窓の外では雨が降り続いている。
ぱたぱたとガラスを打つ雨粒を見つめながら、カフェオレを一口含む。
二粒入れた砂糖の甘さと温かさが、冷えた身体に染み込むようだ。
雲行きは確かに怪しかったが、雨の予報はなかったし、きっとすぐ止む通り雨であってほしい。
これがまさにバケツをひっくり返すような激しさだったらよかった。それならゲリラ豪雨に違いないと、雨宿りに飛び込んだこのカフェで一時の休息を楽しむくらいの気持ちになれただろうに。
激しいわけでもなく、かといって傘をささずにはいられない雨脚はどうにも予測が立てづらい。
入り口のドアベルがカランコロンと軽やかに鳴った。
「いやー、降ってきたね」
「ああ、いらっしゃい。いつもの席空いているよ」
「ありがとうございます。そんでもっていつものやつでお願いします」
肩の雨粒をハンカチで押さえながら、1人の男が向かいのテーブル席に座る。
スーツ姿の男もまた、私と同じように雨宿りなのだろうか。何度も来ているのは店主との気やすい様子でわかるので、たまたまの休憩なのかも。
ふと、既視感を覚えた。
――なんだろう。何かが頭をかすめたが、思い出せない。
ピンと筋通った背筋と、スーツの上からも分かる均等の取れた身体。広い背中を眺めていると、視線の先の男が窓の外を見た。
その横顔に、じわりとにじみ出ていた記憶が一気によみがえる。
「はい、お待ちどうさま。いつものカフェオレでございます」
「ありがとうございます!」
「お砂糖も入れておいたからね」
ブラックしか飲まなかった私に、砂糖二粒とミルクたっぷりの優しい味を教えた男。
カップを取る無骨な手が驚くほど優しく触れてくることも忘れてはいない。
でもカフェオレのように、後味のほろ苦さも残していった彼が、確かにそこにいた。
――どうしよう。
声を掛けるか、否か。
でもなんて言えばいい?
久しぶり? 奇遇だな? 元気にしてたか?
――それとも、よくも私から逃げ出してとでも言ってやるか?
もしも見つけたら、たっぷり嫌味を言ってやろうと思ったのに。
ぬるくなったカフェオレを飲むと、穏やかなあの日々を思い出して険が抜けていく。でもやっぱり最後に来るのは、捨てられたと思って一人泣いたあの夜のこと。
それが私を思って身を引いたのだと知ったのは、ずいぶん後になってからだった。
彼はまだ気づかず、窓の外の雨を見つめている。
いつしか心臓が、ぱたぱたと窓に打ちつける雨音と呼応してゆく。
もし、このカフェオレを飲み切るまでに、雨が止んでいなかったら。
傘がない私は、もう少しこの店にいさせてもらう必要がある。それならもう一杯くらい注文してもいいだろう。
そのとき、まだ彼も店にいるのなら。雨に足止めされているのなら――
雨はまだ止む気配はなさそうだ。でも手元のカップは、残すところ半分もない。
しばし淡いベージュ色の液体を眺め、そしてぐっと手に力を込めて一気に飲み干した。