呪術師の特効薬

  絨毯の上で胡座を掻いたラジルは剣の手入れを、セツはその背にもたれて読書していた。 互いに作業に埋没し、静かな時間が過ぎ行くなかで、ふとラジルの鼻がむず痒さを覚えた。「……くしゅっ」 堪えきれずに小さくくしゃ…

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  いつしかラジルの指も大胆に動くようになっていた。上下に抜き差しされて、痛みの減ったそこは次第にむず痒いような感覚を覚える。 身を捩りたくなるようなそれに熱っぽい息吐く。 身体の内のとある一点を指の腹で押され…

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呪術師の恋心

  扉が叩かれ、セツはそれまで視線を向けていた紙面から顔を上げて玄関を見た。「おれだよ、開けてくれ」 耳に馴染んだ男の声に、セツは立ち上がり少し早く歩きながらそちらへ向かう。 以前は施錠していなかった鍵に手をか…

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  少年が立ち去り、ラジルはセツに振り返る。「やっぱり説教くさくなっちまったな」 しんみりした雰囲気を払うように笑えば、セツは小さく首を振る。「きっとあの子は、今日のこと忘れないと思う。道標を見つけて、きっとこ…

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  簡単な料理でしかなかったが、セツは十分に満足したようだ。 おいしい、すごいと感心したように口にしては、用意された量をなんとか食べきった。普段セツが食べているという量よりも多めにしていたので、すべては食べきれ…

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 丸一日寝込んでようやく起きたセツだったが、元より衰弱していた身体はそれだけで回復することはなかった。 セツが歩けるようになるまでさらにもう一日かかった。その間どうも彼のことを放っておけなかったラジルは宿舎に戻ることもせ…

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  セツの住んでいる場所は有名だったらしく、呪術師である彼を診てくれるという医者はなかなか見つからなかった。 片っ端から町人にも声をかけ、頼りにできそうな医者がいないかと尋ねて回った結果、どうにか一人を捕まえる…

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  セツの家に最も近い宿屋に泊ったラジルは、翌日夜明けよりも早くに起きだし、昨夜セツと別れた場所で彼を待った。 それから程なくして、セツはその場に姿を現す。 ラジルを見つけてもやはり表情を変えることはなかった。…

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  ラジルは王を深く尊敬している。 幼き日に即位したアズウェルの姿は、彼よりももっと幼く、物事の判断もしっかりしていないような自分の瞳に鮮烈に焼きつき、今もなお目を閉じれば思い出す。 王族のみに継がれるという緋…

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 「ラジルよ、わたしのためにセツに惚れてくれ」 敬愛してやまない主の第一声に、ラジルは一瞬思考が停止した。「――へ、陛下……今、なんと……」「わたしのために、おまえにセツに惚れてほしいのだ」 求めた詳細は悲しい…

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