※ 龍ナギというより、龍+ナギ(だけど龍ナギのつもり)
※ うちなーぐち頑張ってみましたが、間違えていたらすみません……
主人公は友人に騙され借金を背負うことになったOLで旬の若手女優が務め、カフェの店員で実は詐欺師でもある男を演じるのは大和、龍之介は主人公の幼馴染である会社員役である。
どん底に落ちた主人公を影ながら救うカフェ店員の男と、主人公に想いを寄せながらも二人の仲を取り持つことになる幼馴染の恋模様を描いたドラマの撮影もいよいよ佳境に入り、それぞれの演技に熱が入っていく。
いつの間にか背負うことになった主人公の借金を消すために暗躍するカフェ店員の男は、その最中に怪我を負った。それを知った主人公と幼馴染が彼のもとに駆けつけ、いっきに真実へ近づくシーンだ。
「そいつまで連れてきて、なんだってんだよ」
普段は常に柔らかく笑顔を浮かべながらも、まるで手応えがないようにすべての言葉をのらりくらりと交わしていく男が、丁寧な言葉を崩して粗暴に吐き捨てる。主人公はいつもとは違う雰囲気に戸惑いながらも、震える声を絞り出した。
「わたしは、ただ貴方が怪我をしたっていうから……っ」
「うるせえ。さっさと消えな。あんたらには関係ないことだろう」
薄ら笑みを消した大和は、龍之介とその隣にいる小柄な女性を冷たく睨んだ。
(すごい……のまれそうだ。さすが大和くん。でも、俺だって――)
カッとなった龍之介の演じる男は店員の胸ぐらを掴み、背中に叩きつける。苦しげに息を詰めながらも睨み返す彼に、牙を剥くように叫んだ。
「ぬーんち、ちゃーぬーん、いいくれねーん! ちゅいっし格好つけとーんつもりか!?」
一瞬、誰もが息をのんだ。凄む龍之介の迫力に気圧されたのはもちろんのことだが、皆が心をあわせて感じたことがひとつ。
この場の全員を代表し、胸ぐらを掴まれたままの大和がぽつりと呟いた。
「……な、なんて?」
「え?」
台本にない台詞に一瞬龍之介は困惑するも、すぐにその言葉を理解し青ざめた。
本当は、「なんで、いつもなにも言ってくれない! 一人で格好付けているつもりか!?」と言うつもりだったのだ。
彼こそが想い人を手玉にとって騙しているのではないなと怪しんでいたのに、実はだれよりも彼女を想い、彼女の為に自らを犠牲にして詐欺師である己の力を最大限に用いて危ない賭けに出ていた。自分にはどうしようもなかった巨大な悪にたった一人で立ち向かった男を素直に認めていたのに、けれど彼はすべてを黙したまま自分が悪人であると思われまま去ろうとする。それが許せず、彼に詰め寄り、なぜ真実を打ち明けないのと二人はは言い争う。そして男の心に秘めた想いを引きずり出して彼女への想いを吐露させる重要なシーンであったのに。彼女ははじめて影有る彼の心情を、そしてそれまでの行いをすべて知り、打ち解けそして二人の恋が動き始めるところであったのに。
大和の演技力に自身も役にのめり込んだはずの龍之介だが、感情をのせるあまりに咄嗟に方言で怒鳴ってしまったようだ。
方言が出ないように日頃事務所からは言われていたし、自身もかなり気を付けて言葉を直し、今では酔った席くらいしか出ないようになった。
それなのに、こんな場面でやってしまうとは。
そもそも龍之介が沖縄の方言を使ったことすらわかっていない者もいて、ぽかんと呆けた雰囲気が辺りを包んでいる。掴みあう龍之介と大和のとなりで、主人公役の女優もなにが起こったのかわからずにおろおろしていた。
あまりの龍之介の迫力ある演技だったがためにその余韻も抜けきらず、まるで自分が怒鳴られたかのように誰しもかたまってしまう中でただ一人、すいと撮影現場の中に入る。
お互いがどうすればいいか動けずにいる龍之介たちのもとへ行き、主役である女優の手を取った。
「Hi、ガール。やかましい彼らなど置いてしまって、ワタシとお茶でもどうですか?」
「えっ」
戸惑う女優に、ナギはウィンクした。
実は大和が出演するとのことで、ちょうどアイドリッシュセブンのナギとミツキが見学に来ていたのだ。実はそれもあって、二人に、とくにナギにいいころを見せたいという見栄も少しはあったのだが、それは失敗してしまったようだ。
「こらナギ! 撮影の邪魔するんじゃない!」
慌てて後を追いかけてきた三月が、ナギの首根っこを引っ掴んで引きずった。
「ノー! ミツキ、ワタシはキャットではありません!」
大袈裟に声を上げながら拒否するナギの力は思いの外強かったのか、逆に三月が引きずられ始める。わあわあと騒がしいその様子に、場の空気は和んでいってところどころから笑い声が上がり始めた。
ナギは監督に、第三の麗しい男として自分を売り込んでさえいる。
いいところを見せるどころか、むしろ救われてしまった。
己の未熟さを食いながらも、うまく言葉を取り直してくれたナギに密かに感謝する。
監督へのアタックは三月によって中断されて、ナギは隅へと連行されていく。
ふとそのとき、目が合った。ナギの口が小さく動く。
――見ていますよ。そう、言った気がした。
一度はナギのおかげで緩んだ気持ちが再び引き締まる。その雰囲気に気がついた監督が、すぐさま撮り直しの準備に取り掛かった。
「大和くん、ごめんね。またお願いします」
「いいですよ。それよか、さっきの演技またお願いします。すげえ迫力でのまれそうだったんですけど、俺も負けませんから」
評価の高い演技をする大和の言葉は、つい先程に龍之介が感じたものと同じだ。そんな風に意識してくれるのは素直に嬉しかった。
そしてなにより、青い瞳に見つめられている。それだけで、背筋が伸びる。
改めて気合いが入り直った龍之介は力強く頷いた。
「俺も、負けないよ」
その後、NG大賞として龍之介のうちなーぐちNGが放映され、そのおまけとして場を和ませたナギのことも流された。
それぞれのファンが大いに湧いたとかなんとか。
おしまい
2018.10.5