◇ファースト・クリスマス◇

今回はDesire完結後の真司と岳里の二人を想定して書いてくださいました!(※ネタバレはありませんが、苦手な方はご注意ください)

以上をお踏まえのうえお楽しみください


◇ファースト・クリスマス◇

リビングには小振りのクリスマスツリー。
それだけで、日常が非日常になったような気がする。
街中はすっかりクリスマス一色でどこもかしこも華やかだ。
照れくさいような嬉しいようなそんな感じで、いつもより気持ちが浮き足立ってるようにも思う。
いつもは兄ちゃんと2人のクリスマスだったけど今年は違う。
去年と違っておれも兄ちゃんも、それぞれ別に過ごす人が出来たから。
兄ちゃんとおれは家族。でもおれと岳里、今はここにいないけど息子のりゅうも家族だ。
今年だけで沢山の家族が出来た。
兄ちゃん達は出掛ける事になったようで、少し前に欲しいものを書けと紙を渡された。…特に欲しい物もなかったから、そのままにしてあるけど。
今年はクリスマスを理由に大きなケーキを焼いて、クリスマス仕様の料理を作る予定でいる。全部は無理だから出来る所だけ。
いつかはりゅうを迎えて三人でになる。それはそれで幸せだけ
ど、岳里と二人で過ごすクリスマスも楽しみにしている。

 

 

「野崎。一体どうしたんだよ」

目の前にいるのはバスケ部、部長の高遠だ。マネージャーとの打ち合わせに出向いてきたこの教室で、様子がおかしいと声を掛けてきた。
心配そうにおれを見ている。

「別に」

返した声が予想より尖っている自覚はあったけど、今更直せなかった。
そんな高遠を窓際に居る藤里が気にしてみている。その藤里の隣には岳里が居て、岳里はおれをじっと見ている。
突き刺さるような目線。でもおれは気付かない振りをする。
…岳里が悪い訳じゃない。確認しなかったおれが悪い。
でもまさか岳里が、クリスマスに予定を入れているだなんて思わなかったんだ。
帰宅は夜だという。
しかも九時過ぎ。
それだと少ししか過ごせない。
…些細なことだと思う。それでも今は、岳里を見たくなかった。

 

 

クリスマスイブ。
おれは1人でテレビを見ていた。
テレビの中はクリスマスの特番ばかりで、みんな笑ってる。
ケーキは焼いたけどご馳走なんて作る気になれなくて、結局いつもと変わらない物が冷蔵庫に入ってる。
溜め息を一つ。
あの日から岳里は帰宅が遅い。
理由も聞かないで無視したおれは、何かを話そうとする岳里を避けたから未だに理由も知らない。
子供みたいな意地を張り過ぎたと反省する気持ちはあるけど、岳里を前にすると素直に話せない。
もう寝てしまおうと寝室へ入りかけた時、乱暴に玄関の開く音がした。
急いで此方へ向かう足音がして程なくおれの目の前に岳里が姿を現した。
視線が交差し重なった。

「…真司…っ」

岳里の手が伸びる。
咄嗟に避けようとしたのに身体能力格上の岳里に適う筈なんてなくて。
次の瞬間には、強い力で抱き締められていた。

「岳里苦し…っ」
「……足りない」
「は?…ちょっ!?」

何かを言う前に岳里に唇を奪われて一方的に貪られていく。
おれは怒っているのに。
ひとりの時間は嫌いなのに…ひとりにした岳里を、許してないのに。
濃厚過ぎるそれに力が抜けた頃、漸く岳里が唇を離した。
そして片腕でおれを抱き込んだまま、右腕に何かを填めた。
見ると見覚えのない高価そうな時計が付いている。

「初めて過ごすクリスマスに、記念に残る物を贈りたかったんだ」

岳里が自分の腕をおれに晒す。そこにはおれのと揃いの時計がはまっていた。

「そこまで高価な物じゃないけど今のおれの精一杯。お前と揃いの物がどうしても欲しくて、自分で稼いだ金で買いたかった。だからバイトした」

耳元で囁かれる声は聞き慣れている筈なのに甘く響いて。
背中がゾクリと震えた。

「予定より資金が足りなくなって、バイト延長した。でもそれのせいでお前に寂しい思いさせた。…ごめん」

言葉と同時に岳里の片腕がおれの腰に回った。
岳里にはおれの気持ちはお見通しだったようだ。
初めて二人で過ごすクリスマスイブ。
俺達はお互いに自分の我を通してしまった。
岳里の話の後おれ達は寝室で、…触れるだけのキスをしてから寝室を出た。
ツリーが飾ってあるリビングで食事をし、岳里仕様の大きなケーキを2人で食べた。
おれも寂しかったけど岳里はもっと辛かったと言い、クリスマスが終わっても冬休み中ずっと傍にいた。
きっとそれをおれが望んでいる事も、岳里は分かっているのだろう。
きっと来年はもっと幸せに過ごせるようになる。
おれはこの先ずっと岳里と一緒なのだから。

end

頂きもの

 


菜月さまからお伺いしたのですが、時計のお揃いは何処でも付けられるのと家事に追われる真司の為、そして「同じ時を刻んでいく証」になるかと思ってだそうなのです。
その時計のために、深刻な真司不足になってまで岳里はバイトを頑張ったわけなのですね!

菜月さん、ありがとうございました!