10

 

 夕方頃にようやくおれの身体に力が戻ってきて、その頃には岳里の瞳も焦げ茶のものになる。おれの力も自分の中から消えてしまったと、どこか残念そうにする岳里に笑いながら、頭から遥斗とヴィルのことが離れることはなかった。
 そして日が完全に沈み、夕食も風呂も済ませ部屋でぼうっと窓の外の月を眺めていた頃。不意に扉が叩かれた。

「おれだ」

 扉の外からかけられた声に、どきりとする。
 震えそうになる声を抑え返事をし、扉を開けるためにそこへ向かう。それまでベッドの上に胡坐を掻いていた岳里もおれと同じくそこに足勧めた。
 二人揃ったところで、おれが扉を開ける。

「悪いな、遅くに」

 そう言って片手をあげておれたちと顔を合わせたのは、“レードゥ”だった。いつもの赤い髪と、赤い瞳。それが“遥斗”は再び眠りについたことを教える。
 レードゥは自分の中の遥斗を知らない。だからおれは、なんでもないような顔をすることに決めた。

「あ……どうかしたか?」

 決めたはずなのに、どうしても不自然になる情けないおれにレードゥは頬を緩ます。
 穏やかなそれに、遥斗の顔が重なった。いや、おれの知る遥斗はレードゥと同じ顔なんだから、重なる、っていうのはおかしな話だ。けれど雰囲気が、何だが近くなったような気がしたんだ。
 おれはその理由を、レードゥの言葉で知る。

「おまえたちには、ヴィルのことで――……いや、前世のおれのことで、迷惑をかけたな」
「……教えて、もらったのか?」

 思いがけないそれに目を見開かせるも、レードゥは穏やかな表情のままだった。

「ああ。全部話してもらった。ちょっと信じがたいが、おれの前世とやらが絡んでるとなりゃ納得できることの方が多かったんだよ」

 全部、っていうことは、前世のこと……遥斗と、悠雅のこと。悠雅が光の者に命を絶たれたという悲劇についても、ヴィルがどうして転生を繰り返しているのかも。全部、なんだろう。
 ――そっか。ヴィルはすべてを、レードゥに話したのか。
 そして、色々知ってもなおレードゥはレードゥとして笑っていられるということに、おれは安心した。

「ありがとうな。遥斗を、悠雅を――ヴィルを、救ってくれて。おまえたちのおかげでようやくヴィルとちゃんと向き合えた気がするんだ」
「レードゥ――」
「遥斗のことがあったとしても、それを知ったとしても。おれはおれであることに変わりない。だからこれからも変わらず仲良くしてやってくれよ。それに、満月の夜には時々でいいからもう一人のおれの相手になってやってくれ。きっと喜ぶだろうからさ」

 おれと、そして岳里も頷けば、レードゥはにかりといつものように歯を見せ笑う。
 そこでようやくおれは、気になっていたことをレードゥに尋ねた。

「あの、さ……ヴィルは、どうしてる?」
「あいつなら泣き疲れて、おれのとこで寝てる」
「そっか」

 今回のことで、ヴィルが背負うものが少しでも軽くなるといいと、そう思う。
 何から何まで、おれたちがしたことはただのお節介でしかない。でも、それでも僅かでもそれがいい方向へ向いてくれれば嬉しい。レードゥたちのためになったのなら、いい。

「二人には、本当に世話になったな。ありがとよ。何度言っても言い足りないくらいだ。何かあればいくらでも頼ってくれ。おれにできることであれば力になるから」
「……ああ」

 それ以上の言葉が浮かばないおれの頭を優しく叩いてから、レードゥはそれじゃあと背を向け、自分の部屋に戻っていく。
 その背を見守り、完全に消えてから。おれは後ろに立つ岳里に振り返ることなく話しかけた。

「きっと、うまくいったんだよな」
「ああ。あの様子をみれば大丈夫だ」

 同じ場所を見つめたまま動けずにいるおれを抱えると、岳里はベッドまで運んでくれる。一緒に岳里の方のベッドに身体を横たえ、上から毛布を掛けてられた。

「今日は疲れただろう。もう寝ろ」
「それは岳里だって同じだろ」
「――おまえが寝たら、おれも寝る」

 そいうと岳里は、おれの肩辺りをぽんぽんと叩き始めた。心地いいそれに、今日はずっと張り詰めていた緊張の糸がようやく解かれ、静かに、眠りに誘われていく。
 しばらくしておれが寝息をたて始めても、岳里はその手をしばらく止めはしない。
 おれは自分のことで精いっぱいだったから、ようやく感じた安堵が心地よくて。だからこそ、岳里の抱えたものはまだすべては終わりを迎えていないだなんて、気づくことができなかった。

 

 

 

 レードゥとヴィル。遥斗と悠雅の件に無事決着がつき、おれたちはまた慌ただしい日々に奔走した。特に岳里は劇的に環境が変わり、三番隊の隊長としての仕事に追われている。
 おれもおれで七番隊の手伝いで忙しく、岳里と顔を合わせるのは朝と夜だけ。それもお互い疲れているから、夕飯を食べて風呂に入って、それからその日のことを軽く話して眠って。朝も早いからのんびり話している暇もない。
 少しでも話せるだけましなんだろうけど、どこか寂しい気持ちがあるのは確かだ。
 けれど岳里は隊長になったばかりだし我がままを言うつもりはない。おれの方も最近また怪我人が増え、今まで以上に医務室の仕事が多忙になった。朝から晩まで気を抜くこともできず糸を張り詰め続け、だからこそたとえ時間ができたとしても今は身体を休めることに使いたいと思う。
 けど、実際二人揃っての休みがもらえた時には、そんな風に身体を休めようとかは思えなかった。いや、本当なら処置の最中に何か起きたら大変だから、迷惑をかけないためにもちゃんと休まなくちゃいけない。けれど二日連続でもらえた休みを二日分とも全部部屋で過ごすのは、もったいない気がしたんだ。
 だからもらえた休みの一日目はレードゥの案内で街に下りた。色んな店を回って、岳里とおれがそれぞれ働いて王さまからもらったお金で服やら小道具やら、少し買い物をして。おいしいものを食べていろんな場所を見せてもらって、そんな風に過ごした。
 以前行ったきり。街を見るだけで少しの不安が芽生えたが、岳里が、その。ずっと……手を握っててくれたから。だから、おれもすぐに緊張は解け街を楽しめたんだ。
 でもその代わりすごく恥ずかしかった。たとえこの世界では同性同士、男同士の恋愛が主流とはいえやっぱりおれの中の抵抗はまだ拭え切れないし、なにより岳里が目を引くから自然と注目が集まる。ましてや一番隊隊長のレードゥもいるし、岳里は三番隊隊長になったばかりで街の人の目が向く。たくさんの人の視線を浴びながら、それでも岳里が手を離すことはなくて。
 最後にはもう諦めたし、周りを見ないようには努めたけれど――思い返しても顔が熱くなる。今からでも岳里に文句のひとつでもいってやりたくなるけど、でも全部おれのためだっていうのがわかってるから、やっぱり何も言えなかった。それにレードゥも楽しそうにしてくれたし、おれ一人恥ずかしいのは、今回ばかりは目を瞑ろうって、そう思ったんだ。
 そうして一日目を過ごして、二日目は反対にゆっくり疲れを取ろうと決めていた。
 だからこそ朝からごろごろと二人でベッドに転がってじゃれ合うように遊んでいたけれど、ふとその時。扉が叩かれる。
 慌てて腰に引っついていた岳里を引き剥がして扉に向かえば、開いたそこにいたのは王さまの遣いという兵士だった。

「岳里隊長、真司さま。至急、王の執務室へいらしてください」
「はい、わかりました。岳里だけでなく、おれたち二人で、ということですね」

 おれが確認を取れば、兵の人は頷く。
 至急ということもあって、すぐに岳里を連れて行こうと思い振り返ったら、いつの間にか背後に立っていたらしい。どこか険しい顔をして、岳里はおれの腕を取って歩き出した。
 連絡に来てくれた兵の人に頭を下げ、おれは自分の意志で腕を引かれながらも岳里の後について行く。
 しばらく歩けば王さまの執務室の前に辿り着いた。すでに扉番には話を通してあるらしく、おれたちの顔を見るなり、左右に分かれて扉への道を空けてくれる。
 岳里はずんずん突き進み、ノックもせず部屋に入った。それをおれが非難する暇なんてなく、中にいた面子がそれぞれ浮かべる表情に、無意識に心が恐れを抱く。

「――やあ、来たな。真司、岳里。待っていた」
「用はなんだ」

 隊長になったとはいっても相変わらずの態度に、けれど王さまはそれを諌めることもなく、まずはとおれたちに椅子を勧めてくれた。
 その好意を素直に受けておれたちはソファに並んで腰掛け、そして王さま、それと先に部屋にいたアロゥさんが続いて同じように座る。ネルは王さまの後ろに立ち、そして同じく初めから部屋にいたヴィルはアロゥの隣に立った。
 改めて見渡したその顔ぶれに、おれは何のことで呼びだされたのかいやでも悟る。
 けれど予想に反しヴィルが口にしたのは、最近になって国の外、つまり結界に守られていない外の世界で、怪死体が多く発見されるようになった、ということだった。

「まず死体を発見したのは当時見回り中だった九番隊、ヤマトの陸上部隊だ。その死体は血がすべて抜き取られた状況だったそうだ。運びこまれたものを実際見たが、一滴たりとも残っていなかった」
「血が、すべて……?」

 思わず聞き返してしまったおれに、ネルが頷く。

「おうよ。でもなあ、実際抜き取られてんのは血だけじゃねえんだあ。魔力も、すっからかんなんだあよう。――たぶん、こっちが本命だあろ」

 なんでも最近の研究で明らかになったそうだけれど、魔力、治癒力の源は人の血らしい。血とともに全身を巡って存在しているそうだから、血を抜かれてしまえば魔力もともに抜かれてしまう。血が消えれば、力も身体から消えてしまう。
 ヴィルははっきりと、“血が抜き取られた”って言っていた。ネルは“魔力を抜くことが本命”と言っていた。つまり、誰かが人から血を抜き取り、そしてそれは力を狙ったものだ、ということ。
 謎の怪死体は、これまでも見かけられることはあったみたいだ。でもそれは旅人やら商人やら、外を歩いてきた一般人。干からびた奇妙な死体がある、とは思っても血と魔力の関係は一般には知られていないらしいし、気味悪がったとしても気には留めなかっただろう。
 でも今回、些細なことでも報告するよう命じられていた国の人が見つけたから、それが明るみになったというわけだ。

「わたしたちが把握していないだけでおそらく、亡くなった者は、三桁は越えておるだろう」
「枯れた死体は結界外に放っておけば、たとえ骨と皮だけであろうが魔物たちが爪先すら残さず食らうのでな。そうでなくても、白骨化してしまえば野に打ち捨てていられようが道半ばで朽ちてしまったただの死体と思ってしまう。――だからこそ、証拠隠滅のため、故意的に死体を放置していたと考えるべきであろうよ」

 アロゥさんに続いたヴィルの言葉に、ぞっとする。三桁という途方もない数字を恐れているのか、その怪死体を生み出した人物に対してなのか。よくわからないけれど、背筋が凍る。
 王さまたちは今、おれたちがこの世界に訪れた日から世界で突如行方不明となってしまった人の数を調査しているらしい。なんでもおれたちが来てしばらくしてから、怪死体が見かけられるようになったから、だそうだ。
 まだ調査を開始してから間もないが、続々と帰ってきていない人の情報が寄せられているらしい。もちろんそのすべてが死体となってしまっている、というわけではないけれど、でもその八割は血抜かれた身となっていると考えていいだろう、とネルは言う。

「恐らく、ではあるが。抜き取った血からさらに魔力だけを抽出しておるのだろう。そしてやつは純粋な力だけを集めていると、そうわたしたちは考えているのだ」

 アロゥさんの口ぶりはまるで今回の事件の犯人を知っているようなものだった。けれど、それが誰かわかっているかと聞こうとは思えない。
 血抜かれた奇妙な死体。それの目的は、魔力、治癒力といった人間だけが持っている特別な力。おれたちがこの世界から訪れてから消えて行った多くの人々。
 わざわざ王さまたちがおれたちにこの怪死体の話をする、もっともな理由。
 もうおれは、知っている。

「わたしが何を話したいか、わかっているな。――禍の者。エイリアスが今回の件に関わっている可能性が、極めて高いからだ」

 エイリアス。兄ちゃんの身体を奪い、そしてこの世界の“闇”を願う者。
 ずっと、待っていたやつの情報。何をしようとしているのか、何を企んでいるのか。それが、ようやく尻尾を見せた。そう思っていいんだろうか。
 けれど、ここで焦っちゃいけない。
 いやに高鳴る心臓を押さえるように、まずは一息静かにつく。それから拳を握り、王さまを見つめた。
 かさかさになった唇を開けば、自分が思っていた以上にしっかりした声が出る。

「根拠は、あるんですか」
「ない。だが、信憑性に欠ける空想ばかりの話でもない」

 そう前置きをし、王さまはネルへ目を配らせる。それが合図というように浅く頷いたネルから、次のように伝えられる。
 行方不明になった者の中に、中級、低級魔術師が十数名含まれていたそうだ。それに加え、一般人とはいえ比較的魔力が高い者が主として姿を消している。それから考えるに、血を抜き取るという行為は魔力抽出のため、と憶測を立てたが、可能性は十分に高い。そして何よりそれを仮定して。血液から魔力を抽出する技術はいしにえの魔術しか持ち得ぬもの。そして、今は古代の魔術は失われたものとされている。

「だけどいにしえの魔術を使えるやろうが一人だけいるだあろ。――エイリアスだあ」
「恐らく――いや、きっと。今回の件は禍の者が関わっているはずだ。確定とまではいけないが、やつがしているであろうと、二人とも念頭に入れておいてくれ」
「それ以外でわかったことは」

 王さまが話しを区切るとすぐに、これまで沈黙していた岳里がそう返す。けれど王さまは岳里のようにすぐ返すことはせず、少しの間をおいてそれから口を開いた。

「――いや、これだけだ。各国に異変があれば知らせてくれと通達はしているが、共通する異変は今回の怪死体の件のみ。他に関しては至って平常に世界は巡っている」
「早く神と連絡がとれればよいのだが、それも叶わぬ今、ただ見逃さぬよう探すしかないだろう」

 ふう、と息をつきながらアロゥさんは言葉を続けた。

「だが、急がねばならぬ。もし禍の者が魔力を集めているとして、だ。すでに相当量が集まっているだろう。だがあやつが望むは世界。世界を揺るがす何かをしようとするならば、まだ到底足りはしないはず。これから先もやつを止めぬ限りは、犠牲者は増え続けることだろう」

 アロゥさんの視線は何故か、岳里一人に向けられた。すぐに目を閉じてしまったけれど、それはおれの見間違いなんかじゃない。
 それを肯定するかのように、岳里はどこか苦しげな表情をしていた。いや、いつもの無表情なんだ。眉のひとつも動きやしない。でも、おれにはそう見えた。
 だから不安になってしまう。

「岳里」
「――少し、考えたいことがある。戻っていいか」

 おれが名前を呼べば、すっと、顔をこっちに向ける。それから一度目を細めてから王さまに向き直り、静かな声音で告げた。
 王さまは快く頷いてくれる。

「ああ。用件はこれでしまいだ。これからもやつの情報を集めることに専念するから、きみたちもなにかあったら言ってくれ」
「はい」
「わしも戻るとするか」

 おれが答えればすぐに岳里はおれの腕をとって挨拶もなしに部屋から出て行こうとする。強制的に席から腰を浮かせられて慌てるおれを尻目に、ヴィルも身体を動かした。

「し、失礼します!」
「では王よ、ネル、アロゥ、失礼いたす」

 声を重ねながらヴィルとほぼ同時の挨拶を済まし、おれたち三人は部屋を後にした。
 おれたちは部屋に向かうところだが、どうやらヴィルも途中までは一緒らしく。王さまたちのもとから離れた岳里は少し落ち着いたのか歩を緩めて、三人で並んで歩いた。
 さっきまでの重たい雰囲気は引きずらず、他愛もない話をして笑う。とは言ってもいつも岳里はただ黙っているから、おれとヴィルだけでだ。
 けれどしばらくすると話も一旦区切れ、そう息苦しくはない沈黙が訪れる。沈黙が始まれば、ついあのことを思い起こしてしまう。
 ――こうして、ヴィルと顔を合わせるのはあの日以来だ。あの、おれたちの意志で遥斗を表面に出した時。まともに話しすらできていなかった。
 あの日以降お互いに忙しかった、っていうのが最もだけど、顔を合わせ辛かった、っていうのも大きい。
 ふと隣のヴィルに目を向ければ、視線がぶつかった。すると、照れくさそうな笑みがそこに浮かぶ。

「その節は、世話になったな」

 その笑顔を見て、おれはようやく、ヴィルが先に進めたんだってことを悟った。
 無意識に強張っていたらしい身体はそこでようやく、すうっと力が抜けていく。

「……ちゃんと遥斗とは話せたか?」
「うむ。今度こそちゃんと、別れを告げることができた。おまえたちのおかげだ」

 それはまるで、今生の別れを済ませた、みたいな言い方で。
 おれは気づけば口を開いていた。

「おれたちは、いつでもやるよ。また遥斗に会いたい時は――」
「いや、もうよいのだ。ありがとう、真司、岳里よ。だがもうよい。あれがレードゥの心に在り続けているというだけで、それでいいのだ」
「――そっか」

 いつもの飄々とした様子はなく、どこか憑き物がおちたような穏やかなヴィルに、おれはようやく、よかったと。そう心の底から思えた。
 おれたちのしたことは自己満足で、ただのお節介で。それでも、それでもレードゥとヴィルが。遥斗と悠雅が少しでもいい方向に変われたのであれば、嬉しい。

「では、わしはこっちに行くからな。またな、真司、岳里」
「じゃあな、ヴィル」

 廊下の途中、右に曲がったヴィルに手を振り、おれたちは別れた。
 岳里と二人だけになって無言のまま歩き続ける。部屋についてもそれは変わらず、しばらく岳里はベッドの端に腰かけたまま口を開こうとはしなかった。
 だからおれも岳里の邪魔をしないよう、自分のベッドに転がって途中になっていた本の続きを読む。
 それからしばらくして岳里が動いた。立ち上がり、おれの傍らで止まる。それに気づき、寝転がっていた体制を起こして、胡坐を掻いて岳里を見上げた。けれど岳里の目線は不自然に斜め下を向いている。いつもならおれをまっすぐ見ているはずなのに、それなのに。
 だからこそおれはじっと岳里からの言葉を待っていると、それからさらに間を置いてようやく視線が重なる。そして薄らと唇が開いた。

「竜人の里に行く。ついてきてくれるか」
「りゅうじんの、さと……」

 それは何かと、尋ねなくてもわかった。
 竜人の里。――岳里のふるさとである場所だ。

 

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