舌を伸ばしてきたナギは、下唇の裏を撫でてわずかに顔を離した。追いかけようとした龍之介を二人の間に差し入れた指先で制した。
「ナギくん……?」
ベッドの上でナギに重なるよう上にいた龍之介はしぶしぶ顔を上げる。
ストップをかけられて不服そうだ。
熱い息を吐き出しどうにか堪えているが、その瞳はナギを求めてやまないことを切々と訴えている。一心な想いは純情であるのに、相反する煮えたぎるような劣情が、暗がりで身を潜めて獲物を狙う獣のようにぎらついていた。
続きをしたがっていると知りながら、ナギは龍之介に手を伸ばし、下唇をめくって覗きこむ。
「ざらざらしてますね」
先ほど舌で撫でたそこを指先でなぞる。いつも滑らかな場所は赤くなり、すこしばかり腫れているようだった。
「ちょっと火傷しちゃって」
肌寒い季節となり、出される飲み物は暖かいものであることが多くなってきた。今日の現場で用意されたホットコーヒーを飲んだとき、さして熱いと感じなかったが、気がつけば唇の裏の皮が少しだけ爛れてしまったようなのだ。
唇をつままれながら話しにくそうに説明した龍之介に、ナギは再びざらついた内側を撫でた。
「ふふ、痛いですか?」
「ちょっとヒリヒリするだけだから、大丈夫だよ。だから――」
指先にかわまず顔を寄せてきた龍之介を、微笑みながら受け止める。それでも下唇の内側ばかり触れようとするナギに、深いキスをしたがる龍之介だがうまくいかない。垂れてきた涎が顎に伝い落ち、興奮する吐息が鼻の下にかかり肌が湿る。
「ふふ……あ、は……っ」
必死にナギを求める龍之介の様子に、つい笑みがこぼれた。それがおもしろくなかったのだろう。龍之介は目をすがめると、ナギの顎を固定して弧を形作る口に舌をねじ込んでくる。
貪られるような激しいキスのなか、いつのまにかあれほど気になった火傷のことも忘れて、ナギは龍之介の首に腕を回してそれに応えた。
おしまい
2018.11.9