これまでの、これからの。

※ ぬるいですが、R18


 

 何度もキスを繰り返しながら、龍之介はナギの、ナギは龍之介の服をそれぞれ少しずつ脱がせていく。
 互いに下着だけになった頃にようやく唇を離して、龍之介は髪を乱して口元を濡らしているナギの艶っぽい姿に目を奪われながら、おずおずと申し出た。

「ナギくん。今日はこのままいれてもいいかな……」
「――いいですよ」

 それなりの覚悟を決めていたのに、あまりにあっさり承諾されて、拍子抜けしてしまう。

「い、いいの?」

 昨日にも二人は甘い夜を過ごしていた。それ故にまだ中が多少は解れているだろうから、可能ではないかと思っての提案であったが、それでも受け入れる側のナギの負担はかなり大きいのは深く考えずとも予想がつくことだ。
 正直、なにを馬鹿なことを言い出すのだと一蹴されてお終いだと思っていた。それをまさか、許可が出るなんて。

「アナタが言ったのでしょう。でも、さすがになにもせずにはいきませんから」

 枕元に転がっていたローションのボトルを手にしたナギは、ためらいもなく下着を脱ぎ捨てた。驚きに凝視する龍之介を気にする様子もなく、自らそれを後ろに宛がい、自分の中にローションを仕込む。
 中が濡れていく感覚はあまり心地いいものではないと以前ぼやいたことのあるナギは、やや眉を寄せただけで、役目を終えたボトルを適当に放った。
 てっきり拒否されるであろうことを想像していた龍之介は、あまりにとんとん拍子に進む様子をただ眺めるばかりしかできない。
 手短に準備を終えたナギは龍之介を押し倒し、上に跨がった。
 すっかり期待にはちきれんばかりに膨らんだ龍之介のものが、ナギの手によって窮屈な下着の中から飛び出す。まるでいい子だと言わんばかりにつるりとした先端を指先で二度撫でてから、ナギはそれに手を添えて膝を立てた。
 後孔に宛がわれて、いよいよだと言うとき、龍之介はナギの腰を掴んで動きを制した。

「ま、待ってくれ! その、あとは俺にさせてくれないかな」

 自分がうろたえている間にここまでの準備をすべてさせてしまったが、もともとは龍之介が言い出したことである。できれば自分の手でナギの体を開いていきたい。
 ナギは片眉を上げはしたが、許してくれたようだ。握っていたものを手放して、龍之介の隣にころんと転がり仰向けになった。
 体を起こし、今度は上になった龍之介に挑戦的に微笑む。

「丁重にしてくださいね」
「もちろん。絶対に傷つけはしないよ」

 抱え上げた膝の右側に軽くキスをすれば、ぴくりと脚が震える。くすぐったかったのだろうか。愛らしい反応に思わず頬を緩ませれば、キッと睨まれ慌てて顔を引き締める。

「――それじゃ、いれるね」

 ゆっくりと慎重に、腰を押し進める。いつもよりも狭く感じる蕾はかたく龍之介の進入を拒もうとするが、中を濡らすローションのぬめりに助けられながら、少しずつ開かせていく。
 慣らしていない自分の中に入る龍之介のものを懸命に受け入れようと、ナギはきつく目を閉じた。

「っは……ぁ……」

 かすかにこぼれた声は苦しげだ。
 龍之介は手を伸ばし、かたく結ばれたナギの唇をなぞる。

「ナギくん、息を詰めないで」
「りゅ……んっ……」
「ゆっくり、吸って。吐いて」

 龍之介の声の指示に従う呼吸に合わせて、ナギへと自分を沈めていく。
 次第に、まだキスくらいしかしていなかったナギの体が高まっていくのを感じた。
 吐き出す息には熱がこもり、龍之介を拒むばかりだった体の内側が、剛直の感覚を思い出したのかさらに奥へと誘うように自らのみこもうと蠕動を始める。よいところに擦れるのか、時折腰が跳ねて、逃げたそうにするのを押さえつけた。

「ん、っ……ふ……」

 体をくねらせ、挿入される衝動を逃がそうとする。龍之介の首に腕を回し、爪を立てたそうに肩に指を食い込ませた。

「もう少しだから、がんばって」

 汗ばんだ額にキスして励ます。言葉を返すではなく、こくこくと頷くだけの様子から、どれだけ無体なことを強いているかを思い知らされた。だがそれでもナギは止めようとしないし、龍之介も止めるつもりはない。
 いつもの挿入の倍以上の時間をかけて、ついに根本までナギに自分のものを埋め込んだ。

「ナギくん、全部入ったよ」
「ようやく、ですか……」

 開いた青い瞳から滲む目尻の涙を、唇でそっと拭ってやる。

「ごめんね、苦しかっただろう。ありがとう」
「――なにを泣いているのです」

 ナギの指先が龍之介の目元をなぞった。実際の琥珀の瞳は潤んでいるだけだ。龍之介自身も感覚で涙は溢れていないことを理解していたが、ナギの言葉を受け入れた。彼の目には泣いて見えたのだろうから。
 それになにより、泣きたいくらいに溢れる想いがあったからだ。

「なんだか……ナギくんが、俺を受け入れてくれていることが、とても嬉しいんだ」
「なにを、今更」

 これまで何度も二人は肌を重ねてきた。その度にナギは受け手側となって龍之介のものを受け止めてくれていたのだから、そのことに感動するのはまさに今更である。
 龍之介とてわかっているが、それでも心が震えるのだ。
 初めて体を重ねようとしたあの夜。あのときのナギはまるで龍之介を全身が拒むようで、最初はうまくいかなかったのだ。それからゆっくりと体を慣らしていき、ようやくひとつになれた。その後は忙しい合間を縫って二人だけの時間を過ごし、幾度も抱き合ってきた。
 初めてのときにはまるでわからなかったナギの体のことを、今ならたくさん知っている。キスが大好きなのことだとか、触れられると弱い場所や、甘い声を上げてくれる場所も。どれだけ解せばいいか、傷つけることがないか、どれだけ調子に乗ると機嫌を損ねてしまうだとか。
 重ねてきた時間が教えてくれる。そしてその日々が今の龍之介とナギなのだ。こんな無茶にも付き合ってくれるし、こうして受け止めてくれている。
 その事実が堪らなく心を満たすから、きっと自分は泣いているのだろう。
 体を倒してナギの顔に頭をすり寄せれば、まるで犬のようだと、白い指に髪をくしゃくしゃに撫でられた。
 しばらくじゃれるようなキスを繰り返して、ふとナギが腹をさすり笑う。

「泣いても萎まないのはさすがですね」
「はは……動いてもいい?」
「休んでいたのはアナタですよ。気が済んだのでしたら、感傷にふけるのはお終いです。ワタシを楽しませてください」
「ああ。……ナギくん、愛しているよ」

 想いを告げた龍之介の唇を、ナギの指先がなぞる。満たされたような極上の笑みを浮かべて、彼は言った。
 ――いつからだっただろうか。
 一方的な想いに、彼はいつも返事ができない代わりに行動で応えてくれていた。誤魔化しだとわかっていたが、それだけで十分だったのだ。それが、いつしか聞き間違いかと思えるほどに小さいながらも言葉が返ってくるようになって、そして今でははっきりと伝えるくれるようになった。
 ともに重ねた日々に無駄などなにひとつない。たとえそこに多くの困難があり、たくさん喧嘩もして、ときに離れたことがあったとしても、いつでもナギを愛していた。そして自分は彼に、愛されていたのだ。
 これから先の人生も、きっと海のように、穏やかなときもあれば波が荒れ狂う嵐の訪れもあるだろう。そしてそれによってこれまで関係が変わってきたように、今後もどう転ぶかわかりはしない。
 それでも、どんな荒波に揉まれようとも、ただ耐えるしかなかったとしても、ともに乗り越えてゆけたらと思うのだ。
 甘い声が自分を呼ぶ。それに応えるためにも、彼を求める自分のためにも、龍之介は水面のように濡れる美しい瞳に顔を寄せた。

 おしまい

 2018.10.28

初めてのキスは top こたつ