ヤマト×コガネ


ヤマト×コガネ編で書く予定だった大まかなプロットです。
かなり前に書いていたものを修正しただけなので、ポエムチックなところも多いので注意。



おれは、裏切ったんだ。
とても大切な人だったのに、決して失いたくはなかったのに。
それなのにおれは、おれはあの人を──
あの人を、この手で殺めた。
世界を救うためだと自分に言い聞かせ、導き出される答えに恐れ。
あの人たちの信頼を裏切り、世界が続くことを望んだ。
けれどそれは決して許されないことだった。
結果、多くのものを失った。それだけではない。多くの命も失った。きっともう誰にも許されない。
――いや、きっとあの人なら、こんなおれでも許してしまうだろう。
おまえがしたことは間違ってはいなかったと、笑いながら。
だが決して許されない。あの人が許してくれたとしても許されるはずがない。
だからおれは願った。
神に、哀れまれる願いを口にした。
(来世でもはるとのそばにいさせてほしい。もしはるとになにかあったとき、わたしが身代わりになれるように。今度こそ守れるように。今度こそ、幸せになってもらえるように。お願いします、神さま。どうか、どうか――)



新しい生を受けてもなお、あなたはおれの隣で笑う。すべてを忘れ、だが輪廻に捕らわれながら、あなたが愛した彼ともども、おれの隣で笑みを浮かべる。
もっともっと幸せに笑ってくれ。その笑顔をおれに見せてくれ。
そのなにも知らない優しい表情が、おれへの一番の罰となるから。
忘れるなと、おまえだけは許されないと。自らもしあわせに浸りそうになるときに、思い出させてくれる。
はると、ゆうが。
おまえたちは今、幸せだろうか。
隣にあの〝コガネ〟がいることを知ったら、なんと思うだろう。


自衛をおろそかにする無茶な戦い方が目立つコガネ。
(この頃は髪も短い。その美貌でよく話題にあがる。他の者からレードゥの貞操を守るため、自らが性処理を申し出ることもあった。穏やかな物腰であるが、レードゥたち以外の前では滅多に笑わない)
隊長昇格の際、獣人を従えることを打診される。だが罪を背負う自分に獣人は不要とコガネは首を振った。
同時に隊長となるレードゥ、ヴィルハートは断るも、コガネの纏う危うさからか、二人が強く獣人を持つことを説得し、コガネは根負けすることに。

そして現れたのは狼の獣人、ヤマト。
かつて獣人であった自分が獣人を抱えることを不思議に思いながら、必要最低限の接触以外しないように命じて、本来は同室のところ別の部屋を与える。
しかしヤマトは事ある毎にコガネの周りをうろつく。
主だから、と。
それがかつての自分に重なり、苛立つ。
冷たく突き放すも、それでもヤマトはめげなかった。

とある日、性処理に使われる現場を目撃されて言い争いになる。

「あなたはもっと、自分自身の幸せを望むべきだ!」
「おまえになにがわかる。おれは今で十分幸せなんだ。」
「そんなもの幸せと言わない。本当にそう思っているなら、なんでいつもそんなにつらそうなんですか。なんで笑わないんですか!」
「つらくなんてない。これは当然の報いだ」
「報いってなんですか。あなたがそんな罰を受けるほどのことをしたと――」
 壁を殴り、ヤマトの言葉を遮る。一息吐き、踵返す。
「――来い。おまえにすべてを話してやる。それでも同じことが言えるのならば褒めてやる」
 コガネの部屋へ。ヤマトは大人しく後についてくる。
「おまえは前世を信じるか」
「前世、ですか」
 あまり信じていない様子。本来獣人とは獣であった前世に人になりたいと強く望み、このディザイアに転生した魂。その存在こそが前世を証明しているのにそれを知れないとは皮肉な話だと、笑う。
「今から話すことは信じられないかもしれないな。それでも聞くか」
「――はい。もしあなたが前世はあるのだとおっしゃるなら、おれは疑いません。あなたを信じます」
 真っ直ぐな瞳から逃れるよう目を逸らす。
「つくづく馬鹿なやつだな……いいだろう。そこまで望むなら話してやる。おれの、前世の話を」
 気丈に振る舞うも、その声は微かにふるえた。
 コガネは一からすべてを話した。選択の時。召喚された異世界の二人組。そしてその片割れ、選択者の獣人として召喚された己を。
 そして、己が下した決断と、犯したその罪の重さを。
「おれは……おれは一人の命を犠牲にして、多くの命を救おうとした。けれど結局、誰一人として救えなかった……!
友の、主の命を引き換えにしてまで選んだのに、その先にはなにも……ただ、爪痕だけが残った。
そんな悲劇しか生まなかったのに、多くの命を奪ったのに、そんなおれが幸せになどなれるものか!」
「――あなたの立場はよくわかりました。なぜああまでしてレードゥ隊長を守ろうとするのかも……獣人としても、わかります。でもやっぱりわかりません」
「まだ言うか……っ」
「だってそうでしょう。あなたが語るはるとさんはとても優しい人で、あなたが下した選択を責めることはきっとなかったでしょう。それはあなたが一番よく知っているはずだ」
「っ」
「確かにあなたの選択は結果として間違っていたかもしれない。けれど沢山悩んで、苦しんで、それで未来の為に考え抜いた結果を誰が責められるっていうんですか。もし罪を受けるべきだとしても、あなたはもう十分償ったんじゃないですか? こんなにもずっと、苦しみ続けて」
「もういい、話しにならない。おれは償い終えてなんていない。おまえへの餌はきちんと与えるから放っておいてくれ」
 逃げようとするコガネの腕を、ヤマトは力強く掴んだ。
「あなたはなんでいつもそう人を遠ざけようとするんだ!」
「っ――」
「怒ったのなら怒鳴ればいい。悲しいなら泣けばいいし、寂しいのなら傍にいてほしいと言えばいい。悩んでいるのなら、苦しんでいるのなら、誰かに――おれに言えばいいじゃないですか!」
「なんで、おまえなんかにっ」
「おれはあなたの獣人だからだ!」
 咆哮のような言葉に、コガネの抵抗が緩まる。
「おれはあなたの獣人で、そしてあなたははるとの獣人だった。だからあなたは――コガネさんはちゃんと言うべきだったんだ。はるとに、コガネさんが抱えていたものを。
コガネさんの罪は主を殺したことじゃない。主を信じなかったことだ! 悩みを告げず、一人で抱えて込んで決断したその過ちがあの結果を生んだんだ!
はるとはコガネさんの苦悩を受け入れてくれた。そのうえできっと、ちゃんとコガネさんが納得できるように説得してくれた。会ったことのない、さっき話を聞いただけのおれだってわかる。だってコガネさんがそれだけはるとさんを信頼していたから。あなたが好きだった人がそんな狭量な方であるはずがない」
「……はると……」
 思わず、懐かしい名を口にする。
 これまで心のなかではなんども呼んだ名。けれども口にすることは憚られた。
「あなたはもっと周りを信頼すべきだ。コガネさんが思うほど皆脆くない。コガネさん一人支えるくらい、おれにもできる!」
「おれは……っ
 それでもおれの罪は、消えない」
 手を振りほどき、ヤマトのもとから立ち去る。

ヤマトは相変わらずコガネを心配して近寄ってくるものの、しつこくは構おうとはしない。コガネは完全に無視。
その後ぼうっとすることが増える。
そんなある時、レードゥを庇い重傷に。
傷を癒すために医務室のベッドで寝ていると、ヤマトが来て無言で抱きしめる。
何も言わない
責めるでもなく、嘆くでもなく、怒るでもなく、泣くわけでもなく。
ただ、コガネを広い腕で受け入れる。ただそれだけで、どれほど心配してくれていたのかを教えてくれる。
そのとき気がつく。
そうか、おれはもう一人ではないんだ。こいつがいる。おれの獣人の、ヤマトがいる。
そう思うと、涙が流れた。
「――すまない」
ずっと言えなかった言葉が、素直に唇から出る。
「おまえを巻き込みたいわけじゃないんだ。だが、おれには償わなければならないことがある。決して許されないから、おれが、許せないから……またこの命、その償いのために投げ出すだろう。すまない。すまない……っ」
「――構いません。あなたにはあなたの成すべきことがある。それをおれが止めることはできませんし、したくもありません。あなたがしたいことをしてください。
けれど、あなたが命果てる時まで、最後までおれを傍にいさせてください。おれが傍にいることを忘れないで。お願いです。お願いですから……」
初めてコガネからヤマトに触れる。背に腕を回し、しがみつく。
――おれには、おれを求めてくれるおまえのようなやつが必要だったのかもしれない。
罪は消えない。はるととゆうがを――レードゥとヴィルハートを守る。それがおれの使命だ。たとえそのためにこの命が尽きることになっても、喜んでこの身を捧げよう。
ヤマトをその道連れにさせるのは心苦しいが、それでもいいと言ってくれた。だから――
おれはおまえからもうその愛も、罪も、ともに抱えよう。
いつかともに死にゆくまで、すべての罪を背負って、おまえと生きていこう。