部屋に入るなり、ガヴィがにやにやと笑いかけてきた。「あの坊主なんだろ? おまえの召喚に引き寄せられたやつは。ルフィシアンが家に他人を住まわせてるって噂になってんぞ~」「噂って……もうそんなに話が広まっている…

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  ルフィシアンの部屋に無断で入り、手厳しい叱られ方をしたあの日から、五日が経った。 表面上お互いなんでもないようなふりをしているが、誠士郎は少し距離を作った。とはいえ、ルフィシアンに懐き縮まった距離をあるべき…

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 泣きはらして赤くなった目元を隠すため、ルフィシアンから借りたフードつきの外套を目深く被り、部屋の隅でルフィシアンと客人とのやりとりをじっと見つめる。 床に直接描かれた魔法陣の上に鳥の羽やら土やら並べ、客の血が付着した布…

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  掃除中から興奮して駆け回っていたスィチは、いざ誠士郎が構ってやると、ものの数分でゼンマイが切れたようにぱたりと眠り込んでしまった。 くうくうと寝息とともに上下する腹を突いても起きる気配はなかったので、居間に…

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  あくびをしながら階段を降りると、誠士郎よりも先に起床していたルフィシアンが台所から顔を出す。『セイ! ハヨゥ』「……はよ」 起きたばかりの霞む目に沁みるような眩い美形の笑顔の勢いに押されつつ、誠士郎も小さな…

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 台所の流しで、桶に汲んだ水で顔をすすぐ。肌寒い空気に冷やされた水が心地よく、スィチの涎の名残は匂いごとすべて流れていった。 肌がすっかり冷え切ってしまった頃にようやく頭を上げる。いつもであれば正面に鏡があるが、木の壁が…

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 心地よい温もりに身を委ねていた誠士郎の意識は、ゆすられたことでゆっくりと浮上していく。 薄らと目を開けると、きらきらと輝く金色が見えた。しばらくぼうっとそれを眺めていたが、やがて視界がはっきりしてくると、爽やかな緑の目…

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結びの魔法使い

 肩に食い込むリュックが憎い。ずり落ちそうになる肩紐を戻しつつ、いつもの倍にも思える身体を引きずるようのろのろ歩く。「あいつらマジ、覚えとけよ……」 先程別れたばかりの友人たちの顔を思い浮かべ、誠士郎は舌打ちをした。 運…

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序章

 火渡鳥の尾羽をひとつ。世界を見渡せるとされる空突山の頂上の土を一握り。土狼の鼻水少々と、月美花の葉から落ちた朝露。それに塩をひとつまみ。 それらを床に描かれた円の魔方陣の上に置く。術者になる己の毛髪を一本引き抜き、同じ…

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