ふと目覚めると、見覚えのない白い天井が見えた。
 横たえる場所はふわふわとしていて、身体にかかる掛け布団はとても軽く柔らかなのにしっかり暖かい。どうやら、随分上質なベッドの上にいるようだ。それも、どこか甘いながらもとても落ち着く香りに包まれているような心地よさ。
 快眠をした後のすっきりとした身体を伸ばしながら起き上がる。正面に見える壁もまたクリーム色の壁で、いつものかたい煎餅布団でも、薄汚れてしまった壁の和室でもない。
 明るいほうへと目を向ければ、黒いカーテンの合間から朝日が差し込んでいた。自宅のカーテンは量販店で買ってきた緑のチェック柄だったはずだ。
 どうやらここは、自分の家ではないらしい、とようやく覚醒してきた頭で理解していく。
 首を巡らせると、部屋全体はモノトーンでまとめられていることに気がついた。自分が寝ているベッドもそうだし、家具も黒く、時々白が混じる。唯一別の色を見せる観葉植物が窓際にあったが、無残にも倒され中の土が散らばってしまっていた。
 ベッドの脇にあったゴミ箱も逆さにひっくり返され、中に入っていたらしい紙をくしゃくしゃに丸めたものなどが散らばっている。壁に取り付けられた棚の中にあったらしい書籍も床に落ちているし、クッションはずたずたに引き裂かれなかの羽毛が辺りに散りまくっている。片方だけ見えるスリッパもじっとり濡れていている上に細かい穴がたくさん開いているし、糸もほつれて崩壊寸前だった。
 荒らされた景色を見ているうちに次第に状況をのみこんでいった洸は、その分顔を青ざめさせていく。
 これと似た景色を以前、自分の部屋で見たことがある。狼化した後の惨状だ。
 どうやらいつの間にか獣化して、この部屋でさんざん遊び回ったようだ。
 すべてを理解するとともに思い出した、昨日の吸血鬼らしい男との約束も蘇り、頭を抱えているところで扉が開いた。
 反射的にそこへ顔を向けると、例の男が入ってくるところだった。

「ああ、起きたか」

 昨日の見せたようなどこか薄い笑みを浮かべる男に、洸は毛布を押しのけその場で土下座した。

「すみません! おれ、かなり暴れたみたいで……っ!」
「大丈夫、大丈夫。それを承知できみを招いたんだから。それに、楽しそうにはしゃいでいたからね、見ているこっちも久しぶりに楽しかったよ」

 恐る恐る顔を上げて見た彼の顔は明るく、嘘を言っているようには見えなかった。
 ひとまず安心して、のろのろと身体を起こす。
 ふとそのとき、強い視線を感じて男を見ると、彼はにやにやとしながら洸を見下ろしていた。目線はどうも自分の身体を見ている。辿っていくよう自分自身を見下ろし、そこでようやく全裸であることを思い出した。
 腰にすらなにも巻いていないのだから、男の大事な部分も丸見えだ。

「わーっ!」

 大慌てて押しのけた毛布を引き寄せ下半身を隠す。
 男は残念そうにわざとらしく肩を竦めると、後ろ手で扉を閉めて、洸の前までやってきて膝をついた。

「さて――きみも目覚めたところだし、そろそろいいかな」
「いいかなって……あ」

 顎を指に掬われ、琥珀の瞳に顔を覗き込まれる。

「場所を提供する代わりに、血をもらう約束だっただろう。忘れたとは言わせないよ?」

 どうやら取引は本当だったらしい。洸はあのとき不審な吸血鬼に身ぐるみはがされ放置されることも考えたが、今の状況を見れば彼の言葉に偽りはなかったのだと理解する。

「……忘れて、ないです」

 いちいち艶っぽくささやかれ、それにいちいちどきどきしてしまう自分に呆れてしまう。相手は確かに美しい顔立ちだが、同じ男だ。
 しゃきっとしろよ、と心の中で自分に叱咤し、男の手を払いのけた。その視線からも逃れるように顔も真横に向ける。

「それで、血を渡すと言っても、どう、ひゃっ」

 言葉の途中で思わず高い声が出る。もう遅いけれども口を塞いで、洸は男を睨みつけた。

「い、いきなり耳を触らないでくださいっ!」
「申告すればいいの?」
「それでもだめです!」

 何食わぬ顔で揚げ足を取ろうとする男にぴしゃりと言葉を叩きつけるが、それでも彼は愉快そうに笑むばかりだ。

「ごめんごめん、もう不意打ちはしないから、毛布をどけてくれるかな。首筋から血をもらいたい」

 物語のワンシーンでよく見かけるように、首の太い血管から吸うようだ。
 今度はきちんとした申し出に、洸はしぶしぶ毛布を背中に落とす。
 毛布が被さり隠れていた耳がぴんと飛び出る。男の視線がそこへ向けられていることに気がつき牽制の眼差しを向けるが、どうも彼にはあまり効果がないようだ。
 獣化の影響で、今の洸は獣であった名残として獣の耳になっているのだ。いつもよりも犬歯が多少鋭くなり、尻尾も残ったままだった。昼頃になればこれらも元に戻るのだが、自分の意志で今すぐに引っ込ませることはできない。
 獣化していく姿を見ていただろうに、なにをそんなに見つめるのだろう。男の視線が気にかかり、無意識に耳がぴくりと動いてしまう。

「あの、やるならどうぞ」

 反応してしまった耳を誤魔化すためにも、洸は自ら顔を左に傾け、右の首筋を開ける。

「それじゃあ、失礼します」

 男は洸の左頬に手を添え、右肩の端に手を置いてそっと顔を首筋に傾ける。
 吐息が肌を撫で、ぞわりと鳥肌が立つ。それを気づかれるほど反応したつもりはなかったが、目敏く男は気がついた。

「これだけで?」

 顔は見えないが、なんとなく、男が笑っているのがわかる。

「し、しかたないでしょ。半獣化の最中は、ちょっと神経が過敏になっているから……その、やっぱり痛いんですか?」
「吸血が?」

 わずかに顔を起こした男は、耳に直接言葉を吹き込む。

「痛みも、倍増するから……」

 わざとやっていることはわかっていたが、背筋にぞくぞくと駆け上がるなにかに耐えるのに精いっぱいで文句を言えるほどのゆとりはない。

「大丈夫だよ。確かにきみの肌に牙を突き立てることにはなるけれど、痛みなんてない。むしろ気持ちいいよ、癖になるくらいね」
「癖? どういう――ッんぁ……!?」

 突然、首に熱が生まれた。

「あ、う……っ」

 じゅるり、と水音が立ち、牙が突き立てられた場所から血が吸い取られていくのがわかった。
 熱かったのは一瞬で、あとは熱が甘い痺れとなり、氷が溶けて広がるように首元から全身へ、指先まで蕩けていく。
 力が入らなくて、目の前の身体に縋るよう体重を預けてしまう。それでも吸血が止まることはない。
 なんだこれ、なんなんだよこれは――っ。
 尻尾が芯をもったようにぴんと伸びて、毛が膨れ上がる。

「ふ、っ……ぅ」

 ぞくぞくと背筋を走る快感に、吸われ男の喉が嚥下するたびに身体が勝手に跳ねた。震える身体を抑えつけようにも熱に浮かされたような頭ではなにも考えられない。
 ぴんと立っているはずの耳は無意識に垂れさがり、中心から熱くなっていく身体に尾が縮こまっていく。いつの間にか、男の服を縋るように掴んでいた。
 勝手に涙が滲んできた頃に、突き刺さっていた牙がずるりと抜けていく。深く身体に入り込んでいたのに、それでも痛みはなく、ただただ気持ちいいだけだった。

「はっ、はあっ――」 

 ただ血を吸われていただけなのに息はすっかり乱れて、舌を出して犬のように浅い呼吸をしてしまう。
 顔を起こした男は、口の端についた血をぺろりと舌で舐めとり、熱の籠る眼差しを向けながらも笑った。

「可愛いものだね」

 顎舌をくすぐるように指先に撫でられて、意識が混濁している洸はその心地よさにうっとりと目を細める。
 自ら擦り寄っていると、ふと男の視線が下へと向けられた。
 なんだろう、と洸も視線を辿ると、そこはいつの間にか毛布が跳ねのけられて丸見えになった自身が、それもすっかり勃ち上がった状態で晒されていた。

「よほど気持ちよかったんだね」
「ぅあっ、こ、これは……っ!」

 羞恥によって一気に我に返った洸は、堪らずこの場から逃げ出そうとした。しかし男に易々と捕らわれると、一緒にベッドに引き上げられた。
 当然暴れたが、背中を抱きしめられる形で拘束されてしまう。腹に回った腕を引きはがそうとするが、全力を出しているのにぴくりとも動かなかった。
 吸血鬼はとんでもない怪力だと聞いたことがあるが、まさかここまでとは。
 歴然とした力の差を見せつけられて動揺する洸に、男は牙が刺さった跡を名残惜しげに舐めながら、反応を示す洸のものを柔く揉み始めた。
 直接的な刺激に力が抜けそうになるが、必死に己を奮い立たせて洸は激しく首を振る。

「いいですって、まじで! おれ、そっちの趣味ないしっ」
「ただ抜くだけだよ。取って食おうってわけじゃないし、そんなに警戒しないでいいよ」
「会ったばっかりでこんなことするんだから警戒するだろ! あんたの名前だって知らないんだぞ!?」

 上辺だけだった敬語を取り払って声を荒げると、対照的に落ち着いたままの男は納得がいったように埋めていた肩から顔を起こす。

「そういえば名乗ってなかったっけね。ぼくはヴァジアード。きみは?」
「え? ……えっと、洸」

 うっかり相手のペースにのまれた洸は、互いに自己紹介をしたところではっと状況を思い出し抵抗をしようとしたが、それよりも先に獣耳の先端が唇で柔く食まれて身体から力が抜けていく。

「ほら、洸。ただ気持ちのいいことをするだけだよ」

 とろりと甘美な蜜を垂らすような優しい声音に滲む色気。今までそれを使って人々を魅了し血を吸いとっていたのなら、なるほどつい流されてしまいそうになるのも頷ける。
 そして、自分がこんなになってしまうのも、彼が手練手管であるからだ。だから仕方ないと自身に言い聞かせるが、羞恥が消えるわけがない。

「ほら、もうこんなにぬるぬるだ。我慢できないだろう?」
「自分でやるからいい!」

 指先が先端をくるくる回る。その動きが自分で滲み出したもののおかげで滑らかなのが腹立たしい。
 どうにかしてまた逃げ出そうとすると、しっかり弱点を学習していたヴァジアードが耳の中に鼻を突っ込んだ。

「ひぁっ!?」

 人間のものより大きく広い耳の中で、すん、と匂いを嗅がれて、その衝撃に頭が真っ白になる。

「う、そ……そんなとこ、汚いだろ……ッ、ん」
「いやいやってするけれど、でも触られるのは気持ちよさそうだよね。どうせなんだから楽しめばいいよ」

 直接耳に言葉を吹き込みながら、今度は舌が差し込まれる。くちゅりと鼓膜に伝わる水音に、ただでさえ敏感な耳の中を舐められて、ぞくぞくと背筋が痺れる。逃げようと顔を動かすが、いたぶられる耳とは反対側を手で押さえ込まれて動きを封じられてしまう。さらに、もう片側には指が差し込まれて、傷がつかないように優しく刺激される。

「は、ぁ……っぁ、あ、う……」

 勝手に言葉が溢れて、無意識に耳が下がっていくが、ヴァジアードは止まらない。
 蜜垂らす洸のものが扱かれ、絶頂に追い詰められていく。
 抗うすべもなく、耳を舐められながら他人の、それも出会って間もない男の手の中で、洸は背中を丸めて吐精した。

「う、ぁ……」

 びくびくと身体を震わし白濁を出しきると、ようやく舌も指を耳から引き抜かれる。
 最後にぺろりと耳裏の毛を舐めてからヴァジアードは身体を起こした。

「気持ちよかっただろう? こんなにいっぱい出たものね」

 後ろにいる男の表情は見えないが、どんな顔をしているのかはなんとなく予想がつく。嫌味なほどの余裕で笑んでいるのだろう。
 〝あちら側〟である洸は、圧倒的大多数の人間に紛れて暮らしていたが、彼らとの根本的な種族の違いから必要以上の関係を結ぶことを恐れてきた。友がいないわけではないが、浅い付き合いばかりで、恋人などもっての外だった。かといって自分と同じ人外に出会っても友人になることは愚か、知り合い程度にすらなれずにいた。
 種が狼人間である洸は勘と嗅覚で〝同じ側〟だと気づくこともできるが、同じ人外といえども必ずしも皆が察知できるわけではない。
 皆生きていくために上手く人間に溶け込み暮らしている。そんな彼らに声をかけることも可能であったが、でもできなかった。同じ人外であるからこそ彼らがどうその立場を築くためにどれほど努力したのかわかるし、突然自分が人間ではないのだ、と仲間として名乗り出ても、ああそうですかと終わることだってある。
 洸は人間に馴染めなかったからこそ孤独を感じ、それを癒せる仲間を探しているが、人間に馴染んでいる者からすればただ同じ人外なだけで赤の他人と相違ないのだから。
 そうしているうちに結果として他人との接触がこれまであまりなかった身体は、吸血鬼として長年生きて誑し込む術を心得ている男の前では、赤子の手を捻るように簡単なのだろう。余裕が一切崩れていないという証拠は、なにより腰あたるヴァジアードの下半身が、洸のものと違って平然としていることからよくわかる。

「もう、いいだろ……血もやったんだし、取引は終了だ」
「んー……」

 ヴァジルードは曖昧な態度をとり、離れようとしない。けれども指先だけは明確な意志を見せて再び洸の下半身に伸びていた。
 後ろにある頭に頭突きを食らわせてやろうかと考えていた洸だが、白濁にまみれた自身を再び揉み込まれて一気に思考が吹っ飛んだ。

「えっ、なに? なんでまた……っ?」

 掌で刺激しながら、手はさらに下、奥の方へと伸びていく。
 そして、きゅっと力の入る蕾を撫でられた。

「っあ」
「洸の先走りすごかったものね。もうここまでぬるぬるしている」

 中指が尻のあわいを何度も辿る。
 自分でも理由もなく触れることのない場所を、明らかな性的な意思を持って触れられた衝撃は大きくて、しばらく思考を停止させてなすがままだった洸だが、ありえない場所で遊ぶ手に一瞬にして顔を真っ赤に染めあげた。
 ぶわりと尻尾の毛が逆立ち、それをヴァジアードの顔にもふりと押しつけて洸は彼の膝から逃げ出した。
 しかし尻尾を掴まれ、それ以上進むことができなかった。四つん這いになった上から覆い被さられてしまう。
 それでもどうにか逃げ出そうとしたところで、再び首に牙が突き立てられた。

「あぁ……っ」

 血が吸われ、快感が蘇る。羞恥とは別に身体が熱くなり、頭が真っ白になった。

「気持ちのいいことだけを考えて。ほら、ここだって」

 洸の体液に濡れる指先が胸の粒を摘まんだ。けれども手がぬるぬるとしていて掴むことができない。
 また反応し始めた下半身にも手を伸ばされて、執拗に先端を擦られる。

「なんで、こんなこと……っ」

 慣れない快楽に正直な身体に、ついに洸の瞳に涙が滲む。
 心が追いつかないのだ。楽しんで、と言われて、そうですねと答えるにはあまりに唐突で、未知のことで、それなのに強引に事を進められて受け入れられるわけもない。
 泣きの入った洸に興が削がれたのか、ヴァジアードは牙を抜いた。
 ようやく解放されるのかと期待した洸だったが、ころんと身体を反転させられ仰向けにさせられて、久方ぶりにヴァジアードと向かい合う。
 湿っぽくなった洟を啜ると、ヴァジアードは美しく微笑んだ。

「快感を得ると、血がとても甘くなるんだよ」
「……血が?」
「そう。だからぼくたちは吸血するとき快楽成分を分泌する。要は媚薬のようなね。だから痛みなんて感じないし、血を吸われただけでここが反応してしまうほど――ときには耐えきれずに弾けるほど、気持ちいいものなんだ。乱れてもらえればそれだけ血も甘くなるんだよ」

 言葉の途中、ここが、と言ったときに屹立を撫でられる。だがそれ以上手を動かすことはなかった。
 額にキスをされ、ぺしゃんと潰れた耳にも唇が触れた。それだけなのに、胸の奥にまで熱が伝わっていく。
 琥珀色の瞳はどこまでも透き通っていて、恐ろしいものはなにも感じなかった。悪意もないし、洸を傷つける意思も見えない。ただ蕩かそうとするだけの、甘ったるい視線。
 それを見つめているうちになにかが染みわたっていくように洸の混乱は収まっていく。
 そして残ったのは、熱がともされた身体だった。 

「実はこっらの食事は久しぶりでさ。少し味わっただけでは足りそうにないんだ。それどころかさらに欲しくなった。だから――もっと、血をくれ」

 ヴァジアードの顔が下りてきても、洸は顔を背けず、彼の唇を受け入れた。

「ん……」

 重なった唇は一度離れるが、すぐに下唇に吸いつく。

「口を開けて、舌を出して」

 言われるがままおずおずと舌を出すと、そこに牙を立てられた。
 痛みなどなく、一瞬にしてそこから熱が広まり肌に波打つ快感へと姿を変える。
 今回はすぐに牙を抜くと、奥に引っ込んだ洸を追いかけヴァジルードの舌が侵入してくる。舌が絡め取られ、傷口から溢れる血が口内で掻き混ぜられた。唾液に薄められたところで自分にとっては鉄の味だが、間近にあってぼやけるヴァジアードの顔はどこか恍惚としている。
 とても気持ちよさそうで、自分の血がそうさせているのだと思うと妙に興奮してきて、自分から舌を絡めていく。
 いつの間にか下半身に伸びていたヴァジルードの指が、かたく閉じる後孔にゆっくりと挿入された。

「んっ、う、ッむ……!」

 思わず上がりそうになった悲鳴は、キスにのみ込まれる。
 深く舌が入り込むよう、指先もより奥へと潜り込んでいく。
 つい流されそうになったが、そこに指を入れる許可などしていない。これ以上はだめだと、力の入らない腕で覆い被さるヴァジアードを押し返そうとするが、下半身で蠢く手を止めないままもう片方の手だけで易々と洸の両腕を束ねて頭上で押さえつけてしまった。
 片腕だけでも吸血鬼の膂力は凄まじく、到底引き剥がせそうにない。
 そこで執拗なキスから顔を背けて、ヴァジアードを睨みつけた。

「ゆ、指抜けよっ!」
「んー……」

 またも返ってきたのはあの気のない曖昧な返答で、けれども指はぬぷぬぷを抜き差しを繰り返す。
 痛みはないが、違和感が強く、意識しなくても身体が侵入を拒むように指を強く締めつける。しかし追い出そうとする動きにヴァジアードは応じることなく、洸の視線に動じることさえない。
 それどころか妖しく笑むと、洸の口の端についた血を舐めとりながら言った。

「まだ抵抗する意識があるなら、もうちょっと血を吸っておいても大丈夫だね」
「え……っ、あ」
「安心してくれ。気分が悪くならない程度に押さえるから。ああ、今度は太腿から貰ってもいい? そこが一番吸いやすいし、きみももっと快感を覚えると思うよ」

 話をしながら平然と指を二本に増やしたヴァジアードは、無意識に股に挟まった尻尾と怯えに垂れた耳の洸を見て、可愛いね、と笑った。 

 ―――――