「ごめんね、おれ、とろくて。すぐにいつも、反応できなくて」
伝えたいことはいつでもあった。それなのに言葉は形にならず、いつも胸の中でばかり、たくさん語りかけていた。
でもそれじゃだめだ。なんであいつが離れようとしてるかまだ分かってないけど、でもきっと俺がなにかやらかしてしまったんだろう。
いつもそうで、友達ができなかった。気づけばいつも一人きり。
「おまえがいつも色々してくれてたのに、受け取るばかりで、何も返せなくて……。そんなんじゃ呆れられてもしかたないよな」
これまでは仕方ないって諦めてた。どうせ俺といてもつまんないだろって。
「先輩……あの……」
でもこいつのことは諦めたくない。
「い、今更、だけど……もう、そっちに気持ちはないかもだけど。今度は俺が、頑張るから。おまえが頑張ってくれた分、次は俺が追いかけるから。だ、だからその……これまでみたいにお昼一緒に食べたいとか、わがまま言わないから。少しでいいから、会いに行ってもいい?」
もう遅いかな。
今さらだって、捨てられそうになって言い出すなんて調子よすぎって思われるかな。
でも、そばにいさせてくれるならそれでもいい。
瞬きに、ついにぽろりと涙がこぼれる。
それを見たあいつは陸に上がった魚のようにパクパクと口を開閉させると、
「すみませんでした!」
勢いよくその場に土下座した。
「え……なんでおまえが謝るの。おれがわるいのに」
「先輩は悪くない、俺のバカな勘違いでした!」
「勘違い?」
「だから、これまで通りさせてください! ご飯だって一緒に食べたいし! 帰りだっていつだって一緒にいたいし!」
がばりと上がった額には、額をこすりつけていたのか少し赤くなっている。
人の言葉の裏を読むことが苦手な俺だけど、嘘や誤魔化しを言っているようには思えない。
「そんで、できることならやっぱり恋人として付き合ってほしいです!」
やっぱりとろくて理解が遅れていると、もう一度あいつが頭を下げる。
「お願いします! 俺、先輩のこと大好きです!」
「……ぅ」
「お願いします! いいよって言って!」
勢いに若干押されつつ、俺は小さく頷く。けれど頭を下げている相手には見えないことを思い出して、吐息を漏らすような小さな声を震わせながら答えた。
「い、いいよ。むしろ俺からもお願いしたい。だから顔を上げてくれ」
素直に顔を上げてくれたあいつの額についた埃を払ってやりながら言った。
「おまえのこと好きなんだ……言うの遅くなって、ごめんな?」
「そんなことないっ! 待ってたけど、でもそんなのいい。先輩が俺のこと好きになってくれたんなら、それで」
ようやく肩の力が抜けて、崩れ落ちそうになったところ支えてもらった。
寄り添い合うよう肩をくっつけて座り直して、あいつの勘違いの内容を聞く。
それは確かにバカな勘違いだったと、二人で手をつなぎながら笑い合った。
【おまけ】後輩視点
「ハルタくんには、ごめんなさいの気持ちも込めて何か贈りたいです……」
「気にしなくていいのに。俺の説明不足でもあったし」
「まあ、それもそうなんだけど……俺たちのキューピット的な存在でもあるし」
「ぁ、う……その、ハルタはプリンが好きだよ」
「じゃあプリンで! さっそく今週挨拶しに行ってもいい?」
「うん、いいよ。ハルタのお父さんが大きい人だから、おまえみたいに大きい人が好きなんだ。遊んでやって」
「もちろん! あと……」
「ん?」
「それとは別に、二人きりで先輩の部屋にも入らせて」
「いいよ。何もないけど」
「………」
「な、なに」
「好きな人の部屋に入って、好きな人と密室で二人きりってこと、意識しといてください。俺、すごーく、楽しみにしておくんで」
「…………ん」
「よっしゃ! 今週の休みってか、しばらくは泣いて過ごすつもりだったけど、めっちゃやる気出てきた! ハルタくんとは遊び倒して早く寝てもらう!」
結局思ったよりハルタに体力があって、部屋から出てってもらうわけにもいかず、かといってじっくり堪能もできず、二人っきりになれるわけもなく……ただおいしく夕飯も御馳走になり、名残惜しくもそのまま帰ることになった。
でも、玄関先でちょっとだけ手を繋げたので。先輩は分かりづらくも照れていて、すごくかわいくて。
すぐにでも襲いかかりたい気持ちをぐっとこらえて、泣きぼくろにキスをする。
表情よりよほど雄弁に、耳まで真っ赤になった顔に今は十分満足した。