ルフィシアンは壊れ物を扱うようにそっと誠士郎を寝台の上に置いた。
丁寧に扱われることなどこれまでなかったし、はじめての状況でもあるため、どう振る舞うのが正しいかわからない。
これからどうされるのか。ルフィシアンを許したのは自分であるのに、運ばれるあいだ、一歩進むたびに鼓動が強くなるのを感じていた。
彼女がいたことはあったが、これまで誰かと肌を重ねたことはなかった。なかなか場所を確保できないことが続き、ささいな喧嘩が原因で、そういう雰囲気になるどころかキスをする前に別れてしまっていたのだ。ましてや今は受け身で、自分が身を委ねることなど想像したこともない。
これだけがちがちに緊張していれば、きっとルフィシアンにも悟られていることだろう。
「服、汚しちゃうから脱がせるね」
「……っ」
咄嗟にズボンを押さえたが、ささやかな抵抗をもろともせず、力ずくで下着ごとすべてを脱がされてしまう。シャツも取り上げられてしまい、誠士郎は一糸纏わぬ姿にされてしまった。晒される素肌を外気が撫でて、熱に火照る身体にとっては心地よいのに、それで羞恥心が収まるわけがない。
抵抗の言葉を噛み殺し耐える誠士郎は、けれども堪えきれずに前を隠してルフィシアンに背を向けようとする。
それよりも早く動いたルフィシアンは、誠士郎の足首を掴み左右に大きく開かせた。
そのまま寝台脇にしゃがみ込んだルフィシアンのもとまで引き寄せられる。
閉じようとしたが、足の間にある顔が邪魔をするあいだに太腿を押さえられ、力に負けてしまう。
こんな格好させられると思っていなかった誠士郎が文句を言うためにくわりと開いた口は、思わぬ刺激の不意打ちに無防備に声を漏らした。
「あっ……ぅあ、え……!? なに、して……っ」
手で隠す自身の下にある双球を唇で食まれ、優しく愛撫される。そこに伝った先走りの跡を舌で辿り、指先に触れると爪を齧られた。
「そ、んなとこ、きたねえだろ!」
「ぼくがしたいんだ。それに、しないとずっとこのままかもしれない」
手の甲にキスをされ、その下に隠したものが求めるようにかたさを増した。
「だからって、そんなこと……っ」
「ねえセイ。手、外して?」
睨むつもりでルフィシアンを見れば、見せつけるようにぴったりと合わさった指の間を舐め上げられる。
それは、誠士郎のようにただベッドに運ばれるだけで緊張している素人には到底出せない男の色気があった。
いつのまに外套を脱いだのか、シャツ一枚となったルフィシアンの上半身は、服の上からでも引き締まっているのがわかる。広い肩幅に、厚みのある胸板。誠士郎を座った状態からでも苦もなく抱き上げられる身体は逞しく、とても頼りがいがあるのを知っている。
顔もよく、これで誠士郎を切り取ればまるで映画のワンシーンのように情熱的に映る。
男としては憧れる身体つきだ。だが、同じ男であるからこそ迫られても受け入れがたい、そのはずだった。
ねっとりと指を舐め上げるあの舌で、自分のものにも同じようにされたら、どんな心地であるだろう。考えるだけでぞくぞく背筋が震える。嫌だとか、気持ち悪いとか、そんな気持ちが一切なくて、ただルフィシアンの舌だけを考えてしまう。
いくら手伝いといっても、それはやりすぎだ。ルフィシアンの善意をそのまま受け止めたとしても、自分は正気でないのだからきっと後悔する。
わかっているはずなのに、少しずつ力を入れた指先が綻んでいく。
ルフィシアンは太腿を放して、誠士郎の両手を退けた。
「っ、ふ……」
隠すものがなくなり無防備に晒されたものが温かく湿った口内に誘われていく。
とろとろと出てくる透明な蜜を舐めとられ、先端の穴を舌先が抉った。
「ん、く……ぅ、ぁは、っ」
未知の快感に耐え切れず、腿でルフィシアンの頭を押さえる。これ以上動かないでほしいという願いとは反対にその場にルフィシアンを固定していることにも気がつかず、誠士郎は首を振った。
「はな、せ、……でるっ」
ルフィシアンはちらりと誠士郎を見上げる。だが望みは跳ね除けられ、さらに奥へ誠士郎を咥え込んだ。
敏感な先端が誘われた喉の奥が搾り出すような動き、きゅっと膨らんだ双球を指先で揉みしだかれる。
魔法に高められた身体が初めての口淫に耐えきれるはずもなく、我慢の甲斐なくルフィシアンの口内に放ってしまった。
掴んでいた敷布を放して、誠士郎は顔を覆う。
「セイ、大丈夫?」
気遣わしげに声をかけてくれるが、応えることができなかった。
それよりも下半身を隠したくて膝をすり合わせようとするのに、ルフィシアンがまだそこにいるのでできない。であるなら、きっと反応したままの誠士郎のものは丸見えのはずだ。
これだけ手伝ってもらっても未だ収まらぬ身体に、口に出してしまった申し訳なさとにと、合わせる顔がない。ルフィシアンに吐き出してしまった欲はその後どうされたのかさえ恐ろしくて確認できなかった。ただ、声音から怒っていないことを知り密かに安堵する。
さすがに勢いは落ちてきているが、それでもまだ身体の奥が燻ったままだ。魔法の影響と知ってはいるが、これまで自分は淡白なほうだと思っていた誠士郎にとってこれほどまで続く熱をどうすればいいかまるでわからない。
世界を渡りこの家に来てしまってからというもの、慣れない生活や本当に帰れるかわからない不安にそんな気分にもなれなかったし、人の家という引け目があって処理を怠っていた。それでも溜まるものは確かに溜まっていたが、ここまで連続の射精はあまりにつらい。
「これでもだめか……なにが一発だあいつめ……」
ルフィシアンがなにか呟くが、いっそこのままでもいいから逃げ出したいと考えだした誠士郎の耳には届かなかった。
「ルフィシアン……からだ、奥があつい。くるしい」
「身体の、奥――」
手の下から絞り出された誠士郎の泣き言に、ルフィシアンは苦い顔をする。
「……セイ、体勢を変えるね」
腰を掴まれたかと思うと、そのままひょいと身体を反転させられた。
ルフィシアンに尻を向ける姿で膝を立たせられ、あまりの姿に湯気が出たのではないかというほど全身が真っ赤になる。しかも今は下半身はなにも纏っておらず、すべてを晒している状態だ。興奮する自身を見なければいけないよりもうんと恥ずかしくて、無意識に臀部に力を入れてしまう。
きゅう、と後孔が締まるのが自分でもわかった。
逃げようにも腰を抑えつけられ、倒れ込んだ上半身がただ敷布を泳ぐようにばたつくだけだ。
「ルフィシアンっ……!」
責めるように名を呼ぶが、誠士郎は二の句を告げる前に口を噤んだ。
「ぁ、っ……なに……?」
とろとろとした液体が下半身にかけられている。
おそるおそる振り返ると、ルフィシアンが小瓶を傾けていた。その瓶から垂れる透明な液体には覚えがあり、蛇の毒で抉れた肉を治すときに使用した回復薬だと気がつく。
あのときのことを思い出して誠士郎の気持ちはすうっと冷えるのに、それでも萎える気配がない。ガヴィはよほど強力な魔法をかけていったようだ。
空になった小瓶を放り、ルフィシアンはつつましく閉じた誠士郎の蕾を指先で突いた。
「ごめんね、セイ。ここにも触れるよ」
「えっ、ぁっ……!?」
誠士郎の拒絶よりも早く、ルフィシアンの指がゆっくりと入ってくる。
毒のことなど彼方へ飛び去り、中を揉む指先に混乱した。
「痛い?」
「いた、くは……ねえけど……っ」
異物感はあるものの、痛みはまったく、すんなりルフィシアンを受け入れてしまう。
これが魔法の効果によるものか、自分にそちらの才能があったのか。はじめての経験では判断がつかない。ただひとつわかることがあるとすれば、腹の奥で燻っていた熱が喜びを上げるように身体に這い出たということだ。
だがまだ身体の内を探るような動きは違和感が強く、求めるものに届かぬもどかしさを覚える。そんな自分を、何考えてんだと心の中で叱咤した。本来入れるべきでないところに異物を入れられて気持ちいいわけがない。
(ルフィシアンはなにがしてえんだよ……っ)
しばらくぐにぐにと押されているうちに、腹側にある一点を指先が掠める。
「あ……ッ!」
思わず飛び出した声に、慌てて口を塞ぐ。しかしこれまでと違う反応を見逃すはずもなく、ルフィシアンは狙いを定めたようにそこばかりを執拗に刺激してきた。
「ん、んっ……んぁっ」
「気持ちいい?」
びくびくと身体が跳ねて、かっと火がついたようにじんわりと汗がにじむ。
誠士郎自身ですら知らなかった内にある快感は強く、身を捩りながら逃げようとするが、今にも崩れ落ちそうな腰を支える大きな手が許してはくれない。
良すぎて駄目と、誠士郎はぶんぶん首を振る。しかしルフィシアンは指をもう一本足して、そこを擦りながら激しく出し入れした。
「んーっ……ぁ、はあっ、ん……ふっ」
足された指は痛むどころか、より強い刺激となり、誠士郎を翻弄する。
手では声が押さえきれずに敷布に噛みつく。歯の隙間から涎が垂れるのを止めることができず、与えられる衝撃さえも受け止めきれず、すすり泣くような嬌声が零れてしまう。
再び限界まで高められた熱を出したい。それなのに、後ろだけの刺激ではあと一歩足りない。
「ふっ、ふ、ぅっ……ん、はっ……」
浅い呼吸の繰り返しで酸素が足りず、ぼうっとしてくる。そのせいで控えめながらも自ら腰を揺らしているのに気がつかなかった。
「セイ、苦しいだろう。声を出したほうが楽になれる」
覆い被さったルフィシアンが、耳元に唇を寄せ囁く。背中に擦れる服に肌をざわめかせつつ、誠士郎は首を振って強く拒否を示した。
前を扱かれているならまだしも、性器でないはずの場所を弄られ耐えられないなどあってはならない。なにより鼻にかかったとろけた声など、あまりに情けなく、自分自身が聞くに堪えないものなのだ。
もう早く終わらせたいと、誠士郎はかたく握りしめていた敷布を手放し自身に手を伸ばす。ルフィシアンに舐められていたせいか、先走りが、これまで出したものなのか、どろどろになったそれを上下に扱いた。
直接的な刺激に歓喜した身体に応え夢中になっていると、淫らな行為に耽る誠士郎に気がついたルフィシアンがその手に自分の手を重ねた。
「あっ……」
片手で誠士郎の両手を握りしめ、より強く動かす。
自分の意志とは違う動きに誠士郎は翻弄された。
「っふ、あ、あっ……あっ……」
次第に声が漏れだしてしまっていることにも気がつかず、誠士郎の意識は白に染まっていく。
「っ、あ、あ……ああっ……!」
いつのまにか三本にまで増やされていた指が爪先で軽く中を掻いた瞬間、呼吸を忘れるほどの快感に息を詰る。
精を放った感覚もわからなくなるほどで、しばらく呆然としていた誠士郎は、孔から指が抜かれ、寝台に横にされても反応できなかった。
ルフィシアンに名前を呼ばれて、ようやく意識を取り戻す。
「あ……おれ、イった……?」
自分の手を見れば、量は大分少なくなったものの、白濁がべたりとついている。
いい加減これでもう終わりだ、と信じたかった。だがそうではないとすぐに悟り、誠士郎は泣きたくなる。
腹の奥の熱、それがじりじりと内側から苛めるのだ。身を捩って掻きむしりたいような、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜたいような、そんな熱くて切ない衝動。ただ擦って出して終わり、なんて表面だけではすっきりしてくれない。
疲れ切ったのは身体だけでなく、精神も同じで、もうルフィシアンに伝えることができなかった。本当にガヴィの魔法だけなのか、もしかしたらそれはただのきっかけで、本当はもとから浅ましい身体だったのかもしれないとまで考えてしまうと、余計にまだ終わりでないことが口に出せない。
身体は正直だ。もじもじと腰を小さく揺らした誠士郎に気がついたルフィシアンは、一緒に横なって正面から誠士郎を抱きしめた。
「る、ルフィシアン……」
「ごめんね、セイ。もうちょっと解すから」
「え……っあ、なんで……っ」
ぬるりとまた後ろの指がねじ込まれ、咄嗟に目の前のシャツを握りしめた。
「やっ……も、それは……ぁっ」
「――ごめん」
逃げようにもルフィシアンに抱きしめる形で拘束をされ、逃げることができない。
にちにちと粘ついた水音を鳴らしながら、先程の誠士郎が善がりすぎてしまう場所は触れず、中を揉むように指を動かしていく。
誠士郎はうわ言のように弱々しく拒否の言葉を続けるが、ルフィシアンは時折励ますように頭に口付けるだけで、宣言通りに時間をかけ誠士郎の身体を解していった。
ようやく指が引き抜かれた頃には、ルフィシアンの服は誠士郎の涎でべとべとになっていて、鎖骨にはくっきりと歯型がついていた。どうしても放してくれないので非難の意味を込めて誠士郎が噛みついた痕だ。止めるまで噛むつもりだったが、いくらでも噛んでいいよ、と言いつつルフィシアンが手の動きを止めなかったので、一個しかついていない。早く解放してほしかっただけで、無用にルフィシアンを傷つけたいわけではなかったからだ。
ルフィシアンの腕から離れ、寝台に寝かされる。
「セイ、あとで殴ってくれていいから」
「ど、いう……ッ」
どういう意味だ、とその言葉は最後まで告げられぬまま、両膝を掬われ驚いて言葉を詰まらせる。
腹を折り曲げる苦しい体勢より、自分に覆い被さった男の苦しげな瞳に心を奪われた。
その持ち主のように爽やかな色をしている緑の瞳が今、様々な感情をないまぜにして暗く濁っていたのだ。
「ルフィシアン……?」
「――ごめんね」
「え――ぅ、あ、あああっ!?」
長い時間を指で広げられた後ろにかたいものが当たった、と感じた瞬間、身体を貫いた衝撃に誠士郎は悲鳴のように叫んだ。
「あっ……う、そっ……なん、で、ッ」
「セイ――」
誠士郎の身体に、そり立ったルフィシアンのものが深く埋め込まれたのだ。
一息に入れられたそれは指とはまるで違う質量と熱で、最奥まで身体がこじ開けられる。
丹念に解されたおかげか、垂らされた回復薬のおかげか、誰も知らず指すら届かない場所まで押し入ったルフィシアンのものはひどく苦しくはあったが、痛みはわずかで済んだ。
だが、心の受けた衝撃は凄まじかった。
「っう、あ、あ……や、ぁッ!」
荒々しい律動に身体ごと揺さぶられる。
ルフィシアンとセックスしている――その事実を受け止めきれない。
しかし身体は疼いていた場所にようやく届いた剛直に、求めていたものはこれだというように食らいつく。浅ましい己の欲望に戸惑いながらも、与えられる悦楽に上擦る声をあげた。
「あ、ぅ……ッんく……ぅっ」
みっちりと埋め込まれたものが抽挿を繰り返すたびに、粘ついた水音と肌がぶつかり合い乾いた音が立つ。耳を塞ぎたいのに、内壁を擦り上げられる感覚に全身は抵抗もできず震えるばかりで、敷布をきつく握りしめるしかできない。
あまりに快感が激しすぎて、髪を振り乱すほど良いのに、良すぎて恐ろしい。
ゆるくだが勃ち上がる誠士郎のものは、ルフィシアンが奥まで突上げるたびに透明な蜜を垂らす。
「ひ……っあ、あ、ああっ……! も、や……ッ」
救いを求めルフィシアンを見上げると、耐えるように寄せた眉の下で、瞳が獣のように欲にぎらついていた。
滲んだ汗が頬を伝い顎に垂れ、そして誠士郎の胸にぱたりと落ちる。
「ゃ、あ……ッ!」
身体を揺する突き上げから逃げようとするが、引き戻され、咎めるようにより深くを穿たれる。
初めての行為はただ溺れるように快感を拾い、ルフィシアンの剛直を咥え込んだところは痛みはない。それなのに誠士郎は、喘ぎままならない呼吸とは別の息苦しさをひたすらに感じていた。
こんな自分は知らない。こんな男は知らない。身体は喜びに震え男に応えているのに、心が追いつかない。
もう何度目になるのか、ぽろりと涙が零れる。それが生理的なものであるのか、誠士郎の感情が溢れ出たものかわからなかった。ただ、もうなにもかもがいやだった。
涙に気づいた男は、雫を吸い唇で濡れた目尻を拭う。それは誠士郎が涙を見せるたびにルフィシアンがくれた優しさだ。そして、自分を抱いている相手が間違いなくルフィシアンであることを示した。
「ルフィ、シアン……?」
「――っは……セイ……っ」
詰めた息とともに名前を呼ばれ、じわりと心に熱が染みた。
「あ……ルフィ、シアン……っ」
まるで欲情しているように熱く自分を見つめる男は、間違いなくルフィシアンだった。そんな当然なことを思い出したら、ルフィシアンを受け入れている後ろがぎゅうっと締まる。
ルフィシアンは一瞬きつく目を閉じ、溜めた息を吐き出す。
「っ、ごめん、セイ。きっとこれで終わるから……っ」
「あっ、あっ……ッああ、ルフィシアンっ」
意図せず零れる嬌声の合間に、必死に名を呼ぶ。それに応え、ルフィシアンも誠士郎を呼んでくれる。
眼前で舞うように煌めく金色の髪はこんなときでさえ美しい。
敷布を掻き乱していた左手を伸ばすが、力が入らずすぐに落ちそうになる。それをルフィシアンが掴み寝台に押しつけた。
艶めいた誠士郎の声に重なり、互いにつけた金の輪が、繋ぎ合った手の下で激しい律動に合わせ鳴り響く。
「セイ、ごめん出すよ……っ」
「ひっ、ぅあ、あ――ッ!」
目の前が真っ白に弾ける。繋いだ手が軋むほど強く握りしめ合いながら、誠士郎はぎゅうっと身体を丸めて数滴分しか形ない欲を吐き出した。
奥のほうで温かくひろがる熱を感じながら、誠士郎の意識はゆっくりと沈んでいく。
「――ごめんね、セイ。ごめん」
ルフィシアンの声が聞こえる。息苦しそうに何度も謝りながら、汗に張りついた誠士郎の前髪を後ろに流した。その手はさきほどの荒々しさを感じさせることなく、とても丁寧で優しい。
折角言葉が通じているのに、こんなことになってしまい、ルフィシアンは謝ってばかりだった。悪いのは無断で魔法を使用したガヴィであってルフィシアンではない。それどころかこんなことにまで付き合ってくれて申し訳なさを感じているのは自分のほうなのに。
(起きたらまだ、話せっかな……)
本当に言葉が通じるようになったのか、朦朧としていたので確実な記憶と言われればよくわからない。通じていてほしいと誠士郎が願った結果の幻聴だったか、ガヴィの魔法が見せた幻の可能性だってある。
なんだっていいが、今のルフィシアンはこのまま消えてしまいそうなほど儚く思えたのは真実だ。
話したいことが、聞きたいことがたくさんある。会話ができたとしても、もしまたなにも言葉がわからなくなってしまっても、すべてはルフィシアンがいなければ意味がない。
だから誠士郎は、完全に意識が落ちる寸前に、絡めあった指が離れないようにと力を込めた。