十誕

※ 『サプライズは当日に』から続く話



 龍之介の誕生日の夜、TRIGGERの三人は今日という日の主役を祝うために集まった。
 本当は事務所の人間なども呼び、どこかの店を貸しきり盛大に祝う予定があったのだが、楽と天が今年は三人で祝いたいと言うことで、誕生日当 日は龍之介の家で小さな誕生会をすることに決まったのだ。
 事務所では後日改めて祝ってくれるという。また、他事務所ならも親しくしているRe:valeやIDOLiSH7も、今回は都合が合わず当 日参加できないが、彼らもまた祝いの席を計画してくれているのだという。
 関わる人の多い業界であるから、誕生日前からすでに幾人から祝いの言 葉を贈られ、現場でサプライズケーキを用意してもらったり、お祝いの言葉を伝えてもらったりしていた。それでもやはり自分のために向けられた言葉や労力をかけ準備してくれたことは、何度繰り返されようとも幸福なものである。そして本番の今日が終わっても、その後にも続く宴は今からもう楽しみだ。


「三人でこうしてゆっくりするのってなんだか久しぶりだね」
「大体仕事で忙しかったし、飲み会だったりしたからな。たまには三人で駄弁るのも悪かないだろ」
「龍はもっと賑やかなほうが好きだろうけど、ボクたちだけでも十分に楽しませてあげるから」
「そんなことないよ! 二人が俺のためにこうして集まってくれたことはすごく嬉しいし、トップアイドルの二人に祝って貰えるなんて、とんでもない贅沢だなって思うよ。……ごめんな、俺だけ……」

 今年の天と楽の誕生日当日は、それぞれ仕事が入っていて、電話で祝いの言葉を伝えることくらいしかできなかったのだ。
 数日遅れのお祝いをしたが、スケジュールの都合上じっくりと腰を据えることはできなかったし、慌ただしく過ぎて行ってしまった。それを申し訳なく思っていたのに、いざ自分の番となったとき、うまく三人の時間が重なり、こうしてゆっくり祝ってもらえることになった。
 嬉しいと言ったのに偽りはない。だが、自分だけが与えられるのは申し訳なく思うのも事実だった。

「なに謝ってんだよ。こんなもんタイミングの問題だろ。素直に自分の幸運を喜んどけよ」
「そうだよ。それに、ボクたちだってしっかり祝ってもらえた。確かに時間はあまりとれなかったかもしれないけれど、大事なのはみんなの気持ちでしょう。ボクは嬉しかったし、楽しい時間だったよ。だから今日は龍を最大限にもてなしてあげる」
「楽……天……ありがとう! 二人とも最高の仲間だ!」

 がばっと両腕を大きく広げた龍之介の腕に掴まった二人は、その広い肩に顎を乗せつつ、龍は大袈裟だなあと同じく笑った。
 それから三人は協力して、天と楽が持ち寄った料理を皿に盛りつけ並べる。室内に派手な装飾をすることはないが、テーブルだけでもとささやかに飾り付けられた。
 温めたスープを運んだ天は、机の端にちょこんと鎮座する置きものを一瞥して、それを置いて向きの微調整をする楽に冷めた目を向ける。

「なんでシーサー?」
「沖縄と言えばこいつだろ」
「わざわざ用意してくれたのか? ありがとう、楽!」

 思わず飛び出しかけた天の毒舌は、龍之介の晴れ渡る笑顔にぐっと押し留められる。

「……今日の龍はいつにも増してニコニコしてるね」
「二人のおかげで幸せだからね!」

 


 
 ふと話題が途切れたときに、壁掛けの時計を見た楽と天は、顔を見合わせ頷き合った。

「そろそろアレ、用意するか」
「そうだね」
「あれ? ……ああ、あれか!」

 なんのことだろうとはじめは頭を捻った龍之介だが、すぐに思い当るものを見つけ納得する。食事もあらかた終わったところだから、最後にケーキを出してくれるつもりなのだろう。

「どんなものなんだ?」

 耐え切れずに問えば、今日は随分と気が合う二人は答える前に笑みを浮かべる。

「見えるまで我慢して」
「おまえも驚くと思うぜ」
「本当? 楽しみだなあ」

 いったいどんなケーキを用意してくれているのだろう。自信がありそうな二人の表情に期待は膨れ上がる。

「それじゃ、まずは一度明かりを消すよ」
「そこまでするのか?」
「ムードはあったほうがいいだろ」
「ロマンチストな楽に付き合ってあげて」
「おまえな……はあ、まあそういうことだ」

 いつもであれば言い争いに発展してもおかしくないような雰囲気が漂ったというのに、天を睨みながらも楽はぐっとこらえて、溜息ひとつで許した。珍しいことだとは思ったが、龍之介の誕生日だからということで我慢してくれているのかもしれない。
 ふっと天井の明かりが消える。真っ暗になると思っていたが、いつの間にかセッティングされていたらしい床に置かれたルームランプが足元だけをほのかに照らした。しかし楽と天の姿は見えないままだ。
 暗闇の中で、ガチャリと扉が開く音が聞こえる。

(――部屋の外に置いていたのか?)

 そういえば、ケーキが入っていそうな容器は二人が持ち寄ったものの中には見なかった。誕生会だということもあって、ケーキを用意していても特別なサプライズにはならないと思うが、そうまでして隠そうとしているのは何故だろう。そんなにもすごいものを出されるというのだろうか。
 その答えを想像するのすら今は楽しい。
 自分に近付く足音に胸を弾ませていると、パチンと明かりがついた。
 さあ、なにを持っているんだとわくわくとしていた龍之介は、目の前に立つ人物に目を瞬かせる。

「Hi、リュウノスケ。Happybirthday!」
「……な、ナギくん!?」

 室内の明かりでも品よく煌めくブロンドに爽やかな青い瞳、片言のような独特なイントネーションに、手足の長いスタイル良い体。
 上から下まで見ても、見間違えようがない。これまでまったく存在がなかったはずのナギが、自分の両手よりも少し大きな箱をひとつ持ってそこに立っていた。

「な、なんでナギくんが……? 今日は、アニメのイベントがあるんだって言ってたのに」
「YES! 素晴らしいショーでした! ですが、アナタに会えないとは一言も言ってません」
「そうだっけ……?」

 頭を捻って、確かにそうだったかもしれないと気がつく。十月十二日は空いているか、とナギに尋ねた時、彼はイベントがあると答えた。しかし会わないと断られたわけではない。そのときとてもイベントを楽しみにしている様子だったので、当日は会えないだろうと残念に感じながらも、ナギが楽しそうなら良かったと思ったものだ。だがナギは龍之介のことを話題には出さなかっただけで、行かない、とは言っていなかった。
 どうやら勝手に決めつけてしまっていたらしい。
 いつまでも呆けている龍之介に、ナギはむっと目を細める。

「なんです。TRIGGERのミズイラズにワタシ、おジャマでしたか?」
「そんなことないよ! ナギくんが来てくれて、すごく嬉しい。ありがとう」
「そうでしょうとも。こちら、ケーキですよ」

 するりと機嫌を戻したナギは、手に持っていた箱を龍之介に差し出した。

「ミツキとイオリのお手製です」
「三月くんたちの? 嬉しいなあ! IDOLiSH7の子たちが自慢するのがいつも羨ましかったんだ。まさか俺も作ってもらえるなんて」

 今年のナギの誕生日のときには、彼が愛してやまないまじかる★ここなのイメージケーキを製造していたし、他のメンバーのときも実家のケーキ屋で培った技術を存分に奮ってオリジナルのデザインでみなを喜ばせている。その度に興奮して撮影したナギから写真が送られてくるので龍之介も知ってはいたのだが、まさか自分も作ってもらえるとは思わなかった。

「ワタシがお願いしたのです。二人は快く引き受けてくださいました」
「ありがとう、ナギくん。後で三月くんと一織くんにもお礼を言うね。さっそく開けてもいいかな?」
「YES。ぜひ。きっと喜ぶと思いますよ」

 受け取った箱を机に置いて、そっと蓋を開ける。
 宝物のように中に仕舞われていたケーキに、龍之介は瞳を輝かせた。
 魚や貝殻、ヒトデなどの海をイメージしたアイシングクッキーに、楽が置いてくれたものとそっくりな赤い体のシーサーのマジパン。サーフボード型のチョコレートプレートには龍之介の誕生日を祝う言葉とともに、端にはハイビスカスがチョコペンで描かれている。その隣に王様プリンがいるので、もしかしたらそこは絵が上手だという環が担当したのかもしれない。全体が白を基調としたケーキの一部の側面は、薄青いクリームで表された波が勢いよく立ち上がり、飛ぶしぶきまで細かく表現されている。
 バランスよく龍之介の好きなものが詰め込まれたケーキに心が躍るを抑えきれない。


「すごい! 食べて崩しちゃうのがもったいないくらいだ。まるでアートだね!」
「その気持ちはよくわかりますよ。ワタシも、ここなのときがそうでした。ですがファンタスティックなのは見た目だけではありません。食べないのももったないくらい、味もパーフェクトでした。さすがミツキとイオリです。アナタのケーキも間違いなく最高の品ですよ。ワタシが保証します」

 どんなに手慣れていたとしても、これだけ趣向を凝らしたものだからきっと完成まで時間がかかっただろう。デザインするのだってすぐに決まったわけではないはずだ。
 そこまで手間暇かけてくれたことが嬉しく、作品としても素晴らしくて、自分のためにたくさんの想いを込めて作ってくれたことも十分に伝わってくるこれを用意してくれた二人に、きっと協力してくれたであろう他の四人に最大の敬意を払って食べさせてもらおうと心に決める。
 そうっとケーキを箱からとり出して机に置いた。改めて一周回してその完成度の高さに感嘆にしながら、龍之介はその様子を見守ってくれていたナギに振り返る。

「ナギくんも一緒にケーキ食べていくだろう? そう言えば、天と楽はどこに行ったんだろう。戻ってこないな」

 扉に振り返ろうとしたとき、ナギが首を振った。

「いえ、ワタシは帰ります。後ほど改めてIDOLiSH7として祝わせていただきますので」
「そうか……わざわざケーキを届けに来てくれたんだね。本当にありがとう。まさかナギくんに会えると思っていなかったし、たくさんの幸せをもらっちゃったな」
「おや。まだ満足するには早いですよ」
「え?」
「ワタシはただケーキをデリバリーしにきただけではありません。あの日の返事をしにきました」

 おもむろにナギが懐から出した小箱に、龍之介はそれまで浮かべていた緩みきった笑顔を氷りつかせる。
 それは、ナギが誕生日のときに贈った指輪が仕舞われていたリングケースだ。そして、それを渡すとともに龍之介は彼にパートナーになって欲しいとプロポーズをしていた。ナギからの返事はまだもらっていない。じっくり考えてほしかったし、龍之介としても渡したあとに少し時間がほしかったからだ。渡すだけでも相当の勇気が必要だった。ならば答えを聞くなら倍必要だから、消耗しているタイミングで聞くことができなかったのだ。
 ナギの誕生日は六月二十日。答えを考える時間としては、決して短いわけではなかっただろう。
 リングケースを出したと言うことは、間違いなくプロポーズの返事であろう。だが贈ったものを、箱にしまったまま持ち出されたことに最悪の事態を想定してしまう。
 もしかして、贈ったそのときのまま、ケースごと突き返されてしまうのか。
 緊張に体を強張らせる龍之介を前に、ナギは自分の手元に目線を落としたまま言った。

「ワタシの一番はメンバーです。なにかあったら相談するのも、真っ先に喜びを分かち合うのも彼らであって、アナタではないのです」

 夢を追いかけ、多くの苦悩と困難を乗り越え、そしてともに歓声を浴びて栄光を手にした、ナギが深く愛しそしてなにより大切にする者たち。
 彼らがどれほどナギにとってかけがえのない者か、龍之介は痛いほど知っている。ライバルとして、ともに歌う者として、近くで見てきたから。
 彼らを手放さなければならないと知った時に見せたナギの涙を、以前三月が教えてくれたことがあるから。だから、知っている。

「ですがそんな愛すべき彼らにでさえ、ようやくできた約束です。それを真っ赤な他人のアナタに永遠を誓えるわけがない」

 顔を上げたナギは、真っ直ぐに龍之介を見つめ返した。

「ワタシがアナタのために自分を変えることはない。ワタシはIDOLiSH7の六弥ナギです。ワタシはワタシと友と、ファンのために歌って、ステップを踏んで、これからも光に満ちた未来に仲間とともに駆け抜けます」
「俺のためにナギくんが変わる必要なんて――」

 ないんだ、と続けようとした龍之介の唇にナギの指が宛てられる。口を閉じれば、指はそのままナギの口元へいき、しぃ、と小さく声を出す。
 龍之介の言葉を封じて、ナギは微笑んだ。 

「ええ、そうです。ワタシはアナタと関わったとしても、これからもワタシであることに変わりはない。アナタとずっとともに居るとも言いません――ですが、引き留める言葉くらいは許しましょう。追いかけてくることも、アナタがしたいというなら好きになさい。時々くらいなら、耳を傾け、後ろを振り返ってあげましょう。足は止めませんけどね」
「ナギくん……」
「この関係がアナタの望んでいたパートナーであるかはわかりませんが、これがワタシたちの形となります。リュウノスケ。それでもアタナは受け入れますか。それともさして恋人と変わらない関係に肩を落としますか?」
「――……」

 龍之介はナギの手を取りその場に跪いた。
 驚くナギに、青い瞳だけを見つめて告げる。

「ナギくんに誓う。君がどんな答えを出しても俺はそれを受け入れるよ。君を愛しているからだ。――確かに、ナギくんが受け入れる俺たちの形は、これまでとそんなに変らないのかもしれない。でも肩を落とすことなんてないよ。それより、俺はすごく嬉しかったんだ」
「嬉しい、のですか……?」

 龍之介に向ける表情には珍しく、理解ができない言葉にナギはきょとんとした愛らしい表情を見せる。

「だって、追いかけていいんだろう。俺の声を聞いてくれるんだろう? 君がそれを許してくれるなら、俺はナギくんに何かあれば世界の果てでも駆けつけるし、必要ならどこまででも追いかけるよ。何度だって愛を伝える。何度だって、君の素晴らしさを叫ぶ。そうしたっていいんだって、ナギくんが言ってくれたから。それだけでたまらなく嬉しいんだ」

 龍之介の意地だとかもあったけれど、これまでのことを本当に疎ましく思っていたら、追いかけることも声をかけることもナギはきっと認めなかった。
 だが龍之介は許された。これまでのことも無駄ではなかったと、これから先も傍に置いても嫌と思ってないと、わかっただけでそれだけで十分だ。
 ――これは、ナギに伝えることは出来ないのだけれど。

(たとえナギくんが約束できないとしても、俺が、君の傍にずっといると誓うよ)

 追いかけることを許されたということは、龍之介が足を止めない限りはナギの隣にいられるということ。
 なら足を止めることのないナギの隣を、歩きつづけよう。ただの十龍之介として、TRIGGERの一人として、彼のパートナーとして、ともに未来へ行こう。

「――リュウノスケ、手を放してください」

 少し名残惜しく思いながら手を放して起ち上がれば、ナギはすぐに襟元に手を差し入れた。そこから引き出されたのは服に隠れていたらしいネックレスで、細い金のチェーンに通されていたものを見て、龍之介は驚いた。
 ナギの持っているリングケースに収まっているものだとばかり思っていた、彼に贈った指輪が、そこにあったからだ。
 ナギは指輪からチェーンを外して、理解の追いつかない龍之介にそれを差し出した。
 呆然としながら手を出せば、掌に金と青銀の輪が置かれる。

「俺……振られたのかな」

 贈った指輪を返されたのなら、つまりはそういうことかと動揺に瞳を揺らした龍之介に、ナギはくすりと笑う。

「ノー。アナタの手で、それをワタシの指に嵌めてください。アナタはワタシに誓った。なら、ワタシは先程のワタシの言葉を、アナタに誓いましょう。ですからその証に、リュウノスケの手でリングをつけてください」

 指を伸ばしながら出された左手を取り、薬指にそっと指輪を通す。
 二人の視線の先で、情けなくも龍之介の手は震えていた。ナギの口元は笑みを浮かべているが、しかしそれは眼差し同様にとても優しく龍之介を見守った。
 自分に嵌められた指を掲げ、ナギはしばし手を揺らして角度を変えてそれを眺めては、満足げに微笑んだ。

「リュウノスケ、アナタも手を出して」

 ようやく下ろした手を、今度はなにかをうけとるように手の平を上にして龍之介に出した。

「え?」
「指輪とは、交換するものでしょう?」

 そう言ってナギは、右手で握ったままでいたリングケースを開く。その中には、金のリングの上に青み帯びた銀色のリングが重なっているナギのデザインとは逆の、銀の上に金がある指輪が入っていた。
 今ナギの指で滑らかに輝いているものとはまるで対になるような指輪に、龍之介は目を奪われずにはいられなない。

「な、ナギくん。これ……」
「ワタシから、アナタへの誓いの証です」

 驚きが覚めないまま、ナギに左手を渡す。ナギは龍之介とはちがい、実にスマートに薬指に指輪を嵌めた。
 初めてつけるものなのに、まるで龍之介の指にあるのが当然だったかのようにしっくり落ち着く金銀の輪に息が詰まるほどの感情に震えた龍之介は、堪らずナギの頬に手を添える。
 自分を見上げる青い瞳に吸い込まれるように顔を寄せれば、キスは寸前でナギの指に阻まれた。
 何故、と眼差しで問えば、ナギはわざとらしく肩を竦める。

「外野がおりますので。ワタシのキスは見世物ではありません」

 言い終るか終わらないかくらいに、出入り口の扉が開いた。

「なんだよ。気にせずすればいいだろ」
「無神経」
「なっ――おまえだって一緒になって覗いてただろうが!」

 すっかり頭から抜けていた二人の存在に、龍之介は羞恥に頭を抱えたくなった。どうやら天と楽は、龍とナギのために気を利かせてずっと部屋の外で待機してくれていたようだ。とはいえ、しっかりと聞き耳立てられていたらしいが。

「それでは、ワタシは帰りますね」
「えっ」
「今はアナタがたでお祝いしてください。――次に二人で会えるときは、アナタの指輪にキスをさせてくださいね」

 最後に耳元に寄せられた唇がささやいた台詞に、龍之介はぴしんと動けなくなる。

「見送りはいりません。では」

 誓いの後の指輪の交換。二人にとって重要なことをしたというのに、ナギはからりとした笑顔をひとつ残してあっさりと龍之介の家を出て行った。
 しまった扉を見たままかたまる龍之介の脇に、天と楽は並び立つ。

「龍は六弥ナギのことで頭がいっぱいみたいだね」
「今は俺たちが祝ってんのにな」
「え……あ、ごめん! そういうんじゃ、ないんだけど……」

 拗ねているような声音に我に返って謝る龍之介に、楽と天は澄ました顔のままだ。

「どうする。龍は六弥からのサプライズプレゼントが余程嬉しかったみたいだぜ」
「ボクたちも用意したのに、この緩みきった顔の前では出しづらいよね」
「え? 二人もプレゼント用意してくれたのか?」
「まあね」
「当たり前だろ」
「楽……天……」

 つんとしたままの回答に、けれども感動に打ち震えてきらきらした眼差しを向ける龍之介に耐えきれなくなったのか、先に吹き出した楽は龍之介の頭を片腕に抱き込んでわしゃわしゃと髪を掻き乱した。

「わ、あはは! やめてくれよ、楽!」
「うるせえ。TRIGGERのエロエロビーストが年下に負けてんじゃねえよ!」
「――まったく、騒がしいんだから」

 一人ごちる天は、騒がしい様子をさりげなく写真に収めた。
 満足した楽は、ようやく解放されてぼさぼさな髪を手櫛で整える龍之介に、ふっと笑いかける。

「おめでとう、龍」
「楽……」
「良かったね、龍。本当におめでとう」
「天……」

 続く天からも送られた祝いの言葉も、ただ龍之介の誕生日を祝っているだけではない。
 それがわかっているからこそ、なおさらむずむずと膨れ上がる気持ちに体が動いた。
 今度は龍之介が、楽と天を両腕に抱きしめる。

「ちょっと……これで二度目でしょ。はしゃぎすぎじゃない?」
「おい龍! 首、締まってる!」

 ぎゅうぎゅうに押さえ込まれて頬擦りされて、天は苦笑する。

「ああ、俺は今間違いなく世界一幸福なんだ。浮かれずにはいられないよ! 楽、天! 君たちのことも愛している。最高の友達だ!」


 おしまい

 2018.10.12

 続き→ 永遠は誓わない

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