◇日常~おこぼれ話~◇

今回は真司たちのお話ではなく、『日常after』にて登場しましたバスケ部長視点(メイン)のお話になります!
※真司と岳里は登場してます。
以上を踏まえた上で菜月さまの世界をお楽しみください



◇日常~おこぼれ話~◇

今月初めにあった練習試合は色々な意味で濃かった。
今回の試合相手は、顧問同士の付き合いがあるせいか、何代も前から親しくしている比較的馴染みがあるチームだった。
試合当日。
まず、何時もよりギャラリーの数が多かった。
多分それは、うちの学校からは岳里が出るからというのが大きな理由で後一つ。
…相手の学校が人気のある某私学の男子校だからじゃないかと思っている。その中でもバスケ部には妙に、顔の良い奴が揃ってるから。
うちのメンバーで対抗出来んのは、副部長や一年含めた数人じゃないだろうか。
因みに岳里は正式な部員じゃないから除外してみた。
まあ試合は、顔でするもんじゃ無いけれど。
2つ目は野崎の弁当。
色々な意味で凄かった、らしい。
弁当箱じゃなくて重箱。
中身もマネージャー曰わく『冷凍食品が一品も無い』凝った中身だった上に量が半端じゃなかった、らしい。
残念ながら俺は、相手チームの部長と話をしていたから見れなかったんだけど。
興奮した様子のマネージャーから見せられた写メは確かに凄かった。序でに岳里の食べっぷりも凄かったらしい。
…豪華な弁当を作った野崎も凄いけど、弁当を隅々まで写メで撮れるマネージャーの度胸も凄いんじゃないかと密かに思っている。
因みにバスケ部の練習試合は、岳里の活躍がいつも以上だったのと、そんな岳里に引っ張られたのかチームメンバーの個々の活躍も重なり無事勝利した。
相手高のバスケ部長からは、岳里出すのは反則だと半分笑いながらの抗議をされてしまった。

 

そんな試合から数日経ったある日のこと。
いつものように部活を終えた後、不意に呼ばれた気がした。
拾ったボールを戻してから声のした方を見ると、野崎が体育館の入り口で片手を上げている。
その隣には長身の岳里が当たり前のように立っていた。
試合のあった日から何となく気付いたけれど、岳里は野崎と居ると雰囲気が柔らかい。
それと。2人の間の空気が…何ていうのか…2人でいるのか自然な感じのものになっている。
そう気付いてから、助っ人を頼んだときのマネージャーが言っていた事が分かったような、気がする。
そして。試合の日からもう一つ、気が付いたことがあった。

「今、大丈夫か?」
「ああ、さっき終わったとこだから」

言いながら振り返ると、既に一年も片付けを終えたのか館内に姿は見えなかった。
ほっとしたような野崎は鞄から長方形の割と大きな包みを取り出し、差し出してくる。

「これ土産。食べ物の方が良いかと思ってさ」
「…土産?」

聞き返しながら、野崎と岳里を見る。すると岳里の制服のポケットから細長い何かが飛び出していた。
…ストラップ?

「この前の休みに鼠の国に行った土産。大したモンじゃないけど皆で食べて」

助っ人を頼んだ時の報酬に渡したチケットは、無事に活用されたらしい。

「わざわざ有り難う。何だか悪いな」
「や、良いって。てか、土産もさ種類多くて凄い迷ったんだ」

笑いながら話す野崎からは、楽しんだことが窺えて頬が緩んだ。
流れから鼠の国での話を聞いていると、唐突に聞き慣れない着信音が響いた。
慌てた様子でズボンのポケットから取り出した野崎の携帯にも細長いストラップが付いていた。
そのまま俺と岳里に、『悪い』とでも言うように顔近くまで上げた手で謝る仕草をした野崎は、体育館の外に出て行った。
…つい、岳里の方を見る。
通話と解っているからか、岳里は野崎を追わずに俺の前に立ったまま。暫く沈黙が流れた。
暫くの間の後、俺の目線に反応するように岳里が緩やかに此方をみた。
そんな岳里の胸元には、確認するまでもなく、野崎と揃いのストラップが付けられている。
ごくシンプルな物だけど野崎と揃いで持っている事実が、何というか微笑ましい。

「鼠の国。面白かった?」
「…悪くはなかった」

ふっと一瞬だけ口元が緩んだ。
すると、少し離れた場所から甲高い悲鳴のような声が聞こえてきた。相変わらず、岳里は注目されているようだった。

 

通話を終えた野崎が、慌てた様子で別れを告げ、岳里と共に去るのを見届ける。
そうしてから部室へ入ろうとすると、扉近くに副部長が立っていた。
予想外のことで思わず心臓が跳ねた。
既に制服に着替えているけど、何かを言いかけた副部長の視線が俺の顔から手元の土産に移っていく。

「どうしたんだ、それ」

尤もな問いに野崎達から貰ったのだと簡単に言って部室へ入る。
既に中は誰も居ない。
無理もない話だ。
今日は金曜日。この週末は体育館の都合で部活も休みになってる。
手早く着替えようとズボンを履き、シャツを羽織った所で副部長が入ってきた。
ああ、そうか。今日は奴が鍵当番なんだっけ、と唐突に思い出す。

「鍵なら俺が預かるから先にー…」

言いながら振り返ろうとした時だった。シャツの袖を通しただけの手首をいきなり掴まれた。

「あいつと何話してた?」

少し低い声。
鋭いような声を発したのが副部長なのだと俄かに信じられず、思わず目を見開く。

「あいつ?」
「岳里。あいつもお前も笑ってただろ」

言葉と一緒に掴まれた手首に力が籠もる。
どうやらさっき、岳里と居た所を見られていたらしい。
試合の後から気付いた視線。それはこの副部長のものだった。
あの試合の日。
相手チーム部長との打ち合わせの時やマネージャーと話している時。
所々で感じた強い眼差し。
普段は常に笑顔で居るのにその視線に気付いた俺が見返した時だけは、笑顔では無かった。
無表情に近い眼にぎょっとしては逸らされる事が何度かあった。

「鼠の国。楽しかったらしいよ」
「…は?」

力が緩んだ隙に手首を解放させシャツのボタンを留めていく。

「岳里。野崎と行ったらしいけどストラップお揃いだったんだ」

着替えを済ませて振り返るとまた、無表情に近い副部長が居た。
……俺は土産を一旦自分のロッカーに突っ込んで荷物を持つ。

「まだ残んのか?」

どうして良いか分からない俺は、気付かない振りをしたまま問い掛ける。
まだ視線だけだし理由も分からない。
踏み込む勇気は無かった。

「いや。俺も帰る」

小さな溜め息の後に副部長の返答がして扉の開く音へ続いた。
それへ続くように俺も部室外へと足を踏み出した。

end

頂きもの

 



部長、副部長それぞれのお名前をご紹介させていただきます

部長:高遠 和樹くん
副部長:藤里 伊織くん

副部長さんの事は和樹くんより仲良くなるのが大変そうなので、親しみを込めていおりんと呼ばせていただいております(笑)

菜月さん、ありがとうございました!