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  もう日が落ちようという頃、ヨルドは部屋に帰ってきた。「ただいま」 いつもそう声をかけるヨルドにノアから返したことはない。「おかえりにゃさい!」と応えるチィも、日中どこかをうろついて疲れてしまったらしく眠りの中にいた。…

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  「チィはノアさまのためにゃら、にゃんでもやります。ヨルドさまがノアさまをいじめるのにゃら全力で止めます。どうして意地悪するんですか?」「意地悪なんてしているつもりはないよ」「でも、さっきだって……」 婚約腕輪のために…

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   騎士団本部の中を駆け回り、時折会う猫好きの知り合いに捜し人の場所を尋ねる。それでもすれ違いが続いてしまい、もう見つからないかもしれないとすっかり諦めかけたところで、見慣れた後ろ姿を見つけてチィは声を張り上げた。「ヨ…

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   素直な反応に微笑んだヨルドは、ノアの腕に抱えられた本をすっと抜き取った。「あっ」「知らないことを、適当に済ませるんじゃなくて、ちゃんと調べようとするところ。好きだよ」 ヨルドの指先が、濃い色合いの表紙を撫でた。「い…

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  それまでチィの毛並みを撫でていたヨルドが顔を上げる。その優しい眼差しに、呼んだだけでこんな顔をされてしまったら勘違いされるだろうなと思った。勿論ノアには効くわけもないが、これでは人タラシと言われても仕方ない。「魔術師…

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  後輩たちが去った後、大人しくしていたチィだったが、しばらくして飽きたのかノアの足元にじゃれついてきた。「ノアさま~」 ちょいちょいとローブの裾を引っ張りながら、床で身をくねらせて構って欲しいと訴えてくるが、それを無視…

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  いずれヨルドとノアが宮廷内の一室で寝泊まりしていることも話題に上がるだろう。ヨルド本人の口からの想い人の存在が露見した今、万が一にでもヨルドが結婚を望む相手がノアだという誤解が生まれないとも限らない。 どこに行くにし…

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   ノックの音に無視を決め込み作業を続けていると、許可もなしに扉が開いた。 入ってきた人物たちをじろりと睨むが、ノアの悪態に慣れた彼は気にすることなく、その姿を見るなり感嘆の声を上げる。「わあ、今日もすごいですね! そ…

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  部下の鍛練に付き合っていたヨルドは、休憩だと一声かけて訓練場の隅に移動する。 力ない返事を返した部下たちは、ヨルドが背を向けた瞬間に皆崩れるように膝をついた。 その気配を背後で感じながら、基礎体力の向上のための訓練を…

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  腰辺りしか見えないが、それでも見えた一部の肌にまだらに広がる色は赤や青を通り越して黒々としている。背中全体で落ちてきた本を受けとめたせいで打撲は広範囲に及んでいるだろう。服に隠れた部分も同じような状況であるのは容易に…

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