あまえたい

友人にイラストを描いてもらったお礼に書いた小話です。  袖を引かれ、デクは振り返る。 先程足音を聞いていたので気がついていたが、やはりそこにはユールがいた。「どうした」 夕食を済ませ、皿を洗っていたところだった手を止めて…

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もとめるこころ

  行ってくる――そんな短い言葉を残してデクが家を出たのは、一週間前のこと。 デクは今、隣町からの応援要請を受けて橋の修繕を行っているのだという。どうせ行くのだからと他にも細々とした仕事をやらされるらしく、泊りがけで三週…

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夜更かしの秘密

 以前は人間の背の倍はある巨人が住んでいた家は、その彼が不自由なく暮らせるように背の高い造りとなっている。玄関の扉も重厚で、まだ子供のテイルが見上げれば絶壁が目の前にあるように巨大に見えた。 前に一度巨人用の扉を開けてみ…

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12

  今すぐユールを自分のものにしたい。早くすべてを味わいたいと、自らの欲望に身体が焼け焦げてしまいそうだ。しかし衝動に身を任せればユールが傷ついてしまう。無意識に伸びようとした手を理性で抑えつけ、少しでも身を巡る熱を逃が…

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11

  濡れた場所を指で拭おうとしていたユールの腰を、掴み重ねた手を引き寄せる。均衡を崩したユールはデクのほうへと倒れ込んだ。 動揺からか、ユールは悲鳴のような小さな声を上げる。慌ててデクの顔に触れていた手を広い肩に置いて、…

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10

  あのとき、関わったこともないリエルが何故デクの看病をしたのか。もしあのとき傍らにいたのが彼女であるならば、その後何故なにも言ってはこないのか。それだけはどうも気にかかるも、直接尋ねる勇気もなく年数ばかりが積…

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  一度深呼吸をして、デクは目の前の扉を二度叩いた。中から聞き慣れた声が返事をし、少しの間を置いて扉が開け放たれる。「いらっしゃ――なんだ、おまえか」 顔を出したのはユールである。自身が働く理髪店の扉を叩いたのは客だと思…

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   宿題を再開させたテイルに最後まで付き合っているうちに、いつの間にか日は大分傾いていたようだ。 そろそろ帰るか、と腹這いに寝そべっていたユールが本を閉じ立ち上がると、テイルは不満げな声を上げて抗議した。だがそれにユー…

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  次会うときにはもう、と幾度心の中で唱えては繰り返してきただろう。しかしデクの考えに反し、ユールに魔法の矢を突き立ててからすでに二か月ほどが経とうとしていた。 これまで仕事現場の昼時にふらりと現れる程度だった…

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  ふとデクは気がつく。 ユールはよくデクをデカブツと呼ぶ。言葉に示されるこの巨体を邪魔だと邪険に扱われたことがなかったとは言わない。だが馬鹿にしたことはこれまで一度としてなかった。影では身体が大きいからあんな…

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