14

 

 シュロンの部屋にもつれ合うよう雪崩れ込んだふたりは、成長した身体に合わせて新調したばかりのゆとりある広いベッドに飛び込んだ。というよりもノノがシュロンを押し倒して、その上に跨る。
 上着を脱ごうとすると、ベッドサイドに置いた観葉植物たちが枝を伸ばして手伝ってくれる。
 脱いだ服を預けて、その様子を眺めていたシュロンに身を倒してキスをした。

「ふ……っ」

 薄く開いた唇の合間から舌を差し入れ、奥で大人しくしているシュロンのものを先で撫でるように触れる。
 誘いに応じたシュロンとの交わりと深めていくなか、服を脱がしてやろうと手をかけたところで、突然くるりと身体を反転させられた。
 勢いはあったが植物に支えられながらそっとベッドに寝かされて、先程とは反対に腰の辺りに跨るシュロンを見上げて、ノノは目を瞬かせる。

「え、あれ……?」
「――ノノ、きれいな身体だね」

 素肌を撫でて陶然とした様子で小さくシュロンは笑んだ。

「ようやくぼくの手で触れられる。ずっと、この手で触りたかったんだ」

 特別手入れもしていない普通の身体で、むしろこれまで仕事で負った傷だらけできれいという言葉とは程遠いと思うのに、指先が大切なものの形をなぞるようにそうっと滑らされていく。
 ただ触れているだけ、それでも明らかに肌に張りつくような熱の籠る眼差しに思わず自分の身体を抱いてシュロンから身を捻った。

「ま、待てよ。おまえもしかして、俺を抱きたいのか……!?」
「うん……?」

 さも当然だと、それが何か問題があるのかとでも問いたげにシュロンは頷く。

「う、うんって……」

 自分が抱くつもりでいたノノは、まさかシュロンがそちら側を望むとは思っておらず、どうしていいか困惑してしまった。
 確かに上背や肩幅はシュロンのほうがあるかもしれないが、成長に追いつかず肉が薄い身体はひょろりとしていて線が細いし、色白できめ細やかな瑞々しい肌は食ってくれといわんばかりにうまそうだ。
 今も興奮に薄らと頬を色づかせて、幾度も繰り返したキスに唇を濡らしている様子は顔立ちの良さも相まって恐ろしく濃い色気が滲んでいた。
 もっと淫らに乱してみたいという劣情を煽られるからこそ、まさか自分が受け身になることなど考えてもいなかったのだ。
 そもそもこれほどシュロンが性事に積極的なのも想定外で、自分が色々教え込んでやろうと考えていたのもあった。

「だ、抱くって何をするかわかってんのか? 俺に……突っ込みたいのか?」
「ぼく、それほど無知なわけではないよ。大樹からある程度聞いているし、それにお隣さんからも学ばせてもらったし」
「大樹さんはともかくとして、お隣さんって……?」
「奥さんが、旦那さんのお尻いじるの好きらしくて。男同士はそこを使うから、勉強になった」
「――は?」

 とんでもない隣夫婦の営みの様子をぶち込まれ、すぐにシュロンの言葉を理解することができなかった。

「あ、旦那さんも好きでやってもらってるみたいだよ」
「ちょ、ちょっと待て! おまえなんでそんなこと知ってんだ!? いつそんなこと聞く仲にっ?」

 隣家の若夫婦とは外で会えば挨拶をするし、時間があれば少し立ち止まって世間話する程度には良好な関係を築けているはずだった。夫婦ともに穏やかで気のいい人たちで、急成長に苦しむシュロンのこともよく心配してくれていた。
 しかし、明け透けに夫婦の営みを語ってくれるほどではないはずだ。しかもそれが一般的ではない内容が含まれるとなるとなおさらのはずで、世間話程度の付き合いで出てくる話題ではない。
 ならどうしてノノさえ知らないそんなことをシュロンが知っているのか。そこまで考えて、自分に懐くよう擦り寄る葉の感触にはっとひらめく。

「おまえの力って、もしかして結構残ってんのか? この家くらいまでの範囲だって勝手に思ってたけど、もしかして……」
「言ってなかった? あの地下規模はもう無理だけど、この町全体を把握できるくらいにはまだ使えるよ」
「それってつまり……この町の中ならどこにでも影響できるってことか」

 つまりシュロンはこの場にいながら町にある植物であればなんでも操ることができるし、それらを通じてある程度の情報も収集できるということ。
 そういえば隣夫妻の夫が植物を育てるのが好きで、外にはもちろんのこと、家の中にもあちこち飾って大事にしていると聞いたことがある。

「個人的な内容を盗み聞きしてんじゃねえ!」
「でも、ノノだって」
「そりゃ俺だってしてるけど、でも必要に応じて情報集めてるだけだよ!」
「ぼくだって同じだよ。別に誰かに言いふらしたり脅したりするためじゃない、学ぶために少し聞かせてもらっただけ」
「ぐっ……」

 盗み聞きどころかそれで脅したり、人から物を盗んだりしたこともあったノノが偉そうに倫理観や常識を説くには非常に分が悪い。
 自分がやっているくせにシュロンにはだめとは強く言い切ることができず、ごほんと咳払いひとつで誤魔化す。

「とにかく、人様の事情は勝手に覗くんじゃない。仲良くなった相手にでも直接聞いて教えてもらえ」
「もうやらない。たくさん学ばせてもらったし、これからはノノから教えてもらうから」
「う……」

 いったい何を学んだというのか、聞きたいような気もするが知らないでいたほうがいいだろう。もし最中にこれはどこどこ夫婦のやり方だなんて聞いてしまったら絶対に萎えてしまう。
 かといってノノもそれほど経験豊富というわけでもないので、はたして知識は蓄えていたらしいシュロンにどれほど教えてやれるかは不明だが、直接聞けと言ったのはノノだ。
 自分に回していた腕を緩めて、そろそろとシュロンを見上げる

「俺としてはおまえのこと抱くつもりだったんだけど、おまえは俺を抱くつもりなのか?」
「うん。するのならノノを抱きたい。余すところなく触って、ぼくの全部を使ってノノを感じたい」

 つう、とつるが鎖骨を撫でていく。ぴくりと身体が跳ねると、宥めるように肩に擦りつかれた。
 どうやら力も十分に活用していくつもりらしい恐ろしい気配を感じる。

「お願い、ノノ。……だめ?」
「う、うぅ……」

 できることなら自分が主導権を握ってあれこれしたいと考えていたが、シュロンのお願いにはどうにも弱い。
 どうやらそれにシュロンも最近気がついたようで、自分の意見を押し通したい時などよく少し物悲しそうな顔をしながらお願いをしてくるようになっていた。
 今もまた捨てられた犬のように――けれどその瞳の奥には絶対に譲らないという確固たる意志と、早く抱きたいという雄としての欲求が滲んでいて、仮面を被りきれてはいない。
 そんなことはわかっているけれど。

「くそっ……がっつくんじゃねえぞ。……や、優しく、しろ」

 優しくしてね……? と潤んだ瞳で見つめられることを想像していたのに。
 まさか自分が言うことになるなんてと悔しく思いぐっと歯を噛みしめたノノの頬に、柔らかく唇が落とされる。

「ありがとう、ノノ。うんと優しくする。とろけちゃうくらいに」

 あんなにもの静かで人形のようだった少年はどこへいってしまったのだろう。
 大きくなって顔つきは大人のものへと変わったが、それだけじゃない。相変わらず表情筋はあまり動いていないはずなのに、すっかり瞳で雄弁に語りかけてくるようになった。
 心より嬉しそうに眼差しを甘くとろけさせるシュロンに、なんだかいいように転がされている自覚のあるノノはじろりと睨め上げる

「童貞が調子のんな」
「うん。だからノノが教えて」

 見事返り討ちにあうとともに下りてきた唇が合わさる前に、ノノはそれに甘く齧りついた。





 艶やかな葉が耳の裏を撫でていく。
 手首や足に巻き付いたつるが閉じたがる身体を開かせ、シュロンの手を受け入れやすいように手伝った。

「……っ、ん……ぁ……っ」

 座るシュロンの上に大きく足を広げて跨る身体はすっかり力が入らなくなっている。植物たちが支えてくれていなければとっくにぺたりと座り込んでしまっていただろう。
 差し出すように向けた胸にちゅくちゅくと吸い付き、舌先で胸の尖りを押しつぶされる。
 胸を逸らして逃げ出したいのに、身体のあちこちに巻きつく植物がそれを許してはくれず、行き場のない手でシュロンの頭を抱きしめてしまう。
 まるでもっと舐めてほしいとねだるような姿勢がいやなのに、抱え込んだ柔らかい髪が肌を撫でるたびに腰が跳ねた。そうなると身体に埋め込まれた指が敏感になった中を擦り、身を捩りたくなるような鈍い悦楽に襲われる。
 もういっそ逃げ出したいのに、どうすることもできず、ノノはただ一方的な愛撫に翻弄されていた。

「も、いれろよ……っ」
「ん……まだだめ。もうちょっと」

 吸いついていた胸からわずかに顔を上げたシュロンが答えると、熱を溜めた吐息がかかり、それにすら過敏になった皮膚がざわめいていく。
 思わず身体に力が入って、シュロンの指をきゅうっと締めつけた。

「ん、んん……っ」

 中で軽く曲げられた指の関節が感じ過ぎてしまう場所を押してしまって、零れそうになった嬌声を慌てて噛み締めた。
 泣き言をもらすたび、宥めるように葉が顔を撫でていく。それで誤魔化されるのはもう限界なのに、恥を忍んで促してもシュロンはまだ指を抜く気配はない。
 丹念過ぎるほどゆっくりと後孔を解されているのはシュロンのものを受け入れるためではあるのだが、なにより後ろを使うのはこれが初めてではないから気楽にやってくれ、と言ってしまったせいだ。
 もう何年も前のことだが、単純に金になるからと身体を売っていた頃がある。
 乱暴に扱われることもあったし、あまり受け身なことが得意ではないとわかったのですぐに止めてしまったが、どう準備すればいいかは身を持って知っていた。
 その時は稼ぐことに精一杯で、少しでもその足しになればと思い身体を差し出していただけで自ら望んだことではなかった。でもシュロンから求められて、困惑こそあったが嫌とは思っていない。むしろやってやれることがあるのならこの身体を差し出すことも厭いはしないが、それでも当時の記憶は奥底に残っていたらしい。
 手荒れ用に用意していた軟膏を力を使って取り寄せたシュロンが、たっぷりとそれを纏わせた指を後孔に入れた時、たとえ恋人の指であっても違和感は強くあった。
 あの時の苦痛の多い行為を思い出し、どうせ自分は快楽を得られないのだから、シュロンが良ければそれでいいと割り切って受け入れようとしたのだが、その気持ちがどうやら悟られてしまったらしい。
 痛いかと心配するシュロンに過去を打ち明けてしまえば、自由に使ってもらうつもりでいた身体を丁寧に開いていった。
 始めは違和感しかなかった中を探る指の動きが、次第に腰に響くようなじれったさを覚えた。
 落ち着かない感覚に、もういいからと言ってもシュロンは頷かず、押し倒していた身体を反転させて座り込んだ自分の上にシュロンを跨らせて胸の愛撫まで始めてしまう。
 胸の周りはシュロンがつけた痕が咲き乱れ、これまで主張もしてこなかったはずの胸のとがりもすっかり熟れてつんと立っている。そこを甘く齧られるとぞくりと背筋が震えた。
 もう何度か吐き出した白濁が、目の前のシュロンの肌に散っている。唇にかかってしまったものを舌で舐め取る姿を見た時は、あまりの色香にくらりとしたほどだ。
 もう無垢と思っていた清純な青年はどこにもいない。ノノの身体を慣らしていく動きは丁寧なのに、身悶えるその痴態を見るその眼差しは餌を目の前にした肉食獣のようだ。
 興奮に瞳を光らせ、今にも飛び掛かりたい衝動に堪えている。
 まだ一度も解放されていないシュロンのものは今にもはちきれそうなほどに張り詰めていて、時折ノノの太腿があたるとその熱とかたさに驚かされる。だらだらと先走りが流れて我慢しているのは明らかで、早く突っ込みたいと身体は訴えているというのに、決してノノを傷つけぬよう時間をかけて、執拗に準備をしていった。
 これまでのものは野良犬に盛られていただけだから忘れてね――その言葉を、身を持って教え込まれていく。
 互いに高め合うなんてこともなく、ただ入れて出されておしまい。確かにそんなものはシュロンから与えられる快楽を思えば獣の交尾でしかなかったのかもしれない。

「シュロン……」
「ん、ノノ」

 名を呼んだだけで求めるものに気づいたシュロンは、顔を上げてノノに口付ける。
 とろとろと唾液を混ぜあい、口の中を撫でられて声が漏れてしまう。

「……は、ぁ……ぅん……」
「は……ゆび、気持ちいい?」
「ん、ん」

 舌を吸われながら、中に埋められた指が掻くように動く。びくびくと身体を震わせながら、必死に頷きシュロンを抱きしめる。

「いれてほしい?」
「……さっきからそう言ってんだろっ!」
「ぼくのためじゃなくて、ノノに欲しがってほしい。一緒に気持ち良くなりたいから」

 シュロンからも抱き返される。汗ばむ互いの肌が重なり合うと、同じ体温に高まった身体がひとつ
に溶け合ったような錯覚がした。

「ノノに無理をさせるくらいなら、こうしているだけでも幸せ」

 腹に当たっているシュロンのものはこうして肌を合わせているだけでは足りないと切なげに主張してくる。もうきっと、手や口でも満足できない。
 ノノの身体を穿ちたく震えているというのに。

「……なら、このままがいいって言ったら?」
「我慢する……」

 どれほど美味しそうに身体を整えても、気持ちが伴わないのなら、ノノが自ら欲しいと思えないのならこれ以上進むつもりはない。
 健気な思いが垣間見える切実な眼差しに、きゅっと喉が鳴る。胸もぎゅうっとしぼられるように締めつけられて、堪らずシュロンの口に齧りついた。
 むさぼるようなキスをしながら、シュロンを押し倒す。
 力の入らない身体を奮い立たせて腰を持ち上げ、かたく張り詰めるシュロンのものに宛がった。

「あ、は……ッ」
「ノノっ」

 慌てて腰を掴まれるが、すっかり綻んだそこはぬるりと強直を飲み込んでいく。
先端を食まれてしまえばもうシュロンの理性など脆く崩れ去り、止めようとした手はノノの動きを支えた。
 足に力が入らず自重に自然と身体が下がっていく。
 汗が流れた頬に張り付いた髪を、つるが耳にかけていった。

「……く……ぅ、ん……っ」

 腹の奥まで開かれていき、どこまで深く入るのか不安を覚えた頃、ようやく尻がシュロンの腰に乗る。
 喉まで満たされているような感覚にそろりと一度息を吐く。
身体を見下ろして、そっと腹を撫でた。
 自分の中に隙間なくみっちりと埋まって隠されたものに、不思議なほど優越感が高まっていく。

「はは……っ、どうだ、おまえの童貞奪ってやったぜ」

 余裕なんてこれぽっちもないけれど、まるで難攻不落の場所にあった宝物を手に入れたかのような高揚に勝手に笑みがこぼれる。

「ちんたらしてんのが悪いんだからな。俺は欲しいって言ったろ。くれないんなら奪うま、で、ぇ……っ!?」

 言っている途中で下から突き上げられて、言葉が途切れた。

「あっ、あっ、あ……ん、ぃ……っ!」

 腰を掴んだシュロンに揺さぶられ、声をかみ殺すこともできないまま喘がされる。

「まっ……まて、まだ……あぁ……っん」

 丹念に解されたので痛みはないが、まだ満たされ過ぎて苦しい。だからもう少しシュロンの身体に馴染むまで待ってほしかった。
 けれどろくに訴えられないまま腹の力だけで起き上がったシュロンに唇を奪われ、激しく舌を吸われる。
 咄嗟に頭を後ろに逃そうとしても植物が回されて固定されてしまい、口内を舐めつくすように交わり合う。

「んむ、ぅ、ぅん……っ」

 気が付けば背中がベッドに押しつけられ、シュロンが上になっていた。
 足に巻きついていたつるが大きく膝を開かせ、両手はシュロンの背に回される。

「しゅろ、ん、んっ……あっ……あ、あっ」

 散々中を指で探られるうちに見つかった弱い場所を擦られて、腰に重く響く悦楽に身を捩った。

「ノノ……っ」

 シュロンの背後でぶわりと広がった植物が、ノノの身体に伸びてくる。
 ふたりの間に忍び込むと、しつこいくらいに吸いつかれてすっかり快感を教え込まれた尖った胸の粒に器用につるが巻きつき、きゅっと締めてくる。
 それに喘がされていると今度は突き上げられるたびにふるふると震えるノノのものにも絡みついてきた。
 もう何度もいかされていたせいであまり力ないが、艶やかな葉で先端を擦られると苦しいぐらいに気持ちがいい。

「だめ、だめっ、そんな、あっ、あ、ぁ……!」
「かわいい、ノノ」

 つるは指にも絡みついてきた。足の先までするすると撫でるように這っていき、それにすら感じてしまっていよいよ涙が滲み始める。

「や、ぁ……んあ、あっ……」
「ノノ、気持ちいい? ちゃんといい?」
「い、いいっ……だめっ」

 もはや思考などしていられず、無意識に答える。正反対の言葉を口にしているのに、シュロンは嬉しそうに微笑み目尻に唇を落として涙を吸い上げた。

「や……もう、もっ、あ、ぁっ」
「ん、ぼくも、もう限界……」
「しゅ、ろ……んっ」

 ぐっと腕に力を込めてシュロンを引き寄せる。
 互いに舌を絡ませ合せて、最奥に叩きつけられる強い熱を感じながらノノも身体を震わせ薄い精を吐き出した。


 ―――――