灰さま

『きみのこころ』の同人誌を作るにあたって、校正をお手伝いしてくださった灰さまへのお礼の作品になります。

リクエスト内容は、『月下の誓い』か『山神さまと花婿どの』のどれかで、日常のとある一場面とのことでしたので、今回は『月下の誓い』で本編完結その後の旅の最中の温泉話を書かせていただきました。


 

【のぼせに注意!】

 森の中を歩いていると、ふとキィが顔を横に向ける。

「キィ?」

 同じく足を止めたシャオは、長躯を見上げ服の裾を引く。それに一度振り返ると、何故か目尻をやや和らげ、それから脇で同じように不思議そうな顔をするミミルの脇を飛ぶ妖精を見た。

「えっ本当!?」

 リューナは心でキヴィルナズに語りかけられたのだろう。恐らくその内容を聞いて、驚きと喜びが混じった弾んだ声を上げた。

「まあまあ、それならぜひ行きましょう。ああ、久しぶりね。今までの疲れもきっと吹っ飛ぶわ!」

 余程いい知らせだったのか、頬を赤らめ両腕を振り上げながらリューナは天高く舞い上がる。一度姿を見失った直後に戻ってきて、キヴィルナズの肩に腰かけた。

「さあ、そうと決まれば早く行きましょう。シャオ、ミィ。キィの後についてきて」

 破顔したリューナは先程キヴィルナズが顔を向けた方を指差す。キヴィルナズも心なしか足取り軽く歩みはじめ、シャオとミミルは互いに顔を見合わせ首を傾げあった。

 

 

 

 しばらく進むと、嗅ぎ慣れない匂いが鼻先をかすめる。踏み込むごとに匂いは強くなり、やがて開けた場所に出て、シャオは目を見開いた。
 そこには濁った色をした池があった。だがただの池ではないことが、水面から立ち上がる湯気でわかる。肌にももわんとした湿りある空気が触れて、その池は水でなくお湯が溜まったものだと一拍遅れて理解した。
 お湯でできた池など見たことがない。
 奇怪なものにミミルと一緒になって目を瞬かせていると、キヴィルナズの肩にいたリューナはその池のほとりまで飛び、躊躇いもなく指先を水面につけた。

「ああ、ほんの少し熱いけれどいい温度ね。これなら調節せず入れそうだわ」
「は、入るの……?」

 ようやくリューナの背に声をかければ、振り返った満面の笑みは頷いた。

「ええ。これは温泉と言ってね、まあ温かい水浴び場とでも思えばいいわ。ほら、いつも身体を拭いたり川に入ったりして身を清めていたでしょう? 今回はこの中に全身を浸からせるの。気持ちいいわよー、あったかいし、疲れもとれるし。身体が解れていくのがようくわかるの!」

 いつも以上に饒舌に言い切ると、リューナは未だ戸惑う二人に手招きをする。
 自分と同じように池の淵にしゃがませ、湯気の立つそこに手を入れるよう言ってきた。
 後ろからついてきたキヴィルナズはシャオのとなりで身を屈めると、躊躇っているミミルたちより先に手をそこに差し入れ、ゆっくりとかき混ぜる。濁る水面が小さく波打つ。
 シャオは、勇気を出してそろりと指先を浸からせた。
 じんと、やや熱いと思えるほどの温もりに包まれる。本当に沢山のお湯が溜まって出来ているらしい。
 これほどまでの大量のお湯をシャオは見たことがなかった。水を沸かし湯にしたことはあるが、せいぜい鍋一杯程度であり、ここでは泳いだってゆとりがある。とはいえシャオは泳げないためやりたいとは思えないが。

「さあ、早速入りましょう。折角だしみんなでね。あ、わたしもいるわけだから、一応腰には何か巻いてね?」

 つまりここで服を脱げ、ということだ。
 シャオは眉を垂らして情けない表情をリューナに見せる。

「ほ、本当に、ここに入るの……?」
「ええ勿論よ。大丈夫、よく森の動物たちも入っているって精霊たちも言っているわ。無害だから安心して」
「どうぶつも!?」
「ええ。今日はいないみたいだけれど、寒い日にはみんなで浸かるんですって」

 どうやらキヴィルナズとリューナたちは、彼らだけに姿が見えている精霊たちに導かれこの温泉にたどり着いたようだ。
 これまでの不安げな様子を一変させ、ミミルは背負っていた鞄を放り出すとその場で脱ぎだした。けれど頭がつかえてしまったようで手をばたつかせている。騒がしいその様子にようやく顔を綻ばしたシャオは、自分も荷物を下して服を脱ぐのを手伝ってやった。その間にリューナもキヴィルナズも別の木陰に行き、ミミルが全裸になったころには、衣類を脱いで身体に長い手巾を纏わしてそれぞれ戻ってきた。
 キヴィルナズがまず先に温泉に足をつけその深さを確かめる。底は十分足の届く深さだったらしく、両足で立ち上がるキヴィルナズの膝をのみこむほどの嵩だ。その周囲を歩き安全を確かめてから、地面の上で待っていたミミルを抱え上げた。
 シャオが見守る中、キヴィルナズはゆっくりと腰を下ろしていく。ミミルの足も湯に浸され、少しばかり表情が硬くなる。

「う、はぁ……へんなのっ」

 湯を蹴ったミミルに笑み、キヴィルナズは底に座り込み、膝の上にミミルを乗せる。
 ミミルは肩まで浸かると、一度目を閉じ深く息を吐いた。

「あったかーい……」

 健康的に色づく頬がさらに朱に染まり、ミミルは心地よさげな表情になった。キヴィルナズも完全に淵の方へ背を預け一息をつく。リューナも彼らの前に小さなその身体を肩ほどまで沈めて、大きく背伸びをした。

「ああっ、やっぱり温泉はいいわ! 気持ちいいーっ! さあ、シャオも早く一緒に入りましょう」
「シャオ! ほんとうにあったかいよ! なんかね、ほわあってなる!」
「うん、今行く。ちょっと、待ってて」

 手を振り上げ呼ぶ二人に軽く手を振り、シャオも誰の視線も感じない木陰に入り、そこで服を脱ぐ。下半身を布で覆ってから、そろりと温泉の方に目を向けてみた。
 先にシャオの視線に気づいたのはキヴィルナズだ。浅く頷くと、ミミルがシャオの方を見ないようにと広い背で隠してくれる。それに気づいたリューナもミミルの意識を自分の方へむけさせてくれた。
 二人に心の中で感謝をしながら、足音を立てないよう注意しながら小走りで温泉の傍に寄ってしゃがみ込む。
 ミミルが見ていないうちに、そろりとつま先を入れて見た。
 手で感じていた時のように、やや熱い温度。あまりゆっくり入っていてはミミルに気づかれ振り向かれてしまうと、意を決して身体を滑らすよう温泉の中に入った。

「あっ、シャオもきた! ね、ほわあってなるでしょ!」
「う、うん。なんか……うわぁ、不思議な感じだね」

 キヴィルナズのとなりに座り込み、シャオは濁った湯の中で膝を抱え座り込んだ。キヴィルナズと違って小柄なシャオはぴんと背を伸ばしていなければ口元まで浸かってしまうが、肩までしっかりと隠れてしまうのは都合がいいと安堵する。これならば傷痕だらけの身体をミミルに見られる心配はない。
 勢いよく入ったからか、太腿の裏や背中やら、少しだけ肌が痒い気がする。だが肩まですっぽりとお湯に包まれると言うのは心地がよく、気づけばシャオもふう、と息をついていた。
 キヴィルナズが顔にお湯をかけているのを見て、シャオもミミルも真似をする。手組んでをぐっと前に伸ばしてみれば、身体が解れていくのがわかった。
 リューナがしているように身体を揉んでみる。これまでの旅の疲れが蓄積されているせいで張っていたふくらはぎも、お湯のおかげか心なしか柔らかくなったように感じた。
 川に入って身を清めた時とは違い、身体が冷えて凍えることはない。それどころかいつまでも浸かってまったりとしていたいとさえ思いはじめる。
 つい顔が緩んでしまいそうだった。
 身体の芯まで温まってきているのか、じんわりと汗が滲み始める。だが不快ではなく、顔に湯を当ててみればすっきりする。
 ミミルは始めは水面を叩いたりして遊んでいたが、やがて小さく唸り始めた。

「ミィ……?」
「うーっ、あつい……ミィ、もう出る」

 キヴィルナズの足の上にいるミミルの顔を覗き込んでみれば、ほっぺが真っ赤に熟れていた。
 ただでさえ体温の高いミミルには、どうやら温度がやや熱かったようだ。

「あら、そんなこと言わずにもうちょっと入ってましょうよ」
「えぇー、もういいよ」
「なら最後に百まで数えましょう? ほら、この前一緒にお勉強したでしょう。終わったら上がっていいから」

 渋るミミルを宥めるリューナは、唇を尖らす少年の意見を聞き入れる前にいちから数え始める。仕方ないといった表情で、ミミルも後に続いた。
 シャオも数の復習だと、さらに声を重ねた。

「よんじゅうなな、よんじゅうはち――」

 もう直半分を数え終えようとしたところで、これまで大人しくしていたミミルだが、ついに耐えきれなくなったようだ。
 ばしゃんと音を立て、これまで身体を預けていたキヴィルナズの上に立ちあがる。

「もうやだ! ゆでだこみたいにまっかっかになっちゃう!」

 この前寄った漁村で振る舞われたた茹でられたそれの色を思い出したのだろう。シャオはぐねぐね動くそれに怯え調理されたあとも食べることができなかったが、ミミルは美味しそうに食べていた。
 キヴィルナズが捕まえるよりも早く身軽に温泉から抜け出ると、そのまま木々の方へ駆けていってしまった。

「あっ、こら待ちなさい! いくらなんでもそのままじゃ風邪ひくわ! こらーっ、ミィ!」

 あっという間に小さくなっていく全裸姿の少年に、慌ててリューナが湯から飛び出すと、身体に巻いた布を押さえながら大急ぎで後を追う。シャオも後に続こうと身体を起こしたところで、キヴィルナズに腕を掴まれた。
 顔を向ければ、赤い瞳がじっとシャオを見つめていた。

「ミィ、追いかけなくちゃ」

 キヴィルナズは首を振る。

「追いかけなくていいの? リューナに任せておけばいいの?」

 今度は頷かれるも、そういうわけにはいかないだろうと二人が消えた方に再度目を向ける。ミミルとリューナでは体格に大きな差がある。普段は口でうまくリューナがミミルを操っているが、本気でミミルが抵抗すれば何もできない。
 ミミルは服を着ないまま、濡れた身体で走っていってしまった。ならばせめて身体を拭くものと着るものを持って追いかけた方がいいだろう。でなければリューナが危惧した通り、本当に風邪を引いてしまう。
 次の人の住む集落にたどり着くまでに丸二日はかかるという。ここで体調を崩してしまえば満足に身体を休めてやることはできない。
 不安ばかりが積み重なり、止められてもなお向おうとするシャオの掌にキヴィルナズはゆっくりと文字を書き込んでいく。

「――あ、そうなんだ。精霊さんたちがついてくれてるんだ。なら大丈夫だね」

 どうやら凡人には見えない協力者が、彼らの後を追っているらしい。しかも濡れた身体が凍えぬよう温かな風を吹かしてミミルを保護しているとまで教えられ、ようやくキヴィルナズの落ち着いた態度に納得がいった。
 それならばと再び温泉を堪能しようと膝を折ろうとしたシャオだが、腰をキヴィルナズの両手で掴まれる。ひょいと軽々と持ち上げられ、そのまま先程までミミルが収まっていた場所に今度はシャオが腰を下ろした。しかも、背後から抱えられていたミミルと違ってキヴィルナズと向き合うように、だ。

「あっ、あの、こ、これは……っ」

 キヴィルナズの上に乗せられているせいで、これまで肩までどっぷりつかっていた身体は胸辺りまで露出する。自然と上からキヴィルナズを見下ろす形となり、見上げてくるキヴィルナズの瞳にシャオは大いに狼狽えた。
 お湯に浸かっているせいか、いつも白い肌をするキヴィルナズの頬も今は薄ら色づいている。首筋に張り付く白の長髪に、濡れる肌。そして、真っ直ぐ己を見つめるまなざしに、湯の下で重なる身体。
 下りようにも腰を掴まれたままで、思うように動けない。

「あ、あの、キィ……は、はな、して、ほ、ほしい」

 ついどもってしまったが、はっきりと口を動かしキヴィルナズに思いを伝える。けれど応えは返ってこないまま、持ち上がった右手がすうっとシャオの左腕を撫でた。

「っ」

 指先はあちこちの肌を滑っていく。だがそれが何を成しているのかこれまでの経験上知るシャオは、歯を噛みしめそれを受け入れた。
 わざわざ己の身体を見下ろさずともわかる。キヴィルナズは、シャオの身体に数多に残る傷跡に触れているのだ。時折彼は、傷のひとつひとつを撫でまるで慈しむように触れる。そのときの瞳に灯る色があまりにも優しくて、切なげで、だからシャオは恥ずかしくとも止めてとは言えないのだ。
 くすぐったいし、わざわざ見せたいものでもないし、何より身体も肉がなく貧相だ。日中である今の周囲は明るく、よく見えていることだろう。羞恥から逃げ出したい、とは思うが、キヴィルナズが内心で抱えている何かを拒絶したくなく、だから耐える。
 だがその手がだんだん下の方に伸び出したころには、流石にもう無理だとシャオはキヴィルナズの手を押しのけ勢いよく立ち上がった。

「おっおれ、もう、あ、あが……っわ!」

 が、底の地面に足を取られ、中腰の姿勢からキヴィルナズの胸に倒れ込んでしまった。
 お湯のおかげで僅かながらに衝撃は軽くなったが、それでも思い切りぶつかってしまう。

「ご、ごめんなさい!」

 慌ててキヴィルナズの肩に手を置き身体を起こしたシャオは、けれども腰に再度回された手に小さな悲鳴を上げる。
 半ば強引に引き寄せられ、また身体が重なる。水中で舞う長い髪が腕を撫でた。同じ温度に染まった胸が触れ、見えぬ場所では足が絡み、布で隠していただけのものを押し付けてしまって、シャオはもう言葉を発する余裕すら奪われる。
 ついには涙目になってしまった目を見つめられながら、顎を取られる。そして、赤い瞳が次第に近づいてきて。抵抗など、もはやできなくて。心臓がばくばく痛いくらい鼓動して。

「キ、ィ、もうっ――」

 シャオがぎゅうっと目を瞑ったとき、森の奥からミミルたちが帰ってきた。

「さあ、走り回って少しは涼んだでしょう。汚れたんだから、もうちょっとだけ温泉に入るわよ」
「はーい」
「もう熱いからって飛び出しちゃだめだからね? 本当に我慢できなくなったら、出て待つこと……あら、シャオ?」

 リューナがようやく広い背に隠れたシャオに気が付くと、そこには顔を真っ赤にしてくったりとキヴィルナズの胸にもたれかかっていた。そしてそれを支える男が珍しく動揺しているではないか。

「……まったく。人がミィを追っかけている間にシャオに何してくれているのよ」
「シャオどうしたの? 苦しいの?」

 呆れた眼と、そして純心にシャオを心配するミミルの顔に、キヴィルナズは気まずげにしながらすっかりのぼせてしまったシャオを抱えて立ち上がった。

 

 

 

 ふと目を開けると、ひどく頬が熱く感じだ。身体が気怠く、思考がぼんやりとする。額にのる冷たい何かと脇からそよぐ風が心地よく、再び目を閉じようとしたところではっと気が付いた。

「あ、おれ……」

 思わず起き上がろうとすると、ぬっと伸びてきた手が肩を押さえてそれを阻止する。顔を向ければ、申し訳なさそうな顔をしたキヴィルナズがいた。動いた時に落ちた湿った布を再び額に置いて扇で煽いでくれる。その時どうやら上にかけられていたらしい薄い布も肩まで引きずり上げる。その下は全裸のままで、温泉からそのまま運ばれたことを悟った。

「あの、なんだか気を失っちゃったみたいで、その、ごめん、ね」

 キヴィルナズは首を振り、煽ぐのをとめてシャオの手を取る。そこで現状の説明をしてくれた。
 どうやらシャオは慣れない温泉であったにも関わらず、キヴィルナズに血が上るようなことをされ、のぼせてしまったようだ。責任は調子に乗った自分にあると謝られてしまう。
 リューナとミミルは今果実を採りに行ってくれているのだということも教えてくれた。

「謝らないで。おれはもう、大丈夫。長湯は危ないんだね。次からのぼせないよう気を付けるよ」

 垂れた眉をそのままに、情けない表情のままキヴィルナズは頷く。
 キヴィルナズは右手を持ち上げ、軽くかき混ぜるように指先を振るう。するとそこに氷が現れ、それをシャオの口へと運んだ。
 意図を悟り口を開くと、つるりと小振りな丸い氷が滑り落ちてきた。
 火照った身に冷たいそれは心地がよく、さらには水分も摂れ、ついうっとりと目尻を下げる。
 舐めていただけだったが、いつもよりも熱を持つ口内で氷はあっという間に解けてしまった。
 無意識に残念がる顔をしていたらしいシャオの口元に、先程と同じ大きさの氷が再び押し当てられる。

「ありがとう、キィ」

 素直に口を開くと、今度はキヴィルナズの二本の指ごと中に入ってきた。驚きにかたまっているうちに、舌も一緒にゆっくりとかき混ぜられる。

「ふ、ぅ……」

 氷が徐々に溶けていき、うまく飲み込めずにいる唾液と混ざりとろけた液体が口に溜まっていく。ついには口の端から少しばかり零してしまった。
 時折上顎を擦られたり、舌を指で挟まれたり。シャオの身体はまた熱くなっていく。氷などすっかり溶けた頃に、ようやく濡れた指が引き抜かれた。
 どうにか溜まった水を飲み込み、のぼせた影響も残る潤んだ瞳をキヴィルナズに向ける。濡れる唇をちろりと舌先で舐めると、目の前の男の喉がごくりと鳴った。だがそれにシャオは気付いてはいない。
 覆い被されてもなお鈍った思考は状況の理解を遅らせる。

「キィ……?」

 舌足らず気味に名を呼べば、そっと降りてくるキヴィルナズの顔。それは伸ばした舌先でちろりと口の端から垂れた雫を舐めとり、そして顎に手をかける。
 本能的にシャオが目を閉じたところで、ミミルの明るい声が割り入った。

「あれ、キィなにやってるの?」
「――っ!?」

 咄嗟に身体が持ち上がる。そうなれば上に覆い被さっていた、顔が間近にあったキヴィルナズとの衝突は免れない。幸いシャオの額に布があったため衝撃はほとんど吸収されたが、心臓はばくばく鳴り響く。

「あ、シャオ起きたの! よかったー。ね、これ食べて! リューナととってきたの!」
「起きたからって激しく動いちゃだめよ。ゆっくり休みましょうね」
「う、うん。ありがとう」

 ミミルからみずみずしい張りのある果実を受け取り、シャオはのぼせた影響ばかりではない頬をしながら微笑んだ。
 その一方でキヴィルナズは気まずげに顔を俯かせている。そこへ、きゃいきゃいとはしゃぐミミルと必死に笑顔の下で心を落ち着けようとするシャオから離れたリューナがやってくる。

「ねえ、キィ」

 妖精に名を呼ばれ、その声だけならば“聴く”ことのできる青年の肩はびくりと小さく跳ねる。

「夜、あの二人が寝たあとにでもゆーっくりお話させていただきましょうか? まさか看病中にまで手を出そうとするなんてねえ」

 笑顔だが、彼女が纏う真っ暗な気配に、キヴィルナズはただただ小さくなって頷いた。

 おしまい

 

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さあ書き終えたし更新だ! という段階になって気づいたのですが、これ日常というよりただの初めての温泉ではないか、と……。
しかも放浪の最中は日常を呼べぶべきか、と。

個人的にキヴィルナズのセクハラを楽しく書かせていただきましたが、これでは想像していたものとまるっきり違う、と思われても仕方ありません。
もしその時はご連絡くださると助かります。

こんな作品に仕上がりましたが、少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。

灰さま、この度は同人誌に掲載する番外編の校正を任されていただき、本当にありがとうございました。
誤字脱字だけでなく、自分一人では到底気づかなかったであろう部分を指摘していただきとても助かりました。
お礼としては拙いものですが、こちらの作品を捧げさせてください。

どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

2015/03/22