ふと真夜中に目覚めたら、ナギが泣いていた。閉じきれていなかったカーテンの隙間からほんのわずかに差し込む月明かりが、彼の涙を照らしていたのだ。
息を乱すこともなく、鼻を啜ることもなく、落ち着いたまま天井を見つめてはこめかみに流している。とても静かな涙はまるでひとつの作品のように美しいのに、それを見ていると胸が締め付けられた。
だまって見守ることはできず、龍之介は声をかける。
「どうしたの? 嫌な夢でもみた?」
ナギはゆっくりと振り返った。しばらく何も言わずに龍之介を眺めた後、遅れて体も合わせて横向きに直す。
そのときの瞬きに、新たなしずくがひとつ流れていく。龍之介は手を伸ばし、濡れた目尻を親指で拭った。その指に縋るように、甘えるように、求めるように。ナギは顔をすり寄せる。
龍之介に寄り添いながらも目を伏せ、どこか遠くを見つめるナギは、ぽつりと呟いた。
「夢の中でも、今の夢を見ていたいです」
「今の夢って――」
それは、メンバーといる今のこと? その一言はのみ込んで、龍之介はナギに微笑かける。
「なにか歌うよ、子守唄。なにがいい? ナギくんのリクエスト聞くよ」
「……MONSTER GENERATiON」
「ええ? 子守唄になる?」
子守唄とは子を寝かしつける唄だ。彼らのデビュー曲ではいささか明るすぎるのではないだろうか。
思わず反論してしまった龍之介に、ようやくナギが目を向けた。
まだしっとりと濡れる青い瞳は、けれどもしっかりと龍之介を捉え、そして睨む。
「リクエストを聞くと言ったのでは?」
「だめとは言ってないって。いいよ、歌うよ。ナギくんのために。だから、聞いていて」
龍之介が歌い出し、ナギは目を閉じる。
――どうか彼が、悲しい記憶に捕らわれず、夢の中でも心穏やかに過ごせますように。
そして、醒めない夢を追いかけられるように。きっとそのとき、隣を走るのが自分でないのだけれど。ライバルとして競い高め合いながらそれぞれの仲間たちとともに。
そんな祈りを込めながら、龍之介はゆっくり眠りのなかへと戻っていくナギの髪を優しく梳いた。
未来を照らす、始まりの歌を歌いながら。
おしまい
2018.10.21