっぱいの休みをお互い合わせてもぎ取った。渡されるとするならきっとその時だ。
 このキャラ弁だけでも永久に保存しておきたいくらいに嬉しかったのに、さらに続きを用意しているなんて、龍之介もなかなかやるではないか。ただ詰めが甘かった。演技を完璧にしておくか、もしくはナギが絶対に見ないような場所にプレゼントは隠しておくべきだったのだ。
 いつもであれば最後に知っていたと指摘してしまうところであったかもしれないが、だが今回ばかりは知らんぷりをしてやろうと思う。
 これまで、誕生日には大勢の人々に祝われた。だがそれを嬉しいとも、楽しいとも思えたことはないし、ナギは自分から心を抜いて、空っぽな器を遠いところから見つめるばかりだった。
 でも今は違う。ナギの心はここにあって、全身が喜びに震える。メンバーに囲まれ過ごせるその日が待ち遠しいのだ。そして、少し抜けたところのある龍之介が、ドッキリであれば仕掛けられる側のような彼が、精一杯頭を悩ました計画が無事成功するか見守りたい。
 ――今年もまた、ナギが主役の日がやってくる。それが終わったら、あとはいつもの日常が待っている。
 それはきっと、愛が溢れる、騒がしくも心穏やかなあたたかい日々であるのだろう。

 おしまい

 2018/6/13

 続き→ サプライズは当日に

 

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