◇イフストーリー◇

以前菜月さまにいただいた『sweet』にて登場しました、菜月さまのオリジナルキャラクター、ケイさんの『もしも』のお話です。(※Desireのメンバーは出ていません)

もしも、シュウさん(例の九番隊の彼)との恋が実ったら。
ぜひきゅんっとしてください(笑)


 

◇イフストーリー◇

昔から、感覚は鋭い方だったと思う。
気配には気付く方だった。決して…鈍感な方ではない。
街には色々な奴らが居て様々な好みや嗜好を持つ奴らがいる。
そんなの解ってた。
この世界では女性が少ない。それ故か、同性同士で纏まる奴らもいる。
別にそれに関して特に思うことはない。人に迷惑を掛けない範囲なら構わないと思うし、実際私が想いを寄せているのは男だ。
成長期の途中で負った怪我のせいか、ただ単に遺伝子の都合かは解らないが、私は小柄な部類に当たる。
小柄だと力がないと勘違いするバカも世の中にはいる。
走れないという現実を思い知った時から、面倒な奴らには極力近寄らないようにしていた。
そういった奴らが居るような場所には近寄らないようにしていたし、余り遅くの外出は控えていた。
大きな気配も避けるようにしていたのに。
護身の為にと、あれこれ気を付けて行動していたが、今夜は運が悪いらしい。
1日の仕事を終えた後、頼まれて届け物をした。
今はその帰りだ。
普段通らない裏路地とはいえ、そう遅くはない時間帯。
それなのに、今此処には私と奴ら以外には誰も居なかった。
私の前にはどう見ても飲み過ぎた感のある、見知らぬ奴等が道を塞ぐ形で立っている。
カラフルな髪をした縦より横のがありそうな奴らは3人。
此処は裏路地。人気など無いも等しい。

「俺らと遊ぼうぜ」
「なぁにやさしーから心配要らないぜ?」
「満足させる自信あるからさ~」

ヘラヘラしている奴らからは何とも頭の悪い言葉が吐き出された。
そんなもの望んでない。
どう切り抜けようか、頭は既にフル回転してるが最初に掴まれた腕が地味に痛くて集中出来ない。
向けられる粘ついた視線に肌が泡立つ。
あからさまに向けられる欲情の眼が堪らなく、気色悪い。
駄目だ、吐きそう。生理的に受け付けない。
一対多数のこの現状じゃ恐らく逃げ切れない。
貞操を守ってきた、という訳ではないがこんな場所でこんなガタイの奴らに輪姦されんのが初めてって。
…流石に無いだろ。
この身体に触れるのを許せるのはたった1人であり、それはこいつらではない。
失恋したばっかでその可能性も無い今、私が触れて欲しい人は皆無だ。

「なぁに黙ってんのかなぁ?」
「怯えちゃってんだよ可愛いなぁ」

無理矢理引き寄せられ、強くなったのは酒の匂い。
…勘弁してくれ。
我慢できず、反射的に私は…私の腕を掴む男の腕を掴み逆に捻りあげた。

「いっ…」

油断していたのだろう男の首筋に、解放された方で手刀を作り叩き込む。
すると呆気なく奴はその場に倒れた。
まず1人。

「てめぇっ」
「この野郎っ」

私の胸元に手を伸ばそうとする男の手を、その勢いと力を利用してひっくり返す。途端に鈍い音が辺りに響いた。
思ったより力は要らないのだと、聞いていたが本当だったらしい。
まあ多少、手は痛いけれど仕方無い。
何とか2人は気絶させられたが時間の問題だ。

「逃げられると思ってんのかオラッ」

3人目はいきなりナイフを取り出すと鈍く光るそれを私へ向ける。
咄嗟に一歩後退するも、倒れていた奴らに足を取られ転んでしまった。

「っと、逃がさねぇよ?」

奴は俯せに転がった私の顔ぎりぎりに刃を突き立てた。刃が私の顔側に向けられている。
笑った気配の後に、もう一本隠し持っていたらしいナイフ?で生地が裂かれる感触と音がした。
上衣が裂けたらしく布が身体に纏わりつく。肌に空気が触れる感覚に寒気を覚える。
…うわ。何だよこの手慣れた感じ。
冗談じゃねえ。刃物こんな風にしたって脅しになんかならねえよ。ちょっとくらい顔が切れたって死にはしないんだし。
身体を弄ろうとする奴の手が切れた衣服を掻き分けている。それから逃れようとしていた時だった。
唐突に第三者の気配が乱入した。

「一つ聞く。同意か?」
「…んな訳あるかっ!」

この状況で同意ってどんな変態だっ。
そう響いた声音は聞き覚えのあるものだと後れ馳せながら気付いた。
咄嗟に言い返した私の台詞が終わるかどうかのその合間。
唐突に身体が軽くなったと思ったら絡んできてた酔っ払いが消えていた。
…助かった。
突き立てられたナイフを避けて身体を起こすと、視界にはやはりシュウの姿。
腕を組み、私と酔っ払いの間に立っていた。
そのシュウの眼が私を捉え僅かに眼を眇める。
口角は上がり一見すると笑顔なのに…眼は笑っていなかった。
見たことが無いそんな表情に思わず息を呑む。
そのまま私に背を向けるとシュウは酔っ払いへと向き直った。

「なんだお前っ」
「人に名前を聞くなら、先に自分から名乗らなきゃダメでしょ?」

途端、周囲の気温が下がったように感じた。
勝負はあっという間だった。
片や酔っ払いのゴロツキ。
片や鍛錬積んでる隊員。
酔っ払いを気絶させたシュウは、転がってる奴らに向かい奴を放り投げた。

「…怪我は?」
「無い。服だけ」

何時もと様子が違うシュウに思わず敬語を忘れた。
近寄ってきたシュウが私の肩に上着を掛けてくれた。仄かにシュウの匂いがして、現金にも心臓が跳ねてしまう。

「有り難う」
「行くぞ」

子供のように手を引かれ、無言のまま家へと向かう。
暫く歩くと、チラホラと人が居た。
それに安心して息を吐く。
もう裏路地は止めよう。
結局シュウは戸口前まで送ってくれた。

「それじゃ…」

そう言って手を離そうとするが、逆に力を込められた。シュウの気配が近付く。

「何で助けを呼ばなかった?」

青い眼が私を捉えた。
今までに無い至近距離での問いに驚く。
離れようにも、背後は扉で前にシュウがいる状況だ。

「悲鳴すら上げてなかっただろ。あの時店主が俺に声掛けなかったらお前ー…」

どうやらシュウは、私が寄った店の店主に頼まれて私を追ってくれたらしい。
店主に感謝しつつ私はシュウに笑う。

「大丈夫、何とかなってましたよ」
「なってねえから裂かれてんだろ」

間髪入れないシュウの言葉は心なしか鋭い。
正論過ぎて返す言葉もなく、青い眼を見返せず俯いた。
何でこんな状況になっているのか全く分からず、答えられない質問に口を開けない。

「ケイは誰にも頼ろうとしない。あんな時ですら声を上げない。…ダメだろ」

ふわりと香るシュウの匂いと、いつの間にか腰に回されていた腕に引き寄せられた。

「な、んで」

優しく抱き込まれて、漸く気付いた。自分の手が細かく震えていることに。
優しい抱擁。
それの意味が分からなくて意を決して顔を上げると。
青い眼が私を見ていた。強い眼差しは、まるであの時の…岳里を見ていた時のそれで。
次第に落ち着かなくなってくる。
何で?
…どうしてシュウがこんな眼で私を見てる!?

「離せっ」
「聞けない」
「何でいきなりこんな事っ」
「あのさケイ。感情って変わるもんだと知ってるか?」

ゆっくりとした口調でシュウが囁く。

「俺は確かに岳里隊長に惚れてた。でもさ、隊長には大切な奴が居た」

だから、恋愛はもう良いから剣に集中しようとしたのだと彼が語る。
でも出来なかったのだと、笑うシュウ。

「俺、自分に向けられてる好意に気付かない程鈍感じゃない。ましてやそれが知った人間のものなら尚更」

小さく笑ったシュウが不意に背中を指で撫でた。
唐突過ぎるそれにビクつく私を宥めるようにゆっくりと、古い傷跡を服越しに撫でられた。

「一生懸命前を向いて生きてるケイを改めて知ったらさ。…傍に居たくなったんだ」
「だけど私は…」

私ではシュウを守れない、と言いかけた。
でも。シュウは言わせてくれなかった。
抱き込む力を強くされシュウの肩口に顔が押し付けられた。

「俺は我儘だから…ケイを独占したい」

顔が熱くなる。
好きな人に必要とされることがこんなに嬉しい事なのだと、初めて知った。
与えられた独占権はきっと生涯有効。
その日から私は1人で帰ることが無くなった。
そして守る、という方法が色々あるのだということを知っていった。

END

頂きもの


向梶が、シュウさんはケイさんの背中の傷を知っていたのか? という質問にお答えをいただいていたので、そちらも載せさせていただきますね。(ほぼ菜月さまに送っていただいたものを掲載していますが、多少手を加えさせていただいています)

月光以降、岳里と真司がくっついた後→剣に生きようと考えるも中々集中仕切れない→とあるアクシデントによりケイの背中目撃→ジィグンの懐かしむような言葉を耳にする→不思議に感じジィグンに聞くがはぐらかされる(箝口令の為)→それとなく城内でケイを見ると何名かは優しい眼差しという現実に気付く→頑固おじいちゃんに突撃→飲み比べに発展→勝って話を聞く→おじいさんパートナーも補足(因みにこの方が頼まれ物受け取り先の店主)→(ジィグンに聞いた頃からケイを)見ていて気付いた己へ向けてくる健気な眼差しと、人を頼らない危うさ→支えたいという想いに発展→イフストーリーへ。

 

菜月さん、本当にありがとうございました!