今回はケイトさんの片親であるソウさん視点です。(ソウさんにつきましては菜月さまの他作品『薬師ケイ~真実~』にて)
※Desireメンバーは出ておりません。
以上をお踏まえの上、菜月さまの世界をお楽しみください
◇ずっと傍に◇
満月の数時間しか咲かない花を見ていた。
小さな蕾がゆっくり開いてやがて満開になった時にした人の気配。
それは随分昔、自分を抱き締めてくれた気配に似ていて。信じたくて、でも失望したくなくて振り返れない。
やがて足音が響いて直ぐ傍で止まる。
「…ただいま、奥さん」
振り返って見た彼の姿は見知らぬ顔であっても不思議じゃない。
それなのにどういう訳なのだろう。
琥珀の目も同色の髪も見詰める目の甘やかさも、見上げる位置にある、穏やかな表情すらあの時のままで。
まるで時間が止まったかのようで。
「…遅過ぎだ」
言葉より先に伸ばした手は空を切った。
何故なら相手の腕が自分の腰に回るのが早かったから。
泣くなと囁かれ目尻の涙を舐め取られ頬を指で辿らる。そんな仕草さえ忘れたと思っていたのに、身体はしっかり覚えていて懐かしさを感じた。
「見れば分かると思うけど」
「…うん」
「もうとっくに生まれたんだよ。君に似た男の子」
「俺に似てるなら男前に違いない」
そう言い切るケイは少しだけ抱擁を緩めて、俺の下腹部を見た。
離れた時には膨らんでいた腹は既に平たい。
当たり前だ。何年も何十年も前に身体は戻ってる。
生まれた子はケイそっくりで。愛しいのに切なくて泣きながら育てた。
ケイの名を呼びたくて我慢できずにケイから名前を貰って、ケイトと名付けた。
真っ直ぐに育ったケイトに名付けの理由を話したけれど、あの子は嬉しそうに笑ってくれた。
『それだけ仲が良い二人の間に生まれて来れて良かった』
そう告げて『ケイ』呼びをも承諾してくれた。
「…もう泣くな。もう居なくなったりなんかしないから」
「信用出来ない」
「それなら、しなくて良い。…これからは離れずに証明するだけだ」
重ねた唇だけじゃ足りなくてもっと、と伸ばした手はしっかりした愛しい人の手が強く受け止めてくれた。
…その後寝室にて。
「獣人?」
「そう兎の。力が強くて助かるんだ。ケイトが世話になってる人の所に色々届けて貰っていてね」
「…いつから?」
「えーっと…ケイトが家を出てからだから…」
「世話になってる人には挨拶をしなければならないね。…その兎君には、特に」
それは再会して一番低い声での呟きだった。
でも正直いって上手く聞き取れないまま…俺は愛しい人に溺れていった。
「殺気!?」
この瞬間。
随分離れた場所に居たにも関わらず、該当の兎の獣人は刺すような視線を感じ身を震わせた、らしい。
殺気の正体は後日明らかになったとか。
end
今回のお話は、三周年記念企画で菜月さまより頂いたリクエスト作品、『赤月の夜』にて出てくる恋人たちの誓い、が関連しているそうなのです!
というのも、ケイさんとソウさんのお二人が赤い月の夜に「絶対帰る」「ずっと待つ」と誓いを交わし別れたそうなのです。
そして、再会は果たされるもその誓いを交わしたずっと先の未来の事で。
それが今回のお話となるわけですね。
菜月さん、ありがとうございました!