朝のうちから吹き荒れている強い風がナギの柔かな金髪を乱していく。視界で荒ぶる前髪を押さえながら、追い立てられるように早足で歩き、ようやくたどり着いた龍之介の家の中に二人して飛び込んだ。
扉をしめれば風が収まり、二人は玄関で一息ついた。
「今日はすごい風だね」
「嵐のようでしたね。飛ばされてしまうかと思いました」
「ナギくん、俺のこと風避けにしてただろう」
「ちょうどいいかと思いましたが、残念ながら頼りなかったですね」
「ひどいなあ。――あ、ナギくん。ちょっとこっち向いて」
素直に龍之介の顔に振り向けば、大きな手がナギの頭に伸びていく。
「あはは、ナギくん、髪ぐしゃぐしゃになっちゃってるね」
自分の方がよほどすごいことになっていると知ってか知らずか、龍之介は手櫛で乱れたナギの髪を整えていく。
頭皮を撫でる指先の心地よさに身を委ねていれば、終わったのか髪をすく手が離れていくった。
そして龍之介はナギの髪にキスをした。
ナギが顔をあげて龍之介を覗き込むと、責められていると思ったのだろうか、あるはずのない獣の耳がしゅんと垂れたような幻覚が見えるように、わかりやすく項垂れた。
「ごめん、ナギくんがきれいで、つい――」
謝罪をする唇に人差し指を当てて口を閉ざさせる。龍之介が静かになったところで、ナギはその指先で自分の唇に触れた。
「するなら、こちらにも」
龍之介はじっと見つめた先の薄くも艶やかなその口元の甘さを思い出しながら、そっと顔を重ね合わせた。
おしまい
2018.6.18