神さまのお戯れ

百万打御礼企画のアンケートで、ディザイア×ユユのラブコメ話
(なんの話かメモが残っていませんでしたが、恐らくラブコメのお題だったと思います)


 

 ユユは今、セクハラに悩まされていた。いや、セクハラといっていいのかはわからない。自分が過剰に反応してしまっているだけなのかもしれない。
 至って平凡である己の容姿を自覚しているからこそ、まさか性的な意図を持って触れられているとは思えなかった。しかし、もしもの偶然にしてはあまりに不自然すぎる。だが、だが――その二つの意見の堂々巡りである。
 そして今まさに、頭を悩ますそれの真っただ中だった。
 するりと絶妙な力加減で首裏を撫でられ、ユユは身体を跳ねさせる。顔を真っ赤にして振り返れば、からからとした様子で笑う神の姿があった。

「ディ、さまっ! からかうのはやめてください!」
「ああ、違う違う。髪の毛が落ちていたから払っただけだ」
「あ……そう、なんですか? 申し訳ありません、ありがとうございます」

 どうやら今のはただの親切だったらしいと、声を荒げ勘違いに詰め寄ったことに素直に頭を下げ謝罪する。その傍らで動いたディザイアは、ふう、とユユの耳に息を吹きかけた。

「うひゃっ」
「相変わらず過敏な身体だな」
「か、かかかっかびっ――っからかわないでください! お願いしますから!」

 ハヤテに対するジィグンの怒鳴り声の次に城によく響くのが、ディザイアに対するユユの懇願だった。
 世界ディザイアの神であるディザイアは、混乱を防ぐためにその素性を隠している。現在は客人としての扱いをされており、本人たっての希望で世話係としてユユが選ばれた。
 何故自分なのだろう、と今でも疑問に思うが、初めこそそれは光栄なことに思えた。三番隊の副隊長として務める傍ら神の世話は忙しないが、そもそも神であるディザイアには特にしてやることはない。
 食事や水はとらずとも生きていけるし、汗を掻く身体でないため特別湯浴みの必要もない。大半は寝て過ごしているし、言ってしまえば放っておいても許される。だからこそ職務と世話を両立できていた。
 多少悪戯好きなところがあるが朗らかな性格であり、細かいことは気にしない。そういった性分でもあるためその立場といえどもユユでも接しやすく、傍らにいることは苦にはならなかった。だがしかし、彼の手癖の悪さには参りつつある。
 神にとってはただの戯れ、すぐ赤くなるユユをからかっているだけなのだろうが、いかんせん触れあい方が非常にまずい。
 彼の脇を通り過ぎる時に尻を撫でられるのは勿論、気づけば背後にいて緩く拘束されたうえで存分になで繰り回されることもある。容易に神の腕は解けるが、まさに神相手に触るななどと拒否できるわけもない。それに、別に触られることがいやなのではなく、触られる場所が問題なだけだのだ。
 この前など脇や足裏、首筋に太腿などの敏感な箇所を一刻以上くすぐられ続け終いには半ベソかかされたし、身体の中心へ触れそうな際どい部分を撫でられることもある。耳に息を吹きかけられるなど毎日のことで、あえて卑猥な単語を投げかけ反応を楽しむことさえあった。
 神の口からあんな言葉が飛び出すなんて、と思い出すだけでもユユは己が口にしたことではないが羞恥に頬を染める。だが、それこそ神の悪戯が止まらない原因だともわかっていた。
 結局は、ユユの反応を見るのが楽しいのだろう。触れられればわざとかと思われるほどに身体がびくつし、気を抜いていれば情けない悲鳴を上げることもある。顔はすぐに耳まで赤くなるし、混乱が極まればよく言葉をつっかえさせもする。自分でも過剰な反応をしているというのはわかっていた。
 どうすれば神を楽しませてしまう要因であろうそれを消すことができるのかと考える。しかしろくな答えは出せず、唯一、過敏な身体を鈍感にしてしまえばいい、と思い至ったことがあった。それにはどうすればいいのだと頭を捻らせだした答えが、沢山神に触れてもらい感覚に慣れるというものだ。
 ユユは一度、そのために神本人にそれを伝え、気が進まないのは承知で思い切り触れてほしい、と頼み込んだことがある。
 普段悪戯のため触れ合ってくるとはいえ、それは気まぐれあり、頼まれるのはまた違うだろう。だが一度慣れればきっともう大丈夫だからと、だからこそ神に願ったのだ。初めは恥を忍んで友らに頼んだが、ディさまに直接頼んでくれと何故か青い顔をされ拒否されていたためでもある。
 神はその願いにいつも浮かべる笑顔を更に深めて快諾してくれた。その時ばかりは懐の広い神に深く感謝したものだ。
 そして、散々触れられくすぐられ齧られ舐められユユの予想をはるかに超えたふれあいの後、ただでさえ反応が過剰だった身体は拍車がかかる事態となった。今では首筋をすうっとなぞられただけで背筋を駆けぬけるものに身を震わす始末である。
 結果として唯一の作戦は、失敗したのだ。残ったのはさらに敏感になった身体だけである。そしてそれに嬉々としさらに悪戯な触れ合いを増した神だった。
 神たっての希望で、夜は畏れ多くも寝床をともにしている。とはいってももともと空いていた寝台の片方に寝かしてもらっているだけなのだが、もう片方で神が眠ったのを確認しそして自分も目を閉じると、朝になれば必ずと言っていいほど一緒に寝ており、さらにはくすぐられ目覚める。朝勃ち、という現象があるため変に触れられてしまえば、毎朝は泣きながらこっそり下着を洗う始末だ。
 別に、触れられることが嫌いなわけではなかった。ただ一番の問題はやはり、過敏すぎる身体であり、時として“反応”してしまうことだった。以前は滅多になかったが、作戦失敗後その頻度は随分増してしまった。毎回でないものの、神とてそれに気づいていないわけではないだろう。浮世離れしているとしても猥談をしてくるような相手である。
 どうして神は、一介の隊員にすぎない自分にこうも構ってくるのだろう。いつか、飽きる日は来るのだろうか。
 悪戯好き、なだけにはしてはどを越している気がするが、しかし何せ相手は神。いつも笑みを絶やさず瞳を閉ざす者であり、いくら考えてもその腹は読めない。
 ユユは今も尻を撫でる手からどうにか逃げようともがきながら、結局は捕まり、内心で溜息を吐いた。

 

 


 腕に抱えた細い縄は一本だけであったが、その長さでかさばり、ユユの視界をほとんど遮っていた。時折身体を横にして行く先を確認したりするも、慎重な歩みはゆっくりだ。
 本日ユユは非番であったが、神の世話係りとなって以降は一日も欠かすことなく登城している。本来は普段は仕事で離れる分神につきっきりとなるが、今日ばかりは少し違った。
 ふと自身の所属する三番隊の部屋を訪れれば、何やらまだ幼い新米が一人慌てふためていたのだ。事情を聞けば同期で病欠になっている者が多いらしく、彼らの分まで働いていたそうだ。しかし、いかんせん四人分ともなれば量も多かった。
 他の隊員はそれぞれの仕事で忙しなく、そんななかで雑用の手伝いをさせてはいけないと下っ端仲間と奮闘していたようだ。だがそれも限界を迎えそうなところで休暇中のユユが現れたというわけだ。
 時間のあるユユがいたとして、それでも隊員たちが副隊長にものを頼んだわけではない。ユユ自らが申し出、半ば強引に手伝いを買って出たのだ。そして縄を運ぶ仕事を与えられたのだった。
 ちょうど三番隊の部屋から一番遠い場所へ運ぶということと、新米隊員たちにはいささか縄の量が多く、背がまだ伸びていない彼らが持てば半身ほどもあるためにそれが任されたのだ。彼らでは頭まですっぽりと隠れてしまうが、ユユであればもう少しましに運べる。
 いつもの窮屈な仕事服ではなく、今は城にいて許される程度の私服であり、軽装であった。そのため身体は動かしやすく、歩きにくさこそあれどそう苦にはならない。
 手伝いを申し出た時に見せた新米隊員たちの申し訳なさそうな顔の反面、見せた嬉しそうな顔を思い出しながら、内心で頬を綻ばす。
 大したことではないが、少しでも彼らが楽になればいい。もし神に許されたのならば本格的に手伝いへ行こうか。そんなことを考えながら足を置いていくと、不意に何もないはずの床で足をくじいた。

「わ、わぁっ!?」

 両手いっぱいに縄を抱えたまま倒れたユユは咄嗟に、手にしたそれを上へ放り投げてしまう。しかし自由になった身体を支えるのは間に合わずそのまま盛大に床へ張り付いた。その上から先程投げた縄がユユの上へと降り注ぐ。

「わ、わ、わわっ」

 混乱にろくに考えもないままもがけば、大きく動かした手に足に細くも長い縄が絡まっていく。解こうと動けば動くほどにそれはかたくなりとれず、しまいには全身を拘束され動けなくなってしまった。
 何故か腕は後ろへ回りびくともしない。軽装であったために服は捲れて腹は見え、足もひとつにまとめられてしまっている。
 がんじがらめになったユユは一人、人気のない廊下で四肢を拘束され芋虫のようだった。
 誰かが通るまでこのままか、と思うとぞっとするし、縄を届けなくてはいけないとも焦る。
 とりあえず人のいる場所まで行き助けを乞おうと絡まる縄をどうにもできないまま這いずり進もうとしたところで、いつの間にか傍らに来ていたらしい人物に声をかけられた。

「ユユ、随分とおもしろいことになっているな」
「ディ、ディさま……!? ど、どうして、こちらに?」

 閉ざした瞳で上から覗き込んでいたのは、ディザイアだった。部屋にいるはずの神が何故そこから離れたこの廊下にいるのかわからず自身の状況も忘れ首を傾げる。
 神は問いかけには答えず、いつもの笑みをユユによく見せる少し意地の悪げなものへと変えた。

「趣味か?」
「ちちち、違います! これは、そうではなくて、じ、事故……ですか?」
「ほう、事故か。それにしては随分と綺麗に肌を晒しているな」

 傍らにしゃがみこんだディザイアは、床に転がるユユを助け起こすでもなく、服が捲れ露わになる腹の素肌をすうっと指先で撫でた。

「ひゃう……っや、やめてくださ、ひっ!」

 自由のない手では口を塞ぐこともできず、声は抑えられることなく空気を震わした。
 いつも笑みを浮かべる神であるが、それの微かな違いで彼の機嫌を見分けることはある程度できる。逃れることはできない神の戯れからそれでもどうにかしようと身を捩りながら、ユユはディザイアの顔をちらりと盗み見た。その表情を見て、ますます必死になって身体を動かす。
 ディザイアの今の笑みには見覚えがある。それは散々ユユをからかうつもりの時に浮かべるものだ。これを見せているということはこのままいけばどんなにユユが懇願しようが、彼が満足いくまで離してもらえないだろう。そしてその満足は大抵ユユが半べそを掻くのを越し、本格的に泣きいるまで続く。
 そうなっては困るとユユは手伝いの途中であり、転んだ拍子にひょんなことからこのような状況になってしまったと伝える。

「それはそれは、ならば早く届けてやれねばならないな」
「っ、そ、うです! です、から……っぁ」

 人が懸命に説明していると言うのに肌をくるくると撫ぜる手は止まってはくれない。勝手に喉の奥から飛び出す声をどうにか殺しながらも事情を話すが、それでも助けてくれる様子もなかった。

「ディ、さま。すみませんが、んっ、助けて、くださいませんか? わたし、ひっ、ひとりっ、では、どうにも……」

 つい恨みがましい目を向けてしまうが、気持ちを抑え床に転がりながらも頭を下げる。
 もしかしたら断られてしまうだろうか、と不安に思ったが、神はその身に相応しい慈悲の笑みを浮かべ、頷いた。

「ああ、いいとも。手伝ってやろう、このわたしがな」
「あ、ありが、とうっ、ございま、す……!」

 ユユは素直に神の優しさに感謝し、礼を述べる。しかしこの時気づくべきだったのだ。
 浮かべられたそれが慈悲のものでないことに、手伝うと言って肌を滑る手は一向に止まりそうになかったことにも。

 

 

 

 壁に背を預け廊下に座りこんだディザイアに身体を預ける形で、ユユも縄に拘束された姿のまま座らせていた。二人の身長にそう差はないが、体格はユユの方が筋肉もついているので逞しいといえるだろう。到底、互いに楽な姿とはいえない。しかし神自らがこの体勢を望んでいるのだから仕方がない。
 勿論、最初はユユも神に対しとんでもないと遠慮した。だがこの方がやりやすいからと言われてしまえば断ることもできなかったのだ。
 まずは縄の端となる部分を探そうと、神は後ろからユユの身体に手を這わす。ユユ自身も見られる範囲でそれを探すが、それよりも自由に触れ回る手の方が気になった。
 あくまでディザイアは助けてくれるために動いてくれているのだ。雑念を払うよう、背後へしょぼくれた声をかける。

「申し訳ありません……重たいですよね」
「重くなどないさ。人の姿をとっているが、これでも神だからな。痛みを感じぬよう、重みも感じない」
「それでもです。こうしてご迷惑もおかけしておりますし……本来ならお休みなさっているお時間ですよね。申し訳ありません」
「よい、そう謝るな。それよりどうだ、端は見つかったか」

 ありません、と答えた後に、絡まりに絡まった縄からふたつしかない端の部分を本当に見つけられるのだろうかと溜め息をつく。それにやけに熱が含まれていて、ユユは内心で密かに困っていた気持ちを膨れ上がらせる。
 熱っぽい吐息の原因は他でもない、手伝ってくれている神にある。
 もう腹を撫ではしてこないが、何故だろうか。軽装の薄い服の上から縄の端を探すためにやたらとするする服の上に両手を這わしているのだ。縄が狭く巻かれている中、その下に隠されたユユの身体に器用に触れてくる。縄の端を探しているだけなのだとわかっていても、その手が熱を生ますのだ。
 息こそ乱れないが、気を抜けば変な声が上がってしまいそうだと、ユユは顔が見られないのをいいことに堂々と前を向いて唇を噛む。

「おや、これは」
「っぁ……!」
「なんだろうな、縄とは違った引っ掛かりだ」
「ディ、ディさまっ、そこ、は、んっ!」

 慌てて預けていた身体を起こそうとするも、前に回ったディザイアの腕と、何より四肢を拘束する縄にそれを阻まれる。
 それをユユよりも十分に理解している神は、爪を立てていた場所を更に強く引っ掻いた。

「っ、ひ」

 びくり、と大きく跳ねる身体。堪えていたものが一気に噴き出しそうになるもどうにか耐え、ユユは先程よりもさらに熱を孕んだ息をそろりと吐く。しかし神は次に狙いを定めたそこを、服の下で立ってしまっているユユの乳首を両方つまみ上げた。

「――ぃ、っく! ディ、さま、そこ、縄じゃ……っ」
「む? なんだ、ユユ。よく聞こえない」

 口元を寄せ、耳元でささやくように笑うディザイア。こちらの声はしっかり届けようとでもいうようだ。しかし、かえって逆効果になる。
 吹きかけられる吐息にさえ、抑えが利かなくなりつつあるユユの身体は反応しそうになる。おまけに今摘ままれている場所を気にしないようにしても意識がそちらを向いてしまう。
 二つの小粒を押しつぶされて縄が巻きつく腰が跳ねた。
 ディザイアの手は明らかに意図を持ってうごめいているが、自身のことで精一杯のユユがそれに気づく余裕もない。本当に縄と間違えているのだとばかり思い、絶え絶えに言葉を紡ぐ。

「そこ、ぁんっ、わたし、の……ち、乳首、です……っ」
「ああ、そうだったか。乳首か。すまない、かたかったものでつい気になってしまった」

 暗に乳首が立っていたことを告げられ、情けない気持ちに眉が下がる。
 以前は乳首など何も感じないただの飾りであったが、ディザイアに敏感な身体を鈍感にしようと沢山触れてもらうことを頼み込んだその時、その尖りも散々触られていた。その後も時折からかう時に悪戯されるために、しっかり感じるようになってしまったのだ。
 ディザイアに密かに乳首を開発されつつあるということにさえ、ユユは気づいていない。日に日に求めるところとは別のものが鈍感になっていっていた。
 最後に押しつぶされるよう触れながらもようやく離れていった指先に安堵する。しかしそれもつかの間。今度は別の張った場所へひっそり、神の細い手が伸びていく。
 先程の余韻に息をはずましながらも熱を冷まそうとするユユに気づかれぬようそこへと近づき、間近に迫ったところで一気に鷲掴んだ。

「いっ……!?」

 思わず腹に力を入れて背を丸める。痛みに呻きながら自身の下半身へ目を向ければ、後ろから伸び股間を握る手があった。それには堪らず涙目になりながら振り返る。
 映る視界の先にはいつもよりもどこか晴れ晴れしい笑みを浮かべる神がいた。さすがにそれにはユユも気がつき、情けない顔をしながらも怒りに頬を赤く染める。

「ディさま、そこは違うでしょう!」
「ああ、まあ縄ではないな。短いし。だがおまえも苦しそうではないか」
「み、みじか…………も、もとを辿ればこれはディさまが」
「わたしが何かしたか? ただ手伝っていただけだが、きみに迷惑をかけていたか……ならばここから離れた方がいいな」

 握っていた場所から手を離し本当に身体を起こそうとするディザイアを、ユユは動かない身体の代わりに精一杯首を振って訴える。

「も、申し訳ありませんっ。どうか、お助けください。勝手に縄に絡まっていたわたしが悪いのです」
「そうか?」
「はい。とても苦しいので、お願いいたします」
「うむ。ならば神としてその願い叶えてやらねばな」

 身体を戻したディザイアに安堵したものの。再び身体の前に回されたそれぞれの手の行方に絶句する。
 片方は乳首に伸び、巡る縄の隙間から手が差しこめる場所を見つけ出して服の中に忍び込んではそれを直接摘まんで。もう片方は先程乱暴に触れたユユ自身を優しく下衣の上から撫で。口元は首筋を辿る。

「えっ、あっ、あっ……っん?」

 明らかに縄を解こうとする動きではない。戸惑いに上がるユユの声に手を止めることなく、ディザイアは震え上がる身体に刺激を与える。

「ん、ゃ……っ」

 やわやわと神が揉み込む手の下で、ユユのものはすぐにかたく張りつめた。もともと反応しかけていたところに直接の刺激を与えられ、当然の反応である。
 首をちろりと舐める舌から逃れるよう、中心で存在を主張するものを隠すよう前に屈む。

「どうした、ユユ」
「ディ、さま、ぁっ」

 楽しげな声。けれどユユが返したのは今にも泣きだしそうな声だ。

「はな、離して、くださいっ! そこは駄目です、縄じゃないですっ」
「はは、そうだな。縄ではないな。だが苦しいだろう? いつ縄が解けるかもわからないのだ、楽になっておいた方がいいではないか」

 その言葉にはさすがに悟ったユユは、赤い顔を青に変わる。

「な、何おっしゃっているんですか!? ここは廊下ですよっ! そ、そんなふしだらな……」
「部屋でならいいのか?」
「そういうことでは――っ」
「――静かにしてないと誰か来てしまうぞ?」

 いいのか、と囁くと同時に強く乳首を摘ままれ、ユユは息を飲む。
 確かに、今この状況で救いは欲しい。神を止めてもらいたい。しかし、何よりこの状況を見られたくはなかった。
 傍から見ればどう映るだろう。縄に拘束された自身の姿。後ろからユユを抱えるようにして前に手を伸ばすディザイアが触れる場所は、明らかにそういった行為の最中に見える。
 変に勘違いされてしまうだろう。そうなって困るのはユユもそうだが、何よりディザイアだ。王の客人とされているが、王の態度を見ればどれほどの相手であるかわかる。そんな人物がただの副隊長に廊下の途中で悪戯とは言えこうしたことをしているのは悪い噂がたってしまうかもしれない。

「な、なんにせよ、今すぐお止めください」

 声を潜めてきっと睨んでくる視線に、ディザイアは増々愉快そうに笑う。それに、手を止めるつもりはないとの意思がユユには感じ取れた。

「なんにせよ、この熱をどうにかせねばなるまい?」

 まるでユユの心中を悟ったかのように、その通りとでも言うように再び下半身に伸ばした手で軽く触れた場所を撫でた。
 中心を服の上からならば握られたことが何度かある。しかしあくまでこれまではからかいに程度に軽く触れるだけですぐに手は離れていった。今のように長く、明らかな意図を持って動いていたことはなかったのだ。

「だ、駄目です」

 抵抗しようにもろくにできず、結局はなすがままとなる。ディザイアはどうするつもりなのだろうと不安ばかりが募っていく。
 無事縄から抜け出せたとしても熱くなった身体はどうにかしないとならないだろう。しかし、がんじがらめになっているせいで下衣は脱ぐことさえできない。それなのに今のまま悪戯に触れられてどうしろというのか。
 やんわりとした刺激は続けられたままだ。考えることはすぐにままならなくなり、自身も熱を放つことへの欲求に飲まれそうになる。
 それでも、首を振り続けた。

「っぁ、ん……っ、い、けません、って――!」

 後ろに回る両手で拳を作る。与えられる快感を逃がすためにさらに腹に力を入れて身を丸めるも、それを後ろから追いかけるディザイアは真っ赤に染まる耳を強めに齧った。普段なら多少の痛みとなるそれも、今では甘い痺れに変わる。
 我慢はもう、限界だった。

「もっ、もう――!」
「からかい過ぎたな、すまない」
「えっ、あっ……」

 出る、と言いかけたところでディザイアの手がぱっと離れた。それは望みであったはずなのに、上がったものは喜びよりも強く感じる戸惑いと、どこが残念がる声で。
 しかし、解放されたところで熱が高まったもう身体は止まらない。

「あ、ああ――っ」

 大きく開いたユユの口を咄嗟に口元をディザイアが抑えた直後、一際大きく身を震わすと後ろの神に身体を押し付けるよう喉を露わに仰け反る。やがてふるりと揺れてから抑えていた手を退かせば、熱い息が吐きだされた。

「ふぅ、ん……っは、はぁ、ん……」

 くたりと全身を虚脱したように弛緩し、完全に体重を預けてくるユユに神はくすりと笑った。

「まさか達してしまったのか?」
「……っ」

 返事はない。
 後ろから顔を覗き込んでみれば、達した直後の色気を見せながらもユユはえぐえぐと泣きだしていた。

「ひど、いですっ! 駄目って言ったのに!」
「すまないすまない。あまりにもユユが可愛らしかったのでついな」
「おれは可愛くもなければ、ついでからかわれて喜びもしません!」

 ついでなければいいのか、と神の喉からその言葉が出かかったが、言葉遣いを正すことを失念するほど動揺する様子がやはり愛おしく黙っておくことにした。
 だがそんな神の心中など知る由もないユユは、預けていた身体を再び丸めて静かに目いっぱいに涙を溜める。
 あんまりだ、と呟くと、不意に身体を拘束していた縄たちがひゅんとばらばらに切れて解けた。驚いて身体に目を落とせば、散った縄の残骸たちが床でひとりでに動きだし、再び結合しもとの形に戻り始める。それは脇から伸びる手が操作していることにすぐ気づいた。魔術を使っているのだろう。
 そう間もなく細かく切られてしまった縄たちは、ユユを巻き添えにすることなく本来の姿になり、さらには持ち運びがしやすいようまとめられてようやく動きを止めた。
 解放された身体は自由に動き、ユユはまず神の上から脇へと退いて、すぐ背を向けて膝を抱えて丸くなる。
 そっぽを向きながらも、恨み言を口にした。

「初めからそうしてくださればよかったじゃないですかっ」
「すまない、からかうのが楽しかったのだ」
「楽しかったじゃないですよ! どうしてくれるんですか、中、ぐちゃぐちゃです……」
「――――」

 服を着たまま欲を出してしまったために、その中は大変なことになっていた。言葉通りぐちゃりとしていて、今すぐ着替えたい。
 ぐずる背に、再びディザイアは覆い被さる。ユユが抵抗するよりも早く前へと手を伸ばすと、中が濡れている場所へと掌をあてて押してきた。
 ぬめる感覚がより一層感じられ、慌てて手を払いのける。

「や、やめてください! これ以上ぐちゃぐちゃにしないで、くださいっ」
「もう一度言ってみろ」
「へ? ……やめてください?」
「その後だ」
「ぐちゃぐちゃにしないでください……?」
「ん」

 訳がわからないまま口にすれば、ディザイアは満足そうに笑み、ようやく完全に離れていく。
 先に立ち上がると、床に落ちたままの縄をひょいと細腕で抱え上げる。

「わたしが運んでおいてやろう。ユユは部屋に行き、身を清めるのと着替えをしておきなさい」

 普段ならばとんでもないと、自分の仕事だと断っていたところだろう。だが状況も状況であり、救ってもらったとはいえ人前に出られない理由を作ったのはディザイアである。今回ばかりは素直に甘えることにした。
 ぐちゃぐちゃになる下着の中を気にしながらもふらりと立ち上がり、素直に神へと礼を伝える。
 ――最後までユユは気づかなかった。
 今回の縄たちは、神の意志を持ってその身を器用に拘束したことに。そして、普段から彼の不運体質を利用し、それを装った性的な悪戯をされていることに。
 ただ一人事情を知る神はほくそ笑み、知らぬユユはやっぱりディザイアは良い人なのだと平和な脳内でその後の日々も過ごしていった。

 おしまい

実家に帰らせていただきます main 小さな身体


ラブコメ? という感じになってしまいました。多分きっと、何かが違います…が、ユユいじめは書いていて楽しかったです(笑)
マニアックプレイに入るのかなあと思いましたが、3位のできるだけどえろの方がマニアック入ってるかな、と思いこちらはノーマルということで!

ご投票ありがとうござました!

2014/02/15