捕らわれているのは

六周年記念企画にて、無乳さまのリクエスト
・【窮鼠猫を噛む】セイ×キユウ、キユウ視点。
・その後のイチャラブ。R18


 

 父さんとの一件も片付いた今も、おれはセイのもとで世話になっている。
 いや、ちゃんと独り立ちしようともしたさ。でもセイがここにいてくれって言うし、それを無視していこうとしても邪魔されるだけだし……まあ、仕方なくってやつだ。
 それにここでの暮らしは、まあ悪くないほうだと思う。
 セイの飼い主の早瀬さんと未来さんは人間のなかでも随分な変わり者で、厄介者であるはずの鼠のおれの存在を認めるどころか受け入れて、猫のセイとは別の餌を用意してくれるほどだ。おれ専用の砂場だとか、セイのやつが入ってこれない逃げ場や隠れ場所とかまで作ってくれて。
 とてもいい人たちなんだと思う。無理矢理風呂に入れさせられるのだけは許せないけど。

『うちにいる限りは、綺麗にしてもらいますからね!』

 ちょっぴりきんとする声を上げた未来さんは、おれをぬるま湯に入れて、セイにも使っているというしゃんぷーというやつで身体をあわあわにしてくる。舐めても口のなかに泡が増えるだけだし美味しくないし、変な匂いがするし、ぬるぬるもする。どうにか逃げ出そうとしてもうまい具合に捕まえられて、揉みくちゃにされてしまう。
 何より、洗われた後に待つ風の出る機械が大っ嫌いだった。未来さんはどらいやーって言っていたっけ。
 ぶおおって大きな音はするし、近づきすぎると温かいを通り越して暑いし、風が強くて時々息苦しいし……。嫌がるおれをみて未来さんは狩人のような目つきだし、早瀬さんはいつものようににこにこしているだけで助けてはくれない。
 早瀬さんたちは結構好きだし、この環境もわりと気に入っているし快適だけど。でも――風呂だけは嫌だ! 多分もうすぐ入れられることになるだろうけど、今度こそ逃げ切ってやる……っ。
 切れてしまったというしゃんぷーを買いに行ったらしい二人を思い浮かべながら、逃走経路を考えようとしたところで、胡坐を掻いていたおれの背後に音も立てずに忍び寄る影がひとつ。
 うーんと唸っていると、そうっと肩に手を置かれた。

「何を考えているんだい、キユウ」
「……別に」

 いつものようにひょいと胡坐を掻いていたおれを持ち上げてしまうと、自分も組んだ膝の上に乗せられる。頭の上に顎が置かれ、腹の前に緩く交差されたセイの腕がきた。
 どうせ抵抗したところで、敵うわけもない。暴れるだけ疲れるだけだとさっさと諦めて好きなようにさせてやった。
 上のほうから顔を覗き込まれる。せめてこれだけでも顎を逸らせばあいつの苦笑が耳を撫でた。
 こいつだって今未来さんたちが何の買い物に行っているか知っているのに、まったく取り乱した様子はない。それが不思議でたまらなかった。
 だって、こいつだってお風呂のときは死んだ目をしているんだぞ。それなのに逃げもせず、ただすべてを諦めたようにされるがまま。
 爪でも立てれば逃げられるだろうに、震えながらも乾かされるところまで我慢しているんだ。そして解放されたらふらふらおれのところにきて、人を巻き込みながら丸くなって毛づくろいをする。まあ、耐えているだけ偉いと思うよ。未来さんに爪を立てられるわけもないんだし。
 ぺたりとセイがくっついた背中がじんわりと温まっていく。
 細っこいくせに、セイは体温が高い。多分、いつもおれよりあったかい気がする。それも猫だからなのかな。
 じっとしているとなんだか眠くなってきて、ついうとうとと始めてしまう。いつもだったらそのまま寝かせてくれるセイだけれど、今日の気分はどうやら違うらしい。
 肩に手を置かれ、前屈みにさせられる。心地いいまどろみに身を任せようとしていたおれにとって邪魔にされたと思わざるをえなく、抗議しようと口を開いたところで、首裏を軽く噛まれた。
 ただ歯を押し付けただけで歯形もつかなそうな行為だけれど、おれの肩はびくりと跳ねあがる。
 一瞬して眠気は吹き飛ぶ。咄嗟に身体が逃げようと動いたけれど、押さえつけられて動かなかった。
 恐る恐る振り返れば、肌から唇を離して顔を起こしたセイと目が合う。
 それまでまるでなにごともなかったかのように涼しい顔をしていたのに、視線を絡めた途端に、見せつけるように舌なめずりした。
 ちらりと濡れた唇にどきっとする。
 もう一度屈んだ背中。同じ場所を甘く噛まれて、ごくんと唾をのみ込んだ。

「た、食べるのか……?」

 おれは鼠で、セイは猫だ。そして猫は鼠を食べることもある。
 セイがおれを食べる気がないというのは知っているけれど、でも歯を押し付けられればもしやと思ってしまう。もしあいつに本気を出されたらおれは逃げ出せないし、ただされるがままだ。
 いつも飄々としているこいつは掴みどころがなくて、なにをしでかすかわからなくて、気まぐれで。
 おれを大切にしたい、とか言っときながら、今頃心変わりしてしまったんだろうか。飽きたから、だからおれを食べようとしている……?
 おれの不安は、わかりやすく顔に出ていたんだろう。
 セイは薄く笑った。

「きみにとってわたしは、いつまでも捕食者のままなんだね。まあ、あながち間違えではないのだろうけれども」
「ま、間違えじゃないって……!」

 やっぱり食べられるのか!? と身を強張らせたとき、甘噛みされた首裏に、今度はやんわりと唇が触れた。
 腕にセイの長くてふわふわした尻尾が絡みつき、肌をべろりと舐められる。
 見えない場所にいるセイの喉が、後ろでごろごろと鳴りだして、おれはようやく意図を察した。
 確かに、おれは今から食べられる、んだろう。でも頭に思い浮かべたものとはまったく別の意味合いで。
 勝手に熱くなっていく頬は、一体今どれだけ赤くなっているんだろう。
 知られたくなくて俯いたのに、後ろから回された手が顎を掴み、強引に振り返させられる。鼻先にきたセイは、ほくそ笑んでいて。
 引き結んだおれの唇に、セイの薄い唇が覆いかぶさった。
 いやだ、と首を振るのに、容赦なくセイはおれを責めたてる。

「っんあ、あっ」

 きゅっと胸の尖りを摘ままれて、下のものを扱う指先にもわずかに力を増させる。けれども今はほんの少しの痛みくらいなら頭が勝手に気持ちいいものに変換して、情けない声が口から零れていく。
 畜生、すっかり慣らされている気がする……。でも文句のひとつを言おうにも、言葉を出せない。

「きみは、どこもかしこも小さいね」

 強引に振り替えさせられ、唇を覆われる。つらい体勢に、ただでさえ息苦しいのに、舌を絡ませられてろくな呼吸もできない。
 掴まれている場所が場所なだけにもの申したいわけだけれど、それをするゆとりを与えてはもらえなかった。
 いつまで経っても離れようとしないセイに、抵抗もろくにできないおれは、下唇を噛んでやる。

「っ――」

 ようやく離れていき、解放された口で精一杯息を吸い込む。そんなおれを背後から抱えたままのセイは、血の滲んだ唇を舌なめずりする。
 不穏な気配を感じてはっと振り返れば、妖しく笑うセイと目が合った。その金色の瞳は、奥に確かな欲を揺らがしていて。
 ごくりと生唾をのみ込めば、足を抱えられ直され、すでに深々と突き刺さっているもので更なる奥を突かれた。

「あ、っう」

 苦しいぐらいに腹いっぱいに満ちる、セイのもの。出し入れされる度にその形を、硬さを教えられて、勝手に身体の熱が上がっていく。溶けだしてしまうんじゃないかってくらい、頭がもうろうとするくらいに。
 背中に重なるセイの身体も同じくらいにあつくて、どこまで繋がっているのかもうわからない。

「ゃ、あ……っひ、ん」

 身体を前に倒され、目の前に来たカーペットの毛を握り締める。おれの手にセイの手が重ねられ、強引に拳を解かされ、指が絡められた。
 腹を撫でる尻尾にさえ喉の奥が引き攣る。ついにぽろりと流れた涙に目敏く気がついたセイは猫特有のざりざりした舌でそれを舐めとっていく。
 肌はひりひりとするのに、それすらも甘い疼きに変っていった。
 ――ああもう、わけわかんねえ。

「ふ、ぅ……セイ、セイっ」
「――なんだい、キユウ」
「みえ、ない……っ、セイ、が、いないっ」

 重なる手を引き寄せ、自分よりも一回り以上大きなそれに頬ずりをする。けれどもそれだけじゃ感じられない。ぼやける視界に、求めるものが映っていない。
 背後でふっと笑う気配がした。それに気がつかず、ただひたすらにセイを呼び、空いている手をどこかへ伸ばす。
 ふと、繋がっていたはずの手から絡められていた指がほどけていく。
 慌てて離れていったセイの手を追いかけようとしたら、腰を掴まれ、中にセイのものが入ったまま反転させられた。
 その衝撃に息を詰めたおれを笑いながら、セイは投げ出された手を取り、自分の頬に宛てさせる。

「ほら、わたしはここだよ。しっかり捕まえていておくれ。でないと、どこかへふらりと行ってしまうかも」
「っ、んなの、ゆるさなっ……」

 揺らぐ視界でぼんやりと浮かぶセイを睨みつける。頬に重ねられた指先に力を込めれば、爪が立ってしまった。それでもおれは力を緩めるつもりはないし、セイも引き剥がそうとはしなかった。おれの爪が大した傷痕を残せないのを知っているからだろうし、きっと、お互い離すつもりなんてないから。
 セイは、猫だから。気まぐれだから。
 どんなにおれが頑張っても、おいつけない。本気で逃げられたらもう、もうおしまいだから。
 だから、爪を立ててだって、捕まえていてやる。

「セイ……っ」

 セイが逃げ出せないように腕を首に回し、足も腰に絡めてぎゅっと抱きつく。セイの髪が握った拳に巻き込まれているのにも気がつかないまま、自分から首を伸ばして、薄ら血のにじむセイの下唇を舐める。

「――ああもう、敵わないな」

 伸ばしていた舌先がセイの舌と重なり、大きいくちに噛みつかれるよう覆われる。
 嬌声ごと呼吸さえものみ込まれながら、おれはセイの下でただただ翻弄されていった。

 

 

 

 ガチャリと扉が開き、そこから明るい笑顔の未来さんと、それに続いて荷物を手にした早瀬さんが入ってきた。
 未来さんはまっすぐにおれたちのもとへとやってくる。

「ただいま。ちゃんとよい子でお留守番していたかしら?」
「なぁん」

 間延びしたような声で、もちろん、とセイが返事をする。それをやつの腕の中でぐったりしながら、内心で毒づいた。
 なにがもちろんだ。おれで散々遊びやがって。
 おかげで身体中が重くって、だるくて、指先一本動かしたくない。
 二人が帰ってきたところで別になにをするわけでもないんだし、このまま寝てしまおうと目を閉じようとしたところで、不意に身体が持ち上げられた。
 やたらご機嫌な未来さんの手の中で、おれはようやく思い出す。これから待ち受ける、おれ自身の運命を……!
 慌てて逃げ出そうにも、腰に鈍い痛みが走り、それは叶わなかった。
 もうガッチリつかまれては、逃げる気力すら抑え込まれてしまう。
 高みから恨みがましくセイを見下ろした。

「ちゅう……」

 まさかこれを狙って、と唸ると、セイはからりと笑った。
 そんなわけないだろう、でも折角だから綺麗にしてもらっておいで、と。
 うう……セイの本心がまったくわからない。

「さあ、行きましょうね。今日も綺麗にしてあげるから!」
「さ、この次はセイだからな。どうせなら一緒に風呂場で待つか」

 おれたちの言葉なんてわからない未来さんは鼻歌を歌いながらおれを運び、早瀬さんはセイを抱きあげ、後に続いた。

 おしまい

 

腕の中 main 誰にもやんない

 



今回は発情期? なにそれ? 状態で自由に書かせていただきました(笑)
おまけに中途半端な擬人化ですので、程度はご想像にお任せします。
本当は猫の性器ってとげとげなんで、そこらへんも書こうかとも思ったのですが、今回は舌がざりざりしていることだけに留めてみました。

完全にキユウは放し飼いで飼われている鼠になっています。
キユウとは別の名を夫婦はつけたのですが、キユウはあくまでキユウであるので、そちらは出しませんでした(考えてもないのですが)

エロのなかの、どこもかしこも小さいね、がとにかく言わせたくて……!
正直それだけに満足してしまった気もしますが、少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いに思います。


無乳さま、今回は六周年記念企画にご参加くださりありがとうございました!

これからも当サイトをよろしくお願いいたします。


2015/08/21