医務室には幸い隊長のセイミアが在室していて、真司はすぐ彼に診てもらうことができた。異世界の住人ということを知らされていない他の隊員には診せられなかったので、運が良かったとネルは心底安堵する。 ベッドに横たわ…

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  髪を乾かし終え、おれたちは張りきるネルを先頭に城の中を見て回る。最初に食堂、次に資料室、図書館、各隊に与えられた部屋に、密かに兵士の人たちが息抜きに使う秘密の場所まで。外の隅でぶちぶちと草を抜きながら愚痴っ…

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第3章

  ――あれ、ここは? 男は、見知らぬ森の中で、草に埋もれた場所で目覚めた。普段ならば今着けたままにしている眼鏡を外し忘れたことを後悔するところだが、どうやらそれどころではないようだ。 上半身だけを起こし辺りを…

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 この世界に来てからはじめて青い顔を見せる岳里に、おれは光を見出した気になってもっと激しく自分よりも大きな岳里の身体を揺らす。この時力を込めるあまりに岳里の首を絞めていたことにも気付かずに。 途中からレードゥもヴィルも参…

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 自慢の兄だ。兄ちゃんが、おれを育ててくれてるんだ。おれはしっかりしてるけど、それは兄ちゃんのお陰なんだ。兄ちゃんが立派なんだ。「おれ……」 兄に迷惑がかからないように、ずっと。ずっと、おれはそうしてきたんだ。 おれは兄…

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 いったい、なんなんだ? そうは思うが、レドさんは優雅に口元へカップを傾けていた。 しばらくしてようやく、「真司に、岳里、ね……?」 ごくりと喉をならす音でも聞こえてきそうなほど真剣な声音で、ミズキは確認を取る。岳里は声…

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  凛と背筋を伸ばし前を歩くコガネさんに、おれは意を決し声をかけてみた。「あ、あの、コガネさん」 名前を呼ぶと、肩越しにちらりとおれを一瞥する。目が合うと、ふっと笑いかけてくれた。すぐに視線は前へと戻るけど、お…

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 白い石鹸代わりの玉を手で転がし、泡ができあがれば岳里の髪につけ、少しずつ、魔物の血を落としていく。本当は血を触ることが怖かったけど、身を張って頑張ってくれた岳里に少しでも何かしてやりたかったから。 何度もそれを繰り返し…

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 真司たちが姿を消してしばらく。ようやくふたりの言い争いに終止符がうたれた。「ったく、小うるせえんだよてめえは」 そう吐き捨てるように言い放つと、ハヤテは重たげに腰を上げ、ようやく魔物の上から退いた。 その姿を、腕を組み…

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「岳里!?」 驚き飛び出た自身の声とそして視線に、魔物も同じく振り返る。そして岳人の存在を認識した途端、高らかにいななくと、前脚を高く空に蹴りあげた。魔物はそのままそれを下ろそうとするが、その前に岳人が駆けだした勢いその…

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