パンツ事件

 

 泥のように倦怠感をまとわりつかせた重たい体を乱雑に揺すられて、ナギは目を覚ました。

「なっ、ナギくん起きて! ごめん寝坊した!」
「ねぼう……?  いま、なんじです……」

 いつものように寝癖のアートを作る龍之介から告げられた時間に、まどろんでいた意識は一気に覚醒する。腰の痛みも吹き飛んで、ナギはベッドから飛び出した。
 突然さらされたナギの裸体に龍之介は咄嗟に目を覆うが、当人はいっさい気にせず、そのままクローゼットを開けて、中の引き出しから適当に下着をひきずりだす。
 いくら慌てていても身だしなみは大事なので、服は十分に吟味して着替えた。一瞬ここなのTシャツが過ぎるが、事務所からNGを出されているのでそれは諦める。
 洗面台に向かえば龍之介が苦心して髪のセットをしていたので、それを強引に押し退けた。

「ちょ、ナギくん、俺にも半分使わせてっ」
「急いでいるのですから譲りなさい!」
「俺だって遅れそうなんだって!」
「アナタのようないい男なら、その芸術的ヘアースタイルでも受け入れられますよ」
「そ、そうかな……? って、この間俺の寝癖で腹を抱えて笑ったばかりじゃないか!」
「ノー! 邪魔しないでください!!」

 

 


「お、ようやく来た。ったく、おせーぞナギ」
「遅刻されるかと思いましたよ。遅くなりそうなときにも連絡をいれてください」
「Sorry、次から気をつけます」
「まあまあ、間に合ったしいいじゃん。ナギ、衣装あっちにあるよ」
「いま環くんも着替えているよ」
「そろそろスタイリストさんたち来るぞ。早く着替えてこい」
「YES!」

 メンバーたちと言葉を交わし、衣装のもとへ向かった。そこにいた環はすでにほぼ着替えは終わっており、ナギもさっと服を脱ぎ始める。
 その間に環と雑談していたが、ふと、彼から会話が途切れる。上のシャツを脱いでいたナギが振り返ると、その視線はじっとナギの下着だけの下半身にむけられていた。
 よもやよからぬ痕があったかと、慌てて下肢をみやり、それとは別の事態に気がつき衝撃を受けた。

「……なあ、ナギっち」
「タマキ、いけません」
「それ、もしかしてリュウ兄貴のパンツじゃね?」
「ノーッ!!」

 

 そのあと、多感な高校生もいるのにと三月に叱られ、一織には白い目を向けられて、陸と壮五には苦笑され、環には何故こんなことになったか無垢な眼差しで問われ。大和はそれらのやかましい会話に耳を塞がれて。

 

 龍之介のラビチャには、ナギから大量の怒りのメッセージが送られてきたとか。

 おしまい

 2018.9.30

 

睫毛 top 守られているということ