部屋に入ってくるなりおれの姿をすぐに見つけた岳里は、珍しくふき出した。

「予想していた通りだ。だがまさか、本当にそうして待っているとはな」
「う、うるせぇ……しかた、ないだろ」

 そう目も合わせられないまま告げれば、ゆっくりと岳里は歩み寄ってきた。小さく立つ足音に、ただでさえ強張っていた身体がさらにかたくなって、全身に力が入る。膝の上に置いた拳が、緊張のあまり僅かに震えた。
 そんなおれの様子に、今度は苦笑に近い笑みを岳里は浮かべる。自分のベッドの上で、がちがちに正座をして待っていたおれの傍らに腰を下すと、岳里は手を伸ばしてきた。

「怖いことはしない。嫌がることもしない。だから、安心して身を任せてくれ」

 肩に置かれた手はそのまま岳里の方へおれを引き倒し、それまで正座していた身体はようやく崩される。
 流れのままに身を預け、おれは岳里の胸に顔を寄せた。すると、よく拭かれていない髪から垂れた雫が頬にかかる。

「ちゃんと拭いて来いよ」
「時間が惜しかった」

 その言葉通り、先に風呂を済ましたおれの後に風呂へ向かったはずの岳里は、随分帰りが早かった。反対に時間をいつもよりうんと長くかけたおれとは大違いだ。風呂からこの部屋までの距離はそこそこあって、帰ってくる途中でお湯で温まった身体が平穏に戻ってしまうことはよくあるのに。それなのに岳里の身体は風呂からあがったばかりのようにほかほかと温かい。
 だからか、風呂上りというわけではないけれど熱を持つおれの身体は岳里と触れ合った部分がじわりと汗を掻く。けれどそれを不快だと思わなければ、離れたいと、そう感じることもなかった。
 互いに身を寄せ合い、口を閉ざして相手の存在を感じ合う。それからしばらくしてどちらからともなく身体を離し、顔を合わせた。

「真司」

 薄く開いた口はおれの名を呼び、ゆっくりと降りてくる。それに目を閉じ受け入れた。
 唇同士を触れ合わせては離れ、また重ね。それを何度か繰り返せば自然と口が開いて、自分から岳里を招き入れる。とはいっても幅は狭く、けれど厚い舌はぬるりと押し入り、我がもの顔でおれの中で撫でた。

「――は」

 もう何度も唇だけは重ねてきたからか。上あごをくすぐられ、舌を根ごと絡ませればびくりと身体が揺れる。すぐに息は上がって、でも相変わらず息継ぎだけは上達できずにいたおれは足りない酸素に喘いだ。
 すがるように、訴えるように岳里の背に腕を回せば、おれの状況を知っているはずなのにやつはさらに奥へと侵入してくる。どんどん攻められ、じりじりと後退していたおれはついに耐え切れなくなりベッドに背中から倒れた。

「っはぁ、はっ」

 そこでようやく互いの唾液が絡んだ糸を繋げながらも、岳里と離れた。懸命に動かしたからか、与えられていた感触からかはわからないけれど、びりびりと痺れて重たくなる舌。唇も涎で湿り、ようやく吸えた息に目は早速涙を溜めだしていた。
 荒く息をつき、どうにか遠くなりかけた意識を呼び戻している時。岳里が、仰向けに倒れたおれの上に覆いかぶさる。そこでもう一度だけ軽いキスをされ、間近を保ったままで頭を上げ、じっとおれの顔を覗き込んできた。
 まだ息を弾ませるおれを見る目を一度細めると、そのまま岳里は顔を下し、今度は首筋に唇を落とす。
 ちゅ、とあえて立てられた音に耳を塞ぎたくなる衝動をどうにか堪えていると、同じ場所を今度は強く吸われる。

「っ」

 確かな痕を残した口は、最後にべろりとそこを舐めて離れていく。首筋を辿り鎖骨を甘噛みして、それから頭が上がった。
 岳里は何も言わずにおれの上着の裾に手をかけると、そのままぺいっと引っぺがす。

「ひょ、えっ」

 熱くなっていた身体突然外気にさらされ、思わず変な悲鳴が上がる。雰囲気もへったくれもないその、色気もない声に我ながら呆れたけれど、岳里の表情は変わることなく。真剣な眼差しのまま、手にした服を適当に放ると、その手をそのままおれの胸に伸ばしてくる。
 女の人のようなふくらみもなければ、柔らかさもない。平らでかたく、当然そこにあるのは男であるおれの胸だ。なのに岳里はそこへ指差を這わし、肌を撫でる。
 強く押しあてるでもなく、普通に触るでもなく、本当に肌に軽く触れ滑る指先はくすぐったいはずなのに。
 岳里の視線に、雰囲気に飲まれてなのか。身体が、ぞわりと震えあがる。なんてことがないのに、落ち着いたはずの息がまたあがりそうになった。

「が、くりっ」

 焦らされているようで、ずっとそれが続けばおかしくなりそうだ。堪らずおれが名前を呼んで、睨むように目を向ければ、岳里は小さく口を開いた。

「おれに触れられるのは、平気か」

 肌を撫でていた指は止まり、岳里の、金色に輝く目はおれだけを見る。

「――もしかして、ずっと、気にしてたのか?」

 おれも瞳に岳里だけを写し、静かに言われたその聞き覚えのある言葉に、言いしれない思いをこみ上げさせる。
 岳里は沈黙という答えを示してから、目を逸らした。けれどそれをおれが許さず、今までどうすればいいかわからず投げ出していた手で、岳里の両頬を掴んでまた顔を前に向けさせる。金色と目が合ったところで頬から手を離し、そのまま首を抱き寄せた。
 自分からも身を寄せるよう身体を僅かに浮かせ、近づいた岳里にそのまま自分から、キスをする。すぐに離しておれはそのまま後ろに身体を落とすも、驚きに目を見開かせる岳里の頭を今度は胸に引き寄せ、抱きしめた。

「前にも言ったろ。岳里なら大丈夫だって。おまえにしか、こんなこと許さないって」

 以前ヴィルとの試合に勝利した岳里の願いで、一緒に風呂に入ったことがある。その時突然触れてきた岳里はさっきと同じことをおれに聞いていた。――きっと、あの頃からもう、神さまを呼ぶ術としておれたちが子どもを産むかもしれないと考えていたのかもしれない。
 子どもを産むためにはまず、おれたちが触れ合わないといけない。身体を重ね、そして初めて命が宝種に宿る。
 岳里はキスするだけで精一杯になっていたおれの、以前の事件を忘れられずにいるおれのせいできっと。――いや、おれのために。ずっと頭に思い浮かんでいたはずの方法をなかなか口にはしなかったんだ。切羽詰まるこの状況で、それでもおれの気持ちを最後まで優先しようとしてくれた。
 それは今でもだ。もう覚悟を決めたのに、それでも岳里はおれを思い問いかける。本当にいいのかと、触れて大丈夫なのかと。

「――好きだ」

 好き。岳里が、大好きなんだ。恥ずかしいから言葉にはまだできないけれど、愛してる、と言ってもいい。それくらいおれは岳里を想っている。きっと、岳里もおれのことをそう想ってくれてるだろう。
 自惚れなんかじゃなくて、そんな確信だ。これまでの岳里を、今の岳里を見れば何の不安を抱くこともなくそう思える。
 でも、岳里はそう感じていないかもしれない。おれが恥ずかしがってあんまり口も、行動にも出せないから。だから、おれの気持ちは実は半分も伝わっていないのかもしれない。
 だから今、たくさん言葉を連ねて岳里に伝える。

「岳里、好き。大好きだ」

 他に言葉は浮かばなくて、でもひとつひとつに想いを詰めて。何度でも口にする。しばらく岳里はじっと声を聞いていたけれど、やがておれの胸から顔をあげた。

「もういい、わかった」

 相変わらず素っ気ない言葉だ。でも、確かに口もとに浮かんでいるその笑みに、おれも同じように顔を緩ませた。
 また唇を重ねながら、岳里の手はついに胸の突起に触れてきた。右手はそれに触れ、左手は腹を撫でてくる。
 親指でこねるように回されるけれど、そんなところ感じるわけもない。ただ変な感じがして、でもそれだけ……のはずだった。

「……ぅ」

 執拗にこねられて左の方も同じくいじられていると、だんだん初めに感じていた変な感じが増していく。その変な感じがどういうものなのか、本当はわかっているけれどでもわからないふりをして、おれは岳里から与えられるものに奥歯を噛みしめる。
 でも、岳里が逃がしてくれなかった。

「乳首、立ってるな」

 まじまじと見つめそう言うもんだから、咄嗟におれは顔を赤くし、胸の近くにある岳里の頭に手をかけた。そのまま後ろに押そうとしても、けれど首の筋肉ですらおれの腕力の上をいく岳里は動かず。むしろそのままおれの手に抗い顔をもう少しだけ乳首に近づけると、ふうっと息をかけてきた。その途端に背筋に駆けあがるものに痺れ手を緩めれば、隙をついて岳里がさらに胸へと顔を寄せ。
 舌先を伸ばし、触れた。

「あっ」

 思わず出た声に、けれど岳里は止まることなく。口元が寄せられたと思ったら、口に含まれ吸われる。

「そ、それ、だめ」

 一度は離してしまった岳里の頭にまた手をかけると、右のを吸いながら岳里は視線だけを寄越す。目が合い、いやだと首を振れば、何故かさらに強く吸われた。
 じんと痛みを覚えるぐらいになった頃にようやく離してもらえたが、涎で濡れてるからか外気をひやりと感じる。それが堪らなく恥ずかしくてもういやだと思ったのに、今度は左を吸われ、おれはびくりと身体を揺らしてしまった。
 なんで男相手にそんなとこいじるかわからない。そう思うのに岳里は時にはあえて音を立てたりして、耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。でも何より、吸われるそこから身体に響くものに困ってしまう。
 おれは男なんだ。なのに、それなのに。
 頭の中は軽く混乱し始めていて、早速状況に置いてかれそうになる。このままじゃいけないと、おれは口を開いた。

「が、岳里! あの、今日はそこまでで勘弁、してくれ……」

 こうして触れ合うのは、少なくともあと六回は残されている。ならそれでゆっくり、こういう風な行為に慣れていきたい。
 いますぐに色々詰め込まれちゃ敵わないと半ば涙目になりながら情けなく訴えれば、ようやく聞き入れてくれた岳里がおれの胸から顔を起こした。
 少しだけむっとしているような、物足りないと訴えてきているような、そんな目から堪らず顔ごと逸らせば、また岳里の頭は降りていく。
 みぞおち辺りに唇を落とすと、それはゆっくりと身体を下ってく。すうっと中心を通り、へそのあたりに止まったところで、おれは慌てて岳里の頭を掴んだ。
 また拗ねたような顔をしておれを見上げた岳里に首を振り、懸命にそこはだめだと伝える。
 岳里がへそを舐めようとしていたのをどうにか察知できたものの、実際止めてくれるかは向こう次第だ。だからせめて今はまだ、と目線で伝えれば、息をひとつつきながらも今日のところはということで諦めてくれたようだった。
 身体を起こした岳里は、ならこっちだ、とでも言うように、ついに下衣に手を伸ばす。
 息を飲み、身体を巡る羞恥やら緊張やらを抑え込もうとしたその時だ。岳里が服に手をかけたと思ったら、一息も置くことなく一気に下着ごと引き抜いた。

「ぎゃっ!?」

 脱がされるとはわかっていたけれど、思わぬ早業に吃驚してかたまってしまう。その間にも両足からは服が抜き取とられられ、上着と同じよう適当にベッドの下へ放られた。
 おれの片足を取ると大きく開かせて、隙間のできた足の間に岳里は身体を滑りこましてきた。その頃にはようやく何が起きたのか理解したおれの頭が働きだし、かっと顔を赤くさせる。
 咄嗟に岳里の肩を押し返そうとした身体をどうにか押さえつけ、拳を握り羞恥に耐えた。
 顔を背けていれば、おれのものを岳里の指先が触れる。すでに緩く立ち上がっていたそこは、少し動かされ刺激を与えられただけですぐに反応を示した。

「元気だな」
「う、うるさい!」

 どうしてそうなっているのか、原因であるやつの言葉に思わず声を荒げ顔をそこへ向けてみれば、丁度、岳里が口を開いてるところだった。けれど、その口は言葉を話すために開いたんじゃなく。

「っあ……!」

 勃ち上がったものを先だけ含まれ、思わず上ずった声をあげてしまう。驚きが大半を占めているそれを聞いた岳里はちらりと一度、珍しくおれを上目づかいで見てからまた視線を戻した。
 岳里は口の中に入れた先っぽを執拗に舐めてきて、先端の小さな穴を舌先でぐりぐりと抉る。指は、片方は口に入っていない場所をしごき、もう片方は裏をすうっと辿るように弱い力で撫でていき。

「っ……は、は」

 もう少し深く咥えられ、それから強く吸われる。それには堪らず身体がしなり、行き場のなかった手は岳里の頭を掴んだ。おれにかき乱された髪の隙間から覗く金の瞳。それはおれを見上げながら、さらに口に含んだものを飲んでいく。

「だめ、だめ岳里、出るっ」

 だから口を離してくれと、途切れる言葉を繋げても、岳里はゆっくりと奥まで咥えていく。ぬるりと進みながらもおれのものの形をなぞるように舐めていき、それにもまた呼吸は荒くなっていく。
 頭を押さえようとしてもやっぱり岳里には敵わず、そもそも力なんて入らず、むしろ求めるようにただそこに乗せるだけになってしまう。
 袋まで揉まれてしまえば、本当に我慢も限界へと追い詰められる。

「出る、から……! はな、せっ」

 いつの間にか膝が立ち、足で岳里を挟みこんでしまう。けれどそれでも与えられる快感からは逃げられなくて。あまりにも気持ちいい岳里の口は、離せと言っているのに食らいついてきて。
 根元まで咥えられ舌に包まれるように撫でられ、喉の奥で吸われた瞬間。おれは足の指先を丸め震わせ、岳里の中に出してしまった。

「っ、ん――!」

 快楽を逃すように、衝撃に耐えるように、爪を立てないよう最低限の気をくばりながらも岳里の頭へ掴んでいた指先に力を込めてしまう。しばらくして波が引き、ぐったりと全身を弛緩させた頃にようやく岳里はおれのものから顔を離した。

「離せって、言ったのに」

 まだ息を弾ませながら非難の意味を込め睨めば、けれど岳里は素知らぬような顔のままだ。思わず溜息をつこうとした時、ふと気づく。

「――岳里、おまえその、おれが出したやつ。吐き出した、よな?」

 自分でそう聞きながらも、おれは答えを知っている。
 何故なら達してから少しの間しか岳里から目を離していない。その間に、口の中のものを出すような素振りはなかったはずだからだ。
 案の定、岳里は口を開かないまま首を振る。その姿を見て、慌てて身体を起こし岳里に詰め寄った。

「なんでだよ!? 飲んでないよな? ほら、早く吐き出せ!」

 口を開かないのは、まだ中に残っているからに違いない。もともと無口な岳里だから普段から声には出さず仕草で答えるようなこともあるけれど、今回はきっとそうだ。そうであってくれ。
 岳里の顔の下に添えるように両手を揃えて差し出すも、けれど岳里はいやだとまた首を振った。そのおかげでまだ飲み込んではないことを知るも、けれどずっと口に入れっぱなしというその状況に安堵はまだ程遠い。
 頼むから、と声をかけても岳里は差し出した手から顔を背けた。

「そんなもの口に入れたままなにがしたいんだ! ぺっ、しろ!」

 幼い子に吐き出させるような言葉に気づけばなってしまっていて、そのことに引っかかったのか岳里はおれを流しみる。
 けれどすぐに視線をそらすと、顔を俯かせ、右手を口の下に持っていく。ようやく動き出した岳里をどうするのかと見ていると、ついに口が開いた。
 つう、と岳里の口から白濁と涎が混ざったものが流れ落ちる。それは手の平に受け止められ、薄く円を広げていった。細い糸のように、絶えることなくそれは口と手の平を繋ぎなぐ。
 どうしてか目をそらすことができず、白い糸が途切れまで見守れば、岳里は下唇に残ったそれを舌でちろりと舐めとった。あまりのその光景に、なんだが頭がくらくらする。
 そんなおれに構うことなく、岳里は視線を自分の手から、こっちに向けて湿る唇を開く。

「穴をほぐす。以前薬を塗っていた時のように四つん這いになれ」
「ほぐ、え?」
「宝種を入れるためだ。尻の穴をほぐしやすいよう、手と膝をベッドにつけてくれ」

 あまりに率直な言葉に頭が追いつかず思わず聞き返せば、理解できなかったと勘違いした岳里がわざわざ詳細に命じてくれる。
 けれど混乱にかたまってしまったおれは動けず、それに焦れたのか。それとも状況を察してくれたのかはわからないが、岳里が自由な左手だけでおれを指示した体勢へと変えさせていく。
 あっという間の手際いい動きに四つん這いにさせられ、気づけば岳里に尻を向けた形になっていた。

「あ、これ、は……」

 ようやくここで頭が状況に追いついてきて、今の体勢に対する羞恥が一気にこみ上げる。身体を動かして逃げようにも、先手を打った岳里が腰を左手で押さえつけ、動きを封じた。
 その間にも何も身に纏っていない尻が岳里の方へ向けられていて、恥ずかしさのあまりに声も出ない。
 けれど岳里は淡々と進めていく。

「もう少し腰をあげてくれ。見えやすいように」

 どこを、と言わなかっただけ今度は言葉を選んでくれたのかもしれない。それでも十分、真っ直ぐだけれど。
 恥ずかしさのあまり唇を噛みしめながら、おれは近くにある枕を引き寄せる。それを顎と胸の下あたりに置き、ゆっくりと、上半身を預けた。おのずと上がる腰から、おれの覚悟を知った岳里が置いていた左手を離していく。
 枕に頬を預ければ視線の先で、折りたたんだ布の上に置いておいた宝種が目に入る。小さな卵の形をしたあれが、おれの中に入るんだ。
 どんな風になるのか、本当に入るのか。不安はたくさんあった。けれど、すべてはそこから始まる。宝種がおれの中に入らなければ何も始まらないし、何も生まれてきはしない。
 もうおれは、覚悟した。岳里と一緒に生まれてくる子の親になろうと。そう、決めたんだ。
 一度は腰から離れた岳里の左手は、顔の傍で拳を握っていたおれの手に重ねられた。

「大丈夫だ、痛いことも、怖いこともしない。おれに身を預けてくれ」

 顔は見えないけれど、優しい声。その声に同じ声は返さず、重ねられた左手を握りしめて応える。
 いつもあったかい、岳里の手。いつもおれを導いて、守ってきてくれた手。
 大丈夫、岳里なら。恥ずかしいけれど、怖くはない。大丈夫、大丈夫。ここにいるのは、岳里だ。
 ふう、と深く息を吐き、そして吸い込む。もう一度深呼吸をしたところで、握った岳里の手が強く握り返してくれた。それを顔に引き寄せると、後ろで岳里が動き始める。
 ずっと右手に持ってたおれの出したものを、後ろに垂らした。それは割れ目を辿るように流れていき、玉の方まで伝っていく。その感触に耐えていると、硬く閉じた場所を指でつつかれた。
 思わずびくりと身体は震えたけれど、指はそのままゆっくりと中に入ってくる。よくわからないけれど、少し細いような気がするから小指かもしれない。でもそれでも少しの痛みと、途方もない違和感に力を緩めることもできないまま、拒むように指を締め付けてしまう。

「ごめ、んっ」

 無意識に詰まる息をどうにか吐き出しながら声をあげれば、静かに言葉が返ってくる。

「謝るな。ゆっくり解していくから、慌てなくていい」

 時間はたっぷりあると言いながら、岳里はゆっくりと指を押し進めていった。そして戻し、まだ押して、と繰り返す。
 しばらくすると、岳里はおれに断りを入れてから左手を離した。中に入り込んでいた指も一緒に抜けていく。それまで握りしめていたぬくもりが消えてしまい、途端に不安が胸に広まっていく。何か代わりになるものは、と思い視線を彷徨わせればふと宝種が目に入った。
 おれは宝種の下にひかれた布ごと引き寄せ、今度は岳里の手の代わりにそれを握る。卵のような見かけから、おれは割れやすいものと思っていたが、宝種はとても頑丈で竜人の力でも壊れないほどらしい。岳里でさえ砕くことができないと、そうあらかじめ聞いていたから半端な力加減せず、手に収める。すると不思議と安堵できるような気がして、少しだけ身体から力を抜いた。
 ちょうどその時になって、また岳里の指が中に入ってきた。けれどそれは、さっきのおれの出したものを絡ませていた時よりもずっとぬるりとしていて、粘性の高い液体を纏わせていることがわかる。同じように指を入れられても、まだ痛みというより違和感は強かったけれど、さっきよりもぬるりと奥へいく。そのまま押し進められ、指の根元までいくと引いていき。

「――っ」

 指先を少し後ろに引けば抜ける、というところで一旦動きが止まった。その時に詰めていた熱い吐息を出せば、つながった部分に何かが垂らされる。とろりとしたそれは、さっき岳里が指につけていたやつなんだろうか。
 後ろを振り返る勇気はなくて、でもそれがなんだか気になって。
 再び始まった穏やかな挿入に息を震わせながらも口を開いた。

「な、なに?」
「潤滑剤だ」

 潤滑剤っていうのは、ローションやオイルみたいなもんなんだろうか。いつの間に用意したのか、さっきまでそんなものはなかったはずだ。隠していたのかもしれない。
 その潤滑剤なるものは惜しげもなく垂らされ、身体を伝い下に垂れていく。それでも岳里はしばらくおれの身体にそれを落としてから、ようやく容器を傾けるのをやめた。
 実際のところはすべて出し切っただけなのかもしれないけれど、指の動きに合わせてそれを少しずつ中に広められていく感じに耐えるのに精一杯で、気にする余裕はない。きっとシーツにも水たまりを作っているだろう。
 後々掃除が大変そうだ。でも今は何より、宝種を受け入れることが大切だから細かいことは気にしないことにした。
 やっぱり、そもそも入れるための場所じゃないせいか。そこは、岳里の指一本受け入れるのでさえ怯えきっている。もう指一本くらいは入ってきたところでそう痛くない。けれどおれの身体が緊張をほぐせないから、だから岳里も、無理に次に進もうとはしないんだろう。
 このままじゃいけないのに。わかってるのに自分じゃどうしようもできなくて、岳里が動かすタイミングに合わせて息を吐きどうにか力を抜こうにも、どうもうまくいかずにいた。
 それでも自分なりに頑張ろうと、また息を吐こうとした時。一度出したきりずっと縮こまっていたおれのものに岳里の左手が伸びる。

「あっ、う」

 完全に意識を後ろにもっていってたおれは突然の刺激に、思わず声をあげてしまう。けれど岳里はそんなのお構いなしと言うように、潤滑剤で滑る掌全体を使って触れたものを上下に擦った。

「は、はっ……」

 ぬるぬると粘液が滑っていく感じが思いの外気持ち良くて。萎んでいたものは次第にかたくなっていき、意識がそっちに持ってかれる。
 まだ岳里の手は動いていたけれど、違和感は一気に些細なものへと変わった。だからおれはいつの間にか小指から中指に変わったことも気づかないまま、前に与えられる刺激に耐える。
 裏筋を辿られ、くびれを指で作った環で少し強めにしごかれ。先端をぐりぐりと押され、一気に射精感が高まった。

「また、出るっ」

 指先を丸めその衝撃に耐えようとした時、根元をきつく戒められる。痛みを覚えるほどのそれに、おれの喉は鳴った。

「な、んでっ……!」
「我慢してろ」

 突然止められた快楽は波のようにおれの身体に迫るけれど、でも解放させてもらえないから出すことができない。波は引くことなく身に留まって、どうにかそれをやり過ごそうとする。それなのに岳里は意地悪くも、輪を作り動かせない人差し指と親指以外が届く範囲でおれのものを刺激してきた。
 それに抗議することもできず、岳里の与えてくるものにひたすら耐えていると、後ろに入ってくる指の太さが変わったことに気がつく。ぐっと根元まで進むけれどそれは今までのより短くて、親指だということがわかった。それくらいはもう受け入れることができるみたいで、違和感はまだあるけれど苦しい感じはない。それよりも、せき止められた前のほうがうんと辛い。
 指は一度ぎりぎりまで抜かれ、また根元まで入る。すると中で曲げられ、ぐるりと回された。今まではただ出し入れするだけだったから、その感覚に思わず身が震える。といっても痛かったとかそういうんじゃなくて、慣れない感覚に勝手に動いた。
 岳里は指の腹をおれの腹の方に向けて、そこを揉むように動かす。何をしてるんだろう、とおぼろな思考で考えると、とある部分をぐいっと曲げられた指が押した瞬間、びりびりと背筋を駆けぬける感覚に勝手に声が溢れた。

「ひ、ぅっ……!?」

 わけもわからないまま慌てて自分の口を手で覆うも、もう一度同じ場所を抉られるとそれも意味をなさなくなる。勝手に腰が上がり、びくびくと身体が跳ねた。

「や、なん……はっ、あ、あ」

 堪えようとしても出てくる自分の甘ったるい声に耳を塞ぎたくなりながらも、片手には宝種を抱え、もう片手は口元を押さえようとしたままそれができずにただ震え。
 必死に声を押さえようと唇を噛もうとしたところで、岳里に諌められた。

 

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