「えっ、あっ……」

 ぴくりとジィグンの身体が震える。戸惑った声が頭上で聞こえるも、吸いつき、口の中で乳頭を舌先でいたぶる。
 身を捩って逃げようとするのを咎めるよう、左側をまたきつめに摘まむが、いてえ、という声はそうには聞こえない。
 肌に触れる唇から、心臓の鼓動が微かな振動となって伝わる。ばくばくと早くて、今にも破裂しそうだ。身体も熱くて、じりじりと上に逃れようとする身体をあえて押さえつけずに追いかけるのが楽しくなってくる。
 吸って、舌先で転がすのは思いの外自分も心地よかった。口付けも粘膜同士が絡む気持ちよさがあったが、それに似ている。口のなかも性感帯なのだとコガネたちに教わったのは間違いではなかったようだ。
 顔を起こすと、胸の粒と口との間に銀糸が伝う。それがふっつり途切れる様子を見ていたジィグンは、ハヤテと目が合うと慌てたように視線を逸らした。
 指先で濡れた胸の突起を突くと、手を払いのけられる。

「な、なんなんだよ今日は、おれがいない間にジャス隊長に変な薬でも飲まされたか? やるならとっととやれっての」
「てめえの要望なんざ聞く気はねえよ」
「ならこっちだっておまえの処理に付き合う筋合いねーわ! つか呼び出して早々部屋に連れ込むあたりなんもかわってねえよな!」
「しかたねえだろうが、てめえがいないせいで溜まってんだよ」
「は? 性欲魔人がなに言って……」

 疑うような眼差しに、居心地が悪くがしがしと後ろ頭を掻いた。
 これまで散々ジィグンの身体を三日と置かずに好きにしていたハヤテが、少なくとも自分を再び呼び出すそれなりの期間の間に誰ともなにもなかったとは到底思えなかったのだろう。
 だが本当のことだった。
 ハヤテは周囲から恐れられているものの、反対にその群れぬ強さにあこがれを抱く者がおり、これまでジィグンがいたから遠慮してきた者たちに誘いをかけられたことがあった。それでも乗り気にはなれずすべて断ってきていたのだ。
 おまえが禁欲できるわけないだろ、といつまでも疑る視線に溜め息が零れた。

「それどころじゃなかったんだんよ。ったく、本当にうるせえおやじだな」

 雰囲気は大事だぞ、とヤマトに言われたが。そういうものがないのはなにもハヤテのせいだけではないと思う。
 いちいち会話に付き合っていられないと、暴れられないうちに太腿を押さえつけ、頭を下げていく。

「え……う、そ……だろ。まさか、そんなっ」

 なにをされようとしているのか、察知して慌てて止めようとするが、ハヤテは唇を近づけ、すっかり欲望に勃ちあがったジィグンの先端に口付けた。すでにいくらか濡れていて、触れた場所が滑っている。
 唇を開いて、ゆっくり口内に招き入れた。

「あ……あ、っ……」

 空気すら入らぬように隙間なく唇で形をなぞりながら頭を落としていく。
 背の低さに見合ったものは根元まであっさりと収まり、今度は上に向かって吸いながら顔を起こしていく。
 手を置いていた太腿に力が入った。

「ふ、くぅ……っ」

 力む腹筋から目線を上にずらしていけば、与えられる刺激に戸惑い、必死に声を押さえようとするジィグンの姿があった。
 顔だけでなく、耳も、肩も、全身を朱色に染めて、羞恥に身体を震わせている。
 舌先で先端の割れ目抉ると、じわりと蜜が染みだす。啜ってやると、また溢れてきた。

「や、め……ッ、んぁ……あ、うっ」

 ジィグンの制止も聞かずに、いったん口を離して裏筋を舌で辿りながら下りていく。
 双球を優しく咥え、指先で揉み込むうちに、先端から竿を伝って垂れてきた蜜がここにまで届いた。

「だらしねえな。そんなにいいのかよ」
「――も、いいだろっ」
「はっ、まだ音を上げんには早えだろうが」

 掴んだ屹立の先端を親指で弄るも、溢れる先走りが多くてぬるぬると滑る。
 軽く爪を立てると、震える手が伸びてきてハヤテの頭に手を置いた。
 止めるためだったろうが、まるで力が入っていなくて、むしろもっととねだっているようだ。髪の合間に差し込まれた指先がひくひくと動くのが、撫でられているようだった。

「出る、から……離せっ」
「だふぇよ」
「くわえたままっ――ん、は……あぁ、あー……っ」

 喉の奥から伝わる音の振動に敏感な先端に刺激され、ジィグンは背中を丸めてハヤテの口の中で達した。
 放埓の余韻に軽く自失をしているところで、残滓まで取りつくすように吸い尽くしてから身体を起こした。
 はあはあと荒く口で息をしている姿を見下ろしながら喉を嚥下させると、はっとしたようにジィグンは目を開ける。

「え……の、のんだのか?」
「くそまじい」
「ばっ、馬鹿か! うまいわけねえだろうが!」
「きんきんわめくんじゃねえよ。それよかさっさとケツ向けろ」

 まだなにか言いたげにしていたジィグンだが、重たげに身体を起こしてひどく緩慢な動きで四つん這いになる。
 枕の下から隠していた潤滑油をとり出すと、少し安堵したように気が緩んだ気配がした。どうやらまだ慣らしもせず突っ込まれると疑っていたようだ。
 傷つけるつもりはない、と言ったのに、まだ信じていなかったとは。自業自得ではあるがいささか腹立ったハヤテは、一度は手にした者を適当に放り投げて、身体を前に倒す。
 舌を伸ばして、きゅっとかたく閉じたままの後孔を舐めた。

「あ……っ? え、うそだろ……っ」

 ぬるつくのが潤滑油を纏う指ではないと気づいたジィグンは、振り返って目を見開く。そして下半身に顔を寄せているハヤテを見て、慌てて逃げ出そうとした。
 それを容易く防いで、ハヤテはひたすら侵入を拒絶するような頑ななそこに舌を這わせる。
 唾液が塗り広められて、軽く吸いつき音を立てると、大げさなほどジィグンの腰が跳ねた。

「は、ハヤテ……っ、これ、だめっ……」

 嫌がるにしてはやけに艶めく声を無視して続ければ、次第に力の入っていた場所が緩んでくる。
 舌をねじ込み浅く抜き差しすると、ジィグンは頭を振って善がった。

「そんなにいいのかよ、ここが」
「ン、ふ……っやだ、やめろ――っ、ぁ……あっ」

 つぷりと指を浅く挿入する。ただ前後に動かすだけで、窄まりがきゅうっと締めつけてくる。すっかりまた力を取り戻した前からは、敷布に溢れ出した先走りがぽたりと垂れた。まるで快楽に涙しているようだ。
 はっ、はっ、と浅い呼吸を繰り返すジィグンの太ももに齧りつきながら、ハヤテは不敵に笑う。

「てめえが泣いたって、止めてやねえよ」

 

 

 
 舌と指を使って、丁寧過ぎるほどしつこくジィグンの身体を開いていった。
 なんとか両腕で上半身を支えていたが、やがて力が入らなくなり倒れ込んで肩口を敷布に押し付ける。腰も砕けて崩れ落ちそうになったところをハヤテが支えてやった。
 指を引き抜くと、引き留め恋しがるよう、きゅうっと収縮していた。
 ずっとジィグンに収めていた指先はふやけてしまったかのように熱い。軽く指を振ると、纏わりついていた粘膜がぴっと敷布に飛び散る。
 身体を抱きとめながら反転させて、仰向けに直す。
 顔を覗き込んでみると、しつこ過ぎた快楽にのみ込まれかけていて、どこか焦点が朧げになっていた。それでもハヤテに気がつき、ゆっくりと視線を向ける。
 顎を掴んで、口の端に垂れていた涎を舐めとった。無精ひげがざらつくが、思いの外その感覚も悪くないと考える。そこをもっと舐めてやってもよかったが、それよりももうハヤテも限界だった。
 自分の服をずり下げると、待ちわびていたように自身が飛び出す。
 とっくにかたく張り詰めていた剛直を、ぐずぐずにとろけさせたそこへ宛がうと、意識を飛ばしかけていたジィグンが微かに反応した。

「あ……?」

 ぐっと腰を押し進め、埋め込んでいく。
 無意識に上擦り逃げていこうとする腰を押さえてつけて、ジィグンの身体を開いていく。

「あ、あ……あー……っ」
「――っは」

 久しぶりの挿入なのに、これまでのなかで一番柔らかく、熱く、うねるようにハヤテを受け入れていく。指では届かなかった奥にいくほど狭くなり、痛みを覚える一歩手前の締め付けにもっていかれそうになるのをぎりぎりで堪えた。
 ジィグンは身を捩って挿入の衝撃を受け流す。額から汗が噴き出て、滲んでいた涙が眦を伝っていった。
 すべてを収めて、涙に気づいたハヤテは動きを止めて目尻に手を伸ばす。

「いてえのかよ」

 雫を拭うと、きつく閉じていた目が薄らと開いた。

「当たり前だろ、ばーか。おまえのデカブツ入れられるこっちの身にもなれっての……」
「てめえがちびなせいだろが」
「好きでこの背なわけじゃねえんだよ。――動かしたいんだろ? なら、とっとと動けよ」

 じっと動きを止めているハヤテに気づいたのだろう。荒い息をつきながら、乱されて力の入らない身体で、それでもジィグンはなけなしの気力を振り絞って挑発的に笑った。

「いてえんだろうが」
「そんな柔な身体じゃねえんだよ。生憎、おまえに付き合ってたら多少乱暴なのにも慣れちまった」
「――……後で文句言ったって知らねえからな」

 顔を落として、はたと気がつく。このままではジィグンの唇に届きそうにない。
 そこで、足を抱えてジィグンの身体を押し曲げて、自分も背中を丸めながら唇を重ねた。
 ハヤテのものがより深く突き刺さり、ジィグンは息を詰める。腰を回すと、喉の奥からくぐもる嬌声が漏れた。

「ふ、ん、ん――ぅ、んっ」

 吸いついている襞は、抜き差しをするたびにハヤテのものを追いかけてくるように蠢く。徐々に力の抜き方も思い出してきたのか、きつすぎる締め付けが緩まり、縋りつくようにより深くへハヤテを誘う。
 敷布を掌に巻き込んで拳を握ったジィグンは、抑えきれない声を零しながら、布を引き寄せては寝台を乱していく。

「ん、ん、っ……」

 突き上げるたびに、食いしばる歯の隙間から、鼻にかかった甘い声が漏れた。
 ひどく身体が高ぶって、腰を穿つと汗が散る。ジィグンの身体に落ちて、雫が肌を撫でていく。
 ハヤテの服と自分の腹の狭間で揺れていたジィグンのものが白濁を放った。しかしハヤテは止まらず、絶頂直後に過敏な身体をさらに追い立てていく。
 頭の芯がどんどんぼうっとしてきて、この行為に深く溺れていく。けれども決してジィグンから目を逸らすことはなかった。
 首を激しく左右に振って、時折薄ら目を開けては、突上げられてまたきつく瞼を閉じて。身体がしなり、寝台に後ろ頭を押しつけ腰が浮く。そのとき自ら前立腺に擦りつけてしまって、悲鳴のような嬌声をあげるのだ。ハヤテが同じ場所を抉ってやれば、ぽろりと涙が零れ落ちる。
 いつも後ろから、背中ばかりを見つめていた身体。けれども今日初めて真正面から抱く。身体をじっくり開いて、反応を確かめながら腰を打ち付ける。
 これまでも声を上げていたが、こんなにも快感に震える声音は初めてだった。いつもうつ伏せで自分の腕に埋めていた顔は、こんなにも真っ赤になって、涙を零してまで蕩けていたのだろうか。何振り構わず振り乱れていたせいかよだれも溢れて口の端を濡らしている。
 これまで知ろうともしていなかった姿に、普段の小うるさい姿からは想像もつかない痴態に、ハヤテの興奮は増していく。
 噛みつくようにキスをして、一際深く、強く腰を打ち付ける。目を見開いたジィグンは、咄嗟に片腕でハヤテを抱き寄せた。
 肩に爪が突きたてられて、下唇に噛みつかれる。

「あー……っ」
「く、ぅ……っ」

 痛みとそして締め付けに、ハヤテは最奥に熱い飛沫を叩きつけた。
 強すぎる放埓の衝撃にしばし余韻に浸っていたハヤテだが、やがてそのままジィグンの上に倒れ込んだ。

「……お、重い」

 下で呻き声が聞こえるが、気にせず体重を預ける。ジィグンをすっぽり抱きすくめられてしまうほどの体格差があるのだから、それはそれは重たいことだろう。
 汗を吸った服を脱ぎたい、熱い、と思うが、脱ぎ捨てるどころか再び起き上がる気力すらわかない。

「え……おい嘘だろ、まさか寝たのかっ!?」

 そのままジィグンの顔の脇で伏せていると、背中を叩かれた。

「うる、せえ……静かにしねえとてめえの本名ばらすぞ」
「な……っ」

 顔を伏せたままの横柄な物言いに、ジィグンは言葉を失った。
 ジィグンという名は、かつてアロゥが彼に与えた別名だということは周知の事実である。しかし何故彼が本来の名を捨てたのか、どんな名であるのかは主であるアロゥと本人以外誰も与り知らぬことであった。
 しかし、本日からジィグンと契約を結んだハヤテの頭には、誰に教えられたわけでもなく彼の本来の名が浮かび上がってきていたのだ。それが随分と顔に似合わず可愛らしい響きだったので、別名を使っていた理由はすぐにわかった。
 案の定他に知られるのは避けたがったジィグンは一度口を噤んだが、そろそろとハヤテの肩を揺する。

「せめて抜けよ、おい、おいハヤテ、頼む!」

 汁まみれの悲惨な状態で、ハヤテはジィグンに突っ込んだまま、下敷きにしたままゆっくり意識を沈ませていく。耳元で喚かれる懇願さえ、遠ざかっていく。
 眠たいものは眠たい。起きたらきっとしつこい小言が待ちかまえているのだろうが、どうせ今身体を起こしたところで結果は変わらないだろう。ならば自分の欲求に素直になるまでだ。

「……ったく、しゃあねえな。起きたらちゃんと、話をするからな。フロゥまかせにするんじゃないぞ」

 呼びかけを無視し続けていると、ついに諦めたジィグンが溜め息をついた。それに合わせてハヤテの身体もわずかに持ち上がり、沈む。

「まったく……またおまえのお守りやることになるとはね。アロゥの言う通りじゃねえか。――まあ、こうなりゃ付き合ってやるよ、とことん」

 人が眠っているというのに、いつまでもぶつぶつうるせえやつだ。
 文句を言いたいところだが、ジィグンは今ハヤテが眠っていると思っているだろうから黙っておく。そもそも今更起き出す力もないので放っておくことにした。
 はじめて率先して触れて抱き合ったジィグンとの行為は、これまでにないほど心地よく、とても心が穏やかだ。なにかが胸をいっぱいに満たすが、悪くない気分だ。
 安らかで、温かで――それが幸福とも気づかぬままに、残る最後の意識を手放して、ハヤテは眠りについていった。

 

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