本編完結より数年後
いつもの隠れ場で仕事をさぼり昼寝に勤しんでいたハヤテは、大きな欠伸をしながら廊下を歩いていた。
そこに多くの部下を従える隊長の威厳はかけらもなく、寝起きの瞼はいかにも重たげで、ただでさえ目つきが悪いのにいつもよりも鋭く恐ろしげだ。質のよい隊服を身にまとっていなければ、城に迷い込んだ町のごろつきにしか見えなかった。
実際のところハヤテには隊長として相応しくないと指摘する声が多くあがっている。さらに頻繁に、どころかほとんどの執務から逃げ出しているのだから、非難されるのも仕方がなかった。それでもハヤテが隊長であれるのは、偏に優れた武人であるからだ。
結界に守られた国から一度出れば、外は魔物が跋扈する気の抜けない世界が広がっている。彼らが国に危害を加えぬよう監視し、牽制するのが獣人を主体に構成された八、九、十隊であり、そのなかでハヤテが任されているのは空の管理である八番隊だ。基本的に外を見回るため、魔物との遭遇率が高い討伐隊は猛者ぞろいである。
もとより獣人は人間よりも身体能力に優れているのだが、なかでもハヤテは別格であった。誰よりも早く魔物を見つけて、誰よりも早く切りこみそして倒していく。向かう姿に一切の恐れも躊躇いも見えず、また体力も底なしで、 隊に入る新人隊員は魔物よりもまずハヤテに恐れを抱くのだという。
ハヤテが築き上げた魔物の山は果てなく、国のなかでも随一の武人であるという呼び声もあるほどだ。残した功績も本人の顔と態度に似合わず輝かしいものも多く、国への貢献度が高い。不遜な態度が許されているのも、彼に実力が伴っているからだった。
そんな彼が唯一、戸惑いながらも優しく接しようとする相手がいる。それが主であるフロゥだ。
フロゥは魔術師見習いで、本来獣人を授かる立場にないのだが、フロゥはとある事情を考慮され、アロゥの弟子ということで将来彼に代わり国を代表する魔術師になると期待されていることもあり例外的に獣人の所持を許されていた。主と獣人は互いに相性がよい者が呼び出されることもあり、普段は不遜な態度のハヤテといえどもフロゥにはどうも頭が上がらないらしく、それなりに良好な関係を築いていた。
フロゥは生まれつき身体が弱く、風邪を引きやすい子だった。それだけでなく足が悪く、一人で歩くことができないのだ。それがフロゥの抱えているとある事情だ。そのためできる限りの範囲でハヤテがフロゥの足代わりを務めている。さぼり癖のあるハヤテではあるが、それだけは真摯に取り組んでいた。
ハヤテが逆らえぬ人物は他にあと一人いて、四番隊隊長にして国王の相談役であり、さらには世界的にも有名な大魔術師、そしてフロゥの師であるアロゥである。
反発はするのだが、うまい具合に舵をとられてしまう。気がつけばアロゥの狙った通りに動かされているのだ。
アロゥはハヤテを気に入っており、執務をさぼりがちな彼に己の獣人を補助に差し向けるほどだった。そのためハヤテが椅子に座っているよりも円滑に仕事が進んでいるので、ハヤテがふらふらとしていても問題がないからこそ誰も深く注意をすることができない。そしてアロゥの後ろ盾があるというのも、実は公にハヤテを糾弾できない理由のひとつであった。
アロゥは 現王シュヴァルがまだ幼い頃、統治は無理だとされて繋ぎではあるが、一時はアロゥが国王の候補として名があがったほどである。しかしアロゥは物心すらついていないシュヴァルを即位させることを選んだのだ。だが政ができるはずもなく、シュヴァルがものになるまでは政務を代行していたアロゥが実質王であった。
見かけは穏やかそうな老人ではあるが、王に次いで権力を持つとされている。面倒見のよさからも多くの者から慕われていた。
実力があるし仕事もまあ上手く回っているのだから大目にみよう、アロゥも王も目を瞑っているのだからという者たちと、隊長としての威厳と品があまりにも欠けていて相応しくない、今はアロゥの獣人の補助があるとして彼がいなくなればどうするとする者たちで意見が真っ二つに別れていた。
ハヤテはその強さ、隊長という立場への羨望と憧れだけでなく、嫉妬や恨みがましい視線もその身に集める。しかし周囲など気にしない当の本人は、人前であっても服に手を突っ込みぼりぼり腹を掻いていた。それにまた呆れる者もいれば、ちらちら見える鍛えられた身体に興奮する者もいるが、やはり本人が気づくことはない。
ようやく目的地であるフロゥと相部屋の自室に辿り着いたハヤテは、口を開きながら扉を開けた。
「おいフロゥ――」
飯食いに行くぞ、と続けようとしたが、中にいた人物に口を噤んだ。人の気配を感じていたので、フロゥがいるかと思っていたが、違かった。
部屋の中心に立っていた男が振り返る。
「なんでてめえがいるんだよ」
「んー……なんでだろうな?」
誰にでも見せるへらりとした笑みを見せた男、ジィグンにハヤテは舌を打つ。
「フロゥはどこだ」
「あいつならアロゥに呼ばれて、部屋に行ってる」
全十三隊長の部屋は同じ場所に並んでいて、今いる八番隊隊長に与えられる部屋からみっつ部屋を挟み、四番隊隊長であるアロゥの部屋はある。
となるとすぐそこなので、ハヤテは幼い主を迎えに行こうとジィグンに背を向ける。扉に手をかけたところで、背後から声がかかった。
「なあ、ハヤテ」
「あ?」
「おれはおまえの、なんだった?」
言葉より先に、舌打ちで返答した。
「知るかよ」
「そうか……そーだよな。おれにもよくわかんねえんだから、おまえがわかるはずもねえよなぁ」
その言葉はハヤテに向けているというより、どこか遠くに捨てに行くよう寂しげだ。しかし他人の言葉に疎いハヤテがそれに気づくことはなかった。
馬鹿にされていると思った。意味のわからない質問に正直に答えただけだが、わからないことに呆れられていると感じたのだ。
「馬鹿にして――」
不機嫌な低い声音でうねりながら振り返れば、続くはずの言葉を止めてしまう。
それまでただ棒立ちしていたはずのジィグンが、何故か服を脱ぎだしていたのだ。
上半身が露わになり、上着は足元に捨てられる。下衣にも手を伸ばしていた。
脈絡のない突然の行動にハヤテは片眉を寄せる。
「なにしてんだよ」
「なにって、わからねえのか? まあいいけどよ。いつも散々好き勝手やってくれてんだろ。たまにはおれに使わせろ」
「はあ?」
ハヤテの理解が追いつかないまま、ジィグンは全裸になった。
これまで幾度となく自分のものをねじ込んだことのある身体は見慣れているはずだが、大抵は後ろから腰を掴んで突上げるばかりで、実は正面からはほとんど見たことがない。下は脱がしても、上はそのままであることが常だった。
あまり武術を得意とはしていないジィグンではあるが、それでも彼は騎士の端くれである。小柄ながらに鍛えている身体は引き締まっていて、ほどよい筋肉がついている。いつもフロゥに、飲みすぎですよ、お腹出ちゃいますよ、と笑われる腹は薄らではあるが割れていて、弛みさえなかった。
何も身に纏わないジィグンが、歩み寄ってくる。ハヤテがじっとしていると手を取り、寝台に導かれた。
抗うことなど容易なことだった。ただ手を振り払えばいい。ジィグンの手も引いてはいるが緩い力で、簡単に振りほどける。だが無言の彼に気圧されでもしたのか、何故か従ってしまう。
なにをしようというのか、という興味もあったのかもしれない。
寝台の傍まで来ると、ハヤテを反転させてそのまま肩を突き飛ばされる。流されるままに力を抜いていたハヤテはそのまま寝台に倒れ込んだ。長躯を受け止める台はその勢いにぎしりと大きく音を鳴らした。
多少の痛みを覚えてジィグンを睨むが、彼の姿は見当たらない。視線を巡らせ探そうとしたが、それには至らなかった。
「っ、なにして……」
しゃがみ込んだジィグンは、ハヤテの下衣を下着ごとずり下げると、中に納まっていた陰茎をとり出していたのだ。
これには不意を突かれたハヤテは咄嗟に手を伸ばし、ジィグンの頭を押さえこもうとする。しかし、彼の頭に掌が当たると同時に、まだ芯を持たないそれの脇を唇で食まれた。
片手を太腿に置き、もう片手でそれを支えて、ちゅくちゅくと音を立てながら唇で愛撫される。
思わずハヤテが頭に乗せた指先をぴくりと動かせば、ジィグンは添えた指先でそろりと撫でた。
突然の口淫にハヤテは動揺していた。彼との行為は数えきれないほど繰り返してきているが、挿入して終わることしかしたことがなかった。
いつも嫌がるのを無理矢理押さえつけるばかりで、全裸にさせたこともなければ、押し倒されたことも、ましてや口淫されたことすらないし、させたこともなかったのだ。
これまで嫌がってばかりだったのに、何故今日はこんなにも積極的なのだろうか。
混乱していたが、次第に刺激される下半身の心地よさにどうでもよくなってくる。次第に熱が熱まっていき、芯を持ち始めた。
力を抜き、ハヤテはよくわからない状況に身を任せることにした。それを感じ取ったのか、ジィグンも唇でくするぐるような愛撫から、軸に舌を這わせる。
温かな舌の熱が裏筋を辿り、指先が双球を柔く揉み込んだ。それにハヤテが小さく反応すると、敏く気づいたジィグンが唇でそこに緩く吸い付く。
「――っは」
ただ突っ込むだけで得られるのとは違う繊細な刺激に、堪らず息が漏れた。
はあ、と熱い吐息がかかると、次の瞬間に先端を口に含まれた。熱く湿る口内にずぶずぶのみ込まれていき、先端のくぼみを舌先が突く。
「ん……ふ、ぅっ……」
堪らず浅く腰を突上げると、苦しげな声が喉の奥から聞こえた。その声の振動が深くのみ込まれていうものに伝わる。
身体の小さなジィグンは口のなかもそうで、ハヤテのすべてを収めることができない。それでも喉の奥まで無理にのみ込もうとするから、歯が当たるが、今はそれすら刺激のひとつだ。涎が竿を伝って垂れていき、根元にあるジィグンの指先は滑っている。それに収まりきらないところを撫でられると背筋がぞくりとした。
時折いたずらに突上げれば、そのたびジィグンはくぐもった声を上げる。やけに艶っぽく、自分の興奮が増していくのがわかった。
どんな顔をして、こんなことをしているのだろう。そう思って預けきっていた身体を起こす。
ハヤテの凶悪なものを咥え込んだジィグンは、息苦しさからか、瞳には薄ら涙の膜が張っていた。鼻息を荒くして、それでも口を満たすものにねだるように吸い付いた。
まるで必死に欲しがっているような様子が何故か、痛々しくも思えてしまう。その瞬間、ひとどく苦いものを噛んでしまったような嫌な気持ちになった。
心地はいいが決定的な快楽は望めそうもなく、ハヤテは再びジィグンの頭に手を置き、髪を掴んで強引に上を向かせた。
「はっ……人のもんしゃぶって楽しいかよ。おら、もういいからケツ出せよ」
「――っ」
出すのもようやくといったようにジィグンは頭を持ち上げていき、ハヤテのものをとり出す。ジィグンの口内で温まっていたそれは、外気に触れてひんやり感じた。
すぐに押し倒して暖まろうと腰を浮かしかけたハヤテの肩をジィグンは押し返す。
「ちょっと待ってろ」
いつの間にか用意していたのか、いつも行為のときに使用している軟膏を容器からたっぷり指に掬い、自ら後ろに手を伸ばす。
ハヤテの腹に片手をついて支えとしながら、ハヤテを受け入れるため、自分の身体に指を差し入れのだろう。様子は見えないが、きつく閉じた瞼にそれを悟る。
強引に挿入しようとするハヤテを眺めて自分で身体を解すのはいつものことだが、これもまた正面から見たことはなかった。
顔が真っ赤になっていて、噛みしめる歯の隙間から呻くように声が漏れている。しっとり汗ばむ肌が妙に艶めかしい。全裸で隠しようのないジィグンのものは、咥えて興奮したのかすでに蜜を垂らしそうなほどに力強く勃ち上がっている。
「まだかよ」
はやく突っ込んでしまいたいと、下半身のものが痛いくらいに張り詰める。待たされ苛立ったハヤテは、感情を隠すことなく声音に乗せた。
「も、少し……っ」
「昨日もやってんだからどうせ緩まってるだろうが」
せっつくハヤテに諦めたのか、ジィグンはそろりと目を開けて後ろに向けていた手を戻す。
「おい、さっさと退け」
「うるせえ。おれが好き勝手やるって、言っただろ」
「あ?」
いつまでも上に跨ったままのジィグンに、押し倒してしまおうと手を伸ばすもはたき下ろされた。
大して痛みはないが、一気にハヤテの苛立ちは増して鋭くにらみつける。しかしジィグンにとって慣れた視線に効力はない。堪えた様子もなくハヤテの腰に片手を置くと、もう片方の手ですっかり勃ち上がったものに手を添えた。
身体に跨られ、ハヤテが驚いているうちに、ゆっくりとじぃぐは腰を下ろしていく。
やや赤くなったジィグンの小さく開いた場所に、屹立の先端からゆっくりのみ込まれていく。
「く……ぅっ……」
狭く湿るジィグンのなかは、いつだってハヤテを拒むようにきつく締めつける。昨日も物陰に連れ込み半ば強引に身体を重ねていたのだから身体はまだ開いているはずだが、ジィグンが無意識に力を入れてしまうのだ。
口ではあんなに苦しげだったのに、孔にはどうにか時間をかけながらもすべてが収められた。
根元まで埋め込まれたものの衝撃を宥めるためにジィグンは深呼吸をしようとしているが、ハヤテが軽く腰を突上げそれを阻む。
「へばってんじゃねえよ。てめえから乗っかってきたんだろ。さっさと腰触れ」
「……ん、っ」
ハヤテの身体に置いた手を握りこぶしに変えながら、そろりと身体を上下する。結合部からはくちくちと控えめな音が鳴った。
普段うるさいくらいに拒否し続けているのに、いやだとか、やめろとか、隙あらば逃げようとするのに、今日のジィグンはなんだというのだろう。
服を脱ぎ捨て口淫までしてハヤテをその気にさせて、自ら跨らって。これまでの彼ではありえない行動だ。
なにか思惑があるのだろうということは、いくら鈍いハヤテでもわかった。しかし気づいているからと言って理由がわかるわけでもなく、どうせなら楽しませてもらおうと決めたので遠慮はしない。
拙い腰の動きはもどかしく、激しくつき動かしたいのを堪えて、ジィグンの腰を軽く叩いた。
小気味いい音を立てた肌がやけに熱い。
「っ――」
「そんなんじゃいつまで経っても終わらねえだろうが」
きつい物言いに、それでもジィグンは文句を言わずに、おずおずと自分のものを掴み、扱きはじめる。するとこれまでただずっと力の入り続けていた中の締め付けに強弱がつき始めた。
「は、ぁ……ふっ、ぅ……」
苦しい交じりだった声が、表情とともに蕩けていく。
拒むようだった内壁はまるでより奥へと誘うように吸い付いてくる。
「ん、あ、あっ……あ、ぁっ」
ようやく調子が乗って来たのか、控えめだったジィグンの腰の動きも大胆なものに変わっていき、ハヤテのかたい屹立を使って自らいいところを擦り善がる。
早い呼吸に上下する胸に垂れた汗がやけに目についた。腹を辿り、濃い灰色の茂みに消えていく。その前では先走りに濡れた自分のものを扱く手がやらしい水音を立てて、ますます興奮を煽る。
「あ、はっ……は……」
ずっときつく目をつぶったままのジィグンは、じっくりとハヤテに見られていることになど気づいていないのだろう。
見慣れぬジィグンの痴態を観賞しながら、次第に激しくなっていく動きにハヤテの身体も高まっていく。
夢中で腰を振りたくり、全身をどこも赤くしている。汗が滴り、顎から落ちそうになったものを見つけたハヤテは、咄嗟に腹筋だけで身体を起こした。
「ひ、ぐっ……」
「――くっ」
収まるものの角度が関わり、内壁を強く抉る。それが丁度ジィグンのいいところに当たってしまったようで、一際強く締めつけられてあやうく出してしまいそうになった。
どうにか耐えて、ジィグンの頭を掴んで後ろに引っ張る。晒された喉に汗が伝うのを見て、それを舐めとった。
「んっ」
顔を起こすと、目尻に涙を溜めたジィグンと目が合う。熱に浮かされているように、夢を見ているかのように、とろんとしている。その表情は快楽に溺れているようだった。
いつもこんな顔で、ハヤテに犯されていたのだろうか。
いつもよりも触れあう場所が多く、布越しでも彼の熱を感じる。僅かに肌同士が触れる場所は湿しっとり吸いつき、体温が溶け合いどこまでが自分の身体かわからない。
これまでにないほど強く、ジィグンという名の男を感じた。これまで何度も穿ってきた身体だというのに、でも今回はいつもと違うもののように思える。だが、それがどうしてかはわからない。
ハヤテが戸惑いじっとジィグンを見つめていると、不意に彼の目から涙がこぼれた。
「……なに、泣いて――」
初めて見せたジィグンのそれに、ハヤテは酷く狼狽える。はじめての行為を強引に行っても、どんなに手荒く扱っても、一度たりとも見せたことのなかった涙。なのに何故今になって見せると言うのか。
好き勝手しているだろう。あんなによがっていて、痛みだってなかったはずだ。それなのにどうして。
なにも考えてないのに、なにかを伝えようとハヤテが口を開くと、ジィグンの手が伸びてハヤテを抱きしめた。
胸が重なり合って、首にジィグンの顔がすりつく。
「おい――」
引き剥がそうとすると、首筋に吸い付かれ、ちりっとした痛みが走る。
腰が再び動きだし、ハヤテは敷布を強く握りしめた。
「ん、ふっ……ふ……ッ」
耳元に直接、快楽に染まる声が流れ込む。熱すぎる吐息が耳殻にかかった。
高まっていく射精感に、思わずハヤテは制止を求める。
「おい、止まれ……っ」
「出る、のかっ……? なら出せ、よ……ッあ」
「ふざけんな退けっ」
抱きつくジィグンを引きはがそうとするが、抵抗される。それどころかハヤテの限界を悟り、ますます腰が激しく動いた。
絞り出そうとするように、ねっとりと襞が絡みつく。
耳元にうるさいほど聞こえる荒いジィグンの吐息に、甘く響く嬌声に。ついに耐え切れず、ハヤテはジィグンの中に欲望を吐き出した。
「くっ――」
「う、あ……っ」
放埓の感覚にジィグンは動きを止めるも、身体のなかは最後の一滴まで絞りつくそうと収縮を繰り返す。
すべてを注ぎきったハヤテは、舌打ちをして未だ身体を震わせているジィグンの頭を掴んだ。頭皮を引っ張り無理矢理引き剥がす。
全身の力を使ってジィグンを載せたまま身体を反転させて、今度はハヤテが上をとった。
汗でじっとり濡れた上の服を脱ぎ捨てて、射抜くように強くジィグンを睨みつけた。
「これで終わりと思うなよ」
「ハヤテ……」
まだ熱に浮かされているような、どこか遠くを見る表情。それが何故だか苦しくて、切なくて、わけがわかなくなってハヤテは端に追いやられていた枕を掴んだ。
「――そんな顔で見るんじゃねえっ」
枕を押しつけ、力なく投げ出された両足を抱える。
今度はハヤテの好きなように、乱暴に小さな身体を穿った。
ハヤテを挑発したジィグンは、ひどく責めたてられるうちに気を失ってしまったが、気が高ぶっていたハヤテはそれでも欲望の赴くまま抱き続けた。そして、疲れきり、気がつけば自分も意識を失うよう、ジィグンに挿入したまま眠りについてしまった。
ふと部屋の外の騒々しい音に目が覚める。無意識に隣に手を伸ばすも、すでにジィグンは姿を消していた。
先に起きて帰ったのだろうと、そう気にもしないまま欠伸をしながら起き上がる。そのとき、違和感を憶えた。
なにかがおかしい。あるはずのものが、ない気がする――そう思って違和感のもとを探そうと部屋を見渡すが、どれもぴんとくるものはない。
気のせいだったことにして、のろのろと服を着だしたところで、不意にじんと心血の契約の証がある首裏が熱くなる。
――呼んでいる。フロゥが、激情しながら自分の名を叫んでいる。
直感を肯定するよう、頭の中に幼い主の声が響いた。
『ハヤテ、ハヤテ来て! アロゥさまが――!』
それはあまりに悲痛で、ハヤテは声に導かれるようその身をあるじのもとに転送させた。