◇琥珀◇

菜月さまより頂いた他作品を、『月光』→『独白』→『硝子細工』の順で読んでから、今回頂いた『琥珀』を読むことをお勧めいたします。
今回は『硝子細工』にて初登場しました店主さまの視点です。
しかも前回の硝子細工にて存在していた疑問が解消される、お爺さんと店主さまの過去のようです! もちろん、“あの子”のことも……

店主さま→シリウス
お爺さん→レオンハルト
上がお二人の名前になります。
※Desireのメンバーは出ていません。

以上を踏まえたうえで、菜月さまの世界をお楽しみください



◇琥珀◇

生き写しとは、まさにこのこと。
初めてその青年を見た時、その顔にその細身の体躯に息を呑んだ。
偶然なのか運命なのか。
名前も一致していた現実に、俺は勿論レオも動揺していた。
あの時レオを庇い、…結果的には命を落としてしまった兄貴のような存在だった彼。
彼に酷似した青年は行動まで似ていたけれど、青年は騎士を目指していたという。
…もしかしたら本当に生まれ変わりなのかも知れない。
そう思ってしまう位には、俺もレオも歳を重ねていた。

 


「大変申し訳有りませんが…」

眉を下げ、辛そうな顔をする門の前に立つ番人。
無表情を貫けない位には優しい性格なのだろう。
華奢な体躯とはいえそれを背負っているのは歳を重ねた老人。
それを断るのは、普通の感覚をしている者であるならば辛いだろう。
…けれど。言われたレオの表情がすうっと消えた。
そしてカタカタと僅かに肩が震える。
庇われる苦しみは俺には分からない。けれど、全部は無理でも軽くはしてやりたい。
そんなレオの肩へそっと手を伸ばし傍らに立つ。
そうして兵を見据える。

「……っ」
「また来ます」

低く伝えレオを促した。

「…はい」

細い返答。
兵は来るな、とは言わなかった。
『イチ国民が来る場所ではない』等と言う威圧もない。
この兵が権力者に従属している訳では無いのか、この国の主がそこまで権力を振り翳さないのか。
あの国とは根本的に違うのだろう。無意識にほっと息を吐いていた。
そうであるならば。腐った国でなければ何れ報告は行くだろう。
けれど来させるのは後一度だけだ。
これ以上城に通わせるのは…レオが保たないし青年の…ケイの身体にも良くない。
治癒術に関しては…他国に当たってみた方が良いのかも知れない。手遅れにならない内に。
共に並んで家路を辿りながら自分を責めているだろうレオの、心を軽くする為の策を講じた。

 

 


俺がレオと出逢ったのは、まだ十代の頃。
その頃薬師を目指していた俺とレオを引き合わせたのが、ケイだった。
琥珀色の髪と少し大きめな眼の童顔な彼は、俺の身内であり兄貴分でもあった。

「彼がレオンだよ。口は悪いけれど腕は確かだから安心するといい」

薬草を煎じながら明るく言い放つケイ。
初めて見る白銀の髪は横に緩やかに束ねられている。深い藍色の切れ長の眼が此方を見た。
魔術師として才能溢れると噂の彼だ。
切れ長の眼とバランスの取れた綺麗めな顔立ちにそこそこの上背。
…その時のレオンは既に成人していて俺より背も高かった。

「アンタがケイの弟分?」

けれど、そんな綺麗な顔立ちから飛び出た言葉がそれだった。
ガラ悪っ。
呆気に取られた俺を前に、にこやかに笑ったケイが手にしていた棒の反対側を容赦なくケイの頭へ振り下ろした。

「いってえ何すんだケイッ!」
「…レオンハルト。挨拶はキチンとしないと失礼だ」
「痛ぇ!たまには年上を敬えっ…て、痛たたっ」

にこりと笑った顔からは威圧感がチラホラ。

「親しき仲にも礼儀あり。年上だからと礼儀を欠くのは恥ずべきこと」

言いながら、薬草を煎じていた棒(裏側)で器用にレオのこめかみ辺りをグリグリと突いている。
どうやらこの三人の内で、一番小柄で年下のように見える彼が一番怒らせてはいけない存在だったらしい。

「…ったく、面倒くせえな」

ぶつぶつ良いながらも、その綺麗な眼を俺に向け…僅かに下がる目線が悔しい…彼は居住まいを正した。

「私はレオンハルト。ケイとは酒場で知り合った。宜しく」
「俺はシリウスといいます。宜しくお願いします」

綺麗で澄んだ深い藍色の眼に惹かれたことに気付いたのは随分後のこと。
聞き取りやすい声音を心地良く感じた。
あれから間もなく、偶然の出来事で召還師としての才を見出された俺は、その修行の為少しだけケイの元を離れた。
…あの時どうしてケイの、そしてレオの傍から離れてしまったのだろう。
後悔は尽きないが、俺が離れていた僅かな隙にレオがあの領主に会ってしまった。
領主は強引にレオを自分の元へ来させようとして、手を変え品を代えレオに近付いた。
そしてあの日。
久々の休暇を得て、ケイやレオに会いに行った俺が見たのはー…。
領主自身も身に余る魔術を用いて街を、国を混乱に導いた。
何処にでも居る自分が一番偉いのだと勘違いしている権力者。
何人もが怪我を負い建物は破壊されそして。
領主が暴走させた魔力を相殺したレオは一番無防備だった瞬間を狙われて。
近くでレオを補助していたケイが咄嗟に庇い深手を負ってしまった。
この国で医術、治癒術は権力者だけのもの。金のある者だけが受ける権利を有する。
諦めたくないレオは何度も権力の元へ赴いたが誰も話すら聞かなかった。
中には甘い言葉でレオを騙し、関係をもとうとした馬鹿も居たが、朦朧とする意識の中からのケイの言葉と俺がレオを止めた。
そうして。兄貴分だったケイは儚くなった。
それからレオは権力者を厭うようになり、ある日突然姿を消した。
存在したことが嘘だったように何もかも無くなっていた。
…ほんの一欠片の痕跡すら残さずに……。

 

 

これが最後の訪問だと決めたその日。
その日漸く治癒術を受けることが出来た青年。
一度は安堵しレオは顔を僅かに綻ばせたが、治癒術を施した者から話を聞くたびに表情が強張っていく。
そんなレオの肩を抱き、俺はケイに眼を落とした。
………数日前。
ケイを調べに来た者が居たらしい。
俺は比較的情報が入りやすい飲食店をやっているが、俺にそれを知らせてくれた者も複数存在する。
レオを捜していた時に知り合った何人かの仲間はこの国にも居る。
再会したレオは名を変え姿を変え職さえ変えていた。
レオを見つけ、再会するまでの間。
もう二度と逃がさない為にあらゆる手を使った。
もう二度と離すつもりは無い。
…それは今も。
ケイの周囲を探る者の何人かはレオの事も知ったようだから油断は出来ない。
二度と歩けないと言われたケイが治癒術を受け、時間をかけ歩けるようになって。
見守るレオの表情が和らいだ頃、俺はケイに調理の基本を教えて欲しいと頼まれた。
危うい影もあるけれど、何かに集中している内は大丈夫だろう。
そう思った俺はわざと高度な技術を教えていった。
そうすれば当面は余計な事を考えずに済む。
…いつか。
どうしようもなくケイが危うくなったら。
ケイを大切にする獣人を召還してみようかとも思っている。
契約がある限り必ずケイを護るだろうから。
…そうすれば。
ケイの事ばかりで頭を一杯にしているレオを今よりは独占出来るだろうから。

END

頂きもの

 


どうやらレオンハルトさんは魔力が強い影響から本来の外見年齢は非常に若い(長生き血筋でもある)そうなのです。
ですが追われているため、魔術を用いた変装をし、現在お爺さんの振りをしているらしいのです。

事件後日に姿を消してしまったレオンハルトさんをシリウスさんが見つけ出したのは10年後だそうで、つまり、10年越しの再会を果たしたようなのです
シリウスさんの執念を感じますよね、とっても素敵です!

菜月さま、今回もありがとうございました!


ここからは世界ディザイアにおける、召喚師のご説明をさせていただきます。
始めに前置きとしまして、まだ召喚師に関しては本編に出ていないこともあり、内容が変更されることもございますのでご注意下さい。

召喚師とは、獣人たちを『獣人の世界プレイ』から召喚する手伝いをする方です。主となる人物がいるだけでは獣人は召喚できません。

召喚師は魔術師と似ていて、魔力の性質が多少異なり(大差はないため、その力は魔力とひとくくりにされている。治癒力の場合は明らかに異なるため、別に区別されている)、さらに所有するその力が多い人が召喚師の資格を持ちます。
簡単に説明してしまえば、召喚師の魔力が召喚に必要な材料というわけです。ほかにも人一人を形成するわけですから道具が必要ですし、特殊な魔方陣、そして獣人の主になる人物、そういったものを揃えて初めて召喚が可能になります。

ただし召喚には例外があり、召喚師としての才能、実力によっては多少何か道具(特殊な魔方陣とか)を省いて召喚できる場合もあります。

ある程度の条件を揃えれば、実は召喚はそう難しい儀式ではありません。
ゆえにルカ国では王に認められた召喚師以外が召喚の儀式を行うことは許されはいません。
しかし世界には違法な召喚を行い、主に逆らうことのできない獣人の心血の契約を悪用する者もいます。強制労働等、奴隷のように獣人を利用するためです。
(例として、ネルは違法な召喚によりディザイアを訪れた獣人の一人であります)