実家に帰らせていただきます

百万打御礼企画のアンケートで(できるだけ)ドエロ話


 

 夕食の準備の途中、味噌汁の大鍋をお玉でかき回していると背後に人の気配を感じ振り返る。
 視線の先には案の定岳里の姿があり、いつもの無表情でそこに立っていた。てっきりつまみ食いにやってきたのかと思ったけれど、その目はおれを見つめている。
 どうしたんだろうと声をかけようとした時、先に向こうの口が開いた。

「真司」
「ん?」
「しばらく実家に帰らせてもらう」
「…………は?」
「突然で悪いが今すぐ出ていくから家とりゅうのことは――」

 言葉は途中で途切れる。おれが、お玉を手にしたまま岳里へ詰め寄りその両肩を掴んだからだ。
 寸前まで熱々の鍋をかき回していたお玉には熱が残っていて、その身から湯気が立ち上る。でもそれが岳里の頬間近に迫っていることなど気にする余裕もなかった。

「お、おれ、何かしたか!?」

 荒げた声に、目の前の無表情が少しばかり眉根を寄せる。それを勘違いしさらに慌ててしまった。

「い、いやな、確かにこの前脱ぎ散らかしたことは注意したし、つまみ食いも怒ったけれどな、でもおまえがそんなにいやだったなんて知らなくてっ」
「おい、落ち着け」
「悪かった部分は治すから! だから出てかないでくれ!」
「おい、何か勘違いしてないか」
「おれが悪かったから!」
「おい」

 冷静な岳里の声なんて激しく動揺した耳には届かず。
事情を理解したのはそれからずいぶん経っての事だった。

 

 

 

「発情期?」

 落ち着きを取り戻し、とりあえず実家に帰るというのはおれに不満があったわけではないと何度も言われてようやく不安は取り除かれた。それから改めてされた詳しいいきさつに、出された言葉を復唱しながら首を傾げる。

「そうだ。心血の盟約を交わしている竜人や獣人の中で極稀にある現象だ」

 どうやらそれは子を成しやすくなるための期間らしく、その名の通りに発情してしまうらしい。
 とにかくやりたくて仕方なくなるらしく、今岳里はそれの真っ最中だという。相変わらずの無表情のまま教えてくれるやつにそんな気配は微塵も見えなく信じられないけれど、そんな嘘を吐くとも思えないから確証はないけど本当なんだろう。
 なんでも竜人、獣人だからといっても必ず起こるものではないらしく、発情期がくるのはごく一部であり、それが来ないまま終わる者の方が圧倒的に多いそうだ。
 岳里自身もまさか自分にくるとは思っていなかったらしく、発情期だと悟った時は驚いたとやはり微動もしない表情でそう語る。
 その発情期が終わるまであと三日かかるから、その間はディザイアの方へ戻って終わりを迎えるまで向こうで過ごすつもりらしい。それであの誤解を招くような言い方に繋がったというわけだ。

「でも、たった三日間で子どもはできないだろ?」

 話を聞いているうちに浮かんだ疑問を口にすれば、岳里はあっさりと頷いた。
 自分も体験したから知っているけれど、竜人も獣人も子を作るには宝種が不可欠になる。けれど宝種に命が宿るには三十日間がかかる。その間に身体を重ねる必要があるのは初めと最後の方で、子どもを作りやすくするというのなら少なくとも三日間だけじゃ足りないはずだ。

「本来ならば発情期も三十日間ある。今までどうにか耐えてきたが、もう限界でな。だから発情期が完全に終了するあと三日間だけ向こうに戻ろうと思う」
「え、そんな前から我慢してたのか?」

 てっきり少し前からかと思っていたら、ただおれが気づかなかっただけですでにこれまで分の欲を抑え込んでいたっていうのか。
 ――なんでも発情期間中には波があるらしく、三十日間の初めの方と終わりの方でより欲情する、らしい。最初はどうにか乗り越え、中間の発情期ではあれども少しだけ緩やかなそれも一人で沈黙を貫き耐え抜いていたようだ。
 これまでもいつもの無表情で過ごしていたし、特におかしいとは思わなかったし。でも言われてみれば、いつもよりは心なしか距離を空けられていたような気がする。けれどやっぱりそれも言われなければきっとそう思いもしないようなほどで。
 だから、おれはこの時思ったんだ。
 もしかしたら発情期というやつは、それほど強いものではないんじゃないかと。というよりもその真っ只中のはずの岳里は眉一つ動かさない姿で、それを見て大変なものだと気づける方がおかしい。
 だからこそ、こう言ってしまった。

「その……おれに手伝えること、あるか? 一応ほら、おまえのつがいってやつだし?」

 発情期というのは、子作りのためのものと言われれば、どういった手伝いをしなくちゃいけないのかくらいわかっている。それでもわかった上でそう申し出た。
 赤くなった頬は隠しきれず、岳里もどういった覚悟があっておれがそう言ったかわかっただろう。
 本当にいいんだな、後悔しても責任は取れないぞ、と念を押したが、俯きながらそれに頷き答える。
 それが間違いだとも知らずに、おれはただ岳里の盟約者として、番として。その責任を全うしようと健気にも受け入れてしまったんだ。それが、地獄の三日間の始まりだとも知らずに。

 

 

 

 里へ着くなり、夜だというのに突然押しかけたおれたちを十五さんと兄ちゃんは快く迎え入れてくれた。
 挨拶もそこそこにすぐに二人にりゅうを預け、岳里は発情期が来た、とだけ簡潔に告げる。でも十分に通じたらしく、その言葉に十五さんは珍しく驚いたように岳里を見た。どうやら十五さんの心の声を聞いたらしい兄ちゃんもぎょっとしたように同じく岳里へ目を向ける。
 二人の反応に疑問を抱いているうちに、岳里に手を取られ、一旦は竜体となって里から離れた。
 あらかじめこれから丸三日間山籠もりするとは言われていたけれど、いまいちそれがどういったものか説明されておらず、家を出てきたままの姿の上に荷物も特に持ってない。けれど岳里がいるんだから困ったことにはならないと思う。
 それよりも三日も兄ちゃんたちに預けたままになるりゅうを心配していると、そのうちにとある山の中腹ほどにできた巨大な洞穴へとおれを抱えた竜は入っていった。
 竜の巨体でも十分ゆとりがあるほどに穴は広く高さも十分ある。これまで何度も里の周囲を岳里に連れられ飛んだことがあったけれど、こんな場所があるなんて知らなかった。
 竜から降りて丸くくりぬかれたような壁を見渡していると、竜体から人の姿に戻った岳里が教えてくれる。

「ここは発情期を迎えた竜人のために作られた籠り部屋だ。里では周りに被害が出かねないからな。多少竜の姿で暴れても持ちこたえられるよう頑丈になっている」
「……あば、れる? もちこたえられる?」

 不穏な言葉に思わず聞き返すけれど、岳里は何故か目を逸らし、視線の先のものを顎で示す。促されるままそこへ目を向ければ、壁際に折り畳まれかなりの分厚さを持つ毛布と、一抱えはある木箱が置かれていた。
 岳里はつかつかとそれへ大股で歩み寄ると、まず毛布に手をかけそれをかたい地面の上に一気に広げる。その分厚さからも窺えた通り相当大きかったものらしく、成人男性が六人大の字になってもまだゆとりがありそうなほどだ。それなのに生地は厚く丈夫そうで、なおかつ柔らかな毛が立っていて。地面の上に直接乗せたそれに身を預けても下の硬さは一切伝わらないと思えるほどにしっかりとした作りをしている。
 広げられた毛布から少し離れた場所で立ちすくみそれを見下げていると、靴を脱ぎ捨てた岳里が木箱を抱え中心まで歩く。
 足を止めたところで、おれの名を呼んだ。

「発情期に何をするかわかっているな。本当に覚悟があるのならば来い」

 息を飲み、足を踏み出す。毛布の手前までいけばまた岳里が口を開いた。

「その上に乗ったら、おれの理性は消え去ると思え。三日間眠らせもしないぞ。今回ばかりはやめてと言われても止まらないし、何をするか自分でもわからない。正直、今の状況も苦しいぐらいだ」

 そんな言葉を淡々と告げてくる。限界というわりには落ち着いているように見えて。
 でも、いつのまにか本来の色に戻りぎらつくその瞳はありありと、今岳里が抱える熱を訴えている。いくらか荒い感情をはらむもの。
 いつものやつを相手する時でさえひいひいに泣かされて辛いけれど。本当は、そんな風に脅されて怖いけれど。
 靴を脱ぎ捨て、茶色の毛布で作られた領域に足を踏み入れる。その様子を静かに見守っている岳里に笑いかけた。

「がんばる」

 傍に寄り、背伸びして自分から唇を重ねた。
 頑張る。本心だった。その決意も示してキスしたわけだけれど。
 唇に触れた瞬間に頭の後ろに手を回され固定され、速攻で空いているもう片方の手で服を破かれた瞬間にやっぱ無理かも、と絶望した。

 

 

 

 着ていた服はすぐに下も含めて全部破かれ適当に放られて、一瞬にして全裸に剥かれた。
 ただの洞穴であるこの開放的な、穴を塞ぐものも何もない場所で、初めこそ性急なまでの行動とやや冷たい外気に肌が触れ震えていた。けれどすぐに身体は熱を持つことになり、寒さとは別のものに身を悶えさせる。

「ひぁ、ぁ、あ……っ!」

 洞に響く自分の声に耳を塞ぎたくても、責めたてられればびくびくと肩は跳ねるばかりで。口を塞ぐことも歯を食いしばることもできない。
 四つん這いにされていた身体はすぐに力が入らなくなって上半身は毛布に倒れ込む。けれど後ろから岳里に支えられている腰は高くあがったままにされていた。

「や、岳里、それはいや、だって、ば、ぁッ」

 まだ三日間は始まったばかりだっていうのにもう始まった息切れに言葉を阻まれながら、どうにか後ろへ振り返る。
 視線の先には、おれの後ろに顔を寄せる岳里が見えた。ひどく興奮しているのか、目が金色に戻ってるだけでなく髪も本来の色である紺に戻っていた。襟足も伸び、肩から落ちては動きに合わせて揺れている。瞳は色が戻りやすいけれど、髪の方まで戻るのはそうそうないはずなのに。
 ちらりと、見上げてきた岳里と目が合う。それはいやだ、と首を振って改めて訴えれば、その正反対の行動に出られてまた声が飛び出る。
 岳里の舌が、指で解してくるよりも先に柔らかい身を生かしてもう中に入り込んでいた。しかも竜化させていてとんでもなく長くなっていて、指なんかじゃ到底届かない奥まで侵入してきていて。
 そう太くないながらもずるずると内壁を擦られて、圧迫感のない挿入の感覚に、いつもと違いかたくもないそれに、けれど熱い息が零れる。

「ふぁ、あ、ああっ」

 声を抑える暇も与えてくれず、舌は熟知するおれの中をうごめいては涎を壁にこすり付けていく。
 ここまで性急に事を運ぼうとするのは初めてだった。いつも丁寧に指で解されていって、ぐずぐずにとろけさせられる。もうわけもわかなくなるくらい、脳みそまで。でも今回は急いでいるようで一気に高められる身体に気持ちが追いつけない。
 いつもならおれが嫌がるからと指で解してくるのに、なんで今回は舌でやるんだろう。指をねじ込まれるよりは痛くないけれど慣れない感覚にどうしても腰が引ける。
 そんな疑問も前立腺を擦られ背筋を痺れ刺す快楽に飲み込まれた。
 しばらく岳里は長い舌で翻弄すると、やがてそれを引き抜いていく。中を進んでくるよりも生まれる痺れは強く、思わず出ていくそれを締めつけてしまった。
 ようやく完全に舌が抜き取られると、身体を反転させられ仰向けに毛布に転がされる。その頃にはすっかり息も上がっていて、上に覆いかぶさりながら木箱の方へ手を伸ばした岳里をぼうっと見つめた。
 戻ってきた手には何やら陶器で作られた容器が握られていて、細長く白いそれの蓋を開けておれの身体の上で容器をひっくり返した。中からはとろりとしたはちみつ色の液体が落ちてきて、胸へと丸く広がっていく。
 冷たさに身を捩れば空いたもう片方の手でそれを伸ばし拡げられていく。

「……ん」

 胸の突起に執拗に指を絡ませては、まるで染み込ませるように何度も揉み込む。鼻で息を吸えば、花のような甘い匂いがした。
 岳里は真剣な眼差しで肌にそれを塗り込んでいる。

「そ、れ……なに?」
「竜族に伝わる秘薬――要は媚薬だ」
「び、びや、く」

 ようやく齎される効果を知り、逃げ出そうと身を捩る。けれどすぐにその媚薬とやらで滑る手で腰を掴まれた。
 片手で押さえつけられたまま、空いたもう片方で媚薬の入る容器を再び手に取り、高めの位置からそれを傾けた。つうっと糸のように垂れたそれはおれのものへと落ち、十分すぎる程濡らしたあとはまた岳里の手に塗りたくられる。

「っ、ん……ぁ、は」

 あえて音を立てて揉まれれば、とっくに勃ちあがっていたそれから出る先走りが蜜と絡まる。はちみつ色のそれに、白濁が混ざっていくのを岳里は真剣な眼差しで見ていた。
 膝を立てた上にいる岳里の身体を挟んで抗議をしても止まってはくれず、むしろさらに手は奥へと伸びる。

「力を抜けよ」

 頷くよりも早く、後ろに指がねじ込まれた。とろりとした液体を纏っているおかげで痛みはあまりないが、それでもいつもの岳里にしたら少し乱暴な進め方だ。

「んっ、ん、うぁ、あ……ああっ!」

 どんなに繰り返しても慣れない異物が入り込んでくる感覚に、思わず出そうになる声を手の甲で唇を抑えて塞ぐ。けれどそれもすぐに前立腺を擦り上げられ無意味になる。

「や、ぁあっ! も、ゆっく、り……ッ!」
「――すまんが余裕はない。優しくしてなんてしてやれない。傷つけないようにはする。許せ」
「ひぐ、ぅ」

 声だけ聞いたらまるで余裕なのに、その手の動きは正直なようだ。ぐりっと中を抉られるように強くこすられ、強すぎる刺激に身体を震わせているうちにもう一本の指が堂々と足された。慣らすことを優先にしているからか、二本の指は狭いはずの場所を開かすように左右に割る。
 途中おれが欲を吐きだしてもそれでも動きは止めてもらえなくて、達したばかりの敏感な身体でも容赦なく追い込まれた。

「や、がく、り……変に、なる……っ」

 覚悟していたのにそんな記憶もおぼろになり、無意識のまま首を振る。目尻に溜まっていたらしい涙が流れて、それを見た岳里は雫が作った道を辿るように舌を肌に這わせる。それすら喉が震えた。
 舌はそのまま目尻を舐めて、一度離れたと思ったら顎をちろりと撫でる。その間、金の瞳はずっとおれを見ていて。

「なめん、な――ぁあっ!」

 咄嗟に肩を押せば顔はあっさり離れていった。おれはといえば未だ下を執拗に慣らす指に追い立てられて、すぐに手を引っ込めて身を縮める。
 その時、自分の腕が胸で主張する小さな突起を擦ってしまう。いつもなら大して何も感じないが、この時ばかりは違った。

「ぅあっ……!?」

 思わず上がった声に自分自身が驚き、慌てて両手で口を塞ぐ。けれど擦れた後の余韻はしつこく残り、じんとそこを痺れさせた。
 熱くて、少し痒くて。後ろを解されていてそっちに集中して気づかなかったけれど、いつもと違う。そこまで考えてはたと気づく。
 そういえば秘薬とやらを塗られたんだった。どんなものか知らないけれど、いつ効きだしてもおかしくないはず。
 戸惑っているうちにおれの様子に気づいた岳里が顔を胸へと下してきた。何をしようとしているのか気づいて慌てて止めようとその頭を掴むが、ただでさえ力の入らない腕で止められるわけもなくて。

「は、ひ……っ」

 口を開いた岳里に、何もしてないはずなのにぷくりと立ち上がるそこを覆われてしまった。
 じゅる、と音があがりながら吸われて、生暖かい口内で転がされるように舐められて。その間にも後ろで動く手は止めてもらえず、さらには少しずつおれ自身にも塗りたくられたあの媚薬の効果が出始める。

「――ぁああっ!」

 ほぼ同時に突起を甘く噛まれ、後ろを強くこすられて。前はもう触ってもらえてないのにまた精を吐きだした。
 岳里はようやく胸から口を離し、未だ震えながら白濁を零すおれのものに目を向ける。
 重なるように寝かしていた身体を起こすと、いつの間にか三本にまで増やされていた指は勢いよく抜かれ、その衝撃に耐えているうちに腰を抱えられ持ち上げられた。
 虚ろな目で岳里を見れば、理性が限界を迎えているんだろう。髪が腰まで伸びて肩から紺色の流れが零れ落ちた。金の瞳は瞳孔が爬虫類のそれのように縦に伸び始めていて、頬にもうっすらと鱗の色が見え始めている。
 竜化しかけている姿。理性と本能が、ぶつかり合い揺れている姿。今この状況で竜である部分を見せると言うことは、それだけおれに興奮してるということ。
 発情期のことは勿論大きいだろう。それでも、岳里みたいなやつがおれなんかでそうなってくれるのは、恥ずかしいが嬉しく思う。
 後ろに熱が宛がわれ、無意識に唾をのみ込む。触れた部分だけでもどれほど岳里が興奮しているのかわかった。それが、いつもよりも大きい気がして。
 不安になり目の前の岳里を見上げれば、鱗の増えた肌が見える。心なしか覆い被さる身体もいつもより大きい気が。足首を掴み大きく開かせる手も知っているものより広くて――そこではっと気がつく。
 もし、かして。え、ちょ、嘘だろ……!?

「が、がく――っ、ぅああっ」

 慌てて止めようにももう遅く、もともと余裕もなかった岳里は一言も告げずに一気におれを貫いた。
 腹に押し入る質量と熱、そして衝撃に息がつまり、呼吸を忘れる。

「ひっ、はっ」
「すま、ない……っ」

 どこか遠くで詫びる声を聞きながら、岳里はおれの呼吸が整う間も待たずに中を激しく抉る。がくがくと腰を掴まれ揺さぶられながら、必死に酸素を求めながらも確かに覚える違和感に確信を抱いた。
 岳里の野郎、竜化の影響で髪や瞳、肌なんかの人化が解けかかってるだけじゃなく、身体まで大きくなってやがる。
 今まで表面的なものが戻ることはよくあったけれど、身体のそういう変化は初めてで。知っているものよりも若干ではあるけれど中に入ってくる岳里のそれもその分大きく成長しているわけで。
 ただでさえ、でかいわけで。何度受けいれても苦しかったもので。

「がく、りっ、ぬ、抜けッ! ちょ、おち、つけ……ん、ぁ、あっ!」

 急ぎ足で慣らされたこともあり、後ろはいつもよりは解れは甘い。さらにはいつもよりは多少なりともでかい岳里のものは合わけもなく、縁に感じるちりちりとした痛みに首を振る。
 岳里自身も何故おれが止めようとしているかわかっているだろう。けれどおれの顔を真正面から熱く見つめる癖に、動きは止まらなくて。
 まるで宥めるように額に唇を落としながら、おれが弱い場所ばかりを責めたてる。そうなれば痛みはすぐにでもどこかへ飛んでいき、代わりに別の意味で首を振った。

「んぁ、あっ、あ……っぁう、うーっ」

 まともに息もできずに、けれど上がる自分の声と突き上げてくる岳里のものに呼吸は阻まれる。与えられる強すぎる刺激に気づけば目尻からは涙が落ちて、それはぬるりと舌に舐めとられていった。

「岳里、がく、り――ぃっ」

 必死に名前を呼べば、求めるものを悟り下りてくる岳里の顔。今度は額ではなく唇に重なる。それまで下に惹かれた毛布を握り締めていた拳を解き、手を伸ばして首に縋りつくよう抱きつく。

「ふ、ん……んっ」

 自分から口を開いて中へと招き入れる。入り込んできた分厚い舌に吸い付けば、更におれの中で大きくなるものに気づいた。ただし興奮に張り詰めたわけではなく、物理的な変化だ。
 またも身体が大きくなってやがったんだ。腹に入っているものもそうだし、重なる口からも、覆い被される身体も、腰を掴む手も。絡む舌さえも、どれもその変化を教えてきた。
 限界と思っていたところをさらに押し広げられ、今まで届いたことのない奥の方まで岳里で満たされていく。抗議しようにも上の深いところまで岳里が入り込んでいてそれは叶わない。喉の奥まで隅々を舐められ、舌の根ごと絡ませられる。
 ねっとりとしたキスの合間にも腰は動き、酸素はすぐに足りなくなった。

「は、ぅ……ッん、あ、ああっ」

 ようやく離してもらえたと思ったら、一際強く中を抉られ、目の前が真っ白になる。ぎゅうぎゅうに岳里のものを締めつけながら、身体にしがみつきながら。強すぎる絶頂に息も忘れながら精を自分の腹へとまた飛びださせた。

「っく……」
「ぅあ、あ――」

 おれが達したのに一拍遅れて岳里も息を漏らすと、ふるりと身を震わし中へと欲を吐き出す。
 中に注がれる感覚に無意識に声が上がる。汗で張り付いた前髪を掻き上げながら、岳里が顔を覗き込んできた。

「大丈夫か」
「……ん」

 見つめてくる金目を見返せば、そこはまだ興奮の色が残っている。声こそいつものように冷静だけれど、重なる身体は熱くて。繋がるそこも、出したばかりなのにもう張り詰めていて。
 くたりと床に預けていた頭を起こして、軽いキスをひとつしてまた毛布の上に寝そべる。けれどすぐに岳里の頭は追いかけてきて、また深い口づけを交わし合う。
 ねちっこさはそのままだけれどさっきよりは緩やかなそれは、丁寧に中を撫でては呼吸の隙を与えると言う器用さをみせた。そのおかげか、これから繋がったまま二ラウンド目突入か、とどこか冷静に頭の隅で考える。
 中に収まったままの岳里のものは一度吐きだしてもまだかたく張りつめているし、竜化しかけた身体は戻らず大きさもそのままだ。発情期は伊達じゃないらしいとは思ったけれど、そう言えばこの絶倫が一回で済むわけもなかったとも思い直す。それと同時に、そんなやつの発情期がどんなものか底が知れず、むくりむくりと不安がこみ上げる。そして、不安はもう一つ。
 これ以上でかくなったらどうしよう。本気で抵抗しなきゃ絶対裂ける、よな。
 もしもの場合は手とか、く、口、とか……それでせめて普段のサイズに戻るまで頑張るしかない。でもそんなことしたら顎はずれるか? かといって手で満足してもられるとは思えない。いや口も下手くそだってのはわかってるけど、でも本当大きさ的に限界なわけで。というよりもこのままがつがつやられ続けても体力がもつわけもないし。いくらまだ塗りたくられた媚薬で身体が熱いままだとはいえ、そもそも三日間とか本気で――
 舌を絡ませ合いながらもぐるぐるとそんなことを考え、とりあえずの最低条件を口にした。 

「も、もうそれ以上、でっかくすんなよ? い、今の大きさのまんまだったら、その、色々頑張る、けど。今以上になったらおれ何もしてやれないからな。その時は一人でやってくれよ」

 岳里の顔を押し上げながら、複雑な気持ちで告げる。すると岳里はじっと明後日の方向を向くおれの目を見つめると、不意に自身を引き抜いた。

「ぅあ……っ!」

 突然のことに油断していた身体は途端に、内壁を擦りながら引きずり出されたものに痺れ、咄嗟に声が上がる。慌てて口を塞いで背筋を駆けるものに耐えた。
 栓の役割もしていた岳里のものが抜かれ、どろりとやつが中へ出した白濁が縁から零れていく。
 唐突な刺激に熱い息を吐きだしながら岳里へ目を向けてみれば、膝立ちとなったやつは手を伸ばしているところだった。その指先が向かうのは、一度は箱に仕舞われた、媚薬の入る小瓶。それを手に取り持ち上げる。
 どうするのかと見守っていれば、岳里は瓶を口元に寄せて一気に中身を煽った。そしてそのままおれの顎を掴むと、口を開かせられて舌をねじ込まれる。

「――ぅ、んっ」

 とろりと、唾液とは違うものが岳里の口から流れ込んでくる。味はないが、ふわりとした香りのある油のようなもの。さっき岳里が含んだ媚薬だ。
 それが齎すものを今も熱の冷めない身体が十分教えてくれていて、拒否するためにも顔を背けようとする。けれど顎を固定する岳里の力に敵うわけもなく、流し込まれたそれを飲み込むまで拘束されることを悟る。
 仕方なく喉に通せば、そのことを確認した岳里はようやく口を離す。両頬を両手に包まれた。

「――真司」
「な、なんだよ?」
「悪い、我慢できそうにない」

 え、とおれが声を漏らすと同時に、岳里の変化は急に起きた。
 頬に添えられた手が大きく、人の骨ばりと違うものになっていく。肌はかたくなり、そして紺色へと染まっていった。色が変わったところから鱗が浮かび上がっていき、めきめきと岳里の身体が内側から変化していってることも気づく。
 しゅるりと現れた尾がゆらりと上を向きながら伸びて、一対の翼がその背から生える。身体はむくむくと膨れ上がり、あっというまに天井へ着きそうなほどになった。
 頬に触れていた両手は顔を挟むように地面に置かれている。鋭い爪のついた巨大なものと変わり、寄せられる顔も形を変えて、鋭利な牙を覗かせながら鼻息でおれの髪をなびかせる。
 唯一まったくといっていいほど変わらない満月のような瞳を向ける、岳里。完全な竜の姿となって、その目でおれを見つめていた。けどおれは、そんな岳里の下半身をガン見する。
 今まで何度も竜の姿を取る岳里を見てきた。触ってきたし、明るい場所でも見た。でも、だからこそそこにありありと存在を主張するものから目が離せない。

「が、岳里、それ、おまえ……も、もしかし、て……」

 まるでおれの考えを見抜いたかのように、すべてを口にしなくても、ぐる、と唸り声が返事として返された。それに言葉を失い、顔は真っ青になる。
 岳里の――竜の下半身からは、ご立派すぎる逸物が飛び出していた。その巨体にも少し大きいんじゃないかと思うほどで、おれの身長よりも少しばかり、大きい。表面はつるつるとしているけれどそこには先の丸い棘がほどほどに並んでいた。どうやらその立派なものは普段肌の隙間に収納されていたらしく、切れ目のような場所から飛び出し伸びていた。色まではさすがに紺色じゃないみたいで、内臓系は動物と竜はそう変わらない事実を初めて知る。

「…………」

 その大きさだけでも、十分驚かされる。いや、竜の姿ならそう吃驚するほどじゃないんだろうけど。でも、おれは人間なわけだし、自分の身体ぐらいのもの見せつけられて平常でいろと言われる方が無理な話で。いやいやだからそれはまあいいとして、何が一番おれを動揺させるかということだ。
 ――二本、ある。一本じゃない、二本も、そこにはあった。何がって、竜のどでかいそれが。大きさだけならファンタジーなのに、やたらと生々しく見えるグロイそれが、二本だ。
 驚愕のあまり言葉が出せないまま、高い位置にある竜の顔へ目を向ける。すると、おれを見ていた金の瞳が僅かに細められた。それに対してまずゆっくり首を振り、真っ青な顔のままどうにか口を開く。

「む、無理……はい、ならない、無理、絶対。裂けるとか、そんな問題じゃ、ない。こ、これは無理だから、な……」

 仰向けに転がされていた身体を肘を立てて起こし、ずりずりと後ずさる。けれど伸びてきた大きな手に爪で傷つかないよう器用に持ち上げられてしまった。
 これは本格的にまずいと暴れてでも逃げ出そうとしたところで、岳里の顔の前にまで運ばれる。間近にきた瞳に直接恐怖を訴えれば、鋭い牙が並ぶ口がゆっくりと開かれた。

「っ、う――」

 そこから伸びた長い舌が、ちろりと顎裏を舐めていく。思わず顔を背ければ、次に腹から胸を、脇を、太ももの裏、足先、頬、全身を舌で撫でられる。
 おれのものも器用に舌で擦り上げられ、あっけなくここでも一回出してしまった。それでもぬりこまれ飲まされた媚薬は効果を持続させる。
 岳里の手の中で逃げることもできずやつが満足するまで舌で弄ばれる。ようやく顔が離れていった頃には全身が涎ででろでろで、完全に息は上がっていた。舐められただけとはいえ、全身を大きな舌で愛撫されて何も感じないわけもない。
 手の上でぐったりと身体の力を抜いていると、器用な四本の指が細心の注意をしながらまたおれを運ぶために動き出す。ようやく解放してもらえるんだろうかとぼうっとする頭で考えていたけれど、竜の勃起したそれが目の前にきて一気に我を取り戻す。
 けれど、その頃にはもう遅くて。
 暴れる間もなく、岳里の、竜のそれに身体を押し付けられる。

「っあ――」

 粘液か何かで滑っていたそれの表面に、胸が腹が、身体がぴとりとくっつく。細かい棘は柔らかく、おれを刺すこともなく先に向こうがぐねりと折れた。
 人間のものほどではないけれど青臭く、熱くて。呆然としている間に、それに身体を付けたまま押し上げられる。その時に掴む力が緩められたからか不安定に揺れ、落ちそうな恐怖に慌てて目の前のものに抱きつく。
 下から上に押され、触れる岳里のものに身体が擦られる。全体に在る細かい棘が刺激になって。

「ぁっ、ん、んっ――や、ぁあっ」

 散々過敏にされてさらには媚薬の力が残る身体は、岳里ものにただ上下に擦られるだけでも十分で。しがみついているから口も塞げず声が飛び出る。胸や自身だけでなく、肌でも感じてしまう。

「――っぅ、ああっ、あーっ」

 また勃ってしまっていたものに柔らかい棘がこすれて耐え切れず出してしまった。けれど動きは止まってくれなくて。擦られている間に自分でも訳がわからないうちに、また欲を吐きだし、岳里のものの表面から出ている粘液に、さっき舐められたときのが残る涎に、全身だけじゃなく思考までぐちゃぐちゃして。

「んっ……はぁっ、ん、がく、り――ぁあ、ふっ」

 気持ち、良すぎて。頭がおかしくなる。涙がじわりと溢れて頬に流れた。

「も、やだ……ッは、んんっ……!」

 また身体が高まり、無意識のうちに首を振る。その時、頭上の岳里が低く唸った。
 直後、ただでさえ滑っていた表面にどろりとさらに粘ついた液体が溢れてくる。じわりと出てきたそれは身体に纏わりついて、独特の匂いでおれを包んだ。
 ようやく岳里は手を止める。でも身体に力が入らなくて、荒い息のまま大きな手に身を預ける。頬にも髪にさえもべとりと、きっと竜の精液なんであろうものがついていた。

「あ……」

 岳里の手が動く。その時ちょうど、相手をしていなかったもう片方のそれが見えて、思わず身体をかたくした。もしかしたら今度はそっちの相手かとも思ったけれど、手はそのまま下の方へ向かい、そっと毛布の上に横たえさせられる。
 顔を寄せてきて、舌を伸ばしておれの全身を舐めとった。岳里自身が出したものなのに気にする様子もなく髪までしっかりと舌を這わせると頭は離れていく。
 ぼうっとその姿を眺めていれば、徐々に縮まっていった。そう間もなく人の姿に戻る。それでもまだ竜の名残である紺の長い髪や金の瞳はあるし、身体にも部分的に鱗が残っていて、角も尾も出たままになっていた。
 手が伸びてきて、脇に差し込まれ身体を持ち上げられる。されるがままになっていると胡坐を掻いた岳里の上に背を向ける形を取らされ、そのまままだ猛り立つ岳里のものがおれの中へと入れられた。

「ふ、うぁ……」

 すべてが収まると後ろから隙間なく抱きしめられる。前に手を回され、媚薬の力でどうにか半勃ちを保つ自身を握られた。ただそれだけでも、身体はびくりと震えてしまう。

「っ、やだ、岳里……もう、出ないっ」
「大丈夫だ」

 首を振れば、ようやくいつもの平常を取り戻しつつあるらしい岳里の言葉が返される。
 もうやめてくれるのかと淡い期待を胸に抱くも、それは足に絡みついていた尾が見せた不穏な動きに粉々に砕かれた。

「っな、何――い、っう……!」

 岳里の尾は静かに前の方へ忍び寄ると、尾先を大きな手に支えられたおれのものの先端に突き入れた。浅く、本当に少しだけの挿入。けれど痛みがあり、初めてのことにひどく戸惑う。

「が、岳里っ! これ、とれよっ」

 後ろから首筋に顔を埋め、肌を吸う岳里へ悲鳴のように訴えるも、やつがした珍しい微かな笑いに漏れた息が耳をくすぐる。おれものに添えていた手を離して、今度は太腿と膝を両手で抱え上げた。
 腰を動かされ、思わず声が飛び出た。後ろがもたらす甘い痺れと、前の微かな痛みに身体は震える。
 慌てて手で口を塞げば、耳元で低く掠れた声が囁く。

「まだ、三日間は始まったばかりだ」
「…………」

 もはや言葉を失うおれの顎を掴むと無理矢理後ろに振り向かせ、不敵な笑みを見せながら舌をねじ込んできた。

 

 

 

 地獄の三日後、一か月間岳里と口もきかなかったのは道理な話だろう。りゅうに仲直りしてって泣きつかれなくちゃ三か月はかかったかもしれない。
 いくらおれから手伝うとは言っても、覚悟は決めて行ったとしても。あ、あんな……っ二度と発情期なんかに付き合うか!


 おしまい

忘れた約束 main 神さまのお戯れ


ちなみに発情期の話を聞いた悟史と十五が驚いていたのは、残り三日になるまで我慢した岳里の忍耐力に驚いたからです。その分三日間に濃縮されたわけですが、本来そんなことできないのが発情期ということで。
洞穴は竜と竜とが交尾も可能な場所であるためにかなり巨大に作られていました。

竜の逸物はあくまでファンタジーですので、ふわふわしてます。一応爬虫類系をベースにしました。折角の二本をうまく使う案が出なかったのは悔やまれます……(笑)
ガチの竜攻めはマニアックプレイに入ると思ったので、これでお許しいただければと。一応おまけにかるーく尿道責めも入れたりしたので! 阿吽にはエロは難しいということで、これ以上はご勘弁を!あとは皆さまのたくましい想像力で乗り切ってくださいっ
(これでもかなり必死に書きました。エロエロは読むのはとても楽しいんですけれどね……)

こんなでしたが少しでもエロで楽しんでいただけたのであれば、嬉しいです。

ご投票ありがとうございました!

2014/03/05