りるさまよりキリ番、800000番リクエスト。
【Desire】岳里と真司。
お題『(未来の二人の)デート』
リビングでおれの淹れたコーヒーを飲んでいる岳里に、声をかける。
「なぁ、岳里。原稿、ゆとりがあるんだろ?」
「ああ」
「ならさ、久しぶりにデートでもしよう」
にっと笑えば、岳里は小さく頬を緩まして、残りのコーヒーを一気に飲み干した。
デートとは言ったけども。やってきたのはショッピングモールだ。日用品とか服とか、補充したいって前々から思っていて、なんとなく今日は落ち着かなかったから岳里と一緒に来てみた。
ふたりの休み、というよりも今日はおれの休みだったわけだけど、世間一般では平日で。休日は混雑するとはいえ、さすがに平日の昼間である今日はほどほどの人で止まっていた。
だけどそれでも、人が少ないとはいえその少数の視線すら岳里が集めてしまうのは相変わらずで。多少慣れたとはいえ、すれ違う人々に凝視の勢いで見つめられるのはあまり居心地いいとは言えない。たとえそれが岳里に向けられているものとはいっても、そのとなりをおれは歩いているわけだし。
けど注目を浴びる当の本人はいつものようになんてことないような涼しい顔をしてるもんだから、こっちもそうするより他ない。
「新しいシャツほしかったんだよな。あと靴下。岳里は……パンツな」
「任せる」
「ったく、それくらい自分で買ってきてもいいなだから? ていうか、おまえの服全部おれが選ばされてるやつだろ」
少しは自分でやってくれ、といつも言ってるけれども。それに岳里が頷いたことはない。
おまえが選んだものの方がいい、そう言ってほっといたら服がほつれようがボタンがとれようが、気にせず着続けてしまう。いくらなんでも無頓着すぎるけれど、指摘した所でやっぱり直らない。
せっかく素材がいいのに、センスは月並みなおれじゃあ生かせない。でも言ったところで聞かないから、いい加減諦めた。でもパンツくらいは自分で選べ。
一度嫌がらせで、大漁の文字が入ったネタパンツを買ってみたけれど、反応も文句もなく平然とそれを履いていたっけ。
それを思い出して溜息を吐くと、ふと脇の店に並べ慣れた服が目に入る。ふらりと店内に入って、目にしたそれを手に取った。
それはおれ用でも、岳里用でもなく。小さな小さな子ども用のもので。
だからこそ一度は手に取ったそれを見つめながら元の場所に戻す。けれど、隣に来ていた岳里が脇から戻したそれを再び手に取った。
「似合うと思う」
ただそれだけ言って、サイズを確認する。すると大丈夫だったのか、そのまま自分の腕にひっかけた。
「買うのか?」
「似合うと思ったんだろう。おれもそう思う」
「……しかたないな」
今日はおれと岳里のものを買いに来たはず、とは思ったけれど、結局二着、同じ大きさのものをその店では買ってしまった。
自分たちの服も岳里のパンツも買い、その紙袋を腕からさげながら、様々な店が脇を固める道を歩いていると、ふとおもちゃ屋の前で岳里の足はとまった。
じっと店の中を見つめるものだから、おれは岳里の顔を見上げる。
「どうした?」
「あの大きさ、いいと思う」
そういう岳里の視線を辿ってみれば、そこには大人でも一抱えはある、一メートル近くもある大きなドラゴンを模したぬいぐるみがあった。子ども向けに可愛いような間抜けなような顔をしていて、つぶらな瞳をした“紺色”の。
「――まあ、確かにいい大きさだな」
おれもそれを見つめながら答えると、岳里はずんずんと歩きだし店の中に入っていった。
慌てて追いかけた頃にはすでに近くにいた店員を捕まえそして。
「あれをひとつくれ」
ただでさえ注目の集まる岳里に、さらに人の目は向けられる。それはイケメンが背負う巨大な竜のぬいぐるみのせいだろう。
「何も取り置きしてもらえばよかっただろ。帰りに寄ってさ。もしくは運んでもらうとか」
「手間だ。おれが持てるし、問題ない」
「そりゃ、岳里がそれでいいんなら構わないだけろうけどさ」
まあいいか、と一息つく。
「まあ目的のものはあったし、最後は晩飯の材料買って帰るか。岳里は先に車戻ってるか?」
「いや、おれも行く」
「なら責任持ってそいつ運べよ」
ああ、と帰ってきた岳里の返事に笑いながら、今度はショッピングモールに併設されている食品売り場に向かった。
そこでカートを押しながら、まず並ぶ野菜を吟味する。
「今日はなんだ」
「んー……カレーにしようかなって。しばらく辛いのは作らない予定だから、辛めのをな」
「楽しみだ」
おれがこれを作る、と言って、岳里が楽しみだと言わない日はない。そのことにくすぐったい気持ちになりながら先へ進んでいき、ふとおれは足を止めた。
「なあ、ドーナツ、食う?」
「明日作るのか」
「うん、まあ。そうしようかなって」
「いいと思う。この前のメープルのやつがいいんじゃないか。喜んでいた」
おれがあの時を思い出したように、岳里も思い返しているんだろうか。
横顔をちろりと見つめ返してから、おれたちはドーナツの材料が置いてある売り場へ向かった。
買うべきものと、そうでなかったものを抱え、おれたちは自分の車に戻った。
岳里は後部座席にあのドラゴンを乗せ、わざわざシートベルトを締める。その隣には新品のチャイルドシートがまだ車内に馴染めずそこにあった。
そんな不釣り合いなふたつを見つめて、竜の顔に注目をして。ミラー越しに見てしまったその姿に思わず吹き出す。
「あんなのあったら驚くよな。ていうか、明日からただでさえ家が狭くなるっていうのにどこに置くんだよ?」
「場所がないなら作る。――なじむまで時間がかかるだろう。いい身寄せ相手になるんじゃないか」
岳里はそういうと、一度おれがきちっとシートベルトを締めていることを確認してから車を発進させた。
車みたいな乗り物は苦手だけど、岳里は一度として安全確認を怠らなかったし、なにせあの岳里だからと、今ではすっかり慣れてしまった。とはいってもやっぱり岳里以外の運転となると怖いし、バスとかもひとりじゃ乗れないような有様だが、少しはマシになったと思いたい。
以前では考えられなかった、助手席から流れる景色を眺める。ラジオも音楽も何もかけず、ただ車の走る音だけが聞こえた。
「――……明日、だな」
「ああ。ようやく、家族で暮らせる」
「……ん」
明日、だ。明日おれたちはようやくおれたちの“息子”と、こっちの世界で一緒に暮らすんだ。
色々な事情があって今は竜族の里に、十五さんと兄ちゃんのもとに預けていた。でもようやくあいつを迎え入れる条件が整ったんだ。あいつの成長も無事進み力の制御を覚え、岳里のじいちゃんであるカランドラさんからの許可も得ることができた。――本当に、これでようやくだ。
とはいってもちょくちょく会いに行ってはいたし、一緒に暮らせないおれと岳里をちゃんと親だと認識して懐いてくれているけど、でもやっぱり少し不安だった。
ちゃんと子育てできるのか。あいつにとって新しい環境となる。不安にもなるだろう。それを親としてちゃんと取り除けるのか、支えてやれるのか。
おれに、それができるのか。
「大丈夫だ」
少しうつむけば、おれの方へ目を向けてないはずの、前だけを見つめているはずの岳里はそう言った。
おれが見つめても、やっぱり運転中の岳里は前だけを向いている。けれど、しっかりとその口は動いた。
「すぐには無理だが、少しずつ慣れていけばいい。賢い子だから、わかってくれるだろう。何もかも初めからうまくいくわけがない。それにもし何かあれば誰かに頼ればいい。おれたちはふたりだけじゃないんだ」
「……ああ、そうだな。そうだよな。少しずつ、ちゃんと親になっていこう」
すぐにできるなんて、そんなの無理だ。時間はかかるだろう。でも、それでもちゃんとあの子の親になりたいと、そう思う。
運転する岳里の邪魔にならないよう、けれどどうしてもそうしたくて、おれはそっと腕に手を乗せる。
「――あんがと、岳里」
一瞬だけちらりと横目でおれを見て、また何事もなかったかのように前を向く。それをみておれも頬を緩めながら、岳里から手を離して座り直した。
「しばらくはこうしてふたりで出かけるなんてこともできないな」
「だが、三人でもきっと楽しい」
「あたりまえだろ」
明日の今頃にはもう、家で三人机を囲んで。おれのつくったドーナツでも食べているんだろうと思うと、胸にあった不安はどこかへきえてしまった。
『しんちゃん、がっくんっ。これおいしいね!』
おしまい
りるさまリクエストありがとうございました!
時間としては大体ですが、完結から二~四年後(まだ決まってないので…)ほどを想定しております。
話にありましたが、りゅうが真司たちとともに暮らす日の前日になっています。
今回のお話では夫婦(笑)が板についてきた真司と岳里を書けてるといいなあ、と。
余談ですが、りゅうに必要な洋服だの道具だのはすべて既に買って用意してありました。けれどついつい可愛い息子にあれもこれもとなっている親ばかが表せていたのであればうれしいです^^
ちなみに最後のセリフはりゅうの言葉で、無事迎えた明日で親子三人一緒に真司の作ったドーナツを食べているときの一言です。
個人的に、齧ったドーナツを手で持ちながら、食べかすを頬につけてにぱーと笑う、そんなりゅうを想像していました(笑)
少しでもお楽しみいただけたでしょうか?
どうかこれからも当サイトをよろしくお願いいたします!
2013/07/24