「……なんだ」 カップを置いたノアが訝しげに問うと、ヨルドは口元に小さな笑みを浮かべる。「きみもだね」 わずかに腰を浮かしたヨルドは、テーブルに身を乗り出してノアに手を伸ばしてきた。 柔らかな口調のわりに動きは素早く、…

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  ノアが片眉を上げる前にヨルドはにこりを笑みを浮かべる。「ノアが食べないと、チィも食べられないだろう?」「……後で金を請求したりしないだろうな」「まさか。おれが勝手に用意したものだから、遠慮せず食べてくれると嬉しい」 …

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    横たえていた身体をのそりと起き上がらせる。 まだ重たい瞼をかろうじて持ち上げて、部屋の中心で優雅にお茶を楽しむヨルドに目を凝らした。「おはよう、ノア」 ノアの起床に気がついたヨルドが爽やかな笑顔とともに挨拶をして…

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   なんでもそつなくこなす印象があっておもしろくなかったが、珍しく自信なさげな姿に少しだけ優越感に浸ったような心地よさを覚えて、ようやくノアは気分が浮上する。 「まあ、少なくとも襲われる心配はないからよかったじゃないか…

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  独身の魔術師たちが住まう宿舎にノアが住んでいる部屋がある。とはいえ時々着替えを取りに戻る程度で、日用品置き場のような扱いだ。 魔術師たちには塔の中にそれぞれの研究のための個室が用意されている。魔術の研究に明け暮れる日…

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   チィを兵士に預け、ノアはヨルドとともに国王の執務室に入った。 婚約腕輪を贈りたいと思った相手と、それの製作を依頼した者が揃っていることに王はいささか驚いた様子を見せる。たがそれは一瞬のことで、何事もなかったかのよう…

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 「ぶにゃっ」「うわっ」 主従が声を上げたのはほぼ同時で、チィは顔面をぶつけた衝撃で背中から本を落としてしまう。それが後ろからの突撃によろけたノアの足元に滑り込んでしまった。 本の角を踏んでしまったノアの身体が大きく傾く…

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  敬愛する王の手前、表向きは異論なく依頼を引き受けたものの、やはりあのヨルドのためというのが気に食わなかった。 王にとっては孫同然であろうが、周囲から期待される騎士さまであろうが、ノアからすれば胡散臭ささ満載の男でしか…

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   国王に呼び出された魔術師のノアは、執務室で彼と顔を合せるなり、早々に人払いをされて二人きりとなった。 こういうとき、彼は王ではなく私人となる。そして公式の場ではできない他愛ない雑談をしてくるのだ。王としては公の場で…

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